白猫進化と色々開始
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人の姿になれる。その言葉を聞いて、健人はいきなりグオールの肩を掴んで揺さぶった。
「そ、それ、本当ですか?」真剣な顔つきで、巨躯のグオールを揺さぶる細身の健人。
「い、言い伝え、だからああ、良くはあ、知らぬううう」線が細いくせに思ったよりパワーのある健人に、ゆっさゆっさ揺らされながらもきちんと答えて上げている、生真面目なグオール。
「タケト。これはもう調べないとね」そしてそんな二人のやり取りを傍で見ていたケーラが、健人の肩にポンと手を置いて微笑んだ。
「ああ」真白が元に戻れる可能性を見つけた。少し泣きそうになりながらも、笑顔で返す健人。
「出来れば、詳しくお話を伺いたいんですが」そして改めてグオールに向き直り、話をした。
「別に構わんが。だが儂の知っている事など大した情報ではないぞ? その猫が神獣だとしても、儂は神獣自体、初めて見たのだからな」立派な顎髭を触りながら答えるグオール。
「それでも構いません。何か情報があれば知りたいんです」お願いします、と頭を下げる健人。
「まあ、分かった。この強敵デーモンを倒した冒険者の、その程度の願い、聞かぬ訳にはいかないだろう。おかげで被害を最小限に抑える事が出来たのだからな。儂で役に立てるなら、何なりと話しようではないか」フフ、といかついライオン顔ながらも雄々しく凛々しい表情のグオール。正に歴戦の戦士と言った風貌だと、この時健人は改めて感じた。
『戻るのかにゃー』一方そのやり取りを見ていた白猫は、どこか不安気な様子。
部屋のすぐ外で健人達がそんなやり取りをしている間、リリアムは王妃の部屋の中で、兵士達の治療をずっと続けていたが、ようやく最後の、ファンダルの治療を終えるところだった。
「何とか間に合ったようね」治療が終わって、ふう、と額の汗を拭きながら息を吐くリリアム。
「お手を煩わせ、誠に申し訳ありません」ファンダルが繋がった右腕を少し気にしながら、恭しくリリアムに深く頭を下げた。
「気になさらないで。これからも王城の警備、宜しくお願い致しますわ」そう言って優しく微笑むリリアム。既に治療を受けて助かった他の二人の兵士は、ドレスを破いたせいで美しい白い脚を覗かせた、その天然たらしさんの超絶美女スマイルに、顔が真っ赤になった。
「ご面倒をおかけし、誠に申し訳ありません」そして片膝をついて、改めて頭を下げるファンダル。
「さっきも言いましたが気になさらず。腕が間に合って本当に良かったわ」実はギリギリ危なかったファンダルの右腕。切断された右腕自体も、デーモンに放置されていたのが良かった。食料として齧られていたりしていたら、回復は不可能だっただろう。実はドノヴァンデーモンを倒した事により、リリアムのレベルが上がったので、これだけの難しい治療が出来たのである。千切れた部位を繋ぐ光属性魔法は、相当高度な魔法で、この世界では他に姉のアイラにしか出来ないくらいなのだ。そして当然、同様にケーラもレベルが上っていた。先程話していたように白猫も。
そして、白猫はグオールの予想通り、見習いながらも神獣になっていたのである。
※※※
「では宜しく頼むぞ」グオールの言葉に、横に整列して「はっ!」と答える、ファンダルと兵士四人。ドノヴァンデーモンの素材とクリスタル確認、更に後片付けをグオールより命じられたのである。
「何かすみません」そして後片付けをやって貰うのが申し訳なくて、頭を下げる健人とケーラ。
「気にするな。お前達がいなかったら、私達は死んでいただろう。寧ろこれくらいはさせてくれ。この度応援に駆けつけてくれた事感謝する」にこやかに笑いながら健人に握手を求めた。初めて城門前で会った時とはかなり違う態度のファンダルに、若干戸惑いながら、そして申し訳なさそうに、苦笑いで健人は握手に応じた。
「では行くぞ」ファンダルと健人とのやり取りを見終えたところで、グオールに声を掛けられ、王妃の部屋を離れる健人達。そこにメルギド達が待っているはずである。
そして向かう最中の廊下で、既に魔薬の洗脳が解けたソフィアが待っていたかのように廊下の隅で佇んでいた。ライリーもソフィアを気遣う様子で一緒にいる。
「お母様。お気分はいかがですか?」何となく気不味い雰囲気だったが、それを払拭しようとしたのか、ソフィアを見つけたリリアムの方から先に声を掛けた。
「ええ。とても穏やかで、気分は良いわ」どこか申し訳なさそうに、少し淋しげに微笑するソフィア。
「……ごめんなさい」そして気まずかったのか、リリアムから視線を外すように少し顔を下げながら、おもむろに謝罪の言葉を口にした。
「お父様の元には、一緒に向かわれますか?」そんなソフィアの様子にライリーが居ても立ってもいられないように、ソフィアに背に優しく手を添え、声を掛けた。
「……そうね。行かないといけない。それがけじめだから」そしてスッと居住まいを正し、ライリーを置いて先に一人で歩いていった。
「お兄様……」「うん。とりあえず行こうかリリアム」二人母親を気にかけるリリアムとライリー。洗脳されていたとはいえ、ドノヴァンと繋がりがあり、メルギドとライリーの洗脳の事まで知っていたソフィア。きっと処罰が下されるだろう。その事が心苦しい二人。そして、リリアム達三人の雰囲気を邪魔しないよう、健人達も後からついていった。
※※※
「そうか。デーモンがいたのか」玉座に座ったメルギドが、深刻な顔をしながら、蓄えた顎髭を触りつつ考え込んでいるようである。既に謁見の間に移動していたメルギドとメイ、ビーナル、更に神殿妃のシーナも。そして後からやってきた健人達が、王妃の部屋で起こった一部始終を説明していた。
「先程話していた、魔薬なるものにて、ドノヴァンが魔物、デーモンになった。そういう事だな?」
「ええ、そうです」メルギドの問いに健人が答える。
「ソフィア。それで間違いないか?」謁見の間に先に来ていたソフィアに、メルギドが目配せする。
「はい。私は魔薬によって魔物になる、といった事は知りませんでしたが、魔族に魔薬のようなものを口に入れられたドノヴァンが、魔物に変わっていく様を、部屋の中で見ておりましたので」メルギドの目を見据えながら、その問いに素直に答えるソフィア。
「魔族がいたのか?」眉をピク、とやや上にあげ、質問するメルギド。
「ええ。私の知らない魔族でしたわ。ドノヴァンはその魔族に、どうやら頭が上がらなかったようですが。ですが、ファンダル隊長が駆けつけたのに気づいて、窓から逃げましたの」
「私の知らない魔族? とは?」そのソフィアの言い方が引っかかったメルギド。
「私は、洗脳の件でドノヴァンとやり取りをしていました。その橋渡し役が魔族だったのです」
「そうか。ドノヴァンだけではなく、魔族とも通じておったのか」メルギドの言葉に、はい、と小さく答えるソフィア。
少年風の魔族は、ソフィアの告白の通り、ドノヴァンとソフィアとの連絡係になっていた。他にギズロットからの指示も、この魔族が引き受けていた。この魔族の少年は、空が飛べる上に洗脳の事を熟知しているので、今回の計画にはうってつけだったのである。総神殿の大神官と言えど、おいそれと王城に出入りできるわけもないので、そういった連絡係が必要だったのである。
因みに今回、ドノヴァンが王妃の部屋に来る事が出来たのは、普段使っていない、王妃の部屋へと続く隠し通路を事前にソフィアが教えていたからである。
「なるほど。ではやはり、洗脳の事は知っていたのだな?」
「……はい」メルギドの確認に、何か覚悟をしたような表情で、肯定の返事をするソフィア。
「……」そこで沈黙するメルギド。そして二人だけのやり取りが止まった途端、結構な人数がいるはずなのにシーンと静まり返る謁見の間。王妃は洗脳の事を知っていた。それは洗脳を、メイがメルギドとライリーに対して行っていた事を知っていて、止めなかった、という事である。
そしてそれは、王と王子を裏切っていた、という事と同義である。即刻死刑になってもおかしくはない罪と言えるだろう。
「ですがお父様。お母様も洗脳されていたのです」ライリーが耐えられなくなった様子で声を発した。何とか母親の厳罰は避けたいライリーの必死の訴え。
「分かっておる」そのライリーの訴えに、無表情に答えるメルギド。
「ならば、ならばお母様も被害者……」「おだまりなさいライリー!」必死な様子のライリーを制したのは、罪を受けるであろう、母親のソフィアだった。
「で、ですが……」ソフィアの弁明を母親に制止されるとは思わず、狼狽えるライリー。
「確かに私も洗脳され、ドノヴァンの言いなりになっていました。彼の野望は、リリアムを手に入れ、そこにいるシーナを蹴落とし、ドノヴァンが神殿子になる事。そして、私も少なからず、良からぬ感情を抱えていたのは事実なのです。いくら洗脳されていたとはいえども」
「良からぬ感情とは?」
「……シーナへの、妬みです」そこでうう、と泣き崩れるソフィア。へたり込んだソフィアを心配して、慌てて駆け寄るライリーとリリアム。
「ねえソフィア。今はどうなの?」そこでずっとやり取りを黙って見ていたシーナが、いきなり王妃をぞんざいに呼び捨てにした。





