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洗脳を解こう

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークまでして頂いてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

 ※※※


「さっさと捕まえんかああああ!!!」怒りの雄叫びをあげるメルギド。その大声に萎縮する執事達。ライリーも同じく父親の激怒に、執事達同様萎縮してしまっている。


「まさか、ビーナルまで一緒に行くなんて」萎縮しながらも意外な人物が裏切った? と思ったライリー。


「捕まえたらあいつらは死刑だ! ビーナルも同罪だ!」バン、と玉座の椅子を叩き、イライラした様子で怒りを顕にするメルギド。ビーナルは単に巻き込まれただけなのだが、メルギドはそれを知らない様子。


「お父様。そんなにお怒りになられたら、皺が増えますわよ」そんな緊張感漂う謁見の間に、微笑みながら、どこか余裕の表情でリリアムが一人で入ってきた。


「何? リリアム? お前、隔離の部屋にいたはずではないのか?」まさかの訪問者に驚くメルギド。当然周りにいた執事達やライリーも驚いた顔をしている。


「ええ。でも、猫が私の元にやってきたので、連れて参ったのです」そう言って白猫を手に抱え見せるリリアム。そこで「にゃーご」と一鳴きする白猫。


「なるほど。やはり猫はお前のところに行ったわけか。お前を護衛していた人族の男が、その猫の飼い主だとホラを吹いていたのだがな。あれは我に会うための方便だったようだな」どうやって部屋から出たのか、そこは気にはなったが、とりあえず白猫が見つかった事で落ち着いたようで、先程まで激昂してのが嘘のように、静かに話すメルギド。


『じゃあ行くにゃ』『ええ。お気をつけて』そして一人と一匹が念話でやり取りした後、いきなり白猫がぴょんぴょんと、ウサギの如く跳ねるように、メルギドの座る玉座に走っていった。


「何!」驚くライリー。そして呆気に取られる執事達。だが、猫を捕まえに行こうにも、彼らは勝手に玉座に上がる事が出来ない。猫が上っていくのを傍から見ながら、あわあわしながら困惑して様子を見ている執事達とライリー。


「あらまあ、いけない猫ちゃんね~」ものっそくわざとらしくリリアムが声を出してお待ちなさ~い、と手をヒラヒラする。そして白猫を追いかけ、一人玉座に上がっていく。冒険者として鍛えたまあまあ速いスピードで。そして一気にメルギドの側に上がって来た。その様子に呆気にとられる皆さん。


「リリアム! 何やってるんだ! 無礼だぞ! お父様から離れろ!」ライリーが下から叫ぶ。だがそれでも、勝手に玉座に上がれない。イライラするライリーと、ますますオロオロする執事達。


「な、なんだリリアム? 猫はどうした?」そしていきなり娘が自分の傍にやってきて驚くメルギド。リリアムがこんな突飛な事をしたのは今まで一度もないはずだ。因みに白猫は玉座の後ろに隠れています。


「本当は、お父様に用があったのですよ」そしてニッコリ微笑みながら、おもむろにリリアムは「ホーリーリフト」をメルギドに唱えた。


「な、何を……うぐああああああ!!」途端に苦痛に顔を歪め、頭を抱え苦しみだしたメルギド。玉座から崩れ落ち蹲る。


「リリアム! お父様に何をしてるんだ!」王の苦しんでいる様子にますます焦りの表情となり大声で叫ぶライリー。執事達も王の苦痛の様子に狼狽え慌てふためいているが、その声を無視し、真剣なまなざしでメルギドにホーリーリフトをかけ続ける。


「ええい! 緊急事態だ! 仕方ない!」そう言ってライリーが腰の鞘から剣を抜き、一人玉座に走って上っていった。


「待て、ライリー」ふう、ふう、と息を切らし、ドッと沢山の汗を掻きながら、苦しそうにしているメルギドが、四つん這いのまま手のひらをかざしてライリーを制した。「どういう事ですか?」玉座に上がる階段の途中でまさかメルギド止められるとは思わず、驚くライリー。


「リリアム。説明してくれるか?」大きくふうー、と息をつき、玉座にドスンと尻餅をつくように座り直し、リリアムに説明を求めるメルギド。その表情は、まるで憑き物が落ちたような、晴れやかな、穏やかな顔だ。


「お父様……。お父様!」その問いに答えず、リリアムはわっと泣きながらメルギドに抱きついた。


「これこれ。我は質問をしているのだぞ」仕方ないやつだ、と微笑みながら、リリアムの優しく頭を撫でるメルギド。それでもうっうっと嗚咽しながら泣き続けるリリアム。一方ライリーは、一体何が起こったのかさっぱり分からない、といった表情で、二人の様子を呆然と見ながら、その傍らに佇んでいた。


 ※※※


「うがああああああ!!」ライリーの絶叫。そしてメルギドと同じように頭を抱え、苦痛に顔を歪ませる。


「もう少しの我慢だ、ライリー」そう話しかけるのはメルギドだ。メルギドはリリアムにされたように、ライリーにホーリーリフトを唱えている。


「ああ、あ……。あれ?」そして汗だくになりながらも苦痛が取れ、辺りをキョロキョロするライリー。


「お兄様、お気分はどうかしら?」心配そうにリリアムが顔を覗かせ聞いてみる。


「ああ……。そうだな。凄く気分が良いよ。一体今までは何だったんだ? 凄くモヤがかかったような、薄暗いどこかにいたような、気分の悪い状態がずっと続いていたようだ」メルギド同様、晴れやかな表情を浮かべるライリー。


「ああ。お兄様も元に戻ったのね。良かった」またも涙を流しながら、今度はライリーに抱きつくリリアム。それを受け止め、頭を撫でるライリー。


「で、リリアム。説明してくれるか?」リリアムが落ち着いたところで、ライリーがリリアムに説明を求めた。


「お兄様は、お父様と同じように洗脳されていたのですわ」泣き腫らした目で、それでもニッコリ微笑むリリアム。


「洗脳? ……いや、分かるよ。そうだ。僕は確かに洗脳されていた」何か理解したように、思い出したように自問自答するライリー。


「おかげですっきりしたよ。凄く気分が良いよ。ありがとう。リリアム」今度はライリーがリリアムを抱きしめた。それを嬉しそうに受け入れるリリアム。


「ずっとお父様とお兄様の様子がおかしいと思っていたの。ガジット村へ送ってきた手紙も、どうも納得いかなかったの。でも、洗脳されていると分かって、謎が解けたわ」ライリーの抱擁の後、二人に話しかけるリリアム。


「しかし、どうして我とライリーが洗脳されていると気付いたのだ?」不思議そうに質問するメルギド。そもそも洗脳自体、どうやって行われるか知らないメルギドとライリー。


「この猫ですわ」そう言って、今はリリアムの傍らにいる白猫を手で抱っこし二人の前に差し出すリリアム。「なーご」と鳴いてみる白猫。


「そう言えば、我がすすろうとしていたスープのスプーンをその猫が蹴ったのだったな。しかし、何故その猫がそんな事分かったのだ?」


「この猫ついての説明は後で致しますわ。但し、使役されている魔物だという事は、否定しておきます」白猫の說明は色々ややこしい。魔物だという誤解だけは解いておいて、先に重要な事を伝えようと思ったリリアム。


「洗脳は、魔薬を少しずつ、血と混ぜたものを体に入れていくのです。猫が蹴ったスープにも、それが溶け込んでいたのです」


「魔薬で洗脳、か」猫の事は気になったが、リリアムの言う通り、洗脳の件を調べるほうが先だ。ずっと何かに侵されている感じはしていたメルギド。そして実際リリアムにホーリーリフトをかけられ、洗脳が解けた今は、気分がとてもスッキリしている。まるで憑き物が落ちたように。だから、洗脳されていたというのは嘘ではないのは良く分かっているメルギド。


 しかし、それが魔薬なるものを使うと言うのは、初めて知ったメルギド。ガジット村から、リリアムが簡潔に報告していた内容には、洗脳の事については無かったので仕方がないのだが。そして、まさかリリアムも、父親と兄が洗脳されているとは思っていなかった上、洗脳された人間に会うのが、これが初めてだったのだから、洗脳の件について伝えていなかったのは仕方がなかったのである。


 因みに洗脳を解く方法については、事前にケーラから聞いてたリリアム。隷属の腕輪同様、血を使う洗脳は、同じくホーリーリフトで治癒出来るのである。


 そしてこの騒ぎに便乗し、スッと姿を消す者がいたが、その影に誰も気づかなかった。


 ※※※


「……」「……」


 気不味い様子である。まるで借りてきた猫のように大人しい健人の様子。なんとなく正座しています。本物の猫である白猫は、リリアムといるので、ここにはいないのだが、もしいれば、そんな健人を呆れてみていただろう。


「王女殿下が、お前の恋人、とな?」柄のない眼鏡のレンズをキランと光らせ、上目遣いでジロリと見るビーナル。


「……はい」正座して怒られているような感じで、ちょっとしょんぼりしているように見えなくもない健人。


 そう。バレちゃったのである。そりゃあんな風に、二人の世界を作っていればバレて当然なのだが。健人としては、まずは父親であるメルギドに先に伝えたかったのだが、洗脳されているリリアムを正気に戻すためには、ああするしか方法が思いつかなかったのだから仕方ない。


 そして実際上手くいった。偏にリリアムの健人病のおかげだろう。健人への強い想いがあってこそ、洗脳状態のリリアムの正気を、奥底から呼び覚ます事が出来た。それを確認して、健人はリリアム自身に、ホーリーリフトを唱えるよう、指示したのだ。勿論健人も、事前にケーラから洗脳の解除方法を聞いていたので、指示する事が出来たのだが。


「全く。次から次へと、色々問題を持ち込んできてくれる」はあ~、深く大きなため息をつきながら、呆れるように首を左右に振るビーナル。


「あ。分かったぞ。お前、陛下に会いたかったのは、王女殿下との関係を報告するためだったのだな?」隷属の腕輪と魔薬の件を、直接伝えたいという、仕事熱心な冒険者ではなかった事に気付いてしまったビーナル。


「……はい」正座しながら、ますますシュンとして返事をする健人に、またもはあ~、と大きく深いため息をつくビーナル。


「しかも、その魔族の女も、お前の恋人なのだな?」健人の隣で、タケトちょっとカッコ悪いとか思いつつ、腕を組んで黙って二人のやり取りを見ているケーラを、柄のない眼鏡越しでチラっと見るビーナル。


「……はい」分かっていたが肯定する健人の返事。そしてまるでため息をつく魔法にでもかかったかのように、またも大きく深いため息をつくビーナル。


 そんなやり取りに、今度はやれやれ、と手を上に上げ首を振るケーラ。そしてその側には、未だシャドウバインドで拘束されたままのメイが、同じく呆れた様子で見ている。


「あの青年、凄いわねえ。リリアム王女はどんな男にも全く振り向かなかったのよ」ビーナルと健人とのやり取りを傍から聞いていて、ある意味感心するメイ。ジゴロなの? とか思いながら。


「そうだよ。タケトは凄いんだよ」ニヒヒと嬉しそうに笑うケーラ。自分の大好きな人を褒められ嬉しそう。


「あ、いや。そういう意味じゃないんだけど……。まあいいか」スケコマシ度が凄いという、嫌味を言ったつもりなんだけど。この結構可愛い魔族の女の子は単にタケトという青年が褒められたと思った様子。この子も相当ホの字なのね。リリアム王女に負けずとも劣らない程、物凄く可愛い子なのに。呆れてしまうメイ。


『タケト、ケーラ。お父様とお兄様の洗脳、解いたわ。今からそっちに向かうわ』そこで二人に、白猫を介してリリアムから念話が入った。健人達が謁見の間に行けば話は早いのだが、メイには先に色々聞きたかったリリアムの希望で、一旦王と王子の洗脳を解いた後、リリアムが再びここに戻ってくる手筈にしていたのである。


『分かった』リリアムからの念話に返事した健人は、正座を解いて立ち上がり、真面目な顔でメイに歩み寄った。


「リリアム王女がここに戻って来てから、説明して貰います」


 健人のその言葉に、はあ、と、メイは深く大きなため息をついた。「話さなきゃいけない、か」と小さく呟きながら。




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