兵士達が必死です
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「はあ、またか」
ため息混じりに呟く黒と紫の髪の超絶美少女。歩いていく先には若い青年の兵士が、顔を真赤にして立ち竦んでいる。そこを通らないといけないので、兵士が待ち構えているのを知りながらも、諦め顔で歩を進めるケーラ。因みに傍らには白猫も一緒に歩いて付いてきている。
「あ、あの! ケーラさん! 本日は大変お日柄もよく……」「何の用です?」緊張した様子で何か口上を読み上げるような口調で、声を掛けてきた若い青年の兵士の言葉を早々に遮るケーラ。だが、用件を聞きつつも、大体何の用か分かっていたりする。
「あ、あの! 今度、ぼ、僕とお食事にでも……」「お断りです」意を決した青年兵士の勇気を、完全に無視したカウンターパンチで言葉を遮り断るケーラ。ぐはあ、と何かにやられたような仕草で、何かダメージを受けている様子の青年兵士。その様子を呆れ顔で見ている白猫。
『ケーラも大変だにゃー』『お気遣いありがとうです』念話でやり取りする二人。もとい、一人と一匹。
もうこうやってデートの誘いを受けるのは何度目だろうか? 数日前に元バルターこと、巨大ゴブリンを倒してからずっとこんな調子だ。
「そもそも、ボク彼氏いるんですけど?」呆れた様子で兵士に告げるケーラ。
「でも、重婚が認められているわけですから、僕ともその、そういう、関係に……」話している途中で恥ずかしくなったようでモニョモニョしている青年兵士。美女のモニョモニョは可愛げがあるが、いい歳した男のモニョモニョはちょっとキモい。
確かに複数の異性と関係を持っていい世界ではあるが、そもそもケーラは健人一筋。健人以外彼氏として考えていない。それどころか、将来結婚してもいいとさえ思っている程、健人への想いが強いので、他の男と付き合おうなどとさらさら頭にない。
そしてケーラ自身、こうやって何人もの異性から誘われる事は慣れている。魔族の都市にいた頃には、魔族の女性の中で自分が一番モテていたと幼馴染が言っていた。姉のナリヤと共に超絶美女姉妹と言われていたとも聞いている。勿論、だからといってそれをひけらかすケーラではないのだが。彼女にとってモテる事は自慢ではなく単なる事実なのである。
だから、興味すら無い異性から好意を持たれても面倒なだけだという事も十二分に分かっている。最近そういう事がなかったから油断していた、というわけでもないのだが、まさかここガジット村で、こんな事になるとは思っても見なかったケーラ。
王都直属の兵士達は、巨大ゴブリンを難なく余裕で倒したこの超絶美女の魔族にゾッコンになってしまった。リリアム王女も勿論美しいが、彼らにとって王女殿下は目の上の存在。神にも等しい人物。なので、恋仲になろうなどと露程にも思わないし、自分達のような一兵卒が恋心を持っていい相手ではないとさえ思っている。
だが、この美しい魔族の女性にはアタックしても問題ない。巨大ゴブリンを倒した後の素敵なスマイルと素晴らしいプロポーションにメロメロになってしまった兵士達。彼らはこぞってケーラにアプローチするようになってしまった。魔族かどうかなんてどうでも良くなった。彼氏がいるのを知っていても。重婚が認められている世界だからこそか、自分も二番目なら可能性があるのでは? と、ほのかに希望を持っているようである。
そして当然、彼らはケーラが魔王の娘という事は知らない。もし知ったらどう思うのだろうか。
「とにかく、ボクは今の彼氏以外とお付き合いは一切考えてないので」そう言い切って足早に訓練場となっている広場の中に入っていくケーラ。あああ~、とまるで地獄に落ちるような苦渋の顔をした青年兵士を置いてきぼりにして。彼女はこういう、見知らぬ人からの好意には、きっぱりと断るのが一番効果的である事も良く知っている。
ケーラと白猫がやってきたのは、兵士達の駐在所の前にある訓練場だ。訓練場と言っても、単に開けた広場なだけで、施設という程でもないのだが。アクーから神官がやってくるまで、暫くガジット村から離れる事が出来ないので、ケーラは時折この訓練場を借りて鍛錬をしているのである。そして、健人から何度も白猫こと真白の戦闘能力の高さを聞いていたので、こうやって白猫と意思疎通出来るようになってから、あれこれ戦い方について質問していた。そして今日は、実戦形式であれこれレクチャーしようという事になって、この兵士達の訓練場となっている広場にやってきたのだ。
健人からの話による、防御力が低い真白は、力が強くとも、力任せに相手の攻撃を受けたりしていなかったそうである。いなし、躱し、相手の死角に入り込み、身体を目一杯使い、攻撃と防御一体となって戦っていたという。ケーラは魔族と言う事もあって、そういう体捌きは教わっていなかった。何となく感覚で、時には力任せに戦っていたケーラにとっては、その体捌きが学べるのは有り難い。そしてその体捌きは、ケーラにとって必ず役に立つと白猫も思っていたので、こうやって意思疎通が出来た事で、本格的に教えようという事になったのである。
白猫こと真白が、以前ヌビル村のエリーヌに教えて貰った事に加え、真白が実戦で取り入れた体捌きを教える事で、ケーラが強くなれば、健人の危険も減るだろう。健人はこの魔族の女を守ると決意している。その守られる人間自身が強くなる事は、健人自身の危機も減るだろう。そう考えて、白猫はケーラに協力する事にしたのである。
ヴァロックとの修行の時は、殆ど実戦だった事と、ヴァロックが基本パワー系の戦い方だったので、ケーラのような女性が戦う方法を余り教わる事が出来なかった。それでも、ヴァロックの修行がなければ、もっと弱かっただろう。
『マシロさんが言ってた、軸を使うってのがよくわからなくて』
『それを実践するためにここに来たにゃ』そう言ってとある事を提案する。それを聞いて物凄く嫌そうな顔をするケーラ。
今回、白猫がケーラに教えたいのは、コマのように自分を軸に、相手の攻撃をいなす方法である。口頭であれこれ教えるよりも、動きを交えながら教えたほうがいいと思ったのだが、白猫の自分だと体が小さく動きを掴み辛いだろうと思い、兵士達に協力して貰うために、ここ訓練場に来たのだ。
『……それ、言わないとダメ?』
『猫の私じゃ体格差がありすぎて無理にゃ。だから頑張るにゃ』後ろ足で立ってサムズアップ? 前足をケーラの顔の前にビシィと突きだす白猫。
広い訓練場の真ん中で、超絶美少女と白猫が何かやり取りしている。ケーラが来た事で任務外の兵士達は、色めきだって訓練場にやってきて様子を見ているのだが、何をやっているのかさっぱり分からない。しかしあの白い猫は一体何だろうか? 飼い猫とも違う? 不思議そうに見ている兵士達。
はあ~、と深く大きくため息をつくケーラ。強くなりたい。タケトの力になりたい。そして出来るだけ、自分を守ると言ってくれたタケトの不安を取り除きたい。そのためにマシロさんに教えを請う。そう決めたからこそ、意気盛んにここにやってきたのだが、これからやる事は出来るだけしたくなかった。
仕方ないかあ、と諦め顔で頭をポリポリ掻きながら、スックと立ち上がり兵士達に向かって大きく息を吸うケーラ。
「兵士さんたちーー! 今からボクと勝負しませんかーー! 勝ったら出来る限り言う事聞きまーす!」
そう大声で言い終わってもう一度深いため息を吐くケーラ。ちょっと後悔していたりする。そして一斉におおおおおお!! と言うむさい男達の色めきだった叫び声。そして全員我先にと一人と一匹の元にやってきた。総勢八人くらい。
「あ、あの、ケーラさん! 勝ったら何でも……」モニョモニョしながらそれでも必死の形相で兵士の一人が質問する。
「何でもと言うか、出来る限りで」イチャコラとか希望されても困るので。
「デ、デート、とか?」顔を赤らめながら別の兵士が聞いてみた。
「勝てばですけど」まあ、それくらいなら?
「「「「「「いよおおおおおっし!」」」」」」ものっそい気合いの入る兵士達。季節的に寒いせいでもあるのだろうが、彼らの体から湯気が立ち昇る。気合いが半端ない。そんな兵士達を見て、三度大きくはあ~、とため息をつくケーラ。
『ケーラ凄いにゃ。大人気だにゃ』『褒められても嬉しくないです』そして念話でやり取りする一匹と一人。一匹はどこか楽しそうでもある。
『兵士達と戦ってる間、こうやって念話であれこれ指示するにゃ』『宜しくお願いします』
しかし、王都直属の兵士達って、皆こんなにガツガツしてるのかな? リリアムに対しては敬礼とかして王女殿下とか言ってて凛々しくもあるのに。彼らの鼻息荒い様子を呆れながら見ているケーラ。
とにかく白猫の策略通り、彼らの欲望を利用し、うまく焚き付ける事に成功した一人と一匹。そして白猫の指示の元、訓練を開始するケーラだった。
※※※
「……はあ」
大きくため息をつくリリアム。今日は健人と二人いる日だ。既に神官の代わりとして、この小さな家のような神殿に通っているリリアム。今は健人と二人でいる。バルターがいなくなってから、リリアムは朝から夕方までここに滞在して怪我人や病人の治癒を行っている。バルターはここを住まいとしても使っていたようで、寝泊まりするための一式は別に部屋があって揃っている。なので健人とイチャコラも充分出来る。
と言っても、バルターが使っていた部屋を、イチャコラのためにそのまま使うのはやはり気が引けるので、ある程度二人で片づけた。男の一人暮らしだったからか、質素な部屋で物は殆ど置かれていなかったので、片づけは直ぐに終わり、リリアムが白いテーブルクロスやレースのカーテン、一輪指しなどで少し部屋をコーディネートした事で、雰囲気はかなり変わった。それからはずっと遠慮なく致している二人。
因みに魔薬の事や隷属の腕輪を誰から貰ったかなど、何か証拠となる物があるか、それも二人で探してみたが、残念ながらめぼしい物は見つからなかった。
今はリリアムが神官の業務をしているので、健人といる時は、二人でずっとこの小さな神殿で過ごしている。たまに昼食などで外出する事もあるが、基本殆どこの神殿の中だ。扉の外側には紐がぶら下がっており、引っ張ると中の部屋で音が鳴る仕掛けの呼び鈴が付いていて、治癒魔法が必要な人達の来訪も、それで分かるようになっている。
そして、健人と二人なら楽しいはずのリリアムなのだが、今はその表情は暗く元気がない。
「どうした?」当然健人もリリアムの様子がおかしい事に気づく。
「え? いえ、何でも無いの」慌てて答えるリリアム。今の時間帯は朝なので、二人神殿の部屋で朝食を取っている。普段なら健人の隣にぴったりくっついて甘えてくるのに、今はそれさえもせず、何か考え込んでいる様子のリリアム。
「……何隠してんだ?」
「え? な、何も隠してないわ」
明らかに何かを誤魔化しているリリアムに、健人が正面に向き合ってリリアムの肩を掴み、グッと顔を近づけた。「ど、どうしたの?」突然の行動に驚くリリアム。
「俺はお前の彼氏だぞ? 悩みがあるなら言ってくれ」
「……ありがとう」顔を赤らめ諦め顔で微笑むリリアム。お前と言われた事と、心配してくれた事が嬉しい。
「でも」「いいから。俺はリリアムの全てを受け入れるって決めたんだから。遠慮すんな」そしてガシガシ乱暴に撫でる健人。王女という立場を捨ててまで自分と恋仲になりたいと言ったリリアムの決意に答えると決めている。だから、困っている事があったら頼ってほしいと思っている健人。
「キャ! もう、痛いわよ!」それでも嬉しそうなリリアム。意を決して、健人に話する事にした。
「……実は、メディーから私宛に手紙が届いたの」





