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嵐の予感が一杯

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「先程、ガジット村におられるリリアム王女殿下より、風魔法にて手紙が届きました」


 鼻に掛けるタイプの柄がない眼鏡を掛け、銀色の髭を蓄えた、茶褐色のローブを身に纏った壮年の男性が、恭しく礼をし報告している。ここは謁見の間。天井がとても高く、人が百人は入れそうな広さ。絨毯の縁には金色の刺繍が施され、いくつも見受けられる、まるで大理石のような白く輝くよく磨かれたいくつかの柱には、人や獣、更には竜や怪鳥などと言った、精巧な造りの彫刻が鎮座している。王国の贅を極めたような豪華絢爛な広間である。


 そしてその広間の更に高台に作られた、広間を一望できるように見下ろせる金で彩られた豪華な玉座には、人族の王、メルギドが座っている。ブロンドの髪に蓄えた顎髭、太い眉に眼光鋭い目の周りに深く溝のように入る皺。赤い高級なガウンを身に纏い、その頭にはこの国のトップを表しているかのような黄金色の綺羅びやかな宝石があしらわれた王冠が輝いている。先程までメルギドは、この謁見の間にて来訪者を迎え入れていたため、そのまま臣下がこの謁見の間に報告に来ていたのである。


「そうか。して、リリアムからの返信はどうだったのだ?」ガジット村からやって来た風魔法の連絡で、リリアムが既にガジット村に来ている事をメルギドは知っていた。


「神官の件のお礼が認められておりました」若干額に汗を滲ませ、遠まわしに答える臣下の男性。


 ガジット村にいた神官は、魔薬という不思議な物で魔物になり、リリアムの護衛の魔族の女がそれを倒したため、ガジット村の神官がいなくなった。代わりの神官を派遣したいが、アクーからでも良いか? という内容だった事は、先程までこの謁見の間に来ていた者から聞いていた。


「その件は良い。それより、もう一方の件の返事はどうだったのだ?」その内容に驚きはしたが、今はその件よりリリアムの返事が気になるメルギド。当然拒否などあり得ない。だが、やはりきちんと確認しておきたい。


「……否、とだけ記載されておりました」王の期待を裏切る正解を、恐れながら伝える臣下の男性。


「何だと? それは誠か?」驚いて玉座から立ち上がるメルギド。


「左様に御座います」改めて頭を下げ、答える臣下。


「リリアムは一体何を考えておるのだ?」信じられないと言った表情のメルギド。


「当方にも分かりかねます。王女殿下に何かお考えがお有りなのかどうかさえも」


 メディーで最も美しいと称されたリリアムには、本人がメディーに不在の間も、ずっと見合いの話が引っ切り無しにやってきている。当然父親である王メルギドも、誰も彼もとは思っていない。だが、ようやくリリアムに相応しいであろう相手から見合いの打診があった。彼ならリリアムもきっと喜んで受け入れるに違いない。


 だが、リリアムからの返事は、否、という事らしかった。メルギドにとっては信じ難い返事。せっかくこちらがお膳立てしてやった話を断るとは。


「我の顔に泥を塗るつもりか!」わなわなと震えるように怒り、苛立ったメルギドは玉座の肘掛けを強く叩いた。


「ライリーを呼べ」そして、おもむろに臣下の男性に命令するメルギド。


「かしこまりました」臣下の男性は再度一礼し、踵を返して、足早に謁見の間を離れた。


 そして数分後、どこかリリアムに面影が似ている、身長180cm近くはあろうかという細身の、ブロンドの髪を短く切り揃えた美青年が、謁見の間にやって来た。白を基調とした長袖のブラウスに、同じく白の長いスラックス。そして金の刺繍を施した赤いマントを肩から靡かせている。それなりの身分である事が見て取れる姿である。


「お父様。お呼びでしょうか?」一礼してから、王メルギドをお父様と呼ぶブロンド髪の美青年。


「ライリー。お前に頼みがある」ライリーと呼ばれたその美青年は、メルギドの息子、ライリー王子殿下である。彼はリリアムやアイラより年上の長男で、今はメルギドの後継者として、日々王の跡継ぎのための勉強を王都でこなしている。


「僕にですか?」お父様から自分へ直接頼み? 用なら臣下にでも任せればいいのに? 不思議そうな顔をしたライリーだが、とりあえずメルギドの話を聞く事にした。


 ※※※


「なあ。ケーラがここに来るって本当なんだな?」


「ああ。間違いない。良かったなキロット」キロットと呼ぶ魔族の男の肩を叩きながら笑う、もう一方の魔族の男。ケーラの件はメディーのギルドからの情報だ。どういう理由でケーラが王都メディーに来るかまでは聞いていないが、彼にとってはそれはどうでもいい事だろう。


 キロットと呼ばれた彼はケーラの幼馴染の魔族である。魔族の都市で、小さい頃結婚しようと言ってきた仲だ。ここメディーにはようやく最近、魔族が人族や獣人に混じって、ちらほらと姿を現すようになってきた。和平賛成派の彼らも同じく、十日ほど前にメディーにやってきた魔族だ。


「魔族の都市にずっといると思ったんだが、まさかケーラも人族の都市に行っていたとはなあ」


「しかも一番遠いアクーだったらしいぜ」


「なんでまたあんな遠いところに行ったんだ? まあいいや。とにかくようやくケーラに会える。あいつは俺と結婚するんだ。他の誰にも渡しゃしねえ」恥ずかしげもなくグンターに話し、嬉しそうにカカカと笑うキロット。筋骨隆々の体躯に身長190cmはあろうかという巨体。黒く大きな二本の角が、まるで鹿の角のように生えている。そして背中には小さめの黒い翼が、服を破いて覗いている。見た目からしても明らかに屈強な戦士だと分かる。


 やれやれと、キロットの嬉しそうな笑顔を見て呆れ顔のグンター。彼も同じく黒く大きな角が二本、額の両端から生えているが、姿見は華奢でキロットとは正反対だ。身長が170cmくらいと人族の男と変わらない高さで、眼鏡をかけ漆黒のローブを身に纏っている出で立ちは、魔法使いである事を証明しているようにも見える。そしてイケメンです。


 キロットは小さい頃からずっとケーラに惚れていた。姉のナリヤも相当美人だが、歳が近くさっぱりしたケーラの方が好みだったキロット。彼女が魔王の娘だという事は当然分かっていたが、惚れた強みで魔王に認められるため、日々己を鍛え上げ、とうとう魔王軍の幹部候補にまで昇り詰めた。そしてプロポーズする事を魔王より了承して貰ったのだ。だから彼は腕っぷしには相当自信がある。そしてケーラに対する想いも誰にも負けないと自負している。


「俺はナリヤ様の方が好みだけどな」グンターもキロットやケーラと幼馴染だ。当然ナリヤとも交流があった。


「お前みたいなインテリには確かにお似合いだ」カカカと笑うキロット。


「以前このメディーにもいたらしいんだが。あー会いたかった」その情報もギルドの受付から聞いていた。残念そうに空を見上げるグンター。彼らがここメディーに来た時には、既にナリヤのパーティーはアグニに旅立っていた後だったので仕方ないのだが。


 ※※※


「ようやく着いたな」


 ふう、と一息つく、オレンジ色の髪の魔族の美女。季節は既に冬なので、吐く息は白く手は凍ったように冷たい。


「アグニからもそこそこ離れていたのと、私が夜しか移動出来ないので、致し方ないかと」モルドーが申し訳なさそうにナリヤに話す。ただでさえ寒いのに、移動はモルドーの特性上、夜しか無理だからだ。


「気にするな。私としてはモルドーには感謝しっぱなしだ。その程度の事全く気にならないよ」微笑みながら答えるナリヤ。ずっと陵辱され続けてきた日々から開放され、ようやく本来の笑顔を取り戻したナリヤ。さすがケーラの姉、その佇まいと笑顔は正に天使のように美しい。


「さて、と。ふむ……」おもむろにモルドーが何かを探すように上空を見上げる。どうやって確認しているのか分からないが、どうやらケーラのいる位置を調べている様子。


「……ケーラ様はガジット村辺りですかな? なら後三日程でメディーに到着するかと。もしメディーにやってきたとしても、ケーラ様はアクー側の道ですな。そして我々はアグニ側なのであちらとは距離がある。ひとまず休憩して、これからの事は明日以降、改めて考えたほうが宜しいかと」


 王都メディーはとてつもなく大きな都市である。城壁は高さ数十メートルはあり、まるで山のようにそびえ立ち、北側は自然の山に囲まれており、王都の人々をあらゆる敵から守っている。そして王都メディーを中心に、大きな舗装された土の道が東西南北に向かって続いている。その東西南北四つのメディーの入り口の前には、それぞれちょっとした村のような、集落が出来ている。


 メディーの門を通る際、検閲を受けないといけないのだが、尋常ではない数の人々が各都市からメディーにやってくるので、検閲に相当時間がかかる。順番待ちに数日から、物の量によっては一週間かかる場合もある。そんな人達のために、メディーの東西南北の入り口の近くに、宿泊施設を中心とした集落があるのだ。待っている間入り口前で野営するなら、宿泊施設を作ってしまおうとの事で出来た集落である。宿の他にも食事が出来たり、酒を提供する店もある。メディーに入る手続きをしてから、この集落のにある宿に泊まるのが、この大都市メディーに入る際の通例になっていた。


 そしてナリヤはアグニ側の、メディー入り口前の集落の宿に宿泊する事にしたのである。因みにモルドーはコウモリになるので宿は必要ない。そんなバカでかい王都メディーなので、アクー側の入り口からアグニ側の入り口までは相当離れている。


 二人はアグニ側の宿に近づいてきたので、モルドーはボン、と音を立て、白い煙をモクモクあげながらコウモリに变化した。ナリヤは一旦モルドーに別れを告げ、アグニ側の、メディーの入口近くにある村に、宿を探しに向かったのだった。





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