現実を知る健人そして王が何かおかしい
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「黒髪の。どうもお前は世間知らずみたいだから教えてやろう。リリアム王女殿下は、そもそも一般庶民と会話出来るお立場ではない。アクーにはゲイル伯爵とアイラ元王女殿下がおられたから、あの都市ではリリアム王女殿下も気さくに会話なさるが、本来、声をおかけする事さえ、不敬罪になるくらいのお立場の方なのだぞ?」
メルギドに会えないと聞いて、落胆した様子の健人を、呆れたように見たまま説明する老齢の男性。
「そしてそのお父上である、メルギド王陛下に至っては尚更だ。陛下は、人族の最上位のお立場におられるお方だ。そのようなお方に、庶民のお前達がおいそれとお会い出来るわけなどないのだ。それが常識だ。例えお前達が、リリアム王女殿下と懇意となり、冒険者として共に過ごしたと言っても、お前達を特別扱いして良いとはならない」
はあ、とため息をつく老齢の男性。どうしてこんな当たり前の事を説明しているのだろうか、と言わんばかりに。
「但し、リリアム王女殿下をずっとお守り通し、無事アクーからメディーまで届けてくれた謝礼はしよう。だが、そこでお前達とリリアム王女殿下との関係は終わりだという事は、理解しておかねばならん」
この老齢の男性の説明で、健人はこの世界の王族と言うものを、ようやく正確に把握し理解出来た。リリアムは王女殿下であり、本来気軽に呼び捨てしていい相手ではない。更にその父親であるメルギド王陛下は、正に神と等しい人物だと思わなければならないほどの、別世界の人間だ。王族というのは、本来、一般庶民が会話さえ出来ない存在。それがようやく分かった健人。前の世界にいた頃には、王族と言われる立場の人々と関わる事は一切なかったので、ここまで身分差があるとは、さっぱり分からなかったのだから、仕方ないのだが。
だが、老齢の男性から、健人にとって聞き捨てならない言葉が出てきた。リリアムとの関係が終わり? そんな訳にはいかない。リリアムとの格差を知っても、そこは決して譲れない。王女殿下だとしても、自分の彼女である事を伝え、そして将来自分の妻にするという、決意と覚悟は揺るがない健人。
「ご説明ありがとうございます。でも、それでも、俺はメルギド王陛下にお会いして、話さなければいけないんです」老齢の男性に、真剣な目を伝える健人。自分の決意と覚悟を直接、父親であるメルギド王に伝えたい。
「私の説明が理解出来なかった、と言うわけではなさそうだな」何か訳があるのか。健人の必死な訴えに、顎をさすり何やら思案する老齢の男性。
陛下に会えるわけがない。そう話しても、それでも会って話がしたいというこの青年。そう言えば、以前メディーにいた、勇者と騒がれた女性がいたが、彼女もこの青年と同じく黒髪で黒い瞳だった。しかも彼女は、何度か王城に来るよう、ギルドを経由して依頼していたにも関わらず、ずっと断わっていた。メルギド王陛下が気になっていたのは、勇者が現れたと言う事は、またも五年前に起こったような、災厄が来ると言う事になるはず。それを確認したかったのだが。
「もしかして、お前は勇者なのか?」その黒髪で黒い瞳の女が、王城に来ることを断り続けていたのは、勇者じゃないからかも知れない、と思った老齢の男性は、今度は同じ特徴を持つ健人に、勇者かどうかを確認したくなった。
「違います」即答で答える健人。それを聞いて、偶然の一致だったか、と思い直す老齢の男性。
「とにかく、お前が陛下に会いたいという気持ちは置いておいてだ。まずは報告をしてくれないか? こう見えて私も忙しいのでな」そして改めて、その老齢の男性はビーナルと名乗った。とりあえず健人とケーラは、言われた通り、隷属の腕輪の件と魔薬の件を報告をする事にした。
※※※
「こうやって家族揃って食卓を囲むのは久々だな」ガッハッハと笑うメルギド。先程までの不機嫌さはとりあえず落ち着いている様子。それより久々の家族団らんが嬉しいようだ。
「そうね。リリアム、アイラはお元気でしたの?」その横で微笑みながら、リリアムに問いかける、水色の美しい長い髪を携えた、どこかアイラの雰囲気を携えた妙齢の女性。彼女はアイラ、リリアム、そしてライリーの母で、王妃のソフィアである。
「ええ。とてもお元気にされていたわ。お母様もお元気そうで何より」ニッコリ微笑んで、ソフィアの問いに答えるリリアム。
今リリアムは、謁見の間でメルギドと対面を終え、執事より昼食の準備が整ったと聞いたので、王族と複数のメイドや執事のみ入る事が許される、大きな食卓のある王族専用の食堂にいる。ここも他の部屋と同じく、赤い絨毯が敷き詰められ、そして部屋の真ん中には、黒壇のような、黒光りした高級そうな木を使った長方形の机と、それを取り囲むように並べられた椅子。そこにライリーを含めた、王族四人が座っている。その周りには、数名の執事とメイドが、準備や配膳のために待機している。
「ところでリリアム、その白くて可愛い猫ちゃんは何なのかしら?」リリアムの膝の上に乗っている白猫が気になったソフィア。
「リリアム。その猫外に出しておかないとダメだろう?」ライリーがソフィアの言葉で、白猫に気付きリリアムに注意したが、あら、いいじゃない、とソフィアが止めた。
「可愛らしい、真っ白な猫ちゃんね。その猫ちゃんの分のお食事も用意しないといけないわ」そしてパンパンと手を叩き、猫の分の食事を用意するよう、ソフィアがメイド達に指示した。
「お母様、ありがとうございます」微笑みながらお礼を言うリリアム。
「食事は大勢いたほうが楽しいものよ。例え猫ちゃんでもね」フフ、と笑顔を返すソフィア。
「お母様がそう言うなら」どうやらソフィアには逆らえない様子のライリー。しぶしぶ白猫がここにいるのを受け入れた。一方メルギドは全く気にする素振りを見せない。
「して、婚礼の儀はいつにすれば良いかな?」そしておもむろに、謁見の間での話の続きを始めた。
「お父様。私はまだそのお話を受けるとは申しておりません」先程謁見の間で話していた事は、まだ片付いていない。
「お前はまだそんな聞き分けのない事を言っておるのか」呆れた様子のメルギド。
「そもそも、どうしてドノヴァン殿ですの?」親子ほど歳の離れた、しかも大神官と婚約をさせるというのは、どう考えてもおかしい。それは、王女であるリリアムを、最初から側室扱いとして送り出すという事になるからだ。
「あのお方は立派なお方だ。神官や神殿の立場を今以上に格上げされるであろう。そうすれば、ますます民の平和と安寧が約束される」何を言っているのか分からない。正にそんな顔をしたリリアム。そしてまたもあのお方、と敬語を使った事を訝しがる。
「ところでお父様。私が風魔法で送った内容は、ご覧になられました?」既にガジット村で起こった、神官の事については、報告している。なのに何故こんなに神官を持ち上げた言い方をするのだろうか?
「ガジット村の神官が、隷属の腕輪をメディーの神官より譲り受けていた事だな? あれはたまたまだったのだろう。全てが素晴らしい人間とは限らない。偶然、残念な結果だったと言う事だ」
「お父様、それは違います。全く違います。アクーでは神官が隷属の腕輪だけでなく、魔薬と言う、魔物を産み出す物をもっておりました。しかも、報告した通り、ガジット村のバルターによると、メディーの神官は、隷属の腕輪を沢山持っていると、証言しておりましたわ」
「そのバルターとかいう、神官の妄言だろう」
「妄言などではありません。それが正しいという事を証明するために、私と共に旅をしていた、タケトとケーラを、お父様に会わせたかったのです」
「リリアム。ここは食卓だ。そんな話、今する場合じゃないだろ」二人のやり取りを見かねたライリーが、間に入ってリリアムを諌める。
「でも、お父様はタケトとケーラに会う事を拒みましたわ。この件は物凄く大きな、とても大きな問題ですのよ?」だが、それでもリリアムの言葉は途切れない。本当に重要な案件なのだ。早急に手を打たないとますます悪い方向に向かっていくのだ。王から神殿に対して、それこそ絶対命令書を使用して指示すれば、早々に事態を解決出来るのだ。だから必死な様子で話をするリリアム。
「とにかく、その報告については、ビーナルがその冒険者から聞いている。今は先に食事だ」面倒そうに、まるでハエを払うかのように手を払い、この話は終わりだ、とジェスチャーで訴えるメルギド。
「そんな……」呆気にとられるリリアム。どうも様子がおかしい。以前の父親ならこんな重要な話を、適当に流すなどしなかったはずなのに。ライリーも同じだ。元々父親の言う事は絶対だと思っている節はあったが、あまりにも従順すぎる。母親は元々こういう問題にツッコまないタイプのマイペースな人だから、変わりないように見えるが。
そして食事が運ばれてきた。まずはスープが湯気を立てながら、食欲をそそる甘い香りを立ててながら、それぞれの前に配膳された。それを待ってましたとばかりに、メルギドがそのスープをスプーンで掬い、口につけようとした瞬間、白猫が急に飛び出し、メルギドのスプーンを後ろ足でキックした。





