あの神官について知る事になる三人
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「ほえー、普通に村みたいだね」白い息を吐きながら、ケーラが驚いている。都市の前に村があるという不思議。
村というには規模は小さいが、それでもざっと見た感じ、宿屋が二十軒はあるようである。他にも酒屋や、食事が出来るちょっとした定食屋のような店まであるようだ。ただ、ギルドや神殿はなさそうだが。一応この辺り一帯は、木で出来た高さ2mほどの柵で囲まれているが、ヌビル村やガジット村のように警備はいない。舗装された大きな道沿いに、宿屋や他の店が立ち並んでいるだけと言った感じだ。そして人が暮らしているような家はなさそうだ。村と言うより宿屋街と言った感じだろうか。
「ここにも驚いたけど、それより目の前のあれの方がもっと驚いたよ」
そう言って健人は、入り口前の村の奥に聳え立つ崖のような城壁を見上げた。一体どれくらいの高さがあるのだろうか。昨日からこの山のような城壁はずっと見えていたので、アクーとは違い相当でかいのは想像できたが、いざ近くに来てみると、より一層その巨大さに圧倒される。
王都メディーは他の都市とは比べ物にならない程、とてつもなく大きな都市である。当然広さもアクーの比ではない。王都メディーを中心に、大きな舗装された土の道が東西南北に向かって続いているが、その東西南北四つのメディーの入り口の前には、ここのように、それぞれ入り口前に宿屋街のような集落が出来ていて、それぞれ、アクー入り口前の村、フーム(土の都市)入り口前の村、と言った感じの呼称がついているが、正式名称はない。
「とりあえずリクルさんの宿に向かいましょう。さすがに寒くなってきたわ」両手で自分の体を抱きしめてブルルと震えるリリアム。もう既に日は沈み、辺りは暗くなっている。各宿の窓から漏れる灯りのおかげで、ある程度道は見える程度だ。
「そうだな。急ごうか」「そうだね」健人とケーラは返事して、リクルに道案内して貰いながら先を急いだ。リクルが働いている宿は、入り口からそう遠くないところだったので、そんなに時間はかからなかった。
「結構いい宿だね」馬に乗っていたリクルが急いで降りて、中に入っていく宿を見ながら感想を述べるケーラ。緑色の屋根に白い壁で三階建ての、一般的な宿と言った感じだ。煙突からはもうもうと煙が上がっている。時間的に夕飯の準備に追われているのかも知れない。外観は思ったより綺麗だ。
そして事前にリクルから裏の馬小屋に向かうよう言われていたので、三人は裏口に向かい、そして馬を繋いでいると、裏口の扉の中から怒声が聞こえた。
「この野郎! どこをほっつき歩いてたんだ!」男の怒鳴り声だ。顔を合わせる三人。そしておもむろに馬小屋の近くにあった裏口の扉から中に入った。
「すみません。この子実は魔物に襲われてて、そして遅くなったんです」腰に手を当て仁王立ちになって怒鳴っている筋骨隆々の中年男性に、慌てて声を掛ける健人。奥にはシュンとした表情で立ち竦んでいるリクルが見えた。やはり怒られていたようだ。
「どういうこった?」突然裏口から現れた、白猫を首襟から出している黒髪の青年を見て、訝しがる中年男性。
「ボク達が魔物に襲われてるリクルさんを助けたんです」後から入ってきたケーラも説明する。
「なんだ。ならそう説明すりゃいいのによ」ったく、と舌打ちする中年男性。どうやらこの宿の主人のようだ。
「で、この宿に風呂付の部屋があるって聞いて、もし空いてたら泊まりたいんですが。それと、別にもう一部屋もお願いしたくて」
「あー、宿泊希望か? 風呂付きは空いてはいるが値が張るぜ? いいのか?」健人の話に答える主人。どうやら希望の部屋は開いていたようでホッとする健人。
「空いているのですね。良かったわ。お金は大丈夫と思いますわ」健人達の後ろから様子を窺っていたリリアムが、そこで声をかけた。
「あ、あんたは、もしかして、リリアム王女様?」目を見張って驚く主人。まさか自分の宿の裏口から、王女が現れるとは思っていない。
「ええ。宜しければ宿泊お願い出来るかしら? で、私がここに泊まるのは内緒にして頂きたいのだけれど」人差し指を口に当て、内緒でお願いします、と呟くリリアム。
「へ、へえ。承知しました」リリアムが突然出て来て驚きはしたものの、可愛らしいその仕草に照れた様子で返事をする宿の主人。そして準備のためだろう、そそくさと奥に入っていった。
「ここの主人は口は悪いけど良い人なんです。さっき怒鳴ってたのも私を心配しての事なので気にしないでください」リクルがフォローするかのように三人に説明した。
「そうか。なら安心したよ」「部屋も空いているみたいで良かったよ」健人とケーラは、リクルの言葉に頷いた。
「じゃあとりあえず受付に来てください。丁度今、受付には誰もいないので、リリアム王女が来ても大丈夫です」まだ若いのに気遣いの出来るリクルに、笑顔でありがとうと答えるリリアム。そして三人と一匹は、風呂付きの部屋とそうでない部屋二部屋分のお金を払い、リクルに案内され、二階にあるそれぞれの部屋に上がっていった。
※※※
コンコン、と先程受付でお願いした風呂付きの部屋の扉をノックする音が聞こえた。「どうぞ」と声をかけ、扉を開ける健人。
「お食事お持ちしました」リクルがお盆に夕食を持って現れた。この部屋はこの宿で一応一番高級な部屋らしく、造りは質素ながらそれなりに小綺麗にされている。トイレも部屋についていた。向かいにある風呂の付いていないもう一つの部屋も、思った以上に綺麗だった。
そして、今健人達は皆この部屋に集まっている。その二階の部屋に、リクルが何度も往復して健人達に食事を運んでくれた。他にも数人、従業員がいるようだが、出来るだけリリアムに会わせないようにするために気を使ってくれているようである。三人がこの部屋にいて、食事を部屋に持って来て貰っているのは、リクルと話をしたいためだ。食堂だと他の人にも聞こえる可能性があるし、リリアムが他の宿泊客に見つかるかも知れない。
「で、リクルさん。話を聞いて大丈夫かな?」食事を運んでくれたお礼を言いながら、早速夕食のスープを啜りつつ、健人が確認した。
「あ、はい。主人には了解を得ていますので大丈夫です。さっき言ってた神官の事ですね?」
「そうね。その事でお時間とって貰ったの。ありがとう。でも、大事な事なの」今は夕飯時なので忙しいはずなのだが、それでも時間を取ってくれた事に感謝して頭を下げるリリアム。後でも良かったのだが、この後リクルは仕事があるので、時間がとれるのはこの夕飯時しかなかったのだ。
とんでもない、と慌ててリリアムが頭を下げるのを止めるリクル。王女に頭を下げられるなんて畏れ多いと思っているから仕方ない。そしてコホンと咳払いし、話し始めた。
「私は、ギルバートが腕輪で無理やりいう事を聞かせていた、女の人達の世話を任されてたんです」
話し始めると、リクルは当時の事を思い出したからなのか、徐々に体が震えだした。
「恐ろしい。あいつは人間じゃありません。悪魔なんです」そして涙目になりながら、訴えかけるように声を出すリクル。
「ゆっくりでいいからね。無理しなくていいよ」ケーラが優しく声をかける。
そして、泣きそうになったり、時には吐きそうになりながらも、ギルバートという神官について、リクルは語った。
ギルバートはメディーの神官で、秘密の地下室を孤児院の下に作り、隷属の腕輪を使って、主に孤児院の女性達に対し、凌辱の限りを尽くしていたらしい。その凄惨な光景は、まるで地獄の拷問部屋のようだった、とリクルは話す。
「犠牲者は全員、私みたいな孤児出身者でした。身元が分からないから都合がいい、と独り言で言っていたのを聞いた事があります」親元から攫ってきたとなれば、見つかる可能性が高くなるが、みなしごの孤児であれば、いなくなっても探される心配はないという理屈だ。そしてその孤児院自体の運営を、ギルバートがやっていたとすれば、更に見つかる可能性が低くなる。
「とある人は、両腕両足が千切られていました。切断じゃないんです。千切られていたんです。紐を手首足首に括り付けて、思い切り引っ張るんです」
「とある人は、腕と足がおかしな方向に曲がったままにされていました。折っては叫び声を聞いてニヤニヤしていました。そしてギルバートは神官なのでそれを治してまた折っての繰り返し。それを楽しんでいました」
「そして、飽きられた女の人達は、殺されました。その後片付けと、人かどうか分からなくなってしまった人達のお世話をするのが、私でした」
ずっと顔を青ざめたまま話すリクル。そして言葉に詰まり吐き気を催してしまった。気づいたケーラが急いで風呂場に連れて行った。
思っていた以上の話の内容に、聞いている間三人とも食事に手を付ける事が出来なかった。湯気を上げていた何かの肉の丸焼きは、お盆の皿の上で既に冷たくなっている。だが、その程度を些事だと思うほどの、途轍もない悲惨な内容に、三人は唖然として聞いていた。
ケーラがリクルを風呂場に連れて行ってからも、沈黙したまま、言葉が出ない健人とリリアム。そんな静かな状況の中、ケーラがリクルを連れて風呂場から戻ってきた。
「大丈夫かしら?」そこでようやく、リリアムが声を発した。
「はい。すみません」口をタオルで抑えながら、途中で退席した事を謝罪するリクル。
「いいのよ。あなたも大変だったでしょう。思い出すのも辛かったでしょうに、良く話してくれました。ありがとう」
「いえ。いいんです。私もこうやって吐き出した方が気が楽なので。でも、その後孤児院が火事になって良かったです。多分次は、私の番だったから」あの火事は、証拠隠滅だろうと、子どもであるリクルでも分かっていた。あそこにいた人達は、もう既にいなくなっているだろう事も。
「そう言えば腕輪を着けたままだったけれど、あなたはどうやって助かったの?」
「多分忘れていただけだと思います。孤児院が火事になった後、ギルバートを見つけたんですけど、影に隠れて見ていたら見つかったみたいで追いかけてきたので。何とか逃げ切って助かりました」
リクルは魔族とギルバートが、あの地下室で話していた際、地下室の扉の前で気づかれずに聞く事が出来たので、捕まる前に逃げる事が出来たのである。
次は私の番だった、その言葉を聞いたケーラが、今まで抑えていたであろう怒りを露にした。
「……信じられない。信じられないよ! 最低だねそいつ!」バン、と机を叩き憤るケーラ。ただ女性に対し性的な暴力をするだけでも許せないのに、それだけではなく、まるで人体実験のように、自らの快楽のために、積極的に痛めつけ、嬲り、仕舞いには殺している。そんな人間がいる事に憤りを感じずにはいられないケーラ。
「そうです。だからギルバートは悪魔なんです。私も腕輪が外れたから、ようやく悪口、というか、本当の事が言えるようになりました」主に反目すると自動的に効果が表れる隷属の腕輪だが、その効果の範囲は1km程度である。だが、リクルはその事を知らなかったのだろう。
「そのギルバートって神官はメディーにいるんだよね?」ようやく健人が声を発した。
「後で聞いた話ですけど、パーティーを組んでいるらしくって、そのメンバーと共にアグニに行ったそうです」アグニは確か火の都市だったはずだ。しかしパーティーメンバーがいるのか。そいつらもギルバートと同じようにヤバい連中かも知れない。だが、自分達は会う事はないだろう、アグニに行く予定は今のところないのだから、と思う健人。
「しかし、メディーの神官ってのはとんでもないんだな。まあ、そいつだけかも知れないけど」健人のいた世界でも、大きな大戦などで、そう言った行為が行われていたのは、学校で勉強していて知っていたが、それとこれとは違う。人を引き裂く事が快楽である事と、戦争のために実験をしていた事とは根本的に違う。行為そのものは同じかも知れないが、目的が利己的だ。そしてそんな人間が、この世界にいた事にも衝撃を受けていた健人。約一年くらい、この世界にいるが、そんな残虐な人間の話を聞くのは初めてだった。
一方、はあ、と深く大きなため息をつき頭を抱えるリリアム。元々神官職は、側室とその子ども達の、立場と収入を守るために作られた職だ。要するに王族からの配慮のおかげで、神官職と言うのは存在している。それが、魔族から隷属の腕輪を購入し、証拠が残らないよう、みなしごの孤児の女性達を凌辱しているとは。いや、凌辱と言うには甘すぎる。そんな残虐な行為が、ギルバートという神官によって行われていたのだ。神官というのは、いつからこんな常軌を逸した集団になったのだろうか? 本来なら光属性持ちとして、怪我や病気を治し、人々が安心して平和に暮らすために、存在しているべきだと言うのに。しかも人族の中心都市メディーで。自分の故郷を情けなく思ってしまうリリアム。
「魔族にも問題あるね。誰が神官に隷属の腕輪を売ったんだろう? そもそも禁忌なんだから、量産されている事自体異常なんだよ。魔薬だってそうだよ。これ本当にシャレにならないね」早くモルドーからの報告を聞きたいと思うケーラ。魔薬のサンプルを持って行って貰ってから、相当時間が経っている。ケーラのいたアクーから、魔族の都市はかなり離れているのと、モルドーは夜しか移動できないから仕方ないのだが。
「リクルさん。時間を取ってくれてありがとう」とりあえずギルバートという神官については分かった。リクルにお礼を言うリリアム。
「いえ。多分まだまだギルバートみたいな神官はメディーにいると思います。苦しんでいる人がまだいるなら、自分の話が役に立つなら、って思ったんです」リリアムは王女だ。その人に直接神官の現状を話す事で、王族として何か動いてくれるかもしれない、そう期待したリクル。こうやって話してみて、とても良い人だというのは分かったので。
「そうね。王に掛け合ってみるわ」ギルバートみたいな神官はまだまだいると思う。この少女の口から発せられた言葉は、人族の民達を平和を守るべく存在している王族にとって、そんなリリアムにとって、とても辛く重いものだ。何とかしなければならない。と改めて思ったリリアム。
「ボクもこんな状況許せないから、魔族としても解決できるように頑張るよ」魔族にも責任があると思っているケーラ。欲したのは人族かも知れないが、それの欲求に答え隷属の腕輪や魔薬を与えたのは、間違いなく魔族なのだから。
「そうだな。俺も当然協力する」二人の決意を感じ取った健人。そもそも既に相当深く関わっている。なら、この由々しき事態を放っておくわけにはいかない。
そして三人は改めてリクルにお礼を言った。ペコリと頭を下げ出ていくのを見届けた三人は、冷めた夕食を胃に流し込んだ。因みに白猫はシリアスな雰囲気を気にせず、お腹が減っていたのでとっくに先に夕食を食べ終わっていましたとさ。