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やはりハードルは高い

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークまでして頂いてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

「え?」


 二人の言葉がいまいち飲み込めない健人。


「今聖なる証は、アイラお姉様の体内に入り込んでいるの。証を獲得するにはそれ相応の実力者だと、証に認められるしかないから、アイラお姉様が今持っているのだけれど。だから、それを取り出すには、アイラお姉様が死んだ時でないと無理なの」


「一緒だね。闇の証もパパの体内に入り込んでいるよ。パパが死んだら次に証を獲得する試練を受けて、証に認められれば、獲得する事が出来るんだ」


「なら、アイラさんとケーラのお父さんにお願いして、証を使うようにお願いすればいいんじゃないか?」別に二人から取り出さなくてもいいのでは? リリアムとケーラの説明に疑問を感じた健人。


「それは多分、無理なのよ」


「そうだね。だってマシロさんは証を使う、って言ってたよね? ……それは、二つの証自体を取り出して、マシロさんに充てがって、魔力を注ぐという事になるんだと思う」


「ちょっと待て。なんで二人共やり方知ってんの?」


「私は王族だから、聖なる証について勉強した事があるの。証そのものを使うと、死んだ命を復活させる事が出来るのよ。方法は魔力を注ぐ事。でもその際、証を体内に入れている者から取り出さないといけない。そして使った証は、そこで壊れてしまうのよ」


「ボクも魔王の娘だから知ってた。でもやっぱり、聖なる証も闇の証とそこは全く同じなんだね」


 二人の言う通り、真白に戻すには光と闇、二つの最高の能力を宿した証が必要なのである。聖なる証で、白猫の体内に絡みついている魔素を取り除き、闇の証で神獣化を削除する。同時にやらないと、どちらか片方の影響が出てしまうので失敗する。なので、聖なる証と闇の証二つが必要なのである。


 当然、リリアムとケーラはこの事を知らないが、王族であるリリアムは、聖なる証を、死んだ命を復活させ、ライトニング系が使えるという事を事前に習っており、ケーラも同じく、闇の証も死んだ命を復活させる効力があり、更にダーク系の魔法が使えるようになる事を、事前に魔王ガトーから聞いていたので、二人共使い方だけは知っていたのである。


「……マジかよ」二人からの說明でようやく、彼女達が暗い表情になっていた理由が分かった健人。真白を元に戻す方法が分かったとは言え、アイラと魔王、二人の命と引き換えにしないといけない。それを知って今度は愕然としてしまう健人。しかもどちらも、自分の愛する女性の家族だ。当然、命を奪うわけにはいかない。


「……ああああ! もう畜生!! なんでやねん! なんでやねん!! 真白をせっかく元に戻せるって思ったのに! ……って思ったのに……。ひどすぎひんか……ウウッ」


 突然叫びだしたと思えば、続いて蹲って嗚咽する健人。リリアムとケーラは喜んでいた健人に事実を突きつけてしまい、申し訳なさそうにしている。それでも、二人は優しく健人に寄り添った。


「ごめんなさい。でも、知らないより知っていたほうがいいと思ったの」


「ボクもごめんね。でもタケト、まだ糸口が分かった訳でも儲けもんだよ。きっと何か方法があるよ。一緒に探そう?」


 ウッウッと嗚咽しているからだろう、二人の優しい問いかけに返事出来ない健人。


 ほんの少しの間だけ顕れた真白を見て、やっぱり自分はこの子に会いたい。この子を元に戻したい、この子の事も大事なんだ、と改めて確認出来た。そして真白の口から、元に戻る方法を聞く事が出来た。


 自分の気持ちも固まって、決意をして、更に希望が見えた。そう思ったのに。その希望は絶望に変わってしまった。


 ……ああ、もうめんどくさいわ。アイラさんと魔王を殺せばええんちゃうの? そしたら証二つ獲得出来て、真白元に戻せるやん。二人ともめっさ強いみたいやけど、リリアムとケーラをそそのかして協力すれば、何とかなるんちゃうか? 


 そんな黒い感情が奥底から溢れてくる健人。先程まで三人同時に交際している事が負担だと感じていて情緒不安定になっていたせいか、ここに来て壊れそうになっている。その上半年以上久々に、愛しい真白の姿を見たのも、健人を追い詰めている理由なのかも知れない。


 慣れない異世界で、真面目に真剣に生きてきた元フリーターの健人。レベルという概念があるこの世界で、レベルアップと共に人外とも言える力を手にしたが、心のレベルまで上がるわけではない。精神や思考は前の世界で培ったものがベースなのだから仕方がない。それが理由なのか、気持ちに限界が来てしまったようである。


 焦燥と諦め、更に欲望が混ざったギラついた目になる健人を見た二人が、いきなりギュッと強く健人を抱きしめた。


「ダメよタケト」「今怖い事考えたでしょ?」


「……」図星だったので押し黙ってしまう健人。どうして二人が見抜けたのか分からない。目つきが変わっていたのが無意識だったのだから仕方ないのだが。


「きっと何とかするから。私がタケトの力になるから」未だ瞳の奥に黒い感情を宿している健人の瞳を見据え、涙目で訴えかけるリリアム。


「独りじゃないんだよ? ボクがいる。ボクがタケトを支える」今度はケーラが健人の目を見つめ、言い聞かせるように話す。その紅い美しい瞳に、リリアムと同様涙を溜めながら。


「……なんで二人共そんなに優しくするんだよ」二人の必死な訴え。そして気持ちを見透かされた恥ずかしさ。それでも労ってくれる二人の想いに申し訳なく感じつつも、感情がぐしゃぐしゃになりそうで、それを必死に堪えている健人。


「だって、私はタケトの妻になるのだから当然よ」「ボクだって、タケトの奥さんになるんだ。支えるのは当たり前だよ」


 今度は可愛らしく、健人に抱きつきながら微笑む超絶美女二人。


「……」そしてそんな二人をいきなり片腕それぞれで抱きかかえ、健人は立ち上がった。


「え? 何?」「ちょ、ちょっと、どうしたの?」びっくりして落ちないように健人にしがみつく二人をよそに、そのままベットへ向かい二人をそこへ投げ出した。


「え? え? もしかして」「ちょっとタケト? 今から?」バフンとベットの上でバウンドしながら、呆気にとられる二人に構わず、一人おもむろに服を脱ぎだし、健人は半ば暴力的に二人を求めた。


 そして、黙って様子を見ていた白猫は、これから始まる情事に備え、そっと健人のカバンの中に身を潜めた。


 ※※※


 ベッドの真ん中で天井をぼーっと見つめている健人。その両脇には、ずっと健人を受け入れていた裸の二人の超絶美女が、寄り添い黙って健人を見つめていた。


 いつもはとても優しく、慈しむように愛してくれる健人。だが今回はいつもとは違い暴力的だったその行為。それでも二人は何も言わず、それを受け入れていた。単に自暴自棄になり、気持ちの行き所が分からないから逃げただけの、ただただ貪るだけの愛のない欲求だったにも関わらず。


「……ごめん」天井を見つめたまま、謝罪の言葉を口にする健人。その言葉を聞いたリリアムは、健人の頭を優しく撫で、ケーラはそっと健人の胸に寄り添う。


「落ち着いた?」ケーラが健人の顔を見上げ、優しく微笑みながら問いかける。


「気にしなくていいのよ。そもそもタケト、今まで遠慮しすぎだったんだから」そして健人の頭を、その豊満な胸に埋めるように抱きしめるリリアム。二人共普段であれば、三人一緒は嫌だと言っているのだろうが、今はそれより健人の気持ちを優先させているからだろう、その事については一切触れない。


「ダメだなあ俺って。こんなに弱いんだな」リリアムの胸を後頭部に当てつつ、あおむけで目頭を腕で隠すようにしながら、小さく呟く健人。


「だからボクがいるんだよ。弱くていいよ。強がらなくていいよ」


「弱さは悪ではないわ。私だって弱いもの。だから支え合えばいいのよ。そのために、私がいるのだから」


「そっか」甘えて良いんだ。この世界に来てからそんな事思いもしなかった。しかもその相手が二人もいる。前から二人に言われていた事だったが、ようやくストンと落ちた様子の健人。


 ふと、リリアムの整った豊かな美しい双丘に顔を埋め、ケーラの滑らかで美しい白い腰を抱きしめるように腕を回す健人。まるで子どものような、そんな甘えた様子の健人を、優しく包み込むように受け入れる二人。


「さっきは別れるなんて言ってごめん。やっぱ俺、二人がいないとダメみたいだ」


「もういいのよ」「終わった事だから大丈夫」そう答える二人の優しさに、またも涙が溢れ出す健人。もう二人の前で泣く姿を隠そうとはしない。これが本来の俺なんだ。こんなに矮小で情けなく、子どもみたいなのが俺なんだ。二人にはもっと本音で、正直に、素直な自分でいていいんだ。無理しなくていいんだ。そう、健人は思いながら。


 そして、情事が終わった事を確認した白猫が、カバンから顔だけ覗かせ三人の様子を、どこか悲しげに、淋しげに、でも決意のこもった瞳で見つめていた。


 ※※※


「ここへ来るのは久々だな」


 真冬の寒い最中、空から白い雪がちらつき落ちるメディーの街道を一人、ナリヤが馬を掛けやってきたのはギルド本部である。王都メディーのギルドだけあって相当大きな建物であるギルド本部。四階建てのレンガ造りで、今の世界で言う学校の体育館くらいの大きさと広さである。


 ギルド本部に併設されている馬小屋に馬を預け、ギルド本部の大きな木の扉をキィと開け中に入るナリヤ。入り口が開いた事で、中にいた様々な人々が一斉にナリヤを注目するも、皆関係ない人物だと分かると、一瞥してすぐさま自分達の用事を続ける。


 アクーのようなバーカウンター形式ではなく、受付窓口が五ヶ所程並列しており、その前には行列が出来ている。人の数は相当多く、喧騒の音があちこちで聞こえてくる。フロアの所々には、そこで話が出来るよう、ソファとテーブルがセットで沢山置かれている。


「おー、ナリヤじゃないか。久々だな」そんな中一人、大声で奥からナリヤを呼ぶ声が聞こえた。


「ああ、ヤックム。久しぶりだ」頭が禿げ上がった体躯の良い、背の高い中年男。だが身なりは小奇麗にしており、明らかに冒険者とは違うその格好に、ギルド職員だろう事は一目で分かる。呼ばれてナリヤは、ヤックムと呼んだその男の方へ歩いていった。


「あれ? 今日ギルバートとアヤカちゃん一緒じゃないんだな」ヤックムはどうやら掃除をしていた最中だったようで、箒を片手に持ちながら、笑顔でナリヤに話しかけた。どうやら顔見知りのようである。


「ああ。訳あって今は別行動なんだ。ところで受付は……、やっぱり並んでいるな」ギルバートと綾花の事を聞かれ、やや気まずそうな顔をしながら誤魔化すナリヤ。


「最近魔物が本当増えたからなあ。どこも一杯だよ。おかげで商売繁盛なんだけどな。まあ、俺達の商売繁盛ってのは良くない傾向なんだが」肩を竦め話すヤックムに苦笑いを返すナリヤ。


「ところで、最近何か変わった事ないか?」


「変わった事?」なんだその質問? と思いながらも、ヤックムは何か思い当たる事があるようで、ポン、と拳で手を叩く。


「そういや、魔物を全滅させたパーティが、時々奇妙な紫色した塊を持って帰ってくるんだ。今や溜まりに溜まって結構な数になってる。今までそんな物持ち込まれた事なかったんだけどな。でもそれ、調べて貰ったんだけど、何の素材にもならないんだよ。冒険者達からは買い取ってくれって散々せがまれるんだけど、素材にもならない物買い取れないって断ってんたんだ。じゃあ討伐の証拠って事だろって言われるんだけど、俺達ギルド職員は判断出来ないからなあ。でも、無碍に断るのも可哀想だから、仕方なく安値で引き取ってるんだよ」


 ヤックムのその話にやっぱりか、と呟くナリヤ。


「何か知ってるのか? 俺達も処分に困ってるんだ。もし魔族のナリヤが何か知ってるなら教えてほしいんだよ。気味が悪いから触らず置いたままになってるんだ」


「普通に焼却して大丈夫だ。そしてヤックムの言う通り、何の素材にもならないしな。言わば使い終わった後のゴミみたいなものだからな」


「……よく知ってるな。もしかしてあれって、お前ら魔族が関わってるのか?」怪訝な表情でナリヤを見るヤックム。


「今は何とも言えない。だが、そのうちギルドへは何かしらの働きかけがあると思うぞ」答えを誤魔化しつつ、動きがある事は匂わせるナリヤ。


「働きかけ、ねえ。まあ、詮索をしないでおくよ」


 そうしてくれ、と返したところで、ナリヤは改めて依頼が貼り付けてある掲示板に歩いて向かった。


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