ガジット村での最後の日
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この更新で第五章終わりです。
次回から第六章となります。
「あ! あの子が昨日の子よ」「魔族って可愛いのねえ」「ね。恐ろしい魔物みたいなものとばかり思ってたわ」
「やべぇ。俺あの魔族の子に惚れちまったかも」「ケーラちゃん可愛かったよなあ」「ありゃあ人族でも中々いねぇ器量よしだ」
そんな好意的な声があちこちから聞こえる村の中、気不味そうに歩く噂の魔族さん。どうしてこうなった? リリアムだって昨日b歌ってたのに。初日に魔族だからと言って、否定的な目で見ながらヒソヒソしていた様子と正反対だ。
「俺が演奏してたドラムって、寧ろノリがいい方が聴きやすいんだよ。ケーラのダンスがそれにピッタリハマったって事だよ」ケーラの様子を見て、リリアムとの違いを説明する健人。ビートにノッたダンスは、それだけ観客を魅了できる。特にケーラは、初心者ながらのぎごちなさはあったものの、堂に入った踊りっぷりだった。
「そうかも知れないけど」違う意味でのヒソヒソが居たたまれない様子のケーラ。
「でも、楽しかっただろ?」そんなケーラの様子がおかしくて、つい笑顔になって聞いてみる健人。
「まあ、それは……」そう言われるとその通りなのだが。
二人は今、サリーアに頼んでいた土魔法を受け取りに魔法屋に向かっている。泊っている宿から距離はあったが、今日ガジット村を出発する予定なので、せっかくだから最後に散策も兼ねようと歩いて向かっている。リリアムはエイミーがガジット村に来たので、今は元々泊まっていた高級宿に戻って出発の支度をしている。白猫は健人の部屋でお留守番。そして今日もリリアムに気を使って腕を組むのを我慢しているケーラ。昨日みたいについ我慢出来ない時もたまにはあったりするケーラだが、そんな我慢も今日で終わりなので何とか耐えていられるようである。
そして大通りの両側に立ち並ぶ、二人で楽しげに色々な店を見歩きながら、一時間近くかけて魔法屋に辿り着いた。扉を開けカランカランと来客を知らせる鈴が鳴って、奥からサリーアが出てきた。
「いらっしゃ……なんだ、あんた達か」二人の顔を見て愛想ない返事をするサリーア。
「お早うございます。土のクリスタルを受け取りに来たんです」それに構わず挨拶をして、用件を伝えるケーラ。
「ああ、はいはい。とっくに出来上がってるわよ」無愛想な様子はそのままに、サリーア品物を取りに行くためだろう、さっさと奥に引っ込んでいった。
「へえ~。これが魔法屋か」一方健人は、初めて魔法屋にやって来た事もあって、珍しそうにあれこれ店内を見て回っている。健人がケーラについてきたのは、魔法屋がどんなところなのか興味があったからだ。余り来る機会もないし、ギルドがある都市ではまず行かないだろうと、ケーラについて来たのだ。そして健人が陳列されている魔法の教本を手に取ってペラペラ捲ったり、クリスタルが陳列されているガラスのケースを物珍しそうに見たりしていると、サリーアが戻ってきた。
「ねえ。ケーラとか言ったわよね?」おもむろにサリーアがケーラの名前を確認した。
「そうですけど?」改めて名前を呼ばれ、不思議そうに返事するケーラ。
「はい、これ」サリーアがケーラに手渡したのは、依頼していた24角形の土のクリスタルの他に、赤・青・黄・緑と言った、四属性の他の8角形クリスタル四つだった。
「え? これは何ですか?」ケーラが驚いて、手渡された複数のクリスタルを手にサリーアに質問する四属性のクリスタルは依頼していなかったはずだが?
「まあ、それは、その。あれよ、謝罪の代わりよ」ケーラから視線を外し、何だか気まずそうに説明するサリーア。
「謝罪?」
「まあその、この間の件、悪かったわ。ごめんなさいね」
ようやくサリーアの意図が分かったケーラ。どうもサリーアはずっとケーラに謝罪したかったようだが、中々そのタイミングがなかったようである。彼女だってバルターの被害者だったのだし、それがなければケーラを騙すような事は、本当はしたくなかったのだろう。元々悪い人ではないのだろう。
「なるほど。じゃあ遠慮なく貰っておきます」ずっと不躾な態度を取っていたサリーアの、思わぬ申し出が嬉しくて、ありがとうございます、とお礼を言ってニッコリ微笑むケーラ。
「ま、まあ。またこの村に来る事があったら、その24角形の補充、割引してあげるわ。名前覚えとくから」照れ隠しなのだろう、中々ケーラに視線を合わせず話すサリーア。少し頬を赤くしながら。
「この村にはまた必ず来る予定です。その時お願いするかも知れないです」ミリーがいるので再びやってくる。そう決めているケーラ。ずっと照れた様子のサリーアを見て、微笑みながら遠慮せず、貰った四つの属性魔法のクリスタルと、二十四角形の土魔法クリスタルをポケットに入れた。
「ところで、これ何か分かります?」二人の会話の最中、健人がサリーアに声を掛けた。そしてイチャコラの時に大活躍している、真っ白なクリスタルをポケットから取り出してサリーアに見せた。クリスタルを専門に扱うエルフであれば、何か分かるのでは、と思い、リリアムに断って持ってきていたのだ。
「……何これ?」渡された真っ白なクリスタルを手に取り、不思議そうに見るサリーア。
「属性が……え? 無い? いや違うわ。これは……。そうね。エルフの里に行けば分かるかも知れないわ。確か遠い昔に珍しいクリスタルがあったって言い伝えがあったと思う。あそこには長老がいるから、何か知ってるんじゃないかしら」うーん、と唸りながら、まるで鑑定するかのように真っ白いクリスタルを見ているサリーア。
「なるほど。エルフの里ですか」
「エルフの里は、ウェンスという風の都市から更に北に行ったところよ。エルフは基本排他的だから、もし行くなら、私の名前を言えばすんなり里に入れてくれると思うわよ」因みに、風の都市ウェンスは、王都メディーから北の地にある。
「分かりました。ありがとうございます」このクリスタルについては単なる興味なので、別に急ぎではない。機会があったら行ってみようと思う健人だった。
※※※
「もう行くんだな」「まあ、アクーでお別れだと思ってたのが、また会えたからヨシとするか」バッツとジルムが寂しそうに笑う。今三人と一匹は、メディーに向かう側の入口前にいる。バッツ達が見送りに来てくれたのだ。
「まあ、今生の別れでもないから、また会えるって」二人の肩をポンと叩く健人も、寂しそうに笑いながら。
「ていうか、バッツはエリーヌさんとダンビルさんの結婚式には出ないのか?」この世界にも、結婚を祝う儀式はあるのは知っていた健人。
「ああ。結婚自体はまだ先だから。さすがに親族の俺がいないのは不味いしな。今はまだお付き合いと言った感じだし」
バッツの説明になるほど、と答える健人。バッツは暫く冒険者をアクーでやる予定だ。そのバッツが戻ってから結婚式は行われるのであれば、式自体は当分先になるだろう。健人も出来たら、ダンビルさんの結婚式に参加したいが、多分それは叶わない。参加するなら、真白も一緒でないといけないと、健人は思っているからだ。白猫状態じゃなく獣人の真白でないと意味がない。そしていつ真白が元に戻るのか、今は全く検討がつかない。
「ヌビル村に戻ったら、ダンビルさんとエリーヌさんに宜しく伝えておいてくれ。いつか必ず、俺達は戻るけどな」
「ああ。その白猫がマシロちゃんだなんて、未だ信じられないけど、それでもちゃんと伝えるよ。俺達もヌビル村に戻るのは当分先だけどな」
『彼らの事は何となく知ってるにゃ。ダンビルって言う名前を聞くと、何故か寂しくなるにゃ』まだ完全に真白の記憶がはっきりしない様子の白猫。その理由は未だ分からないが、それでもほんの微かに、白猫のどこかに、思い出は残っているようである。
『早く戻れたらいいのにな』白猫は健人のその念話には答えず、にゃーご、と返事のように一鳴きした。
「ケーラお姉ちゃん!」バッツ達とお別れの挨拶をしていると、ミリーの声が聞こえた。声のした方を見てみると、ハロウズ達がやってきた。先にミリーだけ走ってきてケーラの胸にそのままダイブ。それをうまくキャッチするケーラ。
「……」でも、ミリーはそれから何も声を発しない。それでもケーラは何も言わず抱きしめている。ミリーが声を出さない理由が分かっているからだ。
「ヒック、ヒック」ミリーは単に泣いていただけだった。お別れを言うつもりだったが、ケーラの姿を見て先に涙が溢れてしまった。だから声が出せない。それを黙って受け入れているケーラ。
「また来るからね」抱きしめながら優しくミリーの頭を撫でるケーラ。まだ泣いていて喋れないミリーは、目に涙を溜めケーラを見上げ、黙ってコクンと頷く。
行っちゃやだ、本当は言いたい言葉。でも、それを言うとケーラお姉ちゃんに迷惑がかかる。だから、賢いミリーはその言葉を出さないよう、ぐっと堪えている。
「お父さん、お母さんと仲良くね」ケーラの目にも涙が溜まっていく。それでも努めて明るく、笑顔で話しかける。
「うん」ようやく呟き声が出たミリー。その可愛らしい仕草に微笑みながら、頭を優しく撫でるケーラ。
その様子を傍らで微笑ましく見ている健人とリリアム。そして白猫。白猫は健人の着るジャケットの中に入って、首だけ出している。カバンの中よりその方が暖かいようである。そして健人も湯たんぽのように暖かいので気にしていない。寧ろ有り難いと思っていたりする。
ケーラがミリーから離れる。そして馬に跨がる。お姉ちゃんが行ってしまう。それを見てミリーはまだ言ってなかった大事な言葉をケーラに叫ぶ。
「ケーラお姉ちゃん! 大好き!」頬を涙が伝うミリー。
「ボクも大好きだよ! また会おうね!」ケーラの目からも涙が溢れる。
そしてお互い涙を拭い、努めて笑顔で手を振った。
そして、その二人の奥の方に、スクラムを組んで何やら相談している彼らがいた。
「よしお前ら、準備はいいな?」「ケーラさんとの最後のお別れだ。気合入れて行くぞ!」「おうともよ!」
それから村の入り口前に横一列にビシっと並んだ彼ら。
「「「「「「せえ~~~~の!」」」」」」
「「「「「「K・E・L・A ! はい! はい! はい! はい! は~~い! さんはい! ケーラさああああああんん!!!」」」」」」
そして一糸乱れぬ情熱の籠った男達の掛け声。寒空の中に彼らの蒸気が立ち昇っていく。この一瞬にすべてを捧げたような、満足した顔。中には涙を流している者もいる。さすが王都メディー直属の兵士達。よく訓練された事が分かる掛け声である。知らん間に入り口を警備していた兵士二人までもが参加している。胸には王都直属である事を現す兵士達の権威の証の赤い紋章、ではなく、ケーラ親衛隊 と書かれたワッペンが貼ってある。
「もう! 台無しだよ! そもそも親衛隊って何だよ!」せっかくミリーちゃんと感動のお別れをしていたというのに。腕を振り上げ怒るケーラ。
その様子を見て大笑いの健人とクスクス笑うリリアム。
「全くもう!」腕を組んで未だ怒りの表情。でも、ミリーちゃんが笑顔になってる。それで許してあげよう、と思ったケーラ。それでも深い溜め息はついてしまうのだが。
「でも、いい友達ができたな」笑い終わった健人がケーラに声を掛ける。勿論兵士達の事ではありません。
「そうだね。嫌な事もあったけど、この村に来て良かったと今は思ってるよ」ケーラの嫌な事とは、兵士達の事とは別の事です。あれも大概嫌なのだが。ミリーとの出会いは、ケーラにとって思い出深いものになったようだ。
「そうね。演奏も出来たし。楽しかったわ」リリアムも歌を歌えるとは思っていなかった。どこか晴れやかな表情のリリアム。
『私はご主人様と意思のやり取りできるようになって良かったにゃー』
『そうだな』『ボクもマシロさんとお話し出来て嬉しい』これは健人にとって嬉しい奇跡みたいなものである。メディーに行ってからも真白をもとに戻すための、何か情報が得られればいいのだが。そう思う健人。
そして親衛隊にお別れを阻害されたので、改めてケーラはミリーに手を振った。今度は満面の笑顔で手を振り返すミリー。健人はバッツ達とハロウズ夫婦にお別れを伝え、リリアムは一応兵士達に警備を労い、後でワッペンを剥がすよう注意した。遅れてやってきた村長夫妻とも、三人はお別れの挨拶をした。
それから改めて王都メディーへの道へ向き直り、寒空の中馬を駆け出す三人と一匹だった。
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稚拙な文章だと思います。ご指摘頂ければ幸いです。





