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改めて対面。だがまだあの話はできない模様

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「お父様。連れて参りました」リリアムが恭しく頭を下げ、ロングドレスの端を摘んで一礼する。リリアムのその振る舞いを確認し、健人、ケーラ、ビーナルは片膝をついて頭を下げる。


「うむ。苦しゅうない。姿勢を崩すが良い」玉座に座ったメルギドが、そう言って皆を慮った。


「お主達がリリアムを護衛してここまで来てくれたのだな。ご苦労だった」穏やかな表情で健人とケーラを労うメルギド。そんなメルギドの振る舞いに、初対面の時とは対応が全く違うので戸惑う二人。当初は寧ろ会うのを拒んでいたのに。洗脳されていた事が理由なのは分かっているのだが、それでもそのギャップにたじろいでしまった。


『でも、これが本当の王様の姿なんだろうな』『そうだね。さっきは洗脳されていたからあんなに偉ぶってたんだね』感想を念話し合う二人。


「ビーナル。色々苦労をかけたな」そして今度はビーナルに声を掛けたメルギド。ビーナルはここ最近ずっとメルギドの様子がおかしいと思っていた。王に仕えて数十年の時が経っているのだから、気づかない筈はないのである。だが、それでも、メルギドに対する忠誠心によって、黙って言われるがまま、業務をこなしていたのである。


「……陛下、勿体なきお言葉」少し声が震えるビーナル。嬉しくて感動している様子。


「お父様。出来れば場所を変えてお話したいのです」そこでリリアムがメルギドに進言する。メイドや執事達も外して、話をしたい。


「分かった。では、応接室を使うか。ライリー。お前も来るのだ」リリアムの真意を汲み取ったメルギドは、ライリーにそう声を掛け、玉座から立ち上がった。メルギドの言葉に、承知しました、と返事をするライリー。


「城門前では済まなかったね」そして健人達が来た方向とは逆側の通路を歩いて向かう途中、二人に頭を下げライリーは謝罪した。


「いえいえ。仕方ないです」「気にしていないです」二人共ライリーに笑顔で返し、頭を上げるよう促す。


「ありがと……う。……君は、君の名は?」とある有名なアニメ映画のようなセリフを発しながら、超絶美少女スマイルケーラを見て一瞬固まったライリー。だが、すぐに居直って名前を聞いた。


「え? ボクはケーラと言います」後で自己紹介する予定のはずなのに、今先に名前を聞く? 不思議そうな顔をするケーラ。


「そう。ケーラ、か。よし、ケーラ。君は僕がエスコートしよう」ニコっと白い歯をキラーンと光らせ、超絶美青年スマイルでケーラに手を差し伸べるライリー。


「え? 結構です」ちょっと驚いて普通に断ってしまうケーラ。そもそもエスコートされるシチュエーションじゃないよね? と首を捻る。


「え?」そしてそんなケーラの対応にびっくり顔のライリー。このイケメン王子様は、今までこうやって女性を誘って断られた事は生涯一度もない。だからケーラも等しく、当然のように喜んで、受け入れるだろうと思っていたのに。まさか拒否された?


「ああ。そうか。僕が王子だから気にしているんだね。大丈夫。君のようなとても美しい女性には、僕は身分など気にしないのさ」フッとブロンドの髪をファサとかき上げ、微笑んで改めて手を差し出すイケメン王子様。洗脳されていた時も、ケーラの姿は見ていたはずなのに。どうやら洗脳の効果が切れて、本来のライリーの性格に戻ったのが理由のようである。


『ねえ、どうしよう。気持ち悪いから断りたいけど、王子だし』めっさドン引きしているケーラが健人に念話する。そしてライリーは超絶美青年で王子様。まさか念話で気持ち悪いなどと言われているとは思いもよらないだろう。フッ、照れているのかい? と言わんばかりに、ケーラが手を取るのをずっと待っている。


『彼氏がいるから、って言えば良いんじゃないか?』本当は健人自身が身を挺して抵抗したいのだが、それもまた面倒になりそうだ。どうしようかと健人も困っている。出来るだけ事を荒立てたくない。これから大事な話をするのだから。


「お兄様。残念ながら、ケーラには既に心に決めた殿方がいるわ」ケーラがライリーに彼氏持ちだと伝えようとしたところで、リリアムが助け舟を出した。


「ええええ? ……まあ、そうか。そうだよな。ケーラ程美しい女性なら、他の男が放っておかないか」ガックリ項垂れるライリー。


「だが! 僕は諦めないよ! きっと君を振り向かせてみせる! ケーラ、こうして君と出会ったのは運命、これはきっと、抗えない濃密な関係になるだろう! きっと」「キモい」何だかトランスしているっぽいライリーの、宝〇の俳優のような口上を途中で遮り、バッサリきつい一言を浴びせるケーラ。


「え? ええ? キ、キモい? そ、それはもしかして、気持ち悪い、という意味かな?」そんな言葉を僕に言うなんてあり得ない、と言わんばかりの、信じられないと言った顔でケーラに確認するライリー。ケーラは魔王の娘なので、いくら王子殿下と言えど容赦なく対応できたりするのだが、当然ライリーはそんな事知らないから仕方ない。


「……何か洗脳されていた時とは違う面倒臭さだよ」「大いに同意する」気持ち悪すぎてちょっと怯えているくらいのケーラと、ドン引きしている健人が二人して同じ感想。


「もう、お兄様! いい加減になさって! 普通に歩く事さえ出来ないじゃない!」呆れたリリアムがライリーの腕を掴んでグイグイ引っ張っていった。ケンケン状態で連れて行かれるライリー。


「あ! リリアムちょっと待って! ……と言うかリリアム、本当強くなったなあ!」冒険者としてレベルが上ったリリアムの力に抗えないお兄ちゃん。何故かちょっと嬉しそう。


「ほら、タケトとケーラも」何やってるのよ、とでも言いたげに、先に進んだリリアムが二人に声を掛ける。


「了解だよ。ありがとねー」「はいはい」そして助け舟を出したリリアムにお礼を言うケーラに、そんな兄妹の様子がちょっとおかしい健人。小さく笑いながら後に続いた。


「何を遊んでおるのだ。早くせんか」そしてメルギドも呆れ顔。白猫も「にゃはあ」と呆れ鳴き。


 ビーナルとメイは呆れ半分、苦笑い半分と言った様子。それでもどこか微笑ましくその様子を見ている二人。こんな王族達の穏やかな光景を見るのは二人とって久々だ。以前はずっとこんな風に仲睦まじい家族で、日々穏やかに過ごしていた事を思い出すビーナルとメイ。王とライリーは、ここ最近ずっと、魔薬のせいでピリピリしていたのだから。また、その日常が戻りそうだと思うと、二人は嬉しさが込み上げてくるようである。最も、その原因の一端はメイにあるのだが、彼女もずっと王族の面々の洗脳を手伝っていた事から解放された安堵もあるのだろう。


「……あれ?」そしてケーラがふとある事に気づいた。


「どうした?」健人がケーラの様子に疑問を投げかける。


「一人いないよね?」後から来るのかな? 首を傾げるケーラ。


 ※※※


「……何と言う事だ」手を組んで両肘を机につき、暗く深刻な表情で呟くメルギド。


「お父様。全ての神殿を調べる必要がありますね」さっきまでのおふざけが一転、ライリーも深刻な表情を浮かべている。ライリーの言葉に、深刻な顔で、うむ、と返事するメルギド。


 今メルギドを含めた全員が、王が接待するための応接室に来ている。当然、とても豪華な内装で、壁はすべて真紅に塗られ、机は黒壇のような黒光りする、立派な材木が使われている。それぞれに用意されている椅子も同じ材木で出来ているようで、背もたれには竜を型取ったような彫刻。部屋は応接室というには相当広く、五十畳はあるだろう。天井も高く、豪華なシャンデリアが高い天井にぶら下がっている。


 だが、そんな豪華な内装さえ、暗い表情の面々を明るくする事が出来ないようである。それほど深刻な雰囲気。そして、普段はメイドや執事が、王族や客の世話をするため部屋の中にいるのだが、今は重要な話をすると言って外して貰っている。


「……それが、魔薬か」「これで僕達は洗脳されていたんだね」メルギドが、ケーラが取り出した、机においてあった残り一個の魔薬を手に取り、上から下から眺めている。ライリーも興味深そうにメルギドが魔薬を観察しているのを見つめている。机の上には、他に、既に二つに割れている隷属の腕輪も置いてある。


 アクーとガジット村で起こった件、そして魔薬の効果、それらを健人達三人から説明されていたメルギドとライリーは、殊の外大変な状況である事を初めて理解した。ビーナルは既に聞いていたが、メイはアクーとガジット村での出来事については初耳だ。メディーだけではなかった魔薬と隷属の腕輪の件に、彼女も事態の深刻さを理解し、複雑な顔をしている。


「メイよ。お前のやった事は決して許されるべきではない。だが、状況が状況であった事は理解出来る。よって厳罰にはせん」俯いて黙っているメイに対し、メルギドがふと声を掛けた。ハッとしてメルギドを見つめるメイ。


「陛下……。ご寛大なる御厚意、誠に感謝致します」そして恭しく頭を下げるメイ。それと同時に、机の上に雫が落ちた。メイの状況についても、本人の口から改めてメルギドとライリーに説明していたが、その内容に、メルギドは厳しい処置をする必要はない、と判断したのである。そして当然、結婚せず子どもを産んだからといって、解雇する気もないメルギド。リリアム王女に長い間侍女として仕え、精力的に身の回りの世話をしつつ、護衛任務をしていた事をよく知ってる。これまでの働きを顧みれば、その程度些事だと思っているのである。


「メイ。リリアムがいない間も、メイド達をまとめてくれていたのは知っているよ。これからも一層、メディー王城のために働いて欲しい。それが償いだと言う事で。いいですよね? お父様」ライリーの進言に、ああ、と微笑みたっぷり蓄えた顎髭を触るメルギド。


「ありがとう……ございます」ライリーの優しい言葉と、メルギドの思いやりに、我慢しきれずうっうっと嗚咽するメイ。口を押え何とか大声を出さないよう泣いている。そんなメイに、傍らにいたリリアムが何も語らず、ただ優しく寄り添った。


『いいお父様にお兄様だな』『ええ。これが本来の二人なのよ』膝に白猫を乗せているリリアムに、念話を送る健人。そして何処となくリリアムは嬉しそう。


「あのー。発言してもいいでしょうか?」一通り話し終わったのを見計らって、気になっていた事を聞きたくてケーラが手を挙げた。


「どうした?」メルギドが返事をする。


「王妃はどこですか?」


 そういやいないな、健人も今更気がついてついキョロキョロした。ビーナルとメイ、そしてリリアムとライリーは、どうやら後から来るだろうと思っていたようだが、その問いにメルギドが悲しそうな顔をしたのを見て、どうも何か事情があるらしい、と思った健人とケーラ。


 そしてメルギドがなにか言おうとしたところで、応接室の扉をコンコン、とノックする音が聞こえた。


「失礼致します。シーナ様がご到着されました」






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