勇者は一旦保留出来ました
いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m
ブックマーまでしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(_ _)m
※恐縮ですが、書き溜めのため5日ほど更新お休み致します。
唐突なメルギドからの提案にびっくりする健人。まさに素っ頓狂な声が出てしまった。リリアムとライリーも突然のメルギドの言葉に唖然としている。
「えーと? どういう事でしょうか?」冗談を言っている顔に見えないメルギドに、驚きつつ確認する健人。
「リリアムと公認の仲になれ、と言う事だ。一介の冒険者だと色々不味い。だが、勇者と名乗れば箔がつく。王女であるリリアムと堂々と仲良く出来るではないか。見合いの話も断りやすくなるしな」
「ちょっと待ってください。そもそも俺勇者って言えるほど大それた人間じゃないです」
「異世界からやって来て、アクーやガジット村、更にここ王城内での魔薬騒動を見事解決し、その際にはデーモンを倒し、更には神獣なるものを従えている者が、大それた人間ではない、とな?」たっぷり蓄えた顎髭を触りつつ、ジロリと健人を見ながら片方の眉毛をピクっとあげ、どうなのだ? てな感じで問いかけるメルギド。
「……」そしてそんな王の言葉に反論できなかった健人。そう言われてしまって気付いた。実は結構大それてた。メルギドの言葉に、我が事ながら納得してしまった。
「で、でも、確か勇者はメディーにいますよね?」そんなメルギドの言葉を否定したい健人は、思い出したように話す。以前ゲイルとヴァロックから聞いた話だ。女性で黒い髪で黒い瞳。自分と同じ特徴で、当人も勇者と名乗っていたはずだ。
「ああ。確かにいたのだが、そやつは我々からの再三の訪問要請をずっと断っておるのだ。なのでどうもそやつは勇者ではない、と我は思っておる」
「まあ、別にいいんじゃないか? 僕もリリアムの相手が冒険者ってより勇者のほうが、人に話しやすいしね」
「お兄様。軽すぎますわよ。それに、タケトが勇者となったならば、色々しがらみがありそうで、そちらが心配ですわ」
「そういうしがらみも、リリアムと交際していると言う事であれば、当然ついて回るものだ。早いうちから慣れておくとのも大事だろうて」
ライリーとリリアム、そしてメルギドがそれぞれ意見を言っているのを傍で聞きながら考え込む健人。メルギドの言い分は良く分かる。冒険者よりも勇者である方が、リリアムの相手としては、世間には受け入れられやすいだろう。それは分かるがまさか、自分が勇者を名乗るなど当然考えた事もないので、戸惑うのは仕方がない。
この世界に来る前までは、勇者を勇ましい者=荒くれ者とか勘違いしていた健人だが、今ではさすがに勇者という存在がどういうものか知っている。だから勇者を名乗るという事が、とても重大な、大変な事だというのは理解している。
そもそも健人は、元々ただの音楽好きのフリーターなのだ。それが、魔王と対峙し魔族との問題を解決した勇者カオルのような、英雄のような存在になるなどと、おこがまし過ぎる。健人がそう思ってしまうのも無理はないのである。
「すみません。勇者というのはちょっと待ってください。仰る事は分かりましたので」メルギドの言い分は理解出来ても、さすがにはいそうですか、と受け入れるには荷が重すぎる健人は、とりあえず保留して欲しいと願い出た。
「今は平和な世の中だし、何よりリリアムの伴侶となるのであれば、いい話だと思うがな」ふーむ、断るのか、と少し不思議そうに顎髭を触りながら呟くメルギド。冒険者であれば、勇者を名乗るのは名誉であり喜ばしい事のはずなのだが。
「まあ、我が勝手に勇者を選定して、それが理由で災厄が現れる可能性も否定出来ん。前例のない事なのだからな。慎重になった方が良いかもしれんな」
そうですね、と返事する健人。今ここで勇者だと決定される事は避けられたのでホッと胸を撫で下ろした。
「……あやつに相談してみるか」そして誰に話すわけでもなく、一人そう呟いたメルギド。
※※※
「びっくりしたわね」「え? ……ああ」
リリアムの問いかけに、考え事をしながら歩いていた健人が生返事で答える。
「どうなさったの?」そんな健人の様子を、可愛らしく首をコテンと傾げ、不思議そうに健人の顔を覗き込むリリアム。
「いや、何ていうか、俺って結構色々やってきたんだなあって改めて思ってさ」
健人はメルギドの勇者発言を思い出しながら、自分がこの世界に来てから、これまで何をしてきたかを思い出していた。この世界に来た当初、ヌビル村をゴブリンの大群から守る手段を考えた事も。あれから様々なトラブルに巻き込まれつつも、全てそれなりに解決してきた。我ながらよくやってきたなあ、と振り返っていたのである。
元々ただの音楽好きのフリーターなのに。どうしてこうなったんだろうか? と自問自答しながら。
「フフ。今更ね」そんな健人をおかしそうに笑いながら、健人と並んで歩くリリアム。
今二人は隔離の部屋に向かっていた。健人との事について母親であるソフィアにも報告しようと、リリアムに誘われたのである。因みに二人きりでやって来ている。
そして隔離の部屋の通路に差し掛かると、それまで通路の所々で待機しているメイドや執事がいなくなった。隔離の部屋は食事や就寝の準備等で必要な時以外は、通路にさえ誰もいない。誰もいなくなった事を確認したリリアムが、そっと健人の腕に絡みついてきた。
「……さっきはとても嬉しかったわ。ありがとうタケト」少しはにかみながら、それでも嬉しそうに、蒼い美しい瞳を少し潤ませお礼を言うリリアム。約束通り、父親にきちんと話してくれた事が嬉しかったのである。
「こちらこそ。俺を受け入れてくれてありがとな」そんなリリアムを可愛く愛しいと思った健人。優しく頭を撫でた。それを嬉しそうに受け入れ、腕を組みながら健人にそっと体を預けるリリアム。
とうとうリリアムの父親に交際の報告をした。だからようやく本当の意味での覚悟が出来た、と、寄り添うリリアムの頭を撫でながら思った健人。前の世界でも、彼女がいた際その親に会った事はあった。相当緊張したのを覚えているが、その時と今とは心構えが全く違う。リリアムとは結婚まで考えているほど本気なのだ。結婚を決意して親に会うような、それ程の決意なのだ。
だからこの子を本気で大事にしよう。リリアムと共に。そう心に決める事が出来た健人。
『……私を忘れないでほしいにゃー』だが、そんな仲睦まじい二人の横を一緒に歩いている白猫が、ボソっと念話で健人に突っ込む。
『あ、ごめん』突然の白猫の念話ツッコミに、苦笑いで白猫に頭を下げる健人。
……真白、か。
一緒に横を歩く白猫を見ながら、最近は真白を忘れる事が増えてきた事に、申し訳無さを感じた健人。はっきり言って今は完全にリリアムの事しか考えていなかった。ケーラの事も頭になかったくらいに。
そしてそんな仲睦まじい様子で腕を組んだまま、二人と一匹は隔離の部屋の前までやってきた。リリアム一旦健人から離れてドアをノックした。
「お母様。リリアムです」
「あら。どうしたの?」内側からドアを開けられない母親、ソフィアが、大きめの声で返事する声が聞こえた。
「お話があって参りました。ドアを開けますわね」そう言って事前にメイから預かっていた隔離の部屋の鍵を使い、リリアムが魔力を込めてガチャリとドアを開けた。
「リリアム一人じゃなかったのね」ドアが開いて振り返ったソフィアは、健人と白猫を見て声を掛けた。
「突然の訪問、失礼致します」そして先程応接室に行った時のように、健人は恭しく片膝をついて頭を下げた。
「堅苦しくなさらないで。お立ちになって」微笑みながら健人に立つよう促すソフィア。そして言われた通り立ち上がり、再度頭を下げ、ソフィアに話しかける健人。
「実は、王妃にお話があって参りました」
※※※
「アイラだけでなく、リリアムも冒険者を選ぶのねえ」驚いたような、それでも半ば呆れるような顔で話すソフィア。
ここにはメイドがいないので、王妃であるソフィア自らが二人にお茶を用意した。当然恐縮した健人とリリアムだが、これも罰のうちだから、と微笑みながら二人を制して、彼女が率先して用意したのである。ついでに白猫にはミルクを皿に入れて下に置きいてあげたソフィア。王妃とかそんな事どうでも良い様子で嬉しそうにピチャピチャ飲んでます。
「お二人の仲については、陛下は了承されたのでしょう? なら、私からは何も言う事はないわ。リリアムが決めた事なのだし」微笑みながらティーカップに一口付け、話すソフィア。
「ありがとうございます」」「お母様。ありがとうございます」そして二人は、頭を下げながらお礼を言った。
「タケトさん。この子ほんっと男嫌いと言っていいほど、一切お見合いを受けなかったのよ。魔法学校に通ってた頃だって、沢山の交際のお申込みを、全てお断りしていたのだから」ウフフと微笑みながらリリアムの過去を明かすお母さん。
「もう、お母様! 余計な事は言わないで下さい!」ちょっと恥ずかしそうに顔を赤くしてソフィアに怒るリリアム。そしてリリアムは魔法学校なるものに通っていたのか、と初めて聞く学校に少し興味を示した健人。
「でもお母様。この件も重要なのですが、他に確認したい事があってここに来たのです」
「……魔族とドノヴァンの事ね?」
どうやらソフィアも気付いていたようだ。彼女の言葉に黙って頷く二人。
「ある日、突然私の部屋のバルコニーから、とある魔族が入ってきたのよ」そしてソフィアはティーカップを口に付けた後話し始めた。
その魔族から唐突にドノヴァンに会うよう言われ、当時何故か、ドノヴァンに会わなければいけない、と強く思ったソフィア。勿論それは、メイがドノヴァンに指示されて食事に混入していた魔薬の洗脳のせいなのだが。そして早速次の日、ドノヴァンが王城にやって来て、王と王子を洗脳しながら、リリアムをドノヴァンの妻とするという計画を聞いたのである。通常であればそんな荒唐無稽な話、受け入れられるはずもないのだが、ソフィアはこれも、洗脳の影響で、二つ返事で協力する事を約束した。
更にソフィアは、シーナを陥れるとドノヴァンから聞いた際、既に忘れていたはずの嫉妬心が再燃してしまったのである。これはドノヴァンの思惑通りだったわけなのだが。それが理由でより積極的に協力するようになっていったソフィア。ついでに、万が一の時のために、ドノヴァンには隠し通路の存在を教えていたのである。
「て事は、ドノヴァンはリリアムと結婚して、王族の地位を使って、総神殿でも更に上の地位を狙っていた、という事なんですね」
話を聞き終わった健人が、ソフィアに確認した。
「そういう事ね」今リリアムって呼び捨てだったわ、とかちょっと眉を引くつかせるソフィア。王族以外でリリアムを呼び捨てにしたのを聞いたのは、健人が初めてだったから仕方がない。そして同時に、やはりこの二人は交際している、と確信したのである。
「そしてその時何度も私の元へやってきた魔族は、プラムと名乗ったわ」
「後でケーラに確認しようか」「そうね」プラムと言う魔族の名前を聞いた二人は顔を見合わせ頷いた。念話で今すぐケーラに確認する事も可能だが、確か今はナリヤと会っているはずなので、後で情報交換も兼ねてまとめて確認しようと思ったのである。
そして一通り話を聞いた健人とリリアムは、お暇しようと部屋を出て行こうとした際、おもむろにソフィアが健人とリリアムに頭を下げた。
「今回、あなた達のおかげで助かったわ。ありがとうございます」
「いえいえ。どうか頭を上げて下さい」まさかの王妃の謝罪に驚き慌てる健人。
「お母様は一切何もしておりませんわ。お父様もお気になさっておられないはず。だから同様にお母様もお気になさらないで」そしてリリアムも改めてソフィアに頭を上げるよう促す。それからリリアムは、ソフィアの胸の中にそっと顔を埋めた。そんなリリアムを優しく抱擁するソフィア。
「また、家族皆でお食事しましょうね」
「ええ……そうね」
やや涙目のリリアムに、申し訳なさそうに、それでも何処か母親の慈愛を感じさせる微笑みで答えるソフィア。
そしてそんな母子二人の美しくも優しいやり取りを微笑ましく傍らで眼差しで見ていた健人。
「勿論、タケトさんもご一緒にね」そんな健人に突然お母さんが攻撃を仕掛ける。いたずらっぽく微笑みながら健人を家族のお食事会に誘うお母さん。
「え? いやそれはちょっと」王族の皆様と食事? さすがに緊張マックスで耐えられる自信がないタケト。
「あら? 私達と一緒に食事できないのかしら?」「フフフ。タケト。諦めましょう」
リリアムもちょっと悪い顔をしてるっぽい。そんな二人に「ええ~」とつい声を出してしまいましたとさ。傍らにいた白猫は、どうやらご馳走にありつけるかも、と期待している様子。