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決意表明、でもどうしようもできないかもしれない

読んで頂いている皆様、有難う御座いますm(_ _)m

2話程投稿する予定です。

 次の日の朝、農作業もそこそこに、村長であるダンビルが、村の広場に向かった。そこで緑色の三角形のクリスタルを取り出す。


「これは風のクリスタルだ」そう健人と真白に説明する。「今からこれを使って、村の連中みんなに、ここに集まるよう伝える」


 そう言って、風のクリスタルを上に掲げ、「集音」と唱えると、ダンビルのやや上辺りに、直径20cmくらいの小さな竜巻?みたいなのが出来上がった。ダンビルはそこに「重要な話がある。今から広場に来れる者は至急きてくれ」とその小さな竜巻に話す。それから「拡声」と唱えると、その竜巻は一気に10mほど上昇し、大音量で「重要な話がある。今から広場に来れる者は至急来てくれ」と音を発した。


 おお、これが風魔法の使い方なのか。感心しながらその様子を見ていた健人。


「そういや、昨日マシロが話してた魔法を使うゴブリンな。そいつは多分ゴブリンメイジっていう、ゴブリンだが魔法が使える変わり種だ。普通ゴブリンは魔法が使えない。だがあいつらは、たまに倒した冒険者からクリスタルを奪って、偶然に魔法を使う事が出来たりする。それがゴブリンメイジと呼ばれる。当然、魔力のクリスタルが空になれば、使えなくなるんだけどな。そして使った魔法は多分(土の魔法)だ」と、説明してくれた。


 土の魔法で攻撃したりしてたわけか。やはり魔法は戦いでも活用されてるんだな。


「それとマシロ。確認したい事がある」ダンビルが真面目な顔になって真白に質問する。


「なんですにゃ?」


「お前、ゴブリンをやっつけたとは言ってたが、きちんと()()()()?」


「……殺してないですにゃ。もしかしたら倒したゴブリンの中には死んでるのもいるかもしれないけどにゃ」


「そうか……。なら、既に復活してるかも知れんな」少し残念そうにダンビルが返事する。


 真白はゴブリンと戦った際、そもそも殺すという気持ち自体なかった。理性がそれをさせなかったのだ。イノシシや鹿のように、食べるために必要な動物であれば、殺す事に躊躇はしないが、ゴブリンを殺さねばならない理由が、その時の真白にはなかったのである。襲われた状況から脱する事が出来れば良かったから、殺す必要を感じなかったのである。


「もしこれからゴブリンがこの村に来たら、殺さないといけないかにゃ?」


 答えがわかっていても聞いてみる真白。理性のせいでそれを拒否したい気持ちがある。狩りとは違うし、魔物とは言え知性があるものを殺す事に、躊躇する気持ちがあるからだ。


「当たり前だ。殺さないと殺されるからな。特にお前は女だ。攫われて犯され、あいつらの子を孕まされる。あいつらはそういうやつらだ。俺らの天敵だ。身を守るためには綺麗事では済まされない」さも当然という感じで答える。


 それを聞いた真白は、寧ろ決意した。「わかったにゃ。遠慮はしないにゃ」と、気合が入ったようだった。バンッと自らの拳同士を打ち付ける。


 その二人の様子を傍で見ていた健人は、これから起こるであろう事態が、自分が思っている以上に大変な事だと徐々に理解していった。命のやり取りをしないといけないのか? 下手したら俺は殺されるかもしれない?


 ゴブリンの話をダンビルさんから聞いていた時に、薄々と分かってはいた事。この世界では魔物と戦い、命を奪われる事がある。なら、それを防ぐために、相手を殺さねばならない。しかし、自分が実際にその事を経験するかも知れないと考えると、今更ながら怖くなってくる。


 健人の様子を察したのか、「健人様大丈夫にゃん。私が守るにゃん。そのための私にゃん」そう言って真白が得意のサムズアップをする。いやまあ真白は確かに強いし、真白なら俺を守りきる事が可能だろう。でも何があるか分からない。この小柄な女の子に頼るだけというのもバツが悪い。俺自身も出来る限りの準備はしないと。そして本当なら俺の事は俺自身が何とかしたい。力不足なのは分かっているけど。そう考えると、俺って情けないなあ、と思ってしまう健人。


 そしてそうこう話しているうち、風の魔法で呼びかけた効果が現れたのか、広場に村民が続々と集まってきた。


 この広場は村のやや中心に位置し、ここでこうやって重要な話を皆に共有したり、祭りがあればここで行ったり、先日の真白対真白をどうにかしたい青年男子達との戦いだったりで利用されている。その広場の端には、小学校の朝礼台の様な、木でできた台がある。


 村人が五十人ほど集まってきただろうか。ダンビルがその台に上り、話し始める。


「みんな良く集まってくれた。これから話しする事は本当の事だ。みんな心して聞いてほしい」


 村民達が何事だ? とそわそわしながら、でも静かに聞いている。


「四か月ほど前、この近くにゴブリンが出たのは憶えていると思うが、あの時は一部の村民が一方的にやられただけで、ゴブリンは逃がしてしまった。しかし昨晩、ゴブリンの集団が、村の向こうの森の中にいる事が分かった。数にしておよそ三百匹だ」


 それを聞いて村民がざわめく。「ええ! 今まで何もなかったのに」「前に来たゴブリンなの?」などと声を上げている。悲鳴を上げたり、頭を抱えたりしている者もいる。


「その時のゴブリンかどうかは分からない。だが、あいつらは集団になると、この村の様な人間の集落を襲い、奪いに来るのが通例だ。まだここからゴブリンの集団のいるところまで距離はあるが、間違いなくここは襲われるだろう」


「前にゴブリンが現れた時との違いを、まだよく分からないやつもいるだろう。だからバッツ、お前が皆に説明してやれ」


 了解です、とバッツは答えた。バッツは健人と真白が初めて村に来た時に、入り口を警護していたジルムのもう一人の青年である。バッツはこの村にいる数少ない元冒険者。年は26歳で、18歳の時に都市に一人向かい、冒険者となり、様々な魔物を倒したり、ダンジョンに行ったりした経験がある。身長は180cmくらいでいかり肩の筋骨隆々な青年だが、愛想のいい笑顔が、一部村民の女性から人気を得ている。茶髪でやや伸ばした髪が、少しセクシーな映画俳優に見えなくもない。村に戻ってきたのは、父親の腰の状態が芳しくなく、母親や下の兄弟を支えるために、父親の代わりに農作業をするため戻ってきたのである。


 因みにジルムとは幼馴染で、普段ジルムはバッツから稽古をつけてもらっていた。今村民で一番強いのはバッツと言えるだろう。そして、一番最初に真白にアタックして、一撃で粉砕されたのもバッツだった。


「んじゃ説明しまーす」と、バッツはダンビルの代わりに、台の上にあがり、説明を始めた。


 バッツの説明はこうだ。約四か月前にゴブリンが来た時は、ゴブリン達が集団で村を襲う心配はなかった。何故なら、生贄となった村長の娘と嫁を殺害して置いていったからだ。本来なら孕ませるため、ゴブリンの集落に連れて帰ったはずが、そうしなかったのは、あの時村長の娘と嫁を襲ったゴブリン達は、単にその時の性欲を解消するためだけに襲ったと思われたからだ。ゴブリンはずる賢いが、欲望を抑え理性的に行動できるほど賢くもない。そこで満足してしまったので、集団に戻る際にはすっかり忘れてしまっていたのである。


「で、いいんですかね?」ダンビルに聞く。「ああ、続きは俺が説明する。そして後で俺の家に来てくれ。今後の対策を打ち合わせしたい」


 了解っす、と軽い感じで答えるバッツ。バッツは元冒険者なので、魔物退治には慣れている。この村の貴重な戦力なので、バッツは今回のゴブリン対策には欠かせない。


 そしてダンビルが説明を受け継ぎ、台の上に上がり、バッツの隣で説明を続ける。


 「しかし今回は違う。今回真白がゴブリンを見つけたんだが、ゴブリンメイジと戦った時、他にいた十匹ほどのゴブリンが、集団に戻っていったのを見つけたそうだ。当然集団には報告がいってるだろう。真白という強敵がいる事を知れば、それに対して対抗しようとする。ゴブリンだけならそこまで考えはしないが、三百匹もいる集団であれば、上位種がいるはずだ。そいつらはゴブリンとは比較にならない程賢いし狡猾だ」


 村民達が緊張した面持ちで続きを聞く。


「上位種がいると、いくら知恵の浅い魔物の集まりとは言え、統率がとれるようになる。そして上位種は、村を襲う事で三百匹もいる仲間の食い扶持を稼ごうと考える。今は多分どっかの村を襲った後だったんだろう。暫くこちらの様子さえ見に来なかったのは幸運だったとも言える。だが、そろそろこの村に気づく。そうなれば、あいつらに全て奪われ村を破壊されるか、倒すしか、どちらかしかない」


 村民達は息を呑んだ。下で同じように話を聞いている健人や真白、勿論ジルムも真剣な目で壇上を見つめる。


「今まで平和すぎたのが或る意味幸運だったとも言えるが。当然俺はみんなを死なせるつもりはない。命に代えてもここを守る。だが俺一人ではどうにもできない。だからみんなも手伝ってほしい」


 村民達は「勿論だ!」「絶対あいつらの好きにさせないわ!」と、みんなしてワーワー気勢を上げた。


「みんなありがとう。それから一つ言っとくが、今回の件、マシロは一切悪くない。今回ゴブリンに気づかれたのはマシロだが、あいつは俺のためにゴブリンを捜してくれた。復讐の機会をくれるために。それに、早かれ遅かれゴブリンはこの村に気づき、襲っていただろう。事前にあっちの数が知れたのは、他でもないマシロのおかげだ」


 ダンビルは真白へのフォローも忘れない。てへへ~と照れてる真白。猫耳がぴくぴく動いている。多分照れてるんだろう。村民達は普段から真白がイノシシや鹿を狩ってくれたり、子ども達と遊んでくれたり、いつも愛想よく挨拶してくれたり、手が空いている時には作業を手伝ってくれている事を知っているので、誰も真白のせいにしなかった。


「勿論だ! 俺達のアイドルマシロちゃんが悪巧みするわけねーよ!」「そうだそうだ! 今こマシロちゃんへのアピールチャンスだ!」 「マシロちゃんは俺の嫁ー!」


 ……なんか欲望丸出しの何かが聞こえてきた気がしたがスルーでいいだろう。真白は声のした集団を冷たい目で見ている。氷点下かよって思うくらいの冷たい目で。「あいつらいい加減しつこいにゃ。そろそろ〆ないといけないにゃ」なんか真白から恐ろしい独り言が聞こえた気がしたがこれもスルーした方がいいな。小さいかわいらしい女の子には似合わない冷めた目だった。


 しかし大変な事になった、と健人は改めて思った。ダンビルさんには対抗する手段があるのだろうか? そう健人が心の中で思うのと同時に、「女子どもだけでも街に逃がす方がいいかも知れん。下手すりゃ皆殺しにされちまう。多分全滅は避けられんだろうな」という、壇上から降りながらブツブツ言っているダンビルの独り言を聞いてしまった。






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