リリアム捕まる
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「ホーリーニードル!」リリアムが白猫抱え走りながら光魔法を唱えた。リリアムの頭上からいくつもの小さな光の針が現れ、一気に目標に向かって飛んでいく。「クッ!」振り返りながらダガーでそれをいなすメイド。だが、沢山飛んでくるそれをいなすのは不可能だった。彼女のスカートの端や袖に刺さり、壁に縫い付けられ、メイドの身動きが止められた。
「はあ、はあ。さすが速いわね」息を切らしようやく取られたメイドに声を掛けるリリアム。
「はあ、はあ。まさか私が王女殿下に捕まるとは。お強くなられたのですね」壁に縫い付けられるようにホーリーニードルで捕まりつつ、身動きできないのに、息を切らせながらでも余裕の表情でニッコリ笑うメイド。
「で? どうして逃げたのかしら?」ふう、と息を整えて質問するリリアム。
「リリアム王女殿下こそ、どうして私を追いかけてきたのです?」白を切るように返事するメイド。
「あなたのポケットの中身について、説明してほしいからよ」
「何の事でしょう?」しらばっくれるメイドに、白猫がおもむろにリリアムの手から抜け出し、メイドのポケットから、紫色の塊を器用に前足で掻き出した。コロンとメイドの足元に転がる紫色の塊。だが、ところどころ歪に欠けている。
「それについて、説明して下さる?」腕を組んで仁王立ちになり、睨むリリアム。
「ああ。これは私が開発中のクッキーですのよ」平気な顔で嘘をつくメイド。
「そう。じゃあ食べてみて貰えるかしら?」そうきたか、とちょっと可笑しくなるリリアム。自分がそれの正体を知らないと思っているから言える嘘なのだろうが。
「まだ開発中なので、それは無理ですの」これを口に入れたら大変な事になる。何とか誤魔化すメイド。
「違うわ。それ、魔薬だから、口に入れられないのでしょう?」とうとう正体を話したリリアム。
「!! 知っていらしたの?」まさか王女殿下が魔薬の事を知っているとは。ずっと平静を装っていたメイドだが、リリアムの言葉で明らかに驚いた顔をした。
二人で話している途中、急にリリアムは後ろから羽交い締めにされた。「キャ! 何なの?」不意を突かれ驚くリリアム。メイドに尋問していた事に集中していたのと、まさか自分が羽交い締めにされるとは思っていなかったので、隙だらけだったリリアム。
「お兄様! 何をなさるの!」羽交い締めにしたのはライリーだった。ようやく追いつき、息を切らしながら、腕に力を込める。
「はあ、はあ。リリアムを捕まえれば、すばしっこい猫を、捕まえるのが、簡単だと、思ったんだよ。よし、連れて行け」息を切らしながら話すライリー。飼い主であるリリアムを捕まえたら、彼女を捜すためにウロウロしだすだろう。そこを捕えればいいと思ったライリー。リリアムは白猫の飼い主ではないのだが、事実を知らないライリーにはそう見えていた。そして後で追いついてきた数人の執事達に、リリアムを連行するよう指示した。
「し、しかし」だが、当然執事達は戸惑う。王女殿下を犯人のように扱うのは気が引けるから仕方ない。
「僕の命令が聞けないのか?」息を整えながら執事達をギロリと睨むライリー。
「それとリリアム、逆らうと、あそこにいる君の冒険者達がどうなっても知らないよ」顎をしゃくりながら、親指で訓練場の真ん中を指さすライリー。
ライリーにそう言われて、そこで初めていつの間にか訓練場に来ていた事に気付いたリリアム。ライリーの指さしたそこには、兵士達とビーナルにファンダル、更に健人とケーラの姿が遠目に見えた。ここは訓練場を取り囲むように造られている観客席だ。下の健人達がいる場所から、10mほどの高さの場所である。たまにここで、王城内で兵士同士の剣闘大会を催したりするので、こうやって観客席が造られているのだ。
そして健人が心配そうにこちらを見上げているのに気づいたリリアム。その表情を察したのか、物陰に隠れていた白猫が、ぴょんとリリアムの頭に乗った。念話するためだ。
『リリアム! 大丈夫か?』遠く離れていてはっきりとは見えないが、白猫の動きは何となく見えた健人が、リリアムに念話を飛ばす。
『心配しないで』と念話を返し、それから続けて何か言おうとしたが、周りにいた執事達が一斉にリリアムの頭上に現れた白猫を捕まえようとしたため、仕方なくリリアムの頭から飛んで離れた白猫。なので念話がプツンと途切れてしまい続きが伝えられなかった。
スタっと着地してキョロキョロと隠れる場所を探す白猫だが、どうも良さ気な場所が見当たらない。しかもリリアムは執事達に囲まれてしまっている。捕まってはいけないと思った白猫は、仕方なさそうにリリアムから遠ざかり、タタタとどこかに逃げていった。それを見た執事達は、白猫を探す者とリリアムを連行する者に分かれた。それから連行する担当の執事達は、リリアムを丁重に、でも逆らえないよう、両腕を後ろ手に抑えた。
「タケト……」彼に何かあってはいけない。ケーラもそうだがリリアムが一番気になるのは当然健人だ。リリアムの実力なら、執事達を振り切る事も容易だが、今力ずくで逃げたとしたら、健人の身に何があるか分からない。王も兄も何かおかしいのだから。
仕方なく、大人しく連行される事にしたリリアム。白猫と離れてしまった事を相当不安に感じながら。健人達と連絡が取れない事が辛い。深いため息と共に項垂れるリリアム。そして執事達は、リリアムを連行していった。
それを見届けたライリーは、メイドの服に未だ刺さったままになっている光属性の針を抜いて、メイドを解放した。
「一体何があったのだ?」連れて行かれるリリアムを、遠目で見ながらを怪訝な表情をするビーナル。
「王女殿下を捕らえているように見えたが?」まさかな、とファンダルも顎に手をあて、首を傾げる。
『真白! 何があった?』一方リリアムが気になって仕方のない健人。白猫に念話を飛ばす。
『王様のところにいたメイドが魔薬を持っていたにゃ。でも、問題はそれだけじゃないんだにゃ。で、色々あってリリアムが捕まったにゃ。』
『魔薬が? そしてリリアムが捕まったって?』その言葉に驚く健人。
『とりあえずリリアムを探しに行くにゃ』そう白猫は念話を飛ばし、そこからは無言になった。
そして訓練場の真ん中では、一人黙って深刻な表情をしている健人を、ケーラを始め不思議そうに見ている面々。
『タケト。マシロさん何て言ってた?』『リリアムが捕まったらしい。で、王様の近くにいたメイドが、魔薬を持っていたんだって』ケーラは健人が白猫と念話しているだろうと気づいていたようだ。
『ええ!』ケーラも健人の念話に驚いた表情を見せる。
「お前達。一体どうしたのだ?」二人して黙っているのに、急に驚いた表情になったり、深刻な顔になっているのを、怪しそうに見ているビーナル。
「あ、えーと」どう説明していいのか言葉に迷う健人。
「リリアム王女が捕まったように見えたんで」ケーラが機転を利かせ、ビーナルに伝えた。
「なるほどな。確かにそのように見えたな」一体何があったのか。うーむ、と柄のない眼鏡をクイと上げて考え込むビーナル。
「とりあえず我々は戻りますぞ。任務がありますので」リリアムの騒動に余り感心のない様子のファンダル。そうビーナルに伝え、ファンダルと兵士達は、彼を先頭に綺麗に隊列を組んで、訓練場から出ていった。
「奴は根っからの兵隊だ。なので自分の任務以外は無関心なのだよ」呆れ顔で、健人達の疑問を理解したように説明するビーナル。
「あの、リリアム王女は大丈夫なのでしょうか?」とにかくリリアムが心配の健人。どうやら白猫とも離れてしまったようだ。これでは連絡も出来ない。
「うーむ。そうだな。確認してやるとするか。私も気になるのでな。さっきの部屋で待つが良い」
ありがとうございます、とお礼を言う健人。
『タケト。あと一個魔薬あるんだけど、これあの人に渡したほうがいいかな?』
『いや。ケーラが持っててくれ。もし必要なら渡せばいいし』
分かった、とケーラが返事した。そしてとりあえず二人はビーナルの後を付いて訓練場を後にする。リリアムが心配な健人。だが、今は身動きできない。ビーナルの報告を待つしかない。
チラっとリリアムがいたところを振り返って見てみる健人。そこでは、リリアムを城門前で迎えた王子と、メイドが何か会話しているのが見えた。
※※※
「申し訳御座いません。こちらの部屋でお待ち下さい」恭しく頭を下げる執事達。
「まさかここに連れてこられるなんて、思いもしなかったわ」はあ、とため息をつくリリアム。この部屋は、数百年前から存在する、隔離の部屋と呼ばれる場所だ。どういう理屈か誰も知らないが、この部屋の中に入ると、何故か一切の魔法が使えなくなる。なので魔法を使って壁を破壊したり出来ない。幽閉するにはとっておきの部屋なのである。
中は城壁がむき出しになっていて、質素な造りではあるものの、綺麗に清掃され、魔法を使わない風呂とトイレも付いている。牢屋と言うより宿のような造りである。ただ、扉には見た事のない魔法陣が描かれ、内側からは開ける事が出来ない。ここ専用の鍵を使えば、開閉は可能なのだが。
ここメディー王城は、千年以上の歴史を持つと言われる、相当古い建物である。所々改修工事をされているが、殆ど原型を留めている。先人達の知恵で造られた、こういった不思議な部屋は、この城内のあちこちにある。
「しかし困ったわ。マシロさんどこに行ったのかしら」不安になってくるリリアム。白猫と離れた事で健人と連絡が取れなくなってしまった。そしてもし捕まってしまったら、白猫は殺される可能性が高い。うまく逃げ切ってくれればいいが。
「それにしても、本当おかしい事だらけだわ」ガジット村で絶対命令書を受け取った時は絶望した。その名の通り絶対的な命令書であり、人族は全て逆らってはいけない指示書なのだから。
だが、よくよく考えたら、本来個人宛に使われるはずはないのだ。受け取った時は狼狽えてしまい、冷静に考えられなかったが、父親と兄の様子がおかしい事で、寧ろ冷静になれたリリアム。
「マシロさんが、スープには毒が入っていたって言ってたわね。でも、多分毒じゃないと思うわ」自分の位置よりはるか上にある、鉄格子の窓から覗く月を見つめながら一人呟くリリアム。
「思うに、魔薬が入っていたと思う。だから、お父様とお兄様はきっと洗脳されている」
だから様子がおかしかった。そう考えれば合点がいくと思ったリリアム。だが、何のために? あのメイドがどうして?
あれこれ考えていると、コンコンと部屋をノックする音が聞こえた。
「入ります」リリアムの返事を待たずに、ノックした主が入ってきた。それは、さっきまで魔薬を隠し持ち、リリアムに追いかけられていた、メイドのメイだった。
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