真白覚醒?
いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m
ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m
『!』
白猫がピクっと耳を動かして目を覚ました。そしておもむろに起き上がってとある方向を見つめる。だが、ここは健人の泊まる部屋の中。見つめる方向は壁なので何も見えないはずなのだが。
『もう終わったようにゃ』 そう、心の中で呟いた白猫。
そしてすぐに、健人とリリアムが慌てた様子で部屋から出てきた。一応裸ではなく着替えてから。
「大きな音だったな」「凄い地響きもしたわ」どこかから聞こえてきた大きな音に反応して、出てきた二人。そして武器を装着し急いで外に出ようとする。
『ご主人様。あの黒と紫の髪の女が魔物を倒したのにゃ』だが、そこで白猫が健人に話しかける?
「え?」驚く健人。誰の声だ?
『え?』同じく驚く白猫。そう言えば話し出来てるにゃ?
「え?」いきなり立ち止まる健人に驚くリリアム。
「……もしかして真白か? 話せるのか?」白猫から声が聞こえる? あの懐かしい声だ。間違いない。
『そうみたいにゃ?』自分の声かけに健人から返事がある。でも、よく分かっていない様子の白猫。
「真白。俺が分かるか?」不思議そうに白猫を抱き上げる。まだ猫のままだが真白と会話出来ている?
『ご主人様は分かるにゃ』 と嬉しそうに語る白猫。今までは曖昧だった感情が、今ははっきり分かる。この人は自分の大事なご主人様だと。自分はこの人を守るためにこの世界にやってきたと。
「俺はご主人様じゃない。健人だぞ」ご主人様って? それは確か、初めて真白に会った時に呼ばれた言い方だ。でも、獣人の真白は健人が名前をつけてからずっと(健人様)って呼んでいた。それが何故またご主人様なのだろうか?
「ねえ。さっきから何なさってるの?」リリアムが不思議そうに、白猫を抱き上げている健人に話しかける。今大きな地響きと音の原因を確認するために、外に出ようとしていたのでは? それが何故マシロさんを抱っこして語りかけているのかしら?
「リリアムには聞こえないのか?」白猫を手に抱っこしたまま、リリアムの方に振り向いて質問する健人。
「何か音でも聞こえているのかしら?」さっき聞こえた大きな地響きの事じゃなさそうだけど?
「真白と会話してるんだよ」
「え? ……私には何も聞こえないけれど?」不思議そうな顔をするリリアム。
『ご主人様にしか聞こえないみたいだにゃ。念話みたいなもんだにゃ。だから、声に出さなくても会話出来るにゃ』
「そ、そうなのか? なんでそんな事が出来るようになったんだ?」
『レベルが上がったんにゃ』
「レベル? ……あ!」思い出した。そう言えば真白とはずっとパーティ契約したままだ。真白が魔族から魔薬をぶつけられるずっと前から、白猫になる前から、パーティ契約解除していない。というより、真白とはヌビル村のゴブリン退治の時から、ずっとパーティ契約したままだ。
この数か月、この白猫が徐々に変化していった理由は、白猫のレベルが都度上がっていたからである。だから、健人達が魔物討伐の際、白猫が同行している時にだけ、白猫の変化が見られたのだ。そして今回、健人とパーティ契約しているケーラが巨大ゴブリンを倒した事で、同じくパーティ契約をしたままの白猫のレベルが上がって、更に出来る事が増えたのだ。
勿論、何故レベルが上がったら白猫に変化があるのか、それにも理由があるのだが。
『こんな感じか?』心の中で白猫をイメージして話しかけてみる。そもそも念話なんてやった事ないので、やり方がよく分からない健人だが。
『それでいいにゃ』だが、どうやら上手くいったようだ。
「そうか。そうか真白。俺と意思疎通出来るんだな」ようやく白猫の変化に気持ちが追い付いてきた健人。白猫と意思を通わせる事が出来る。まだ獣人の真白じゃなくても嬉しい。涙を目に溜める健人。
「ああ。真白、真白。ようやくここまで……」そして泣きながら白猫を胸に抱き寄せる。白猫も嬉しそうに大人しくそれを受け入れている。真白と言われても良く分からないが、ご主人様も喜ぶ理由は何となく分かる白猫。
『因みにレベルがあがったのは、あの黒髪と紫の女が魔物を倒したからにゃ』白猫が健人を見上げ、先程言った事を再度伝える。どうやらさっきは伝わっていなかった様子なので。
「え? ケーラが魔物を?」驚く健人。どういう事だ? 確かケーラは村長の家に行っていたはずだが? 涙を流したまま、今度は白猫を手に取って顔のところに持ってきて確認する健人。さっきは白猫と会話出来る事に気を取られていて、白猫の話の内容をきちんと聞いていなかった。
「一体何がどういう事なの?」健人と白猫の様子を、ずっと不思議そうに傍らで見ていたリリアム。声が聞こえないリリアムにはさっぱり意味が分からない。
※※※
「あんた凄いな」様子を見ていた兵士の一人が、ケーラに近づいて声をかけてきた。
「そうかな? こいつ図体デカいだけで大した事ないと思いますよ?」謙遜ではないケーラの本音。ただ、ケーラも実は自覚がないだけで相当強い冒険者になっている。だから余裕で倒せたのだが。多分兵士達十人だと相当苦労しただろう。そして先程披露した銃モードは、本人が思っている以上に相当威力があったりするが、それも余り自覚のないケーラ。
「とりあえず、早々に倒してくれて助かったよ。暴れられたら村民に被害があっただろうし」そう言って笑顔で握手を求める兵士。それを笑顔で返して応じるケーラ。
「おーい、大丈夫かあー?」向こうの方からツルッパゲた老人ことガルバントとご婦人が、息を切らせてやってきた。
「大丈夫ですよ。もう倒しました」
ニコっと超絶美少女スマイルで手を振りながら答えるケーラ。それを見た複数の兵士がニヘラと顔が緩む。「やっぱ可愛い」兵士の誰かがつい呟いてしまったが、その呟きは聞こえなかった様子のケーラ。
「しかし、なんでいきなりこんなでかい魔物が現れたんだ?」こんな巨大な魔物が、前触れもなく突然この村のど真ん中に現れる事自体おかしな話だ。
「村長。これ、バルターの成れの果てなのです」兵士の一人が説明するが、当人も信じられないと言った様子だ。
「これがバルターだと? 何を言ってるのか分からないぞ?」怪訝な顔をするガルバント。ずっと成り行きを見ていた兵士達でも、意味が分からない様子。
「えと、これ、魔薬という薬でこうなったんだと思います」困惑しているガルバント達に、ケーラが説明する。
「魔薬? なんだそれは?」
そしてケーラは、魔薬についてガルバント達に説明した。そして説明しながらも、アクーの神官だけでなく、ここガジット村の神官のバルターまで、魔薬を持っていた事に、改めて衝撃を受けていた。
「……何というか、色々信じられない話だが、目の前にこうやって魔物がいるわけだから、真実なんだろうなあ」複雑な表情のガルバント。
「ボクとリリアム王女、そしてタケトの三人は、この魔薬の件をメディーへ伝えるため、旅してたんです。魔薬が原因で、都市の付近で魔物が増えていた事が分かったので。でもまさか、ここガジット村の神官まで持っているとは思っていませんでしたけど」
ケーラの言う通りである。ガジット村はただの中継地。メディーやアクーのような大きな都市ではない。そんな村の一介の神官まで、魔薬を持っていた。隷属の腕輪だけでも驚愕の事実なのに、魔薬まで所持していた。どうやってこの魔薬を手に入れたかは、当人が既に事切れているので、確認する事は出来ないが。
「あ、そうだ」ケーラがふと何かを思い出した。そして横たわっている巨大ゴブリンの元に赴き、未だ握られたままになっているサリーアを、その手から助け出した。まだ意識を失っているサリーア。戦っている間相当振り回されていたから仕方がないかも知れない。
「起きてくださーい」そう言って軽くほっぺをぺちぺち叩くケーラ。
「う、うん? 」頬をぺちぺちされてようやく目が覚めるサリーア。「! 」そしてぺちぺちした相手が誰か分かり、驚いて尻もちをついたまま後ずさりする。
「な、何?」自分は確か、元バルターこと巨大なゴブリンのような魔物に捕まっていたはずだが? ふと後ろを振り返ってみると、その巨大ゴブリンが地面に仰向けで倒れている。シューシューと穴の空いた額から音を立て、紫色の瘴気のようなものが、空に向かって上がっていっている。
「……あんたが助けてくれたの?」それを見てこの巨大ゴブリンが倒された事を理解したサリーア。
「まあ、結果的には?」そもそもの目的はサリーアを助ける事ではなかったのだが。正直言うとサリーアはついでだ。まあ言わないけれど。
「それより、土魔法のクリスタル、魔法の補充終わってます?」サリーアに用事があったのは土魔法のクリスタルの事だったケーラ。サリーアのおどおどした様子を気にも止めず、土魔法の補充の件を確認するケーラ。
「え? いや、まだだけど……。いやそれより、あんた私が憎くないの? 」
「うーん、まあ。憎いというより、同情かな? エルフさんもこいつの被害者だったんでしょ? 騙された事は腹立ったけど、元凶はこいつなんだし、こいつはもうボクが倒したし、憂さ晴らししたんで、もういいかな?」ケーラの本音である。さっぱりした性格のケーラだからこそだろうが。
「だが、罪は罪だ。償って貰わんといけない。留置場は壊れてしまったが、別の場所に隔離しておくぞ」二人のやり取りに、ガルバントがそこで口を挟んだ。
「でも、前から思ってたけど、魔法屋にエルフがいないと困らない?」ガルバントの奥さんが意見を伝える。
「じゃあ、土魔法のクリスタルの魔法補充、無料って事で手を打ちましょうか? リリアム王女にはボクから言っておきます」そこでケーラからの提案。それで自分を騙した事、巨大ゴブリンから助けた事をチャラにしようと思ったのだ。
「うーむ。まあ、確かに魔法屋にエルフがいないと困るし、そこの魔族さんがそれでいいって言うなら」ツルッパゲの頭をぺしぺし叩きながら複雑な顔をするガルバント。
「え! それは……。せっかくのいい稼ぎだったのに」嫌そうな顔のサリーア。
「じゃあ、処罰を受けるんですね?」せっかく提案してあげたのに、そういう事言う? と心の中でちょっとイラっとしたケーラ。
「……う~、分かったわよ」仕方ない、という表情で大きくため息を吐くするサリーア。
※※※
『聞こえるかにゃ?』
「え? 誰?」
急にどこからか声が聞こえた。びっくりしてキョロキョロして声の主を探すケーラ。女の人の声? でも語尾に「にゃ」って……。もしかして?
「えと、マシロさん、ですか?」
『ご主人様はそう呼ぶにゃ。やっぱり聞こえるのにゃー。この念話、距離関係ないみたいにゃー』
「えと、どこにいるんですか?」獣人に戻った? いやそれより、ご主人様って? もしかしてタケトの事?
『今はご主人様とリリアムの傍にいるにゃ。やっぱりケーラとも念話出来るみたいだにゃ。でも、リリアムは無理だにゃ。多分、以前あの白い空間に一緒に行ったのが原因だと思うにゃ』
『ケーラ。聞こえるか?』そこで突然、別の声が聞こえた。
「え? タケト?」
『ああ、そうだよ。しかし凄いな。聞こえるんだ。こんなに距離離れてんのに。因みに声出さなくても、相手を思い浮かべて頭で声をかければ会話出来るぞ』まるで携帯みたいだ、そう感心する健人。
『こうかな?』ケーラも念話は良く分からないが、健人を思い浮かべ話しかけるようにイメージしたら、思ったより簡単に出来たようだ。
『そうそう。それで大丈夫。俺達もそっちに向かうから、その最中話するよ』
『え? 今どこ?』
『泊まっている宿だよ』
『ええー! ほんとに? こんなに離れているのに声が聞こえるんだ』
『ああ。ほんとびっくりだな』
そして健人とリリアム、更に白猫は、馬を駆ってケーラがいるところまでやってきた。移動の間健人は、ケーラには念話で、リリアムには普通に会話で白猫の変化について説明した。
「なるほど。マシロさんとはパーティ契約がずっとそのままだったのね」白猫に変化があった事をようやく理解出来たリリアム。
『ご主人様っていうのは、元々そう言う呼び方だったんだ』ケーラは別の事に興味があった様子。
『そうだにゃー』答える白猫。
「てか、ややこしいな」確かに便利だが、会話と念話の切り替えが面倒だと思う健人。
ケーラは念話が出来るがリリアムは出来ない。更にリリアムには白猫の声は聞こえない。リリアムに情報共有をするのに、逐一説明しないといけない。そして白猫によると、ケーラと離れていてもこうやって念話が出来るのは、白猫を中継しているからとの事。昨日、白猫がケーラの居場所が分かったのは、この能力の劣化版だったそうである。
『レベルが上がる前は場所が分かるだけだったにゃ。でも今はこうやって意思を伝える事も出来るようになったにゃ』
『じゃあ、もっとレベルが上がったら、真白は獣人に戻れるのか?』これまでずっと、白猫の変化を見てきた。ただの猫みたいな状態から、自分を認識して飼い猫のように懐いてくるようになり、意思を示したり、後ろ足で立ったり、そして今は意思疎通が出来るように変わってきてる。
なら、このままレベルを上げ続ければ、獣人に戻れるんじゃないか? 期待しながら白猫に確認する健人。
『それは……多分無理にゃ。それははっきりと分かるにゃ』申し訳なさそうに答える白猫。
『そう、か……』無理なのか。期待していただけにその答えに落胆する健人。ずっと白猫と一緒にいて徐々に様子が変わってきている様子を見て来たので、かなり希望を持っていたのだが。
『そもそも、今の私は真白と言われても良く分からないにゃ。でも、ご主人様を守るためにこの世界に来たのは分かっているにゃ。そして、もっとレベルが上がれば真白の意識は戻ると思うにゃ』
何故そう思うのか。それは、この二人の女に嫉妬している自分の気持ちが分かるから。
『だから、俺を名前で呼ばず、ご主人様と呼ぶのか』まだ真白になり切れていないという事なのか、それとも記憶が戻っていないという事なのか。よく分からないが、その辺りは更にレベルが上がれば判明しそうな気がする。レベルが上がる事で獣人に戻れなくても、きっと何か、真白が戻れるヒントは得られるはずだ。
『それでも、希望は見えてきたな。絶対諦めない』白猫と意思疎通が出来た。それだけでも大きな進歩だ。絶対真白を元に戻す。より一層決意を強くする健人だった。
そうやって念話しながらケーラの元に辿り着いた二人と一匹。そして駐在所前の訓練場に横たわっている事切れている紫色の魔物を見て、ここにも魔薬があった事に驚くと共に、大きな音の理由が分かった健人とリリアムだった。





