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隠し通路

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 ※※※


「こっちだ」暫く逃げていると、とあるところを健人の背中越しから指さしたビーナル。その先に向かうと、天井から下がっている大きな、舞台で使う緞帳位はある、大きな赤い厚手のカーテンが天井から下がっていた。


「この裏に入れ」言われた通りにする健人とケーラ。そしてビーナルに自分を降ろすよう言われその通りにする健人。かなり大きなカーテンなので、三人と一匹が隠れる事が出来た。これで一旦追手を巻く事が出来たようだ。


「ここに隠し通路に繋がる扉がある」そう言ってビーナルは、影に隠れて置いてあった両開きのタンスの木の扉を開いた。すると、奥には、更に鉄の扉があった。それを確認したビーナルが、ポケットから透明のクリスタルを取り出した。どうやら魔力を入れているクリスタルのようだ。これから魔法を使うのだろう、ビーナルは、手のひらをその鉄の扉に置いた。


「こうやって魔力を通せば……。よし、開いたぞ」カチリと音がして、ビーナルが当てていた手のひらをそのまま押し込んで、ギイィと思ったより重量のありそうな鉄の扉を開いた。


「この隠し通路は、一部の者と王族しか知らん。ここに入れば暫く見つからんだろう。ほとぼりが冷めるまでここで隠れておればよい」そう言って立ち去ろうとした。が、健人が逃がすまいとビーナルの腕を掴んだ。


「な、なんだ? まだ何か用があるのか?」腕を掴まれ驚くビーナル。出来ればトラブルに巻き込まれたくない。説明したいとは言われたが、それよりさっさと戻って王に言い訳をしたい。一応彼らへの義理はこれで果たした、と思っていたのだが、健人はそうではない。


「リリアム王女を助け出したいんです。なので手伝って欲しいんです」必死な表情で懇願する健人。


「王女殿下を助け出すだと?」閉じ込められたから、という事だろうが、それは一時的なもので、もし猫が見つからずとも、時が経てば出られるだろうと高を括っているビーナル。なので大した問題ではないと思っているのだが、どうもタケトという青年は違うらしい。何か理由があるのだろうか?


「王様は洗脳されているんです。だから、リリアム王女にも危険が迫っているかも知れないんです」ケーラが衝撃の一言をビーナルに言い放つ。


「ば、ばかな! 何を言っておる!」つい声を荒げるビーナル。急いでシー、と指を口に当てる健人とケーラ。それを見て慌てて自ら手で口を塞いだビーナル。


「詳しい事は隠し通路の中で説明します」ビーナルの腕を握ったまま、真剣な顔で健人が話した。


「……嘘を言っている訳ではなさそうだな」隷属の腕輪の件や魔薬の件といった、とんでもない案件を扱ってきた彼らにしか、知らない事があるのだろう。陛下が洗脳されているなどと、到底信じられないが、とりあえず事情は聞こうと思ったビーナル。


 はあ、とため息をつき、健人に腕を外すよう指示してから、自ら鉄の扉の中に入ったビーナル。「全く。今日は厄日なのか? こんな騒動に巻き込まれるなんてな」そう愚痴りながら。


 すみません、と謝りながら、健人も続き、最後にケーラも中に入った。そして内側から、ケーラが木の扉と鉄の扉を静かに閉める。白猫は相変わらず健人の肩に乗っている。


「丁度良い。この通路は、隔離の部屋にも通じている。そこに向かいながら話を聞こう」ビーナルの言葉に、分かりました、と返事した健人。そして先を急いだ。


 ※※※


「う、うん?」


 何故か体がだるい。たしか昼時だったはずだが、どうも眠い? 体をうまく起こせない。疲れているとも違う、変な感覚に戸惑うリリアム。


「どうやら目が覚めたようですね」ニッコリ微笑むメイが、うっすら開けた目の中に入ってきた。


「……どうして、メイがここにいるのかしら?」やや頭痛がするようで、こめかみを手のひらで押さえながら質問するリリアム。


「リリアム王女の侍女ですから」当たり前ですよ、と言わんばかりに微笑むメイ。


「まあ、そうだけれど」あれ? さっきまで言い争いしていたような? 


「! そうだわ。魔薬!」ガバっと寝ていたベッドから起き上がるリリアム。思い出した。メイは魔薬を持っていた。そして自分を攻撃しようと武器を構えていたはず。


「メイ。魔薬はどうしたのかしら?」慌ててベッドから飛び降り、メイに向き合って構えるリリアム。


「一体何の話です? それより、ドノヴァン殿との婚約の話を、改めて陛下としなければならないのではないですか?」


「……そうね。そうだわ。私はそのためにメディーに戻ってきたのよね」またもズキンと頭痛がした。こめかみを抑えながら、やや顔を歪めながら答えるリリアム。


「ええ。そのはずです。絶対命令書に書かれた事は、その名の通り絶対なのですから」何かを探るように、確かめるように話し続けるメイ。


「そうね。お父様のところに行かなければいけないわ」ズキズキと頭痛が続くも、メイの言う通り、移動しないといけないと、何故か思ったリリアム。


「なら、その破れたドレスを着替えないといけませんわね」どうやらうまくいった、と、リリアムに聞こえない程度の小さな声で呟き、そそくさと新しいドレスを用意するメイ。


 ※※※


「にわかには信じられん」


 呆れたように話すビーナル。三人と一匹は、隠し通路を急ぎ足で歩いていた。隠し通路は高さ2mはあり、石造りでややアーチ状で出来た、結構しっかりした造りになっている。ただ、真っ暗なので、ケーラが持っている火属性クリスタルを使い、灯りをともしている。時折踏んだところがピチャピチャと水の音がするが、下水道ほど汚い通路ではないようだ。


 ビーナルはこの王城で主に文官職として働いて四十年近くになる。真面目な働きぶりが認められ、王と接見できるまでの役職、大臣にまで成り上がった。なので、王からは多大な信頼を得ているビーナルは、この城の事は王族に次いで詳しい。この隠し通路は、王族に万が一の事があった場合の逃げ道として造られたもので、その存在を知っているのは、ビーナルが大臣だからである。


「その猫が元々獣人だと? しかも危機察知が出来るだと? だから魔薬が混入されているのが分かっただと?」バカにしているのか? とでも言いたげなビーナル。なので若干怒っているようで、こめかみに青筋が浮かんでいる。


「そう、思いますよね」説明しておきながらビーナルに同意する健人。自分で話しながらも、なんて突飛な事を話しているのか、と自ら呆れてしまうくらいの内容なのだから。でも事実なのだから仕方がない。


『真白。何か証明する方法あるか?』『そうだにゃー』


 健人からの念話を聞いて、突如ぴょんとビーナルの前に降り立った白猫。そして「にゃにゃにゃにゃにゃーん」とか鳴きながら、後ろ足だけで立って前足をフラダンスのようにフリフリし、そして腰もクイックイッと、ちょっとセクシーな感じで動かして踊ってみせる白猫。なんでフラダンスを知っているのか分からないが。


「……なんだこの猫は?」あんぐり顎が落ちそうなほど口を開けて呆気にとられるビーナル。更にその場で宙返りをしたり、ビーナルの頭に乗って「にゃーにゃにゃーん」とか鳴いてみたり。


 最後にビーナルの頭から後ろ向きに降り立って、またも後ろ足だけで立って振り返ってビシィ! サムズアップ的な前足を決める白猫。そしてずっと口を閉じる事なく、白猫の常識外の一連の動きを、固まって見ているビーナル。


「……これくらいしか証明できる方法がないんです。普通の猫じゃないって事は分かって貰えたと思います」何故か申し訳なさそうに説明する健人。本当に伝えたいのはこういう事じゃないんだが。


「……」そしてビーナルは何も言えなかった。非常識な事を見せられ、頭が追い付いていない様子。


「実はこの猫は獣人だった時に、魔薬を魔族にぶつけられてこうなったんです。本来魔薬をぶつけられた人間は、魔物になるか死ぬだけなんですが、ぎりぎりのところで、助けて貰ったんです」その話をしながら、ヴァロック師匠の事を久々に思い出す健人。地球では元気にしているのだろうか? 


「もう何が何やら訳が分からん。私の長い人生で、こんな猫は今まで見た事がない」頭をガシガシ掻きながら、何とか気持ちを落ち着けようとしている様子のビーナル。


「まあ、分かった。だが、信じろと言われてもすぐにとはいかん。事実とすれば、とても大変な事だからな。陛下の食事に魔薬が仕込まれていたというのであれば、誰が何のためにやったのか、それも調べないといかん。この城の中に、そんな不届き者がいるという事になるからな」


「今はそれでいいです。だから、リリアム王女を救出に行きたいんです」全て完全に理解して貰うのは不可能だ。今は早くリリアムのところに向かいたい健人は、ある程度把握してくれればいいと思っている。


「仕方ない。ここまで巻き込まれてしまったのなら、最後まで付き合ってやるか。しかし、この歳になってこんな冒険じみた事をする羽目になるとはな」呆れた様子でフハハと笑ったビーナル。どうやら開き直ったようである。


「よし。こっちだ」覚悟を決めた様子のビーナルが指を指す。その先を見ると、道が二手に分かれていたが、片方は上に登る階段だった。そしてビーナルを先頭に、ケーラ、肩に白猫を乗せた健人が続いた。




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