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リリアム対父親

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

 ※※※


「遠路はるばるお疲れだったな」玉座に座ったまま、人族の王メルギドが、リリアムに労いの言葉をかけた。ただ、声色はどこか不機嫌な様子ではある。


「お久しぶりです。お父様」そして恭しく頭を下げるリリアム。ライリーに連れられ、ひとまず冒険者の恰好をしていたのを着替えさせられたリリアム。今はショートパンツと長そでシャツではなく、淡いピンクのロングドレスに、頭には白銀のティアラを付けている。勿論、白猫も一緒に付いてきている。白猫はリリアムの傍らに大人しく丸まっている。


「その猫はなんだ?」なので、当然気になったメルギド。


「私の大事な仲間ですの。旅を続けている間もずっと、こうやって共にいたのです。この謁見の間に共にいる事、お許し下さい」


「まあいいだろう」とりあえず気にはなったが、猫などどうでもいい、と言った返事のメルギド。その答えにホッとするリリアム。白猫は健人達と連絡を取るために必要だ。引き離されるわけにはいかない。


 今リリアムは、メルギドと話をするため、謁見の間にいる。ライリーはリリアムの横に、同じようにしゃがんで片膝を付いている。


「して、どういうつもりか、説明して貰おうか」やや怒気の籠った声で、リリアムに声をかけるメルギド。


「婚約の話を断った件ですわね?」リリアムの言葉に、そうだ、と玉座に座ったまま返事をするメルギド。


「私にも伴侶を選ぶ権利があります。それは隣にいるライリー王子殿下も、そして既に結婚したアイラお姉さまも等しくそうであるはずです。なのに、私だけ一方的に、命令だ、などと言われて、承諾するわけには参りません」玉座を見上げ、強い口調で訴えるリリアム。


「我がお前に送ったのは、絶対命令書だ。この世界の人族全てが逆らってはならぬ指示書だ。それを否定するとは。リリアム、気でも触れたか?」


 リリアムの訴えを無視するかのように、怒りを顕にして話すメルギド。絶対命令書とは、いかなる場合においても、その命令書に記載された内容を最優先としなければならない、という、この世界の人族に対する、強制力のある指示書である。過去には、五年前の魔族との戦いの際、メディーのギルドが把握している冒険者全員に対し、現在行っている依頼を一旦停止し、魔族との戦いに参加せよ、と言う指示を出す際に、この絶対命令書が発令された。王が直接発行するその指示書なので、そのような緊急を要する、人類の危機などの重要な事態に使われるのが通例なのである。


 そんな絶対命令書が、先日ガジット村にいたリリアム個人に対して、届いたのである。しかも内容は、リリアムの婚約を決定したので従うように、と言う、信じられないものだった。


「だから、それがおかしいのです。どうして一個人の婚約の話を絶対命令書で扱うのです?」リリアムの言う通り、そのような重要な指示書を、王族の娘だからといって、婚約の話程度で使う事自体、本末転倒だと言っても過言ではない。そのような事で使われた事は過去に例を見ない。


「それ程良い相手だからだ」リリアムの疑問を、些事だと言わんばかりに返答するメルギド。


「もしそうだとしても、私の同意なしで決めて良い話ではない筈です」当然納得できないリリアム。


「リリアム、もしかしてお前は相手が誰か、知らないのか?」リリアムはガジット村で絶対命令書を受け取った際、相手の名前を確認していなかった。それ程動揺していたのだ。


「リリアム。ドノヴァン殿だよ」相手を知らなさそうなリリアムに、ライリーがメルギドに気付かれないよう、小声で教えた。


「まさか!」ライリーの言葉に呆気に取られるリリアム。そして突然のリリアムの大声にビクっと反応してしまい、丸まっていたのにすっくと立ち上がってしまう白猫。耳がいいので仕方がない。


「お父様、ドノヴァン殿、なのですか?」信じられない、と言った表情でメルギドに確認するリリアム。


「なんだ、やはり知っているではないか。そうだ、あの()()ならお前を生涯、幸せにしてくれるだろう」フンと鼻で笑い、顎髭を触る。


「……」あのお方? 人族の頂点に立つ王であるお父様が敬語? そこも気になったが、それよりリリアムは戦慄していた。おかしい。そんなはずはない。あんな男を伴侶にしようと思うなんて。しかも絶対命令書を発令してまで。それは有無を言わさず、絶対に婚約させると言う、メルギドの意思だ。


「あ」とある事を思い出して、ふと、声が出てしまったリリアム。そう言えば、ドノヴァンはあのギルバートの父親だ。どこかで名前を聞いた事があると思っていたが。因みにドノヴァンは、このメディーに五つある神殿のうちの一つの、その中で最も大きい、神殿の総本山とも言える、総本殿にいる大神官である。


 リリアムが何か言おうとした時、一人の執事が恭しく一礼し、謁見の間に入ってきた。


「失礼致します。先程ご命令賜りました、昼食の準備が整いました」どうやらリリアムが来る前に、昼食の準備を指示していたメルギド。


「おお。そうであったな。とりあえず腹拵えだ。リリアム。ライリー。お前達も来るのだ」そう言って玉座から立ち上がり、真紅のマントを翻すメルギド。そして玉座の後ろ側から去っていった。


「お兄様。どういう事ですの?」メルギドが立ち去ったのを確認して、立ち上がりながらライリーに疑問を投げかけるリリアム。


「どういう事って、そういう事だろ?」何を言ってるんだ? と呟きながら、ライリーも立ち上がる。


「私の婚約の事、絶対命令書の事、何も疑問に思わなかったの? 」リリアムの質問の意味を理解していないようで、具体的に再度質問するリリアム。


「お父様が決めた事だ。なら、従うのが当然だろ?」やれやれ、と言った顔で返事するライリー。


 そうじゃない。聞きたいのはそれじゃない。質問に対してライリーお兄様の返事が全く的を得ない。思慮深く、相手の気持ちを汲んで会話をする、以前の聡明なお兄様とは何か様相が違う。先程のお父様の態度といい、このお兄様の態度といい、どうもおかしい。何やら不穏な空気を感じるリリアム。


「さあさあ、お二人共、陛下がお待ちですよ。会話はそちらでなさって下さいな」恰幅の良い中年女性メイドが、二人を王族専用の食堂へ急き立てる。


 二人共その中年女性メイドに了解の返事をし、そして王族専用の食堂へ二人並んで向かった。それを見て白猫は、リリアムの肩にぴょんと乗った。


「ところで、どうしてお兄様がわざわざお出迎えなさったの?」


「ああ。他の二人の冒険者と、お父様を会わせないため、らしいよ」


「じゃあ、お父様は最初から私の仲間とお会いする気はなかったのね。そしてお兄様はそれを知っていて、ああいう言い方をなさったのね」もしライリー以外の城にいる者達なら、リリアムの言う通りにするだろうが、ライリーならリリアムも逆らえない。だからわざわざライリーを出迎えに寄越したという事だ。


「悪かったね。でも、もう彼らとはもう会わない方がいい。それがリリアムのためになるよ」超絶美青年スマイルで答えるライリー。一方、その笑顔を見つめながら、一体何の根拠があってそんな事を言うのか、また、何故健人達と引き離そうとするのか、未だ理解出来ない様子のリリアム。ますます不信感が募るばかりだった。


 ※※※


「そう。王女殿下とは相当親しくしていたのね」


「ええ。ずっと一緒でしたから」「同性のボクとも、気兼ねなく会話してくれました」メイが用意してくれたお茶を啜りながら、話をする健人とケーラ。三人はメイが用意してくれたお茶を啜りながら、雑談しているが、主にメイが二人にあれこれ質問している感じである。王女の道中での様子が気になっていたのだろう。


 このメイと名乗るメイドは、リリアムの専属侍女だと言う。リリアムが十歳の頃から世話をしているらしい。なので、それなりに年齢は重ねているはずで、多分三十五歳くらいだろうが、それでも年相応に見えない。見た目が若く相当な美人である。邪魔にならないよう、後ろに括った朱色の髪に茶色の瞳、そして佇まいはまるでリリアムのように気品に溢れている。ドレスを着れば、リリアムと同じく王族だと言われても分からないかも知れない。


「お話を聞いていると、王女殿下もいいお仲間と旅ができていたみたいね。良かったわ」ニッコリ二人に微笑みかける、これまた超絶美女のメイ。


「しかしお仕事中ですよね? ボク達とこうやって一緒にお茶してて大丈夫ですか?」ケーラが気になって質問した。正直健人も同じ事を思っていたのだが、どうもまだ緊張が抜けないので、思い切った質問が出来ない様子。


「ええ。だって暇だし」フフ、と笑うメイド服のメイ。暇だからお茶していいんだ。王城ってそうなんだ。メイの答えに不思議そうにするケーラ。


「あのお方は、昔から可愛らしくて美しくて、そして賢い方だったのよ。学校でもいつも優秀な成績だったわ」ふと自分の娘を自慢するかのように、リリアムの事を得意げに話すメイ。


「しかもあの容姿でしょ? それはもう幼い頃から、ひっきりなしに縁談がやってきてたわ。だから、悪い虫がつかないように監視するのも、私の役目だったのよ」懐かしそうに遠い目をして語るメイ。


 そうなんですか、と答える健人。だが、心の中では、やっぱりか、さすがリリアムだ、と思っていたりする。リリアムが幼い頃、超のつく美少女だったのは、今の容姿を見ても納得がいく。しかもメイの話だと才女だったという。天は二物を与える人には与えるんだなあ、と、変に感心する健人。


 そんな他愛のない話をしながら、部屋で待機していると、コンコンとノックする音が聞こえた。メイがどうぞ、と返事すると、老齢の、柄がない眼鏡を掛けた、茶色いローブのようなものを身に纏った男性が入ってきた。


「お前達がリリアム王女殿下のお供で良いのだな?」眼鏡をクイと上げて質問する老齢の男性。


「はい、そうです」健人が答えた。


「風魔法で報告のあった件は、私が聞く事になった。メイ、もう下がってよいぞ」するとメイは、かしこまりました、と恭しく一礼し、すぐさま立ち上がり、トレーにお茶セットを片づけ、健人達に会釈をしてからそそくさと出ていった。


 一方、王子が来ると思っていた健人とケーラは老齢の男性の言葉に驚いた。


「えっと、王子様が来るとか聞いていたんですけど」


「……何を抜かすか。王子殿下がわざわざお前達一介の冒険者の話を聞くために、時間を割くとでも思ったのか。身の程を弁えろ」呆れた様子で健人を諌める老齢の男性。


「あの、リリアム王女は、ボク達が王様に会うように掛け合うって言ってたんですけど」もう一つ気になっていた事を、ケーラが老齢の男性に確認する。


「ああ。それについては、陛下は必要ないと仰られた」リリアムはメルギドに、健人達と会ってほしいという話をしていない。だが、この老齢の男性は既に、メルギドの意思を知っていたようである。


「そう、なんですか」そして、リリアムの事を話そうと決意していた健人は、その老齢の男性の言葉に落胆した。だが、この後、老齢の男性からの話で、自分がいかに無謀な事をやろうとしていたのか、ようやく理解出来る健人だった。



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