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ネコの気持ち

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークまでして頂いてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

 ※※※


「ほほぉ……これは」ビーナルが何やら感心した様子で眺めているそれは、健人が以前からずっと持ち歩いている、前の世界から持ってきた硬貨である。


「他に、紙幣と言って、紙のお金も使っていました」そう言って今度は一万円札と千円札を取り出して見せた。


「しかし、紙など問題多いのではないのか?」しげしげと机に並べられた紙幣を見ながら、怪訝な表情をするビーナル。


 健人はリリアムの事を報告し終わり、それから半ば強引に王族の皆様との昼食会に参加し、精神的にかなりすり減ったものの、何とか乗り切って、今はビーナルと二人で応接室にいる。これからグオール将軍と面会するのだが、グオールを待つ間、ビーナルが昨日倒したデーモンの素材の件で、健人に連絡するために面会しているのである。クリスタルは出なかったが、デーモンの素材はそこそこの値段で売れるので、それを代わりに売って貰い、代金を貰う事になった。更に今回、王族達の洗脳を解いた事、ドノヴァンデーモンを倒した報酬も、ビーナルが用意してしたのである。


 結構な金額に驚いた健人だったが、王からの気持ちを無碍にするのか? と、柄のない眼鏡をクイとあげながら、上目遣いでギロリと睨まれては拒むわけにもいかず、申し訳なく思いながらも有り難く頂戴した健人。因みに三百白金貨でした。三千万円相当です。


 そしてグオールが来るまでにまだ時間があったので、異世界から来た事を話しているうち、報酬を貰った事もあって、お金の話になったのである。


「しかし異世界から来た、か。何処か普通の者とは違うと感じてはいたが」千円札を手にとって触り心地を確かめたりしながら、柄のない眼鏡をクイと上げつつ、健人に話しかけるビーナル。


「アハハ」そしてそう言われて苦笑いで頭を掻くしかない健人。


「金額が大きくなればなるほど、硬貨だと持ち歩きが不便になります。紙幣だと持ち歩きやすく、金額も大きく出来るので便利なんです。それに、偽物が作られないよう、色々細工されているんです」


 ビーナルの言葉を濁すように、話題を変えスカシを見せてみる健人。「おお」そしてそれを見て驚くビーナル。


「そうだ。結局五百円玉は見つからなかったんですか?」


「ごひゃくえん、だま? 何だそれは?」


「ほらあの、勇者達が信頼の証とか言ってお互い持っていた硬貨です。確か行商人のベルアートさんがこちらに献上したはずなんですが」


「おお、あれか。ベルアートという商人が内密で持ってきたのを処理したのは私だからよく覚えてるぞ。……分かった。ベルアートが持ってきたのはお前が元々持っていたものだな?」


「そうです。でも、本当は無くなる筈のないものなんですよね? 元の五百円玉は見つかったんですか?」


「いや。未だ見つかっておらん。正直ベルアートが新たに持ってきたのが、無くした硬貨だと思っていたのでな。ベルアートが無くなった硬貨を、商人のルートか何かを使って獲得したと思っていたわい」ビーナルの言う通り、宝物庫に保管されていた五百円玉が戻ってきたと思っていたので、ベルアートが持ってきてからは、探す必要がなくなったと考え、ビーナルはその件は解決したと思っていたのである。


 そうか。ベルアートさんが献上した五百円玉について、無くなったのを見つけた、と說明している可能性もあるな。出処を怪しまれる可能性を考えれば。そう推測した健人。そもそも年号の違いで判別出来るなどと、この世界の人達は知らないはずだから、確認しようがない。


「……ふーむ。滅多に入る事が出来ない宝物庫に忍び込んで硬貨を盗んだ者は、一体何に使うつもりなのだろうな。使用出来ない物なのにな。売ったとしてもアシがつくはずなのだが」柄のない眼鏡をクイとあげ、紙幣を机の上に置いて腕を組み、考え込むビーナル。


「そうだ。タケトお主。先程まで陛下やライリー殿下と、リリアム王女殿下との交際について話していたらしいな」


「え? あ、はい」唐突にビーナルから関係ない話を振られ、戸惑う健人。


 先程まで王族のご家族と共に昼食を共にしていた健人。王の計らいで特別にその時は王妃も一緒だった。リリアムも健人と一緒にいる時とは違い、王族らしい気品溢れる振る舞いで食事をしていた。そんな王族家族の中たった一人冒険者スタイルの健人。当然そんな環境で食事した事のない健人は、緊張マックスで料理の味など覚えていない。そんな状況で更にケーラの事を話せるわけなどないのである。そしてその食事会の後、白猫はそのまま、リリアムの部屋に連れて行って貰っていた。


「えと、それが何か?」


「お前、ケーラという魔族の娘の事は話したのか?」


「……いえ」


「どうするのだ? 陛下を騙し通すつもりか?」柄のない眼鏡のクイとあげ、上目でジロリと健人を睨むように、若干脅すような口調で質問するビーナル。


「まさか。騙すなんてそんなつもりはないです。ただ、リリアムとの交際についてだけでも大変な事なので、今日はその話だけに留めといて、今後機会を作って話すつもりです。段階を踏みたいだけです」


「……まあ、一理あるわな。まさか王女殿下以外にももう一人、交際相手がいると伝えるだけでも、陛下は更にショックを受けるだろうしな」しかし、さも当たり前のように王女殿下を呼び捨てにしおったな、と心の中で呟くビーナル。だが、その事で、二人は相当仲がいいのだろう、とも察しがついたようである。


 そしてビーナルの言葉に苦笑いするしかない健人。実はケーラの他にももう一人いるんです、この間踊ってみせた白猫真白ですって言ったらどうなるのだろう、とか思いながら。そしてそれも、いつかメルギドにも伝えないといけない話でもあるのだが。


 リリアムとの交際宣言はまだ始まりで、今後は更に真実を語らないといけない事に改めて気付いてしまった健人が、徐々に焦りの表情を色濃くしているところで、コンコンと応接室のドアをノックする音が聞こえた。


「入れ」とビーナルが返事すると、グオール将軍だった。


「待たせたな。早速一緒に行って欲しい所がある。ついてきてくれ」グオールはビーナルに会釈した後、健人を外に誘った。


 そしてビーナルに一礼しグオールと共に応接室から出た。そしてグオールの案内で、とあるところに向かうべく、一緒に歩いている健人。


「今から何処に向かうんですか?」


「王城内にある書物庫だ。そこには、この世界の創世記頃からの資料が置いてある。昨日タケトから聞いた神獣の件、正直儂にも良く分からんのだが、ここの書物庫になら、何かヒントがあるかもしれん、と思ってな」


 そう答えながら、ライオン顔でニカっと笑う獅子獣人のグオール。


「因みに王城の書物庫は誰でも入れるわけではない。儂やビーナルといったそれなりの地位の者しか入れんのだ。だから儂が連れて行くのだ。そして今回は特別だという事は、分かっておいてくれ」


「はい分かりました。ありがとうございます」


「それと、もし獣人の街に行くのであれば、儂の名前を言えばいい。これでも有名人なのでな」フフン、とちょっと自慢気にライオン鼻をかけながら話すグオール。


「ではもし行く機会があれば、遠慮なく名前を使わせて貰います」獣人の街にはいつの日か行くだろう。真白を元に戻すヒントを得るために。なのでグオールの申し出には甘えようと思った健人。


「おう、遠慮なく名前を使ってくれ」と、ガハハと笑って健人の背中をバーンと叩いた。ゴホッゴホッとむせる健人。


 そんなやり取りをしながら、二人は徐々に地下に降りていく。そして厚さ10cmはありそうな、明らかに頑丈であろう鉄の扉の前にやってきた。


「これを先程ビーナルから預かった鍵を使って、……よし」ガチン、と大きな音がして、扉の鍵が開いた。そしてギギィと軋む音を立てグオールがゆっくり扉を開くと、そこにはまるで図書館のように、整然と沢山の書物が入った棚が並んでいた。


「こっちだ」中に入ってグオールが健人を誘う。この世界でこれだけ沢山の書物を見るのは初めての健人は、感心有りげにキョロキョロしながらグオールについていく。


「ここだ。獣人についての書物がまとめられている」グオールが健人を案内したのは、一つの本棚だった。ざっと見た感じ五十冊はあるようだ。


「暫くここで調べればいい。鍵は渡しておく。本当は大事な物だから気軽に渡していい物ではないのだが、タケトなら大丈夫だろう。何かあったら誰か呼べ」


 そう言ってグオールは書物庫から去っていった。


「……王城の書物庫って結構大事な書物が保管されてると思うんだけど、俺一人放置でいいんだろうか?」ざっと数万はありそうな書物の棚が並ぶ広い部屋に一人ポツンと置いてきぼりにされ、呟く健人。


 とりあえず案内された書棚から、適当に数冊取り出しペラペラ捲ってみる。結構古い書物もあり、明らかに今の時代とは違う、古代文字のようなものもあるにも関わらず、言語理解の飴を舐めていたおかげだろう、読めない文字は一切なかった。


 まず健人が知るべき情報は、神獣とは何かと言う事と、獣化した獣人が人の姿になる方法だ。それらしき内容が書いていそうな本を適当に見繕い、健人は近くにあった椅子に腰掛け調べ始めた。


 ※※※


「……どうなさったの?」


 どうも先程からそわそわしているようで、右へ左へウロウロしている白猫を見て、不思議に思うリリアム。先程まで緊張マックス状態だった健人を微笑ましく見ながらの昼食会を終え、リリアムは白猫と共に部屋に戻ってきていた。健人はグオールとの約束があると聞いていたので、その用事が終わるのを部屋で待っている。メイや他のメイドも、今は仕事のため席を外しているので、この部屋にいるのは白猫とリリアムだけだ。


「……」リリアムの問いには答えず、とある方向をジッと見つめている白猫。その方向は、健人が調べ物をしている書物庫のようだ。


「何か気になるなら、タケトに連絡したらどうかしら?」どうもタケトが気になる様子? に思えたリリアムは、返事しない白猫に構わず提案してみる。そこで白猫は、椅子に腰掛けているリリアムの膝にぴょんと乗った。


『健人様は、多分私が人になる方法を調べているにゃ。でもそれは()()()()にゃ』


『どうしてかしら?』もしかして、人に戻りたくないのかしら? 白猫の念話を訝しがるリリアム。


『人になる、じゃダメなのにゃ。それは()()事じゃないのにゃ』


『そうなの?』リリアムの問いにコクンと器用に頷く白猫。何が違うのかしら? 


『少しずつ、真白の意識が戻ってきているにゃ。理由は分からないんにゃが。だから、戻らないと意味ないのにゃ』


『じゃあ、それをタケトに伝えたらどうなの?』


『……』またもリリアムの問いには返事しない白猫。


(私、戻った方がいいのかにゃ? リリアムとケーラがいるし、猫になって凄く時間経っちゃったし、真白は必要ない気がするにゃ)


 今は超絶美女二人が、健人の彼女で、十二分に二人は真白の代わりになっている。もし自分が元に戻ったら、寧ろ邪魔ではないだろうか? レベルが上がった事が理由なのかどうか分からないが、以前より少し真白の気持ちが分かるようになってきている白猫。今はこの二人に対して、嫉妬よりも申し訳なさと諦めの気持ちが、どことなくあるのも分かる。


(猫のままでも、神獣になれるなら、健人様を守れるにゃ。寧ろ獣人の時より、神獣の方が色んな能力が使えるにゃ。だからこのまま見習いから神獣に進化した方がいいんじゃにゃいのかにゃ……)


 そもそも自分は健人様を助けに来た。それが出来るなら、寧ろ神獣の方がいい。元に戻らない方がいい。


(でも……)完全にそうなると、()()()()()()


「にゃおーん」と、突然犬の遠吠えのように大きな鳴き声を出す白猫。当然、膝に乗せているリリアムは突然の行動に驚いた。だが、その切なそうな、どこか思い悩んでいる鳴き声の理由を、何故か聞く事が出来なかった。




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