閑話※異世界で楽しむクリスマス
あれこれ試していて失敗してしまい、フライングして投稿しちゃったので
もう投稿しちゃいます^^;
クリスマス閑話です。たる様から頂戴した素敵な挿絵が話中にありますので、
一緒にお楽しみ頂けたら幸いですm(_ _)m
「あ」ふとケーラが何かを見つけたらしく、空を見上げ声を上げた。
「おお」ケーラの声で同じく空を見上げた健人が、それに気付いて感嘆の声を上げる。
今は朝早い時間帯。いつの間にか朝日は、白い雲によって空一面を覆って隠れていた。そして白い綿雪が少しずつ、空から舞い降りてきたのだ。
だが、それを見つけたケーラが、はあ、と不機嫌そうにため息をつく。
「どうした? なんでそんな顔するんだ?」雪が降ってきてちょっとテンションがあがっている健人が、不思議そうに聞いてみる。
「だって、雪降ってきたからだよ」ケーラも何だかテンションが高い健人が不思議な様子。
「え? 何が嫌なんだ?」意外な返事に戸惑う健人。そしてテンション上がってしまったのがちょっと恥ずかしくなる。年甲斐もなく喜んでしまったので。
「寒くなるし、歩くのに邪魔だし、馬もうまく走れないし、積もったら馬車も大変だし、良いこと何もないからね」両手を広げ、ため息混じりで答えるケーラ。
ああ、そういう認識なのか。ケーラの不機嫌を理解した健人。だが元々都会っ子の健人は逆だ。前の世界では、滅多に降らない雪が、こうやってたまに降る度喜んでいた。それをふと懐かしく思い出す。
でも、きっとケーラの反応が当たり前なんだろうなあとも思っている健人。考えてみれば、雪は普段の生活の邪魔にしかならない。積もれば重いし、通行の妨げにもなる。更に溶ければ沢山の水となるので、水害の危険もある。
「でも、タケトは何か嬉しそうだね」それでも綻んだままの健人の顔。そんな健人が不思議だったので聞いてみるケーラ。
「ああ。俺が前いた世界でも、こうやって雪って降ったんだ。そして雪が降る季節には、それなりの楽しみ方があったんだ」
「楽しみ?」こんなはた迷惑な雪で? コテンと可愛らしく首を傾げるケーラ。
「これ、きっと積もるな」そう呟いてますます嬉しそうな健人に、ますます怪訝な表情になるケーラ。
「あれ?」健人がふと何かに気が付いた。
「どうしたの?」そう言って健人が見た方向を、ケーラも同じく見てみた。
空を見上げたから気づいたのだろう、その視線の先には、高さ20mはありそうな、大きな一本の木があった。
「あんな大きな木が街中に立ってるんだな」「ほんとだね。来た時には気づかなかった」
メディーに来た当時は、兵士達に囲まれ見世物のような状態だったから、周囲をよく見ている暇がなかったので仕方がなかったのだが。
「……」そしてその大きさ故存在感はあるのだが、それでも目立たずひっそりと佇むその大きな木を黙って見つめ、腕を組んで顎に手を置き、何か考え込んでいる健人。
「?」そんな健人の様子を、雪が降り始めてからずっと不思議そうに見ているケーラ。
※※※
『ごめん! ほんとーにごめん!』念話で物凄く謝っている健人。
『……』一方念話なのに、ものっそい不機嫌な様子が伝わってくる、リリアムの沈黙。
『……私の日なのに』そしてボソっと呟くリリアム。その呟きの通り、今日はリリアムの健人デーのはずだったのだが。
『分かってる。でも今日はどうしてもやりたい事があるんだ。頼む』それを健人が断っているので不機嫌なのである。
『私と一緒じゃダメなのかしら?』念話なのにブスっとした感じがものっそい伝わってきます。明らかにリリアムご立腹。
『……本当ごめん』それでもどうやら、健人は譲れないらしい。
タケトがこんなに頑なになるなんて珍しいわね、そんな事を考えながら、きっと言えない事情があるのだろう、という事は流石に分かるリリアム。
『……じゃあ、明日明後日の二日で』
『ええ? それじゃケーラが……』
『そうね。それを説得してね?』フフ、とちょっと意地悪そうな、念話での笑いが聞こえた気がした健人。
『……そもそも俺一人の日がなくなってる』
『何か言った?』
『……何でもありません』負けました。
そしてもう一方。
「ごめん! ほんとーにごめん!」
「……」ものっそい不機嫌な様子が伝わってくる、ケーラの沈黙。
「明日は私の日なのにー」ご機嫌斜めで腕を組んで呟くケーラ。明日ケーラと二人きりになる予定だったのだが、それを健人は断っているのだ。
「分かってる。でもリリアムに今日わざわざ時間開けて貰ったんだ。だから明日リリアムといるって約束しちゃったんだ」
「ボクと一緒じゃダメなの?」ブスっとした表情で健人に聞くケーラ。
「……本当にごめん」それでもどうやら健人は譲れないらしい。
タケトがこんなに頑なになるなんて珍しいね。そんな事を考えながら、きっと言えない事情があるのだろう、と言う事は流石に分かるケーラ。
「……じゃあ、明々後日とその次の日の二日で」ニヒヒとちょっと意地悪そうな笑みを浮かべながら、ケーラが話す。
「ええ? それじゃリリアムが……」
「そうだね。それを説得して?」ちょっと殺気? めいた威圧感を放ちながら、健人に話すケーラ。
「……そもそも俺一人の日がなくなってる」
「何か言った?」
「何でもありません」どうやら健人が一番弱いようです。
とにかく二人の彼女さんとのルーティンを変更する事が出来て、ホッとする健人。
「でも、リリアムとケーラのためでもあるんだけどなあ」そしてそんな独り言を愚痴のように呟く彼氏さん。でも何だか嬉しそうに。
「でも、内緒じゃないと意味ないからな」と、苦笑いしながら、早速準備を開始した。
※※※
「わざわざどうしたの?」今日はそっちから会えないって断ってきたのに? と不思議そうにしているリリアム。リリアムは今王城に滞在しているので、会うには事前に念話で連絡して城門の前まで来て貰う必要がある。勿論念話のために、リリアムと白猫は一緒に王城にいて貰っている。
「ああ。これを渡したくてさ」そう言って白い息を吐きながら、とある袋をリリアムに手渡した。
「何かしら?」受け取りながら、当然気になるので聞いてみるリリアム。
「それを着てほしいんだ。そして着替えたら、メディーの街中にある、大きな木のところまで来てくれないか?」
「?」着替える、と言う事は、中身は服なのかしら? 首をコテンと傾げ不思議そうな顔をするリリアム。わざわざ服を渡しにやって来た? しかも会う約束を反故にしてから?
そしてメディーにある大きな木、と言えば、一つしかないのでそれは分かったリリアム。だが、健人の意図がさっぱり分からない。不思議に思いながらも、とりあえず、言われた通りにする事にした。
※※※
朝から降り始めた雪は、未だしんしんと静かに降り積もっていく。今はそろそろ夕方に差し掛かろうとする時間帯。ほんの少し暗くなった空を見上げると、雪は朝からずっ、絶え間なく降りて来ている。柔らかいボタン雪は地面で溶ける事なく、少しずつ地面に積み重なっていた
なので地面は既に数cmの雪が積もっている。その上を人々が歩いた痕跡があちこちに点々とついている。メディーの王城へと連なる大通りにも、何台もの馬車が通った後の轍と馬の蹄の跡が、雪の道を型どっていた。
そんな、段々と寒さも深まっていく夕闇の中、一人せっせと何かの準備をしている健人。
「よし。真っ暗になる前に何とか間に合ったな」ふう、と一息つきながら、作業をしたからだろう、寒いのに汗を掻いていたので、それを拭って白い吐息を一つ吐く健人。
そして一旦落ち着いて、腰に手を当て一息ついているその時、一人のエルフの男性が、大きな袋を下げてやってきた。
「よお。これでいいんだろ?」エルフの男性はそう健人に話しかけ、袋の中から赤、青、黄、緑、それぞれの属性の、小さな沢山の平型クリスタルを健人に見せた。そして一つだけ大きな星型を、袋の奥から引っ張り出した。これはガラス細工でできた星型の中に、クズ同然の黄色のクリスタルが入っているだけのものだ。
「わざわざ持ってきてもらってすみません」
「いいって事よ。こんなクズみたいな平面クリスタルを沢山買ってくれたんだし、それくらいはサービスするさ」ポンポンと健人の肩を軽く叩いて笑うエルフの男性。
「ところで、一体何を始めようってんだ?」
「ああ。良かったら見ていってくれてもいいですよ」
見ていく? なにか始めるのか? 怪訝な表情をしながらエルフの男性が健人に質問しようとすると、
「タケトー!」ケーラが元気一杯、雪の中を走ってやって来た。ものっそいテンションが高いのが遠目でも分かる。
「……おお」そしてそんなケーラをひと目見て、つい見惚れてしまった健人。それは健人だけではない。隣で話していたエルフの男性や、周りの男達も、ケーラの破壊力満点の可愛い容姿にポ~っとなってしまっている。
ケーラは健人からプレゼントされた、真っ赤なサンタ衣装に着替えていたのだった。赤いドレス型の膝から上辺りまでのワンピース。胸の辺りには三つ程の緑のボタン。ブーツも勿論赤。ご丁寧に赤い手袋まで着けている。そして白く小さなボンボンが頭についている赤い三角帽子をかぶっている。
「えーい!」そして走ってきた勢いそのままに、健人に遠慮なく胸にダイブするケーラ。「うわっと」驚きながらも上手くハグキャッチする健人。
「ね、ね? どう? どう?」物凄くご機嫌な様子でグイグイ健人に詰め寄るケーラ。紅く美しい瞳がキラッキラしている。余程嬉しいのだろう。
「ああ。めちゃくちゃ可愛い」そしてそんなケーラに健人も遠慮せず本音ダダ漏れで笑顔で答える。やはりケーラほどの超絶美女が可愛い格好をすれば、相乗効果で桁外れの可愛さになるんだなあ、と感心しながら。
「えへへ~。ありがと! この服すっごく可愛いね!」そして褒められて嬉しそうなケーラ。結構人がいるにも関わらず、お構いなしにキスをする。
その瞬間、辺りから沢山の「グギギ」という音と共に、嫉妬やら妬みやらやっかみ(全部同じ意味ですね)やらが混ざった殺気が巻き起こる。あ、エルフさんからも黒い何かが湧き出てるっぽい。
そこへヒヒーン、という嘶きが聞こえ、一台の立派な馬車が到着した。白を基調とし金の装飾が施された立派なそれは、王族御用達の馬車だ。そしてそんな立派な馬車の扉を開けて降りてきたのは、これまた健人が事前に渡したクリスマス衣装を着たリリアムだった。
「あら。ケーラもいたのね」そして雪の上をしずしずとゆっくり健人の方に向かって歩いてくる。満面の笑みを浮かべて。
「……さすがだな」そしてまたも、クリスマス衣装に身を包んだ超絶美女に見惚れる健人。リリアムはワンピースドレスに、ケーラと同じく膝から少し上辺りまでのスカートで、肩には白いファーの付いた赤いケープを着けている。リリアムの衣装のボタンは白く二つだ。そしてリリアムの靴は赤いパンプス。
「これ、物凄く可愛くて素敵。ありがとう、タケト」そしていつもの超絶美女スマイルを健人に投げかける。ケーラ同様、リリアムも相当嬉しそうなのが良く分かる。だが流石にケーラのように、人前でキスどころか腕を組む事は出来ない王女殿下。それでも、健人を見つめる視線に、熱い想いが籠もっているのは、傍から見ていてバレバレだ。
なのでまたもや「グギギ」とあちこちで嫉妬音? が響き渡る。あ、健人の隣りにいるエルフさんの瘴気? 的なものがものっそい大きく膨らんでるっぽい。
「で、こんな格好させて、何するのかしら?」ミニのクリスマスドレスの端を可愛らしく摘んで見せながら、健人に質問するリリアム。
※※※
『OKだにゃー』「ありがとう、真白』
木の上の方によじ登っている白猫に念話でお礼を言う健人。その大きな木は、姿形がまさにもみの木そのものだったので、健人はある事を思いついたのだ。
既に辺りは夕日が沈み、かなり暗くなっている。そんな周りの様子を確認しながら、間に合ってよかった、と、未だ降りてくる雪を肌に感じながら、空を見上げてホッとして呟く健人。
「ねえ。そろそろ教えてくれないかしら」「そうだよ。気になるよ」
一体何をするのか気になる二人。だが、そんな二人の急かす言葉にも、いたずらっぽく笑顔を返すだけで答えない健人。
この二人のクリスマス衣装は、健人が今朝服屋に行って、急いで作って貰ったものだった。デザインはこの世界では珍しいものの、ドレスに似ているので然程時間はかからなかった。そして出来るだけ暖かい素材を使って貰ったので、二人共雪が降る寒い外にいても、我慢できているようである。
そして健人もおもむろに、袋から赤いコートと三角帽子、それに赤いズボンを取り出し。その場で着替えた。健人も二人同様、クリスマス衣装を自分用に作っていたのだ。
「あら、タケトのもあったのね。カッコいいわよ」「タケト似合うよ!」着替えた健人を見て何だか二人も嬉しそう。普段健人は、こんな風に着飾ったりしない。いつもはずっと冒険者スタイルなのをちょっと不満に感じていた二人だったので、着飾った衣装に着替えたのが嬉しい様子。
「この格好は、俺の前の世界にいたサンタクロースっていう人の格好なんだ。クリスマスっていうイベントが、毎年雪の降る季節にあって、サンタクロースのお爺さんが、子ども達にプレゼントを配るんだよ」自分の格好に対する二人の感想に、ちょっと照れながら説明する健人。
「へえ、そうなのね」「何だか楽しそう!」二人は健人の話を聞いて、異世界の文化であるくりすますというものと、この可愛い赤を貴重とした衣装が、健人からのくりすますとやらのイベントのプレゼントだと理解したようだ。
「ありがとう、タケト。本当に嬉しい」「ボクも。ありがとね、タケト」可愛いサンタ衣装に身を包んだ二人の超絶美女スマイルアタック。見慣れているとは言え相当な破壊力のツイン攻撃に、たじろぎそうになる健人。
「で、でも、お楽しみはこれからなんだ」それでも何とか踏ん張ってそれに耐え、手元の八角形クリスタルに魔力を込めた。
すると、目の前の大きな木に彩られた沢山の小さな平面クリスタルが、まるで木を囲む星屑のように、一斉に淡い光を放った。そして木の一番上には、星型のクリスタルが黄色く灯っている。
「よし、上手くいった」グッと拳を握りガッツポーズの健人。成功して嬉しそうにで色とりどりの淡い光が灯った大きな木を見上げている。
「……凄いわね」「……きれい」
暗闇を灯している大きな木を見て、リリアムとケーラは驚きと戸惑いが入り混じった感嘆の言葉を呟く。そしてその美しさに魅了されているように、二人揃って目を潤ませながら、淡く光る様々な色のクリスタルに彩られた木を見つめている。
ここメディーには、中心となる大通りに沿って、前の世界で言う電灯が等間隔で並んでいる。その仕組は、王城にある多角形のクリスタルに、魔力を注いで点灯する。その電灯と電灯の間には、エルフにしか作れない電線のような素材がある。それを聞いた健人は、この大きな木をクリスマスツリーにしてみようと、やってみたのだ。
暗闇の中、色とりどりに淡く光るクリスタルに飾られた、メディーの街中に立つ大きな木に、都民達もその美しさに気が付いて集まってきた。所々雪が木の上に積もり、その雪化粧も大きな木に色どりを加えていて、とても幻想的な光景に皆見入っている。
皆一様に、初めて見る大きな即席クリスマスツリーに魅了されている。ある人は涙し、ある人は感嘆の声を漏らし、ある人はただ無言でじっと見つめている。
いつの間にかケーラとリリアムが、健人の腕に絡みついていた。リリアムは王女殿下である自分の立場さえ忘れた様子で。幸いな事に周りの人達は、目の前の幻想的な光景を作り出しているクリスマスツリーに見入っていて、リリアムに行動に気づいていないようだ。
「素敵ね」「感動したよ」サンタ衣装に身を包んだ二人の超絶美女は、飽きることなくそのクリスマスツリーをいつまでもずっと見つめていた。
そして、そんな三人の様子を、何処か寂しそうに、また嬉しそうに、木の上から白猫が未だ降りず、黙って見ていた。