王城に入ったのはいいが
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「あら。ライリーお兄様。お久しぶりですわね。わざわざお出迎えなさってくれたのかしら?」馬上からニコっと微笑むリリアム。
「そうだよリリアム。相変わらず綺麗だね。わが妹ながら感心するよ」同じように白馬の上から微笑み返す美青年。
リリアムにライリーお兄様と呼ばれた、白馬に乗った彼は、短く刈られたブロンドの髪に、スッと鼻筋が通った整った顔。リリアムと同じように蒼く澄んだ瞳。白いジャケットに白いパンツ姿。黒いブーツに赤いマントを身に着けた、正に王子様と言った風貌の、超のつく物凄いイケメンだ。
お兄様、と呼んだという事は、リリアムと同じく王族でリリアムの兄なのだろう。そして、リリアムには、アイラ以外に兄弟がいる事を、ここで初めて知った健人。
「そのお世辞は何のためですの?」口に手の甲を当てウフフと笑う超絶美女。
「お世辞じゃないさ。事実だよ。とりあえず、お父様がお待ちだ」キラっと白い歯が零れ、フッと笑う超絶イケメン。
「もう既にお父様がお待ちだなんて。何か私に急ぎのお話でもあるのかしら?」何の話か、大体予想できるが、敢えてライリーに質問してみるリリアム。
「さあ? 僕はリリアムを直接連れてくるように言われただけだよ」しらばっくれているのか、本当に知らないのか。そもそも、リリアムを連れて行くなら、王子がわざわざ出迎える必要などないはずだ。王子の手を煩わせる理由は何なのだろうか? そこを疑問に思ったリリアム。
「この二人もお連れしたいのだけれど」ライリーの意図はともかく、リリアムが健人とケーラに目配せしながらライリーに伝えた。因みにナリヤは、メディーに入る際、他の都民達のように並ばなくて良い、という理由だけで、リリアム達についてきただけなので、元々王城に一緒に行くつもりはない。だが、メディー入った途端、健人達と共に兵士達に囲まれてしまったので、仕方なく健人達に付き合い、王城前まで一緒にやって来ただけだ。途中で抜けだすタイミングを見失っていただけなので、ナリヤは除外したリリアム。
「ん? 護衛ならもう要らないだろ? これから王城に入るんだ。兵士達もいるんだし」不思議そうな顔をするライリー。
「お父様から何も聞いてらっしゃらないの?」嫌な予感がするリリアム。
「僕はお父様から、リリアムだけを連れてくるように、って聞いているよ」
「じゃあ、私からお兄様にお願いするわ。この二人も連れて行きたいの。彼らはただの護衛じゃないの。私の仲間なのよ」
「僕にそう言われてもね。とにかく、お父様はリリアムだけを連れて来いと言ったよ。彼らから話を聞くなら、誰か他の者が聞けばいい。そもそも、ただの一介の冒険者が、事前に約束もなく、王に気軽に会えると思うか?」困った顔をしながら、分かってるのか? と言いたげに話すライリー。
ライリーの言葉に、黙ってしまうリリアム。確かにライリーの言う通り、本来、面識のない、一般人である冒険者が、アポイントもなく、いきなり王に謁見するなどあり得ない話だ。
だが、彼らは自分と共に旅を続けてきた仲間である。更に護衛をしていたという大義名分もある。その事は事前に風魔法で連絡している筈なのに、ライリーは彼らを一介の冒険者、と言い切った。彼らはそうじゃないと伝えたにも関わらず。そこが腑に落ちないリリアム。
「なら、私が直接、お父様にお願いするわ」ここで城門前で、ライリーと押し問答していても埒が明かないと思ったリリアムは、とりあえず父親自身に話した方が良いと判断した。
「まあ、お願いだけするだけなら大丈夫だと思うけど」呆れた顔をする超絶イケメン。
「そういうわけだから、君達はここで待っててくれるかな?」そして健人達に声をかけ、さっと白馬を城内に向け、駆ける準備をした。
「タケト……」健人に向き直り、悲壮感を漂わせた表情で、健人を見つけるリリアム。
「今は仕方ない。連絡待ってるよ」とりあえず逆らっても仕方ないので、親に話をする、と言うリリアムの結果を待つ事にした健人。それしか今は方法がない。
「リリアム! 急ぐよ! お父様は既にお待ちだ!」先に駆けていたライリーが、大声でリリアムを呼ぶ。その声を聞いて、名残惜しそうに城内に馬を向け、リリアムは駆けて行った。白猫と共に。
※※※
「じゃあ、私は一旦馬を返してくる」ナリヤはアグニに泊まった宿の主人に、馬を借りたままである。
「うん。夜になったらモルドーを向かわせるよ」ケーラがナリヤに返事する。
分かった、そう言って、ナリヤは健人に会釈をし、取り囲んでいる兵士達に、自分だけ離れる旨を伝え、道を開けて貰ってから、一人馬で駆けて行った。
『さて、どうする?』『待機しとくように言われたから、待つしかないけど。その後はとりあえずリリアムからの連絡待ちかな』周りには未だ入り口から付いてきた兵士達がいるので、会話の内容を聞かれないよう、念話で話しているケーラと健人。
『マシロさんがリリアムの馬に移動していたのはラッキーだったね』『そうだな』メディーに入ってから、移動中に、念話をするためとリリアムの馬に移動していた白猫も一緒に王城に入っていっているので、リリアムと離れたとは言え、連絡さえ取れれば何とかなるだろう、と思っている健人。
しかし王城の傍は寒い。ここ城門前も同じく凍えるような寒さだ。大きな堀と城の間を、冷たい風が吹き抜ける。思わず震える健人。ケーラも白い息を吐きながら、自分の体を抱くようにして、寒さに耐えている。
二人が寒さに耐えながら城門前で待っていると、城内から馬に乗った、茶色の口髭と顎髭を蓄えた、目つきの鋭い、鷲鼻のガタイのいい壮年がやってきた。その姿を見た、警護していた兵士達と、健人達を取り囲んでいた兵士達が一斉に居直り、敬礼をした。
「お前達がリリアム王女殿下の護衛か?」兵士達の様子を気にする事もなく、いきなり不躾に質問する壮年。
「ええ。そうです」返事する健人。
「二人とも城に入る事は許可された。ついて来い」短い言葉で二人にそう伝えてすぐに踵を返し、城内に向かって馬で駆けて行った。周りを取り囲んでいた兵士達は、壮年の言葉を聞いて、一斉に健人達から離れた。警護していた兵士達も、城門から離れた。そして、その壮年を追いかけるため、二人は慌てて城内に向けて馬を駆った。
大きな城門をくぐり、堀を渡している橋を駆け、城の扉まで向かうのも結構距離がある。馬で移動しないと大変な距離だ。そんな事を考えながら、壮年の男性に遅れないよう、ついていく健人とケーラ。そして鉄でできた、高さ10mはありそうな大きな扉の前に辿り着いた。どうやらここが王城の入り口のようだ。
「ファンダルだ。開けろ!」低く太いドスの利いた大声で、扉に向かって怒鳴る、ファンダルと名乗った壮年。すると、中から「かしこまりました!」と声が聞こえ、ギイィ、と扉の軋む音と共に大きな鉄の扉が開いた。
「馬はそこの兵士に預けろ。ここからは歩いて中に入る」命令口調で二人に指示するファンダル。二人は黙って言う通りにした。
そして緊張しながらファンダルの後を追うように城の中に入る二人。扉の中は、いきなり大きな広間になっていた。赤い絨毯が左右の奥の廊下の向こうまで敷き詰められ、城を支えているであろう柱は白を基調としたもの。そして奥には白い大きな階段が見える。両端の親柱の上には、黄金で作られた何かの動物の彫刻が置いてある。天井は10mはあろうか、とても高く、更に上にはシャンデリアが複数見える。
「凄いな」「豪華だね」余りの豪華絢爛な城内に、呆気に取られる二人。
「何をしている。行くぞ」緊張した面持ちであちこち見ている二人を気にも留めず、さっさと先を歩いていくファンダル。馬に乗っている時は気づかなかったが、ファンダルは身長190cmはあろうかという巨体だ。ヴァロックに負けずとも劣らない体躯だ。白を基調とした服に、緑色のジャケットを羽織っている。背中には真紅のマント。そしてその胸には、いくつかの勲章のような物がついている。かなり位の高い人だろうと予想できた。
健人とケーラが、早歩きのファンダルに遅れないよう、急ぎ足でついていきながら、物珍し気にあちこち見回しつつ付いていくと、とある部屋の前でファンダルが立ち止まった。
「ファンダルだ。入るぞ」部屋をノックしてから、中に誰かいるのだろう、声をかけてドアを開けるファンダル。そしておもむろに健人達に入れ、と促した。黙って従う二人。
中は10畳程の小綺麗な部屋だ。長テーブルと間を挟むようにふかふかのソファ二つ。そしてメイド服の女性が一人、健人とケーラに頭を下げて会釈した。
「ここで待っていろ。メイ、こいつらを頼む」そう言ってファンダルはさっさと出て行ってしまった。かしこまりました、と丁寧に頭を下げる、メイと呼ばれた女性。
「初めまして。ここで働いている、メイと申します」黒のロングスカートに白いエプロンの、典型的なメイド服を着た、メイと名乗る美人の女性が、恭しく頭を下げた。
「初めまして。健人です」「ケーラと言います」慌てて二人も頭を下げた。その様子にフフと笑うメイ。
「あなた達が、リリアム王女殿下と共に旅していた方達ね」





