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白猫とは何なのか

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m


「はっ、はっ、はっ」森の中を一心不乱に走る少女。茂みをかき分け枝が遮ろうとも立ち止まれない。後ろを振り返ってみる余裕など無い。


 ようやく仕事にありつけた。だから多少危険だと分かっていても、追い出されたくないがために無理をしてしまった。森の中に自生している木苺の実を取るのについ夢中になって、知らない間にこんな森の奥まで来てしまった。こんなところで死んでたまるか。せっかく助かったのだから。


「も、もう追ってきてない?」ゼーゼーと息を切らせ、ずっと走り続けてきたので一旦休憩し、ようやく後ろを振り返って見てみる。どうやら逃げ切った?


「はあー、もう動けない」ずるるー、と傍にあった木にもたれ、座る少女。だが、その休憩も一瞬のうちに終わらないといけなくなった。


「ウガ? ウガガア!」追いつかれてしまった。見つかった。疲れて尻もち着いていたのを何とか気力を振り絞って立ち上がり、再び逃げようとしたその時、


 ヒュンと何かが飛んで行く音が聞こえ、「ウガア?」と疑問の声を上げながら、自分を追いかけてきていたオーガが頭から吹っ飛んだ。更にヒュンヒュンと連続して同じ音が聞こえ、黒い玉? が更にオーガを襲う。バス、バスと着弾する音がして穴が空いていくオーガ。そして悶え苦しみ仰向けに倒れ絶命した。


「大丈夫?」馬に乗った物凄く綺麗なお姉さんが、変な形をした武器? のようなものを右手に持ちながら駆け寄ってきた。そこでこの美人のお姉さんを近くで見て、額のコブに気づき、魔族だと分かった少女。


『ケーラ。まだ数十匹いるにゃ』『了解です』念話でやり取りする一人と一匹。


「まだ数十匹いるみたいだけど、ボクにやらせて貰っていいかな? マシロさんと訓練した事試してみたい」


「分かったわ」「危ないと思ったら引けよ」馬に乗って後からやってきた二人は、ケーラの言葉に頷いた。


 了解だよ、そう二人に伝えて、ケーラは馬から飛び降り、二人に馬を預けた。更に健人の首襟辺りからぴょこんと顔を覗かせていた白猫も地面に降り立った。


『弟子の様子を見てくるにゃ』そして一人と一匹は森の中に掛けていった。白猫はケーラの戦いの様子を観察するらしい。そしていつの間にかケーラを(弟子)って呼んでいる白猫。


「さ、もう大丈夫よ」そして尻もちをついたまま呆然としている、10歳ほどの少女に馬で駆け寄り、優しく声を掛けるブロンドの超絶美女。


「あ。もしかして、リリアム王女ですか?」優しく微笑みかけてくる、ブロンドの物凄く美人さんの正体に気づいた少女。


「ええ、そうよ。……その腕輪、もしかして」冬なので長袖を着ていた少女。だが、逃げる途中に引っ掛けたのか、左腕が剥き出しになっていた。そしてその少女の左腕についていた、あの木の腕輪に気付いたリリアム。


 ※※※


「はあ!」ケーラの雄叫びと共に、オーガがまた一匹屠られていく。


「ウガアアア!」一向に打つ手がない様子だが、それでも怒りが収まらないオーガ達は、一斉にケーラに襲いかかる。だが、ケーラは一瞬でそれらの攻撃を把握し、コマのように自らを半転、または一回転しながら、次々やってくる攻撃をいなし、躱す。そしてその回転を利用して、裏拳ならぬ裏トンファーを、オーガ達に次々お見舞いする。


「ウガア!」 「グボオ!」「グルアア!」それぞれ叫びながら事切れていくオーガ達。ケーラを中心に、オーガ達の屍が累々と倒れている。ざっと二十匹は倒しただろう。


 メディーに向かう途中、少女が森の中でオーガに追いかけられているのを、白猫の耳が感知し助けに行った健人達。真っ先に向かったのはケーラだった。そして更に奥の方に、オーガの群れがいる事も、白猫の感知で分かった。そこでケーラは、白猫に教えて貰った軸を使った体捌きを試してみたくなった。ガジット村でものっそい必死な兵士達を相手に訓練はしていたが、結局誰一人ケーラに触れる事さえ出来なかった。正直彼らは弱かったのでずっと物足りないと思っていた。一応理屈は分かったのだが。なので、今回のオーガの群れとの遭遇は、本当の意味での訓練の成果を試すチャンスだと、ケーラは思ったのだった。


 そして今、オーガ相手にやってみたら、かなり使えている事が確認できたケーラ。


「あ、ボスがいた」一息ついて、もう終わりかと思っていたが、少し森の奥の方で、一回り大きい、背丈4mはありそうなオーガロードが、怒りを顕にして斧を片手に殺気立ってケーラを睨んでいた。


「良くも、俺の仲間をおおおおおお!!!」言葉が話せるオーガロード。一気にケーラに突進し、手に持った斧を振り上げ、ケーラに襲いかかる。が、くるりと半回転してそれを軽く躱す。「ウガ?」一瞬ケーラが消えたように錯覚するオーガロード。


「あれも試すか」そう呟いて、トンファーの短い方の横についているスロットに、青いクリスタルを装填する。そして一旦オーガロードから距離を取り、長い方を銃身に見立て、「ウォーターショット」と唱えるケーラ。銃身に見立てた銃口? の先から、連続して水の玉がババババ、と射出される。「ウガガガ? 」まるで水鉄砲のような攻撃を目に食らい、慌てるオーガロード。


「うーん。威力が足らない」だがオーガロードには目くらまし程度にしか効果がない様子。どうも水魔法は相性悪い? 一方ふざけた攻撃を受け、益々怒るオーガロード。ケーラが呑気にトンファーのスロットに入っている青いクリスタルを取り出しているところを、隙ありとオーガが襲いかかるもひょいと躱される。そして交わした反動を利用して反対側から一気にトンファーでこめかみを叩く。「グボアア!」叫び吹っ飛ぶオーガロード。


「やっぱ闇だね」そう呟いてすぐに「シャドウショット」と唱える。闇属性はケーラが元々持っているのでクリスタルは必要ない。パンパン、とトンファーの長い方の先から黒い銃弾のようなものが射出される。その一つ一つは正に弾丸の形をしており、螺旋状に回転しながらスピードをグングン上げオーガロードに向かっていく。そしてドン、ドンと言う音と共にオーガロードに着弾した。


「ウ、ウガア、ア」音速を超える小さないくつもの弾丸を躱せないオーガロード。貫通した後を体のあちこちに残しながら、そのまま前のめりにドスーンと大きな音を立てて倒れた。


「なるほどー。タケトの言ってた事が分かった」感心している様子のケーラ。健人はこの「シャドウショット」の弾を、ただの丸い玉にするのではなく、銃弾のように、先が尖った楕円の円柱形にして、先を中心に竜巻のように回転するように打てたら、威力が倍増すると教えていたのだ。健人が前の世界でたまたま知っていた銃の知識。それをケーラに伝えていたのだった。黒い丸い形を、健人に教わった通りにイメージして形を変えるだけなので、ケーラにとっては然程難しくない。そして実際使ってみたら、かなり威力がある事が分かったケーラ。


 そしてケーラが魔物全て倒し終わったのを確認した健人とリリアムは、ケーラの元に駆け寄っていった。少女は健人の馬に乗せている。リリアムの馬は王女なので遠慮したのだった。


「凄いな。相当強くなったなケーラ」


「訓練の賜物だね」エヘン、と胸を張るケーラ。プルンと素敵な双丘が震えた。いつもあれこれしているくせに、つい目がいってしまった健人。男の性だから仕方ないですね。


『教えた事ちゃんと出来てたにゃ』白猫からもケーラへの賛辞が送られる。えへへ~、と嬉しそうに照れるケーラ。


『あ。レベルがあがったようにゃ』ふと白猫が、健人とケーラに念話で話しかけた。


『何か変わったのか?』


『これが出来るようになったにゃ』そう言うと、突如健人とケーラの視界、と言うより、感覚? が、一気に広がった。


『うおお? 何だ?』『びっくりしたー!』驚く二人。辺り一面が一気に広がったような不思議な感覚。見えるというより(分かる)と言った方が正確なのかも知れない。


『私の危機察知が共有出来るようになったにゃ』


『マジか。俺とケーラも危機察知が使えるのか』『おおー! それはなんて有り難い』危機察知は敵の殺気だけでなく、危険だと感じた全ての物に対して反応する優れた能力。例えば馬が蹴った小石にも反応するし、ハチが近くに飛んできても反応する。毒入りの食べ物までも分かるので、かなり万能な能力なのだ。これを健人とケーラが使えるようになった。


『それと』そう念話で呟いておもむろにリリアムに近寄る白猫。


「何かしら?」健人とケーラが、自分を放っておいて何かを共有している様子でちょっと寂しそうだったリリアムだったが、白猫がふと自分の馬にぴょんと飛び乗った。そして白猫が手、もとい前足を、リリアムの手の上に置いた。


『聞こえるかにゃ?』


「!」突然何処からともなく聞こえてきた声に驚くリリアム。


「え? マシロさん? なの?」ついキョロキョロしてしまった。「にゃ」と言う語尾はあの懐かしい、リリアムも良く知っている声。


『リリアムとも、こうやって手を置いたら、話せるようになったにゃ』


『て事は、念話も出来るのか?』健人がリリアムに念話をしてみた。


「今、タケトの声が聞こえたわ。これがこの間言ってた念話なのね。凄いわ」感動している様子のリリアム。どうやら上手くいったようだ。


『ただ、リリアムだけは、ご主人様とケーラのように、危機察知の共有は出来ないみたいだにゃ。念話も、こうやって触れてないと無理みたいだにゃ』多分それは、以前白い空間に共にいた二人だから共有が可能なのだろうと思っている白猫。


 そしてどういうわけか、白い空間に二人がいた事は憶えている白猫。ただ、その時話した内容までは、覚えていないようだが。


「そうなの? 二人は危機察知? も出来るのね」呼び方からして何の能力かは何となく分かるが、二人はそれが出来るようになったらしい。そして理由は分からないが、リリアムにはそれが無理だという事も分かった。


「でも、それでも、久しぶりね。マシロさん」健人とケーラだけにしか分からなかった、この白猫との会話が出来て嬉しそうなリリアム。自分も仲間入りした気持ちだ。


『久しぶりと言われても、真白って言われてもよく分からないのにゃ』申し訳なさそうに答える白猫。


「そうなの。残念だわ」少し寂しそうなリリアム。


「でも、どうしてこんな事が出来るのかしら? だって、猫でしょ?」リリアムが以前から思っていた疑問だ。こうやって念話が出来る事もそうだが、後ろ足だけで立ったり、前足でサムズアップしたりする事だって本来おかしいのだ。この世界が、魔法が使え魔物がいる異世界だからと言って、当然普通の猫にそんな能力はない。真白が記憶が戻ってきている、という理由でそうなっているのなら、まだ分からなくもないのだが、どうもそうではないらしい。


「……そうだな。よく考えたらおかしいよな。真白の能力が戻ってきているとしても、以前はこんな事出来なかったぞ」


 健人の言う通り、獣人の真白は、確かに危機察知能力を持っていたが、それを共有するような事は出来なかった。更に、念話などと言う能力は、元々持っていなかったはずだ。


『私はただの猫じゃないにゃ。詳しくは()()()()にゃ。今は()()()なのにゃ』


『『「見習い?」』』 念話と会話でハモる三人。


『なんだ? 見習いって』


『こういう特別な能力を持っているものの、見習いなのにゃ』


『よく分からないよ』ケーラがツッコむ。健人とリリアムも、白猫の曖昧すぎる答えがよく分からない。


『もっとレベルが上がったら、多分説明できるようになるにゃ』どうやら今は、白猫にも分からないらしい。


「……ていうか、真白、なんだよな?」


 疑っているわけではない。単に確認したいと思った健人。真白が白猫に変わったのを見ているのだから疑う余地はないのだから。だが、真白を知っているようで知らない様子や、真白が持っていなかった能力が使える事が不思議に思った健人。声色は確かに真白なのだが、どうも他人行儀と言うか、真白と会話している感じがしない。「にゃーにゃにゃーにゃにゃーん」みたいな元気っ子なノリで天真爛漫なのが真白の特徴なのにそれがない。それは白猫と意思疎通出来るようになってからずっと感じていた違和感。だからこんな疑問を投げかけてしまう。


『多分。としか言えないにゃ。ただ、ご主人様を守るために前の世界からやってきた猫なのは間違いないにゃ』申し訳なさそうに答える白猫。


『じゃあ、前の世界でどっかのボスやってたのは憶えているのか?』以前真白から聞いた話だ。車に轢かれる前までは、その近くの町の中で縄張りを持ってメス猫ながらにボスを張っていたと聞いていた。


『それは憶えているにゃ』ブタ猫との攻防を懐かしむ白猫。そう言えばあの時、あの猫の縄張りに入った事が、今の状況を生んだようなものだ。


『そうなのか。じゃあ、この世界に来てからの事は、何か覚えているのか?』前の世界での猫時代の記憶はあるようだが。期待半分覚悟半分で確認する健人。恋人となった真白の記憶は、出来れば覚えていて欲しい。


『……ごめんなさいにゃ。全くないのにゃ』健人の質問の意図が分かっている白猫。再度申し訳なさそうに答える。


『ただ、リリアムとケーラに嫉妬している自分がいるにゃ。これは多分、飼い主に対して持つ、独占欲とは違うみたいにゃ』


『やっぱりボクに嫉妬してたんだ』「それは、何となく分かってたわ」今の彼女二人は、今の白猫の念話に納得した。コミュニケーションを取れなかった時でも、これまで何度もあった白猫の嫉妬した様子を見ていた二人。


『じゃあ、いつかは思い出すのかな』白猫に対する二人の返事を聞いて、若干の期待をする健人。


『分からないにゃ。ごめんなさいにゃ』


『そうか』はっきりしないらしい。明確な答えが欲しかった健人は落胆してしまう。そんな肩を落とした健人に、ケーラとリリアムが馬に乗ったまま近寄る。


「きっと何とかなるよ。ボクも協力するから」「そうよ。私達も頼ってね」


「ああ。ありがとう」二人の優しさに感謝しつつ、寂しそうな笑顔で答える健人。


『もしかしたら、レベルが更に上がったら何かわかるかも知れないにゃ。何か分かったら教えるにゃ』


『ああ。宜しく頼むよ』そもそも、どうしてレベルが上がった事が分かったのだろうか? そこも疑問に思った健人。とりあえず、白猫のレベルが上がれば、真白をもとに戻す手段はきっと何か見つかるはずだと、希望を持っている健人だった。




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