ドタバタコメディ的な
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お待ち頂いて感謝です。一週間ぶりの更新です。
※ネコと転移の修正に時間がかかってしまい、新たなプロットが作れていない><
「フフフフ。これが笑わずにいられるか」ずっとニタニタしたまま、一人部屋にいるドノヴァン。手にはワインを持ち、眼下に広がるメディーの広大な町並みを、美しい夕焼けと共に眺めている。
「ようやくリリアム王女がメディーに戻ってきたらしいじゃないか。メディー随一と言われたあの美女を、ようやく私の手中に収める事が出来る」部下からの報告を聞いた時は、本当に飛び上がって喜びそうになったドノヴァン。だが部下の手前、何とか堪え恰好を付ける事が出来た。それくらい待ち遠しかった知らせだ。
女には事欠かない。総本殿にも他の神殿と同じように、直営の孤児院が存在する。メディーは人が多い分孤児も多い。しかも五年前の魔族との戦いで、親を失いみなしごになった子ども達が一気に増えた。そのおかげで、自分の性欲を満たすのには困らない程の、見た目麗しい孤児院出身の女が沢山いる。更に魔族の幹部とも直接やり取りしているので、隷属の腕輪も事欠かない。
それでも、リリアム王女は別格だ。特別なのだ。まだリリアム王女が若かった頃、総本殿の大神官も呼ばれたパーティで見たその佇まいに、一目惚れしてしまったドノヴァン。因みに同じく一目惚れしたムルージュも、このパーティに参加していたのだが。ドノヴァンはムルージュと違い沈着冷静だった。手に入れるために用意周到にこれまでずっと準備を重ねていたのだ。
それがようやく実を結ぶ。もう少しだ。これが喜ばずにいられるか。ニヤニヤが抑えられないドノヴァン。
「ああ。早くあの美女を抱きたい。私の気の済むまで弄び舐め回したい。あれだけの美女なのだから、身体の細部まで美しいのだろうなあ」下半身を滾らせ、下卑た嗤いをするドノヴァン。
「おっと、駄目だ駄目だ。まだ我慢だぞドノヴァン。私の目的はそれだけじゃないのだから」だが、言い聞かせるように首をブルブルと横に振り、自ら自分の名前を言って諌めた。
ここはドノヴァンが所属する総本殿の一室である。ドノヴァンはメディー総本殿の、大神官と言う役職に就いている。
メディーには大きな神殿が五つ存在する。四つの大神殿と、そしてここ総本殿だ。総本殿は、アクーなどの神殿を含めた、神官達の総本山とも言える、神官達の中枢である。四つの大神殿は、メディーの王城を中心に東西南北に位置して建てられており、そして総本殿は王城の隣に建設されている。この建物も王城と同じく、数百年は経過していると言われ、歴史が古い。
そして東西南北にある四つの大神殿と総本殿には、(神殿妃)と言われる、王の側室がそれぞれの大神殿の最上位として役職に就いている。時には神殿妃の息子や娘が、その役職に就く事もあるが、その場合は(神殿子)と呼ばれる。現在は全て、神殿妃、要する全てメルギド王の側室が各大神殿のトップに就いている。なのでメルギド王の側室は五人いたと言う事である。
そしてメディーには、総本殿を含めた五つの大神殿の他にも、小さな神殿があちこちに十棟程点在している。人口の多いメディーでは、治癒を必要とする人が多いため、大神殿だけで賄うのは不可能だ。そのため、より多くの人々に、治癒を施せるように、小さな神殿がいくつも建てられている。
現代で言えば、規模だけの話だが、総本殿が総合病院、四つの神殿が個人病院、小さな神殿が診療所といったところだろうか。
因みに総本殿は、神殿妃を筆頭に、そのすぐ下が総大神官と呼ばれる役職が二人、そしてその下に大神官という順番になっている。大神官は現在十人いて、そのうちの一人がドノヴァンである。
「リリアム王女を妻にすれば、今以上の役職に就く交渉が出来るはずだ。他の大神官を出し抜いて、総大神官になるのも夢ではない。やりようによっては、神殿子も狙えるだろう」眼下に広がるメディーの街並みを見下ろしながら、ほくそ笑むドノヴァン。
「そもそも、側室だから神殿妃などと、おかしいのだよ。王のご厚意によって位を与えられただけのくせに」だが、すぐに吐き捨てるように呟くドノヴァン。そしてグイとグラスのワインを呷った。
実際は、都民に対して貢献したり、認められたりした大神官が、過去に何人が神殿妃または神殿子に即位した事もあるのだが、単に現在は、そう言った目につく実績を上げた大神官がいないだけなのである。
「そう言えば、最近ギルバートからの連絡がないな。そろそろ報告が欲しいのだがな」ふと息子のギルバートの事を思い出すドノヴァン。息子からは二ヶ月ほど前に報告があったきりだ。その時はうまくやっているという便りだったが。
ギルバートが勤めていた神殿の側にあった、孤児院の件はさすがに手を焼いたなあ、と、その方向を窓から眺め思い出すドノヴァン。自分が懇意にしている魔族の幹部にお願いして、あそこにあった人間らしきモノを引き取って貰ったり、証拠隠滅のために孤児院を火事を引き起こして貰ったのだ。
「しかし、そろそろ開始、か」部屋の隅にある大きな袋を見て呟くドノヴァン。事が始まった時、魔族の幹部からは、一応身の安全を保証して貰っている。だが、ドノヴァンは魔族の幹部、ギズロットのその言葉を信用していない。魔族とは利害関係しかないからだ。裏切られる可能性は十分にある。なので、今は早くギルバートからの報告を待ち望んでいるのだった。
※※※
「連れて参りました」恭しく頭を下げるビーナル。健人とケーラも、教わった通り、片膝をついて頭を下げている。王に謁見など、前の世界では当然経験がない健人は、こんな儀礼自体知らなかった。なので、健人の事情を知っているケーラに、事前にあれこれ作法を聞いていた。ライリーとソフィアもここ謁見の間にいるが、彼らは健人達が片膝をついているところから、やや離れた場所で立っている。
「我は魔族のみと言ったはずだぞ」上方にある玉座からギロリと睨み見下ろすメルギド。そもそも魔族の女でさえ会うつもりはなかったのに、関係ないはずの人族の男までここに一緒にいる事に、怒りを隠せない様子だ。
「陛下がお気にされているのは、いなくなった猫の事だと伺いました。この人族の者は、その猫の飼い主だと申しております」メルギドの怒りの様子に、やや怯えた表情のビーナルだが、とりあえず理由を説明する。
「飼い主だと? それは誠か?」玉座から立ち上がり声を張るメルギド。
「そうで御座います。よって、この者達がここにいる事、更に発言をお許し頂きたく」再度恭しく頭を下げるビーナル。
「そういう事なら良い。説明してみよ」飼い主という事であれば話は別だ。白猫を見つけ殺処分するつもりのメルギドは、飼い主であるこの人族の男も、場合によっては処刑しようと考えていた。その前に、とりあえずどういう言い訳をするのかは、聞いてやろうと思っているので、すぐに処刑しようとはしないのだが。
「あの猫は真白と言う名前で、俺がずっと飼っていた猫ですが、誰かに失礼を働いたりするような猫じゃありません。とても賢い猫なのです」緊張した様子説明する健人。正確には白猫は飼っているのではなく、パートナーなのだが、そんなややこしい説明は今は必要ない。
「あの猫は、後ろ足だけで立ったのだ。普通猫はそんな芸当出来る訳がない。そこの魔族が使役している魔物ではないのか?」健人の話より先に、魔物である事を確認したいメルギド。
「違います。そもそも、その猫は何をしたのでしょうか?」ケーラがメルギドの言葉を否定した後、気になっていた事を質問をする。
「我の食事を妨害しただけでなく、机にあった食事を蹴り、我の顔を汚したのだ」そこでようやく何をしたか話したメルギド。
「真白がそんな事を?」「どうして?」メルギドの説明に二人が驚いた顔をしていると、「にゃっにゃ、にゃにゃにゃー!」と、どこからともなく白猫が謁見の間に乱入してきた。
「あ! いたぞ! あの猫だ!」ライリーが叫んだところで、周りにいた執事達が一斉に白猫を捕まえようと飛びかかった。
『ご主人様。リリアムの居場所が分からないにゃ』そんなドタバタな状況にも関わらず、冷静に念話を飛ばす白猫。飛び掛かってくる執事達をヒョイヒョイ躱しながら健人の方に向かってくる。
『真白、一体何があったんだ?』『そうだよ。それ教えて欲しいよ』急な事態に困惑している健人とケーラ。
『王様のスープに、毒、と言うより、魔薬が混ざっていたにゃ。だから私が華麗にキックして飲むのを防いだにゃ』何とか捕まえようと飛びかかる数人の執事のうちの一人の頭に、ぴょんと小馬鹿にするように飛び乗り、その頭上で後ろ足だけで立って前足をサムズアップ! ビシィと健人に決める白猫。やってやったにゃん! とでも言わんばかりに。
『じゃあ、そのスープが王様にかかっちゃったのか』『そうだにゃー。せっかく助けてやったのに、心の狭い王様だにゃ』健人の問いに、今度は呆れたように後ろ足で立ったまま、両前足を開いて、やれやれ、と呆れたようなゼスチャーをする白猫。またも執事の頭の上で。
「ホーリーバインド!」突如ライリーが、蜘蛛の巣のような白い糸で出来たネットを、執事の頭の上にいる白猫に向けて放った。執事もろとも捕まえようとしたのだ。
「不味い! 捕まる!」それを見た健人が、急いで白猫を助けに入ろうとした瞬間、
「ニャニャニャー!!」と白猫が大きな鳴き声を発した。すると、ホーリーバインドがフッと霧散して消えた。
「え?」「へ?」「何?」何が起こったか分からないと言った表情で固まる健人とケーラ。そしてライリー。ホーリーバインドでようやく捕まると思っていた執事達も、同じく何が起こったか分からないと言った感じでポカーンと呆気にとられている。
『よし、逃げるにゃ』『いや、(よし)じゃないだろ!』『そうだよ! 何も解決してないよ!』白猫の念話に突っ込む二人。
『今は王様にいくら説明しても無駄にゃ。洗脳されてるからにゃ』
『『洗脳?』 』ハモる二人。
「あ、そうか。スープに魔薬入ってたって言ってたな」「それ、洒落にならない、とんでもない事だよ?」王様を誰かが洗脳しているという驚愕の事実に愕然とする二人。
そして白猫が何故魔薬に気付いたのか、それを王に説明しようにもどう説明すれば分かって貰えるのか。更に洗脳されているのであれば、まともな感覚ではないだろうから、冷静に正確に判断して貰うのも難しいだろう。
真白の言う通り、今は一旦逃げる方がいいのかも知れない。そう思い直す健人。
「しかし、さっきのは一体何だったんだ?」白猫がライリーのホーリーバインドを掻き消した。あんな事出来るなんて知らなかったし、魔法を掻き消すという現象を初めて見た二人。
『それは後回しにゃ』今の状況を何とかするのが先だと言わんばかりに返事する白猫。だが、どこに逃げればいいというのか。そして、ここまま逃げてしまったら、間違いなく犯罪者扱いになり、これからずっと逃亡生活になるかも知れない。
「仕方ない!」健人がどうしようか迷っていると、ケーラが叫んで、騒ぎに巻き込まれないよう、端の方に逃げ隠れていたビーナルの腕を掴んだ。
「お、おい! 何をするのだ!」当然驚き叫ぶビーナル。
「一緒に来て下さい!」そう言ってビーナルをお姫様抱っこしたケーラ。そして一目散に謁見の間から走って出て行く。何のつもりか分からないが、とにかく後を追う健人と白猫。そしてすぐに、白猫は健人の肩に乗っかった。
『久々ご主人様の肩だにゃ~』なんかフニャンとなる白猫。こんな緊張感タップリの状況でも余裕かましてます。
「ケーラ! 俺が預かる!」並走し声を掛ける健人。それを聞いて頷くケーラ。そしてお姫様抱っこのビーナルを、走りながらその格好のまま、ポイと健人に放った。
「うおお!」当然驚き叫ぶビーナル。だが、健人はうまくキャッチし、ビーナルをお姫様抱っこしたまま走る。
「ビーナルさん。巻き込んですみません。とりあえず説明したいので、どこか隠れるところを教えて下さい」ケーラの意図は、ビーナルに事情を説明し打開策を探ろうと言う事だろうと予想した健人。ケーラはビーナルについて、王城にきて色々会話しているうち、理解ある人だと判断していたのだろう。それは健人も同じだ。
「そ、そうは言ってもだな」青年の腕にお姫様抱っこで抱かれ、ちょっと赤面? しながら戸惑う様子のビーナル。
「お願いします」真剣な顔で話す健人。老齢のおじさんをお姫様抱っこしながら。
「ええい! もうどうなっても知らんぞ! あの奥の廊下へ向かえ! それから、せめて私は背負え!」謁見の間から逃げるという、とんでもない事を仕出かしているが、その真剣な顔に、何か事情があるのだろうという事は分かったビーナル。とりあえず言う通りにすると決めた。今更引き返せないという気持ちがあったのも理由の一つではあるが。そしてやっぱりお姫様抱っこは恥ずかしかったビーナル。止まるわけにもいかないので、走りながらビーナルを上空にポイと放り投げる健人。
「ふおあああ!」当然驚き叫ぶビーナル。そして落下してきたビーナルを、健人がうまく背中でキャッチした。柄のない眼鏡なのに、こんな激しい動きをしていても何故か一向に落ちないんだな、と不思議に思いながら、健人はビーナルを背負いつつ、言われた場所に走っていった。
「……あ。 おい! おい! お前達! 何をしている! 早く後を追え!」謁見の間で、今まで起こった事がない一連の珍事に、頭がついていかなかった皆さんは、同じく固まっていたメルギドの一声でようやく意識を現実に戻す事が出来、慌てて一斉に健人達の後を追った。
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