ガンウーマンケーラ
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「この大きな家かな?」
リリアムによると、村長宅は昨晩一悶着あった神殿と、ケーラ達が泊っている宿との丁度中間くらいの距離らしい。その辺りまで散策も兼ねて歩いていくケーラ。すると、一軒だけ周りの家と明らかに違う大きな邸宅を発見した。多分この家だろうとケーラが大きな赤い扉をノックする。
「すみませーん」
「はーい、どちら様ー?」直ぐに女性の声が聞こえ、キイと軋む音と共に扉が開き、痩せた年配の白髪の女性が現れた。
「あの、こちら村長さんのお宅ですか? ボクケーラって言います。リリアム王女のお使いなんですが」正確にはリリアムのお使いではないのだが、そう言った方が分かりやすいだろうと思ったケーラ。
「ええ。確かにここは村長の家よ。……あらあなた。ちょっと待っててくださいね」ケーラの額を一瞥して、そそくさと中に入っていく年配の女性。
「ここでも魔族、か。問題にならなきゃいいけど」ボソっと呟くケーラ。
そして少しの間扉の前で待っていたら、綺麗に禿げ上がった頭をペシペシ自分で叩きながら、壮年の男性がやってきた。
「やあ。君がリリアム王女の護衛の魔族だね?」そして笑顔で挨拶する。
「えと、村長さんですか?」禿げ上がった頭をずっとペシペシ叩いているその様子がちょっと面白くて笑いが込み上げたが、我慢しながら質問するケーラ。
「ああ、ここの村長のガルバントだ」ニコっと笑ってどうぞ、とケーラを家の中に招き入れた。
中に入ると、赤い絨毯が敷いてあり、真ん中に踊り場があるそこそこ大きい二階へ通じる階段があった。通されたのは入って横の二十畳ほどの大きさのある応接室だ。暖炉があり部屋は暖かい。
「ささ、お茶どうぞ」さっきの年配の女性が微笑みながら、村長のガルバントと共に座った椅子のテーブルにお茶を出してくれた。ありがとうございます、とケーラがお礼を言う。リリアムの言う通り、確かにこの村長は、魔族と言う事でケーラを差別したりしないようだ。壮年の女性、ガルバントの奥さんも、にこやかな顔をしている。二人の穏やかな表情に安心したケーラ。
「今回はこの村の神官が君に迷惑かけたようで済まなかったね」向かい合って座っているケーラに頭を下げるガルバント。時折テカるのを頑張って気にしないようにしながら、頭を上げるよう促したケーラ。
「いえいえ。でも、あの件がなかったら、エルフさんがずっと神官に隷属の契約されてたままだったと思いますし。で、今日お伺いしたのは、そのエルフさんに預けてた土魔法のクリスタルを返して貰いたくて」そして来訪の目的を伝える。
「ああ。魔法の補充を依頼してたのか。しかしまさかサリーアまでそんな事になっていたとは知らなくてね。全く。この村では神官は重要な役割だというのに、バルターは何をやってたのか」怒りがこみ上げてきた様子のガルバント。ケーラに対してだけでなく、以前からサリーアにまで隷属の腕輪で言いなりしていた事に対して、憤慨しているようだ。ガルバントは今日の午前中、リリアムと兵士から、今回の件について粗方聞いていた。その時に隷属の腕輪をサリーアがつけられていた事も聞いていたのである。
「ああ、済まない。サリーアにクリスタルを預けていたんだったな」思い出しながら怒っているガルバントが、ハッとしてケーラに向き直る。
「サリーアはこの村の留置場にいる。留置場はここから歩いてすぐのところだ。兵士達の駐在所の傍にある。彼らには私から話があったと伝えればいい。そうすれば、サリーアと話出来るだろう」
そしてガルバントがケーラに留置場の場所を説明しているところで、突然外からドガーンと大きな音が聞こえた。そして地震のように家がグラグラと大きく揺れ、応接室の壁の絵が落ちタンスが倒れ、机の上にあった三人のティーカップが落ちてバリンと割れた。
「な、なんだ!」「キャア!」突然の事態にガルバントと奥さんが驚いて大声で叫ぶ。ケーラも同様に驚き、何があったのか確認するため急いで家の外に出た。
「あれは!」教えて貰っていた留置場の辺りに、紫色の大きな物体を見つけ驚くケーラ。
「間違いない。魔薬で出来た魔物だ。この村にも魔薬があったなんて……」
※※※
「はあ……」
ため息をつくサリーア。ここは兵士達の駐在所近くの留置場の中である。地下に作られているので風通しは悪くカビ臭いが、鉄柵が窓に設けられ、日差しはある程度入るようになっている。今は昼を過ぎた辺りだろうか。
「まさか、あの魔族の女が、リリアム王女の仲間だなんて、ちっとも知らなかったわよ」愚痴るサリーア。後で兵士からその事を聞いて、ケーラを陥れた事を後悔している。もっとも、彼女もある意味被害者ではあるのだが。
隣の部屋には、昨晩同じく捕まったバルターがいるが、何かブツブツ言っている様子だ。ただ、声が小さく内容は聞き取れない。
「そもそも、このクソ神官のせいなのよね」隣の壁を睨むサリーア。自分を騙し隷属の契約をしたバルターに対し、徐々に怒りが沸いてきた。隷属の腕輪を付けられている時は、逆らえず言いなりになっていた。そして昨晩、開放された時はその嬉しさが優先してしまい怒りは沸かなかったが、こうやって捕まってしまった事と時間が経った事で、そもそもの元凶と怒りを思い出したようだ。
「あんたのせいよ! どうしてくれんのよ! あんたが私を騙して隷属の契約してなかったら、私までここにいる事なかったんだから!」そう怒鳴って怒りに任せて壁をドンと蹴った。だが、結構大きな音なのに、隣からは何の反応もない。
「……ん?」何か独り言を呟いている?
「困った時にこれを使えばいいと聞いたぞ。このままで終わってたまるか」
何かやろうとしているようだ。だが、既に捕まって留置場にいるのに、何が出来るのか。寝言でも言っているのか?
「全く! 暢気なものね! リリアム王女の仲間に手を出したあんたはもう終わりよ! 今更何が出来るってのよ!」更に怒鳴って何度も壁をドン、ドン、と繰り返し蹴ったり体当たりするサリーア。腹が立って仕方がない。今まで言いなりにされていた怒りがここで段々湧き上がってきた模様。
「う、うるさ……。グ、ググ、グアアアア」突然、何やら隣から動物の唸り声のようなものが聞こえてきた。
「え? 何? 今の声」不審に思って一旦壁当たり散らすのを止めるサリーア。
「ねえ、どうしたのよ?」そして不安になってバルターに声をかけてみる。
「ググググアアアアアアアアア!!!!」そして大絶叫と共に、サリーアが蹴っていた壁が大きな音と共に崩れ、破壊された。というより、爆発した。その衝撃で飛ばされるサリーア。更に留置場の天井が瓦礫となって崩れ落ちてきた。
「キャアアアアア! 誰かあ~~!!」サリーアの絶叫とともに、兵士達が駆けつけてきたが、留置場が壊された事よりも、兵士達は別の事で唖然となっていた。
「ま、魔物だあああ!!!」
※※※
「グアアアア、グアア」
紫色の3mほどはある巨体に、大きな尖った耳とゴブリンのような鷲鼻、2mはあろう細長い手足と体が痩せている魔物が、兵士達の駐在所の近くの地下の留置場から沸いて出てきた。ここ駐在所の前は兵士達の訓練場になっていて、ちょっとした広場になっている。
「やっぱり間違いないね」何度もアクーで見た紫色の魔物。魔薬のせいでああなったのは今までの経験で分かる。そして、都市ではないここガジット村にも、魔薬があった。それに驚いたケーラ。おそらく、昨晩バルターが話していた、メディーの神官から融通して貰った物だろう。と言う事は、メディーには隷属の腕輪だけでなく、魔薬までもが神官の間に広まっている可能性もある。
「あ。あれってもしかして……」巨大ゴブリンの手に、サリーアが握りしめられているのを発見したケーラ。どうやらサリーアは巨大ゴブリンの手の中で気を失っているようで、ピクリとも動かない。多分死んではいないと思われる。
「うーん、どうしよう」少し悩むケーラ。サリーアが人質になっている。別に助ける義理はないし、そもそもあのエルフのせいで自分は捕まった。だが、彼女が死んだら、土魔法の補充が出来ないかも知れない。エルフがこの村に他にいるかどうか分からないし、もしかしたらもう既に補充は終わっているかも知れないが、それを確認する前に死なれたらちょっと面倒だ。だから邪険には出来ないのがちょっと煩わしいと思うケーラ。
そして紫色の巨大な、まるでゴブリンのようなその魔物は、サリーアを右手に握ったまま、広場の真ん中辺りに仁王立ちになって、キョロキョロ何かを探している。
「ちょうどいいね」ケーラが呟いて魔物の元に走っていった。あの広場で戦えば、村の家々を壊さずに済むだろう。広さは小学校のグラウンド程度。そして走って向かってみると、駐在所に居たであろう兵士達五~六人ほどが、武器を持って魔物に対峙していた。
「あれは一体何だ!」「俺は見たぞ! バルター神官がああなったんだ!」「あの神官が? 何故だ?」「とりあえず村民達を避難させろ!」広場に近づくと兵士達が各々叫んでいるのが聞こえた。魔物を倒そうと身構えているが、かなりパニックになっているのは見て取れた。
更に周りの家々からも、蜘蛛の子を散らすように村民達が逃げ惑っている。兵士が落ち着くよう声を掛けながら、この場所から離れるよう指示を出している。
「グア? グアアアアアアアア!!!!」魔物がいきなり大きな声で叫んだ。何か見つけたようだ。その方向をギロリと睨む巨大ゴブリン。視線の先にいたのはケーラだ。
「ボクが狙いのようだね」そんな魔物の殺気だった睨みに全く怯む事なく、ニヤリと笑いトンファーを握るケーラ。寧ろ少し嬉しそうだ。
「ボクもあんたにはかなり腹立っているからね。悪いけど、八つ当たりさせて貰うよ」
兵士達の叫び声からして、あの魔物の正体は、魔薬を使ったあの神官だろう事は分かった。隷属の腕輪だけでなく、魔薬まで持っていた事には驚いたが。とにかく、こいつは自分に隷属の腕輪を嵌め、無理やり自分の裸にしたクズ。しかも更に余計な事をしようとしたクソ野郎。昨晩の事を思い出して改めて虫唾が走るケーラ。
実はかなり我慢していた。本音を言えばサリーアにもミランダにも腹が立っている。だが、人族と魔族との関係を考えて、今後人族と仲良くやっていきたい気持ちを優先して、出来るだけ堪えていたケーラ。しかし、こうやって面と向かって神官を攻撃していい大義名分が出来た。だって魔物化してるし。倒さないと周りの人達危ないし。特に神官は直接ぶちのめしたかった。そしてそれが今は遠慮なく出来る。正直この状況が嬉しくてたまらないケーラ。
「こなくそー!!」叫びながらダッシュして勢いをつけ、思い切り空高くジャンプして巨大ゴブリンの頭の上まで飛び、そして思い切りエビぞりになってバネの要領で反動をつけ、「うりゃあ!」と叫びながら巨大ゴブリンの額めがけてトンファーの長い方で力の限り殴った。かなりの怒りを込めて。「グアアアアア!!」ゴパーン、と鈍い音を響かせながら、そのままうつ伏せに、地面にドーンと大きな音を響かせながら叩きつけられる巨大ゴブリン。叩きつけられた地面がまるでクレーターのようにへこむほどの衝撃。
「うらあ! まだだよ!」スタっと地面に着地して、今度は思い切りオリハルコンの脛で顔にサッカーキックをお見舞いするケーラ。「グベラ! 」呻き声をあげながら顔中心にグルンと回転し、数m吹っ飛ぶ巨大ゴブリン。ズダーンと大きな音を立てて着地する。
「「「「……」」」」そしてその一方的な戦いを、呆気に取られた顔で見ている兵士達。
「あんな女の子が・……」「さすがは魔族と言ったところか?」「すげえな」兵士達がケーラの無双状態に各々驚愕している。
「グ、ググアアアアア!」そこで巨大ゴブリンの怒りの咆哮。何とか起き上がりケーラを睨みながら見下ろす。顎がひしゃげていて口からは紫色の血が滴り落ちている。かなりダメージは会った模様。だが、まだ生気を失っていない。殺気も滾ってきている。右手には未だ気絶しているサリーアを握ったままだ。
「よし。スッキリした」晴れやかな顔のケーラ。殴る蹴るしていたのは単なる憂さ晴らし。腰に手を当ててふう、と一息つく。巨大ゴブリンの殺気や睨みは全く気にも止めていない。
「さて、人質もいるし、タケトと練習したあの技試してみよう」
そう呟いてから片方だけトンファーを装備して短い部分を握り、長い部分を魔物に向けた。それはまるで拳銃を構えているよう。長い部分を銃身、短い部分をグリップに見立て、巨大ゴブリンに向けるケーラ。そして狙いを定め、銃口? に見立てたトンファーの長い部分の一番先に、闇魔法を集中して貯め込む。徐々に先を中心に黒い円盤が広がってくる。
「グア?」何をやっている? 不思議そうにケーラを見下ろす巨大ゴブリン。
「いっけええー! シャドウビーム!」そう叫んで思い切り溜め込んだ闇魔法を射出したケーラ。。目一杯怒りも込めて。ズキューーーン! と、あの有名な白いモビ○ルスーツの放つビ○ムライフルに似た音をさせながら、音速より速いスピードで魔物に向かう黒い光線。因みに技の命名は健人です。
「グアアアアアアア!!」そして黒い光線は額の中心にヒットし魔物の頭部を貫いた。ビームの余韻を残しながらゆっくり後ろにズドーンと倒れる巨大ゴブリン。一撃だった。
「「「「……」」」」 ずっと周りで戦いの様子を見ていた兵士達が、ケーラの技に改めて呆気にとられている。
「もうちょい魔力の絞り方も訓練しないといけないな」ふう、スッキリ、と呟いて、トンファーをまるでリボルバーのようにクルクル回して腰にスチャ、と装着した。
これは健人がケーラと訓練していた際、トンファーの形を見て健人が思いついたのだ。何となく銃に見える形状のトンファーを、銃のように使えたら面白いんじゃないかって、冗談で言ってやってみたら、思った以上に魔力が集中出来て威力が結構強く、そして狙いがつけやすい事が分かった。更に細く長く射出する事で、より威力が増す事も分かったので、ずっと訓練していたケーラ。当然この世界には銃はないし、ビームとか言われても意味がよく分からないケーラだが、なんか語呂がカッコいいので技名は健人が言ったのを採用したのだった。
トンファーは二つあるので、それを片手ずつ握って二丁拳銃のように扱えるし、両方揃えて威力を二倍に出来るし、勿論トンファー本来の打撃攻撃も出来る。ケーラはこの銃モードで遠距離攻撃の可能性が更に広がり、攻撃の幅が大きく広がったのだった。
「余裕だったね。つい倒しちゃったけど不可抗力って事で許されるでしょ」
思った以上に弱かった巨大ゴブリンこと元バルター神官。本来は正式な手続きを得て処罰されるべきだっただろうが、魔物になってしまっては仕方ない。村を襲うかも知れないし。だから必要に迫られて倒した。そう言う事にしよう。と心の中で誰かに言い訳しているケーラ。でも、当人は憂さ晴らしも出来たので、とても満足そうだった。





