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片桐綾花※煩労

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

今回より第六章スタートです。


「全然手掛かりないなあ……」


 既に夜遅い最中、ポツポツ家々の灯りが輝いている、暗い窓の外を覗きながら、机に座って頬杖をついて、何の気なしに一人愚痴る綾花。既に季節は冬だが、ここアグニは火山に近く、あちこちに温泉が湧いているのもあって、地熱を使った暖房施設があり、そのおかげで部屋の中は暖かい。


「災厄って本当に来るのかなあ」調べ続けてもうそろそろ一年になろうとしている。しかし手掛かりどころか、その気配さえ見当たらない。五年前、魔族が人族に攻め入って大混乱を引き起こした災厄は、従姉の三枝薫こと、勇者カオルと他にこの世界の三人でパーティーを組み、解決したのは知っている。そのおかげで、今は魔族と人族は徐々に友好関係を築きつつある事も。だから魔族のナリヤが自分のパーティーにいたのだが。


 そう言えばナリヤは元気だろうか? 彼女が調べていたという、魔物増加の原因は分かったのだろうか? どうして自分は、あれからナリヤを探そうとしないのだろうか? 大事な仲間で、正直結構気に入っていた、この世界で初めて出来た同性の友達のナリヤ。モルドーとかいう、物凄く強い吸血鬼に攫われてしまってから、どうしているのか全く分からない。気になるが気にしないようにしている不思議な感覚。


 自分の気持ちを否定しているというより、ギルバートの言う事を聞かないといけない、そういう気持ちにさせられる。


 綾花が災厄を調べるため、メディーの次にここアグニを選んだのは、五年前の魔族襲来の際、最も戦いが激しかった地が、ここアグニだったからだ。メディーには王立図書館があり、そこで過去遡って色々調べていた綾花。この世界は二千年くらい前から、何度も災厄が起こり、その度自分のような異世界の人間が、勇者としてこの世界にやってきて、解決してきたのは調べたので知っている。そして、その災厄の殆どが、異種間同士の争い、特に魔族との争いだった。


 なら、もしかしたら、再度魔族と争いが起こるかも知れない。それが災厄かも知れない。そもそもメディーにいたのは自分の能力向上が主だったし、実際あそこにいても手掛かりは一切得られなかった。だから、少しの可能性を信じて、五年前激戦地だったここアグニにやって来てみたのだ。


 だが、ここアグニは五年前の荒らされ様がまるでなかったかのように、人々が平和に暮らしている。温泉地で観光地であると言う事もあって、この都市は娼館は他の都市より発展しているようではあるが。それくらいしか今の所分からない。


「アクーの方が良かったかも。あそこは確か、薫ちゃんが勇者やってた頃の仲間が領地を治めているんだよね」


 彼女が言っているのは勿論ゲイルとアイラの事である。彼らに聞けば、何かしらヒントが得られたかもしれない。だが、アグニとアクーは東西真逆で相当遠い。そして、アクーは五年前の魔族との戦いの際、殆ど被害がなかった都市である。魔物も他の都市に比べ少ないらしいので、レベルアップも見込めない。だから早々に移動先候補から外していた綾花。


「正直めんどくさい。災厄なんか無かった、で良くない?」誰かに言い訳しているかのように愚痴る綾花。正直災厄なんてどうでもいい。せっかく五体満足で動けるようになって、魔法が使えるのだから、お気楽に冒険者としてこの新しい世界で自由に暮らしていければそれでいいのだ。そして良い人見つけて結婚して家族作って暮らしていければいい。


「しかしギルバート様は、またお出かけか」ため息をつく綾花。メディーにいた頃から、ギルバートは大抵夜に何処かへ出かけている。アグニに来てからも同じように何処かへ出かけている。今夜もいないのは知っている。


「気になる? いや、それも違うなあ」何かを否定する綾花。いや、否定したのは恋愛感情だとすぐ分かった。彼は確かに男前だが、好きか恋とかそういう感情は全くない。だが、どういうわけか逆らえないし、言う事を聞いてしまう。そしてそんな自分を否定していない不思議な感覚がある。そしてそれを一切不思議に思わない自分が不思議だったりする綾花だった。


 ※※※


「荒れているな」


 地面のあちこちに、攻撃魔法を見境なく打ちまくったであろう、穴が開いていた。


「アア? あんたに何が分かる?」


「お前の欲望の事など、知りたくもないわ。ただ、あれに手を出さないだけ偉いのかもな」嘲るように語る、筋骨隆々の魔族の男。


 ここは先日、モルドーがナリヤを攫った元拷問用の部屋の側である。破壊された大きな穴は、未だ修復されていないが、人気がないので、ここで二人は落ち合っていた。白服の男は、何故か魔族と通信できるイヤリングを持っている。今日も魔族は呼び出されてこの人族の男の元にやってきていたのだった。

 

 呼び出された理由は、いつもの注文。使うアテがあるかどうかはともかく、ないと不安なのだそうだ。魔族としては、金さえ払ってくれれば使う使わないはどうでもいい。


「正直、僕もいつまで我慢出来るか分からない」頭をクシャクシャに掻きむしりながら、何かを我慢している様子の白服の美丈夫な男。


「なら、好きにすればいいのではないのか? たかが人族の娘一人だと思えば良い」そのための注文ではないのか? 


「それじゃダメなんだよ。勇者ってのは特別なんだよ。それに、中途半端に壊すってのは難しいんだよ」


「知るか」呆れた顔で答える魔族の男。それでも、一抹の理性は保っているのだな、と心の中で呟く。


「アグニは娼館が多いから利用してるが、あいつら商売だから無碍に扱えないし、ああもうイライラする」無碍に扱う。それが彼が本当にやりたい事。


「じゃあ、耐えられるように努力すればいいんじゃないのか?」常識がこの男に通用するとは思えないが、それでも進言してみる魔族の男。


「それが出来てたらとっくにやってる!」半ば開き直る美丈夫の男。


「……もう病気だな」男の異常な様子に、ため息が漏れる魔族の男。


「そもそも、モルドーとか言う吸血鬼がナリヤを攫ったのが問題なんだ」


「……モルドー?」


「なんだ? 知ってるのか?」


「ケーラ様が使役している吸血鬼の名前だが……ああ、分かった。お前、ナリヤ様をモルドーに奪われたのか」


「そのケーラ様ってのは誰なんだ?」魔族の男が正解を言った事を気にせず、ケーラという名前が気になった白服の男。


「ナリヤ様の妹君だ」


「ほう。なら、ナリヤと等しく美女なんだな?」やはり関心は女のようである。


「まあそうだが。……また良からぬ事を企んでいるのか? やめとけ。ケーラ様は無理だ。そもそも人族の仲間がいる。リリアム王女も一緒だしな」以前人族のその黒髪の男に情けをかけられた事を思い出す、魔族の男。


「何? リリアム王女だと? ほほう。あのメディー随一の絶世の美女と謳われたリリアム王女も一緒なのか。ああ、あの美しい女を甚振る事が出来たら、僕も十分満足出来るのに……。そうか。今そのケーラという美女とリリアム王女は一緒なのか」先程までの苛ついた雰囲気はなくなり、口角が上がり厭らしい笑みを浮かべるギルバート。そんな美女二人をモノに出来たら、さぞかし僕も満足するだろう。何とかならないものか。


「……俺は言ったぞ? やめとけと」


「ロゴルドとか言ったな? もう少し詳しく聞かせてくれ」


 心底呆れた。そんな顔の魔族の男ロゴルドは、教えたところでどうしようも出来ないだろうとも思い、以前出会ったリリアム王女、ケーラ、健人の三人パーティーについて、ギルバートに知っている事を話したのだった。





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