神殿での後片付けは中々進まない
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「総神官と大神官全て呼びなさい」
颯爽と総神殿の自分の部屋に戻ってきつつ、厳しい口調で、部屋の前の廊下で待機していた白服の男達に指示をするシーナ。いつもの物腰柔らかい普段の様子とは全く違うシーナに、只事ではないと判断した白服の男達は一斉に頭を下げ、蜘蛛の子を散らすように急いで大神官達を呼びに行った。
「それから、ドノヴァンが言いなりにしていた孤児の子達ね……」部屋に入り赤い厚手のガウンを掛け、椅子に座り考え込むシーナ。先程ビーナルから聞いた話によると、ドノヴァンに隷属の腕輪を付けられた女性達は、彼の良いように扱われていたらしい、と聞いている。ただ、ドノヴァンは既に死んでいないので、多分隷属の腕輪は既に外れているだろう、とも、ビーナルは言っていたが。それでも事情を聞く必要がある。
思った以上にやる事が山積みである事で、孤児院の問題まで手が回らないと悩んだシーナは、とある人物を思い出した。
「……レムルスに任せる方がいいのかしらね。さすがにあの子は何もない、と信じたいけど」
※※※
「数名いないようだけれど?」憮然とした表情で座っている面々を見渡すシーナ。緊急の会議をおこなうため、総神殿内にある会議室にいるのだが、大きな机の周りに置かれた椅子はところどころ空席である。緊急の要件だと伝え、至急集まるよう指示したにも関わらず、今いるのは総神官二人と、大神官四人のみだ。ドノヴァンを覗いた五人は、呼びかけに応じ無かったようである。
「仕方ありませんなあ。夕暮れ時でそろそろ仕事も終えようとしている最中の、急なお呼び立てでしたから」
「そうですね。大事な話なら、事前に予約して頂かないと。こちらにも都合というものがあります」
「まあ、我々だけでも来ただけ良かったと思って頂きたいですな」
相変わらずね、と呆れ顔で、彼らの言い分を聞きながら心の中で愚痴るシーナ。大神官より上の地位であるシーナに対し、ぞんざいな態度で接する大神官達を一瞥しつつ。彼ら大神官達は、ドノヴァンと同じく、自分が神殿妃でいる事を快く思っていない。そしてシーナが主導して行った孤児院改革についても、彼らから未だ不満の声が上がっているのもシーナは知っている。
彼らは一様に、孤児院の子ども達に施しを与える事に未だ納得していないのである。確かに各神殿は、光属性魔法を独占して使える事で相当収益がある。治療治癒というのは、人々が生活する上で必須なので需要に事欠かないからだ。だからといって、収入の余剰分を孤児院に恵んでやる必要もないはずなのだが、この神殿妃ことシーナの改革のせいで、余剰分を孤児院運営に充てがう事となってしまい、それまでの贅沢三昧の暮らしが制限されてしまっているのである。その事を不満に思っているのである。それは大神官に限らず、地方を含めた神官の殆ども同じである。
だから、その不満の矛先として、見た目麗しい孤児を見繕って、慰み者にする、という事が横行してしまっていたのであるただ、シーナはその事実を把握しきれていない。彼女まで情報が上がってこないためだ。なのでその点の改革が遅々として進んでいないのである。
なので、この度のドノヴァンの件は、シーナにとって青天の霹靂だったのである。大神官たる者がそんな罪を犯していたという事は、彼女にとって相当ショックな出来事なのである。
はあ、と深い溜め息を付きながら、来る気のない残りの大神官達を待っていても仕方がないので、諦め顔で話し始めるシーナ。
「今日集まって貰ったのは、ドノヴァン大神官の件です。彼は自ら運営する孤児院の女性達に、隷属の腕輪と言う、奴隷に出来る腕輪を使い、慰み者にしていた事が、明らかになりました」
シーナの発言にどよめく一同。だが、その様子は驚きというよりも、戸惑いと言った方が正しいかも知れない。
「更に、彼は魔族と繋がっていたようで、魔薬なる物を所持していたようです。そしてドノヴァンは、つい先程、残念ながら亡くなりましたわ」
魔薬? 何だそれは? ドノヴァンが亡くなった? そんな声があちこちから聞こえた。どうやら魔薬について知っていたのは、ドノヴァンだけだったようである。そしてシーナは、魔薬によって王族一族が洗脳されていた事は伏せておくつもりだ。明かす必要のない情報だという事と、どうやら話した雰囲気によると、魔薬自体は知らない大神官達。もしその効能を知って、第二第三のドノヴァンが現れると困る、と、シーナは判断したのである。
「シーナ様。何故その様な事をご存知なのですか?」
「王城にて聞いたからです」
「何故王城へおられたのです?」
「王と面会していたからです。そこの說明は必要かしら?」
「ドノヴァンが死んだ理由は何だったのですか?」
「魔族に殺された、のかしらねえ」はぐらかすシーナ。魔薬によって魔物になり、健人達に倒された、という情報は余計だと思ったようである。
そしてまるで尋問のように、地位が上であるシーナに矢継ぎ早に遠慮なく質問する大神官達。その扱いで彼らの忠誠心の無さが伺い知れる。
「あなた達、いい加減にしないか」「そうだ。神殿妃たるシーナ様に対して、無礼が過ぎる」そう言って大神官達を諫めるのは、総神官の女性二人だ。その言葉に、憮然とした態度で押し黙る大神官達。
そして、彼らの不満は知っていても、神官達によって孤児達への性的暴力が、隷属の腕輪を使用して横行している事は知らないシーナ。そんな彼女でも、今回のドノヴァンの件を知り、他にも同様の罪を犯している神官はいるだろう、と疑っている。
孤児院出身者のシーナとしては、正に由々しき事態で早急に対応すべき案件なのであるが、大神官達はそうではないようである。双方の温度差も、大神官達の不遜な態度の現れだろう。
「とにかく、隷属の腕輪というとんでもない物が出回っていると聞いては、放置しておくわけには行きません。他の大神殿の神殿妃とも連携をとって、早急に調査致しますので、あなた方にも協力を仰ぎたいの」
シーナの言葉に、一様に狼狽える様子の大神官達。
「し、しかしですな。ドノヴァンがもう死んだのであれば、既に解決済かと」
「そうです。彼が元凶だと分かっているのであれば」
彼らの狼狽える様子を怪訝に思いながら、シーナが何か言葉を発しようとした時、コンコン、と会議室のドアをノックする音が聞こえた。
「お母様。レムルスです。ただいま参りました」
※※※
「で、メイ。あなたの娘を探さないといけないわね。私も協力するわ」謁見の間から一旦王城内にある自分の部屋に戻ったリリアムは、付き添っていたメイにふと声を掛けた。
「いえ、さすがにリリアム王女のお手を煩わす訳には参りません。私が探しますので」慌ててリリアムの言葉を否定するメイ。気遣いは嬉しいが、洗脳していた後ろめたさもある彼女は、娘の所在の確認くらいは自分でやろうと決めていた。ギルドを頼って依頼しようとも考えていた。
「シーナ様にご協力を依頼すれば、きっと早く解決すると思うの。あなたも心配でしょ?」そんなメイの気持を察してか、微笑みながら提案するリリアム。
「で、ですが」それでも申し訳なさそうにするメイ。
「あ。そう言えば、お子さんのお名前を聞いてなかったわね」
「娘の名前、ですか」
「ええ。教えてくれないかしら?」
※※※
「……」
レムルスが会議室に到着した後、そのまま会議を続けようとしたのだが、大神官達はおもむろに急用を思い出したと、声を揃えて帰って行ったのである。急ぎ足で。総神官二人とシーナは、当然彼らの様子をおかしいと思わざるを得なかった。
「どう思う?」
「正直、怪しいと思いました」「ええ。私も同感です」
そうね、とため息交じりで返事するシーナ。そう言えばガジット村に派遣する予定の神官を、アクーから派遣したいと連絡があったわね、とふと思い出した。ガジット村の神官がいなくなったので、メディーから神官を派遣して欲しい、と申請があったのだが、途中でアクーから派遣するから今回は必要ない、と、その理由は分からないまま変更になったのである。その件に関しては、他の大神殿で扱っていたので、シーナは報告程度でしか知らなかったのだが。そしてシーナはアクーとガジット村の神官の件を知らない。
「……あれも、もしかしたらメディーの神官が信用できなかったから、かしら」ふと呟くシーナ。そして未だ会議室の中で椅子に座り、難しい顔をして腕を組んで考え込む。
「レムルス。ちょっとお願いしたい事があって、来て貰ったの」
「はい、何でしょうか?」彼はシーナの一人息子である。シーナと同じく水色の綺麗な短めに切り揃えられた髪に、整った顔。ここ総神殿で務める神官なので白いローブを着ている。身長175cm程度の細身のイケメンであるが、大人しい雰囲気だ。歳は20代前半といったところか。
「孤児院の調査をお願いしたいの。ユリナ。まずはドノヴァンの管轄していた孤児院の資料を用意して、レムルスに渡して頂戴。ファルール。あなたはまずここ、総神殿を調べて貰えるかしら?」
「はっ」「かしこまりました」総神官の女性二人、ユリナとファルールは、シーナに一礼して踵を返し、足早に出ていった。
「レムルス。これは神官達には内密で調査して欲しいの」総神官二人もいなくなり、会議室に二人きりになったところで、シーナはレムルスにそう話しかけた。
「……何やらきな臭いですね」母親の真剣な様子に、只事ではないと感じ取ったレムルス。とりあえず話を聞く事にした。