新たな事実
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「ん?」
何か様子が変だ。確か、物凄く上玉の美しい魔族の女を、これからたっぷり時間をかけて甚振るはずだったのだが? 何だか頭がボーっとする。
「ようやく目が覚めたか」そこで怒りの籠った、冷めた声の青年の言葉が耳に入る。
「なんだお前は?」見た事のない黒髪の青年に、状況が飲み込めず質問する鷲鼻の男。
「バルター神官。あんた大変な事してくれたな」後からやってきた、ここガジット村の警備をしているメディー直属の兵士が、呆れた様子で声を掛ける。
「!」そこでようやく自分が縛られている事に気付いた、バルターと呼ばれた神官。
「く、この! 何故儂を縛っておるのだ! さっさと縄を解かんか! 儂は神官だぞ! 無礼な!」そしてジタバタと暴れるバルター。
「……その言葉、ボクを見ても言える?」
腕を組んで威圧的にギロリと睨みつけ見下ろすケーラ。バルターに剥がされた服は破れてしまっていたので、一度健人が宿に戻り、服を取ってきてくれていた。なので今は裸ではない。一応トンファーも装備している。
「! お、お前! 儂が嬲ろうと枷をつけていたのに!」何故この美しい魔族の女は自由になっている? 枷を付けていたはずなのに? 隷属の腕輪まで外れている?
「嬲る? とは、どういう事ですの?」
ケーラに隷属の魔法をかけようとしたところで、高圧的ながら、高貴な言葉使いの凛とした別の女性の声が質問する。
「お、お前、い、いや、あなたはもしかして、リリアム王女?」その声の主を見て驚愕するバルター。
「あなたが枷を付け、隷属の契約をし、捕らえていた魔族の女性は、私の仲間なのですが、あなたは彼女に何をしようとしていたのです?」バルターの疑問に答えず、蔑んだ目で縛られて座しているバルターを見下ろし、質問するリリアム。
「だ、だがしかし! その女は魔族ですぞ! 王族なのに魔族と仲間とはどういうおつもりか!」
「あなたは、我が父、王メルギドが、魔族と和平締結した事を、ご存じないのですか?」知らないはずはない。分かっていて聞いているリリアム。
「し、しかし! 魔族ですぞ! この村を壊滅した魔族なのですぞ!」
「だったら、何だよ?」バルターの不遜な態度に、健人が堪えきれず殺気を溢れさせる。レベルが高く冒険者として一線級の健人の殺気。戦闘経験のないバルターには、到底耐えられない。健人の殺気に当てられ、一気に顔が青ざめ汗が額から滲み、ガタガタ震え出すバルター。
だが、それをリリアムが諌める。
「タケト。気持ちは分かります。私も同じ気持ちです。ですが、素人にそれは駄目です」健人を諌めてから、再度バルター神官に目配せするリリアム。そして明らかに苛ついた表情でバルターを睨み、リリアムに諫められたので何とか殺気を抑える健人。殺気が収まったので、ほっとした様子で息を吐くバルター。
「では、あなたはケーラが単に魔族だから、という理由だけで、陵辱しようとなさったのですね?」
「りょ、陵辱などと……」
「なら、この腕輪はなんですの?」先程嬲る、とか言ってましたわよね? と呟きながら、ケーラから外した木の腕輪を取り出すリリアム。
「そ、それは……」もう言い逃れできない。リリアム王女なら当然その腕輪を外す事は可能だ。がっくり項垂れるバルター。
まさかこの見た目麗しい魔族が、リリアム王女と仲間だとは。そもそもリリアム王女がこのガジット村に来ている事さえ知らなかったバルター。
「あなたには然るべき処罰が下されるでしょう。では、宜しくお願いします」そう言って兵士に目配せするリリアム。
「はっ!」姿勢を正し敬礼する兵士。そして縛られたバルター立ち上がらせ、部屋の外に連れ出そうとした。
「お、お前達、この女は魔族だぞ! この村を壊滅させた張本人だぞ!」だが、そこで大声で叫ぶバルター。未だ見苦しく言い訳をしている。
「この村を壊滅させたのはケーラじゃないだろ。そこを自分の都合のいいように混同して解釈すんな」その様子に我慢出来ず、イラっとして口を挟む健人。健人はずっとこの神官を睨んでいる。騙され捕まったケーラよりも健人の方が怒っているかも知れない。
「あなたがやった事は、王の意思に反する行為です。王に対する反逆と捉えられても仕方のない行為です。厳罰が成される事を覚悟なさい」冷たい視線でバルターを見据え、きつく言い伝えるリリアム。言い方は冷静だが、リリアムも相当怒っているのが分かる。そしてリリアムに言われては反論出来ない。そこでようやく諦めがついたのか、ガックリ肩を落とすバルター。
そして兵士が項垂れたバルターを連れて行こうとした時、ケーラがストップを掛けた。
「ねえ。この腕輪、どこで手に入れたの?」
「……メディーの神官から譲って貰ったのだ」
「……て事は、メディーでも隷属の腕輪は出回っているんだ?」
「フン。何を今更。メディーの神官達は腐る程持っておるわい」やや開き直りにも見える、バルターから放たれた衝撃の真実。
「……何て事?」驚くケーラ、そしてリリアムと健人。
そもそも、隷属の腕輪は禁忌の品。出回っていい物ではないはずなのだ。アクーにあれだけあったのは、単にビルグとロゴルドという、二人の魔族が、神官に協力してもらうために渡していたからだ。何故ガジット村の神官のバルターが、隷属の腕輪を持っていたか、その理由は分かったが、バルターによると、メディーには腐る程あるという。という事は、神官達の間では、思っている以上に隷属の腕輪が拡散されている事になる。
「これ、かなり大きな問題だよ」唖然とするケーラ。
「そうね……。お父様に、事の重大さを伝えないといけないわね」信じられないと言った表情のリリアム。
隷属の腕輪を使う目的は大体決まっている。何に使うのか想像できる。沢山出回っていると言う事は、そういう事に常日頃使われているという事だ。そして、そもそも隷属の腕輪は魔族にしか作れない。と言う事は、神官と繋がっている魔族が、メディーにもいるという事だ。
ガジット村には単に休憩のつもりで立寄ったのだが、まさかの事態に見舞われ、更にとんでもない事実を発見する事となってしまった。魔薬の件以上に大変な事態かも知れない。
「そろそろ、俺お暇していいか?」健人達三人が神妙な顔をしている中、ケーラを救った男こと、ハロウズが声を掛けた。
「ああ。引き止めてすみませんでした。ケーラを救ってくれてありがとうございます」」
「今回、ボクを助けてくれてありがとうございました」
「私の仲間を助けてくれた事、改めて感謝します」
三人三様で改めて感謝の意を現す。さすがに照れるハロウズ。
「俺の方こそ、先日は済まなかった。魔族といえど、色んなやつがいる事を改めて知ったよ」
「そう言ってくれると嬉しいです」ケーラが笑顔で答える。その笑顔につい顔が真っ赤になるハロウズ。やっぱり可愛い。
「でも、ミリーちゃんとお母さんには、どんな顔して会えばいいんだろう……」
神妙な顔をするケーラ。宿が同じだから会う事もあるかもしれない。エルフに拐かされたとは言え、ケーラが神官に捕まる手伝いをした二人。友好的な関係だと思っていたのだが、こうなってしまっては会うのは気まずい。ケーラとしては、ミリーとは今後もお友達として会いたいのだが。
「……ミリー?」ケーラの独り言に反応するハロウズ。
「なあ? 今ミリーって言ったか? どんな子だ? 」そして焦った様子でいきなりケーラの肩を掴み、ガクガクとケーラを揺さぶるハロウズ。
「え、ええ。ええ。言いました、けどおお?」揺さぶられて声がガクブルするケーラ。
「えと、茶色いおさげの女の子です。八歳くらいかな?」そしてガクガクを止めてもらって改めて特徴を伝える。
「まさか……。生きてたのか?」
※※※
「ん~? 誰~?」ベッドに入って寝ようとしていたところで、部屋のドアをノックされた。寝ぼけ眼でドアを開ける。
「こんばんわ。夜遅くにごめんね」そこには、自分が騙してしまった、あの綺麗な魔族のお姉ちゃんがいた。
「あ……。ケーラ、お姉ちゃん?」気まずそうに名前を呼ぶミリー。
「そうだよ。お母さんいる?」出来るだけ気を遣わせないよう、腰をかがめて視線をミリーに合わせ、努めて笑顔で聞いてみるケーラ。
もう夜遅いが、ハロウズがどうしても確認したいというので、宿の受付で無理を言って、ミリーが宿泊している部屋を教えてもらい皆で部屋に向かったのだ。ハロウズの他にも、健人とリリアム、そして白猫もいる。
「ヒィ! 殺さないで! 私が悪かったから! その子には何もしないで!」
ケーラの姿が見えたのだろう。奥の方から女性の叫び声が聞こえた。まさか殺されずに助かっていたとは。なら、ここに来たのはきっと仕返しだ。女性はそう思ったようだ。そもそも、エルフに引き渡した後どうするかは具体的に聞いていなかった。きっと殺すのだろうと思っていたのだが、まさかこうやって生きていたとは。
「何もしません。確かに、今回の事はショックだったけど。それより、会って欲しい人がいるんです。だから、夜分に失礼だと思ったけど、伺ったんです」
務めて冷静に声を掛けるケーラ。正直腹は立ってはいる。だが、今は自分の気持ちをとりあえず置いておいて、用事がある事を伝える。
「ミランダ? ミランダなのか?」ハロウズが、ケーラとのやり取りの後ろの方から部屋を覗き込んで、叫んだ女性の顔を一目見て驚いている。
「え? その声・……。ハロウズなの?」女性もハロウズの顔を見て同じように驚いている。
「ミランダ!」「ハロウズ!」
そしてお互いの名前を呼び合い、二人は駆け寄り、部屋の中で抱き合い、涙を流した。
「ねえ。お母さん。その人誰?」その様子に目を丸くしているミリー。さっきまで寝ぼけまなこだったが、二人の感動の再会の様子に目が覚めてしまったようだ。
「ああ。あのミリーがこんなに大きくなったんだな」ミランダが答えるより先に、ハロウズがミリーを、涙を流しながら抱き寄せる。よく分からないのでキョトンとするミリー。
「お前達二人共、五年前に魔族に殺されたとばかり思ってた」
「私も、あなたが冒険者として戦いに行って、そのまま死んだのかと」
どうやらこの家族は、五年前の魔族との戦いではぐれてしまっていたようだ。このガジット村は彼らの生まれ故郷で、魔族が襲ってきた際、ハロウズ含む冒険者と兵士達が、魔族に戦いを挑んだ。その最中、ミランダとミリーは何とか隠れ通し、魔族に見つかる事もなく、生き延びる事が出来たのだった。
だが、ミランダは、この村でずっとハロウズを待っていたが、彼は中々帰って来なかった。なので魔族にきっと殺されたんだと思い、傷心のまま壊滅したガジット村からミリーと共に離れた。一方ハロウズは、思ったより時間のかかった魔族との戦いを終えて村に帰ってきたら、家は破壊され、家族がいなくなっていた。だから、魔族に殺されたと思っていたのだ。
単にお互いすれ違いしていただけの家族。だが、こうやって奇跡的に出会う事が出来た。
「良かった。本当に良かった。二人共生きていてくれて」未だ涙が止まらないハロウズ。
「ねえ。もしかしてお父さん?」当時まだ二~三歳くらいで小さかったミリーは、父親をよく覚えていない。
「ああ、そうだ。お前のお父さんだよ」そう言ってミリーを強く抱きしめるハロウズ。
それを傍らで見て微笑んでいるケーラ。因みに健人とリリアムは邪魔にならないように部屋の外にいる。更に白猫も。
「あの、私、あなたに酷い事を……」少し落ち着いてきて、それから申し訳なさそうにケーラに声を掛けるミランダ。ハロウズは魔族に殺されたわけじゃなかった。なら、自分には魔族を恨む必要がない。それに気づいたミランダは、ケーラを騙し、エルフに引き渡した事に対し、罪悪感を感じたのだ。
「ミリーちゃんにお父さんが帰ってきた事が、ボクも嬉しいので、もういいです。ご家族で幸せに暮らして下さい」
本当は腹が立っている。もう少しのところでどこかの知らないキモいオッサンにアレコレされるところだったのだ。しかもタケト以外に初めて真っ裸を見られた。ついでにハロウズさんにも。だが、せっかくの家族の再会に水を指すのはよそう。だから、自分の怒りは抑えておこう。そう決めて務めて笑顔で答えたケーラ。
「色々迷惑かけて済まなかった。あんたみたいな魔族がいるって事、他の連中にも伝えるよ。せめての罪滅ぼしにな」ハロウズも家族が魔族に殺されていないなら、魔族を恨む理由がない。それどころか、騙したミランダを許すという。タケトとか言う奴の言う通りだ。魔族にもいい奴はいた。なら、せめて自分達が、今後この村に魔族が来ても、喜んで迎え入れてあげよう。そう決めたハロウズ。もう種族で差別する事はしない。
「お姉ちゃん。お父さん見つけてくれてありがとう」
そしてミリーはようやく父親だと理解して、嬉しそうにしている。母親であるミランダは、ハロウズがいなくなってから、ずっと魔族を恨んでいた。その間、ずっと元気がなかった。そして今回ミランダは、ケーラに対して恨みを晴らすつもりで騙し、そして自分はそれにしぶしぶ協力した。だってお母さんに元気になって欲しかったから。自分が協力したらお母さんは元気なれる、そう聞いたから。
だが、ケーラを騙した事をミリーはずっと心の奥底で後悔していた。自分達の危機を助けてくれたお姉ちゃんを騙した事を。こんなに素敵な笑顔を振りまいてくれる、綺麗で優しいお姉ちゃんを騙した事を。
「……ごめん、なさい」そう呟いて涙目になるミリー。そしてグスっと鼻を啜る。
「ヒック。ヒック。お姉ちゃん。ごべんなざい……ごめんださい」目から涙が零れ落ち、呂律が回らないほど嗚咽するミリー。自分の後悔に気づき、涙が溢れる。
「気にしないでね。もう終わった事だし。ボクはこの通り元気だから」そう言って優しくミリーを抱きしめるケーラ。
「うわあああ~~ん! ごめんなさいいい~~」ケーラに抱き寄せられ益々涙が止まらないミリー。お姉ちゃんの優しさが嬉しい。でも、こんな優しいお姉ちゃんを騙したのが申し訳ない。そんな自分が許せない。
ケーラも涙を流している。頬を伝う涙を拭う事なく、ずっとミリーを抱きしめている。まだ子どもなのに、大人の事情で汚い事をさせてしまった。それをさせた大人が悪い。ミリーには何の罪もない。そう思うと、ミリーを責める気は一切起こらないケーラ。寧ろこうやって、反省、後悔させている事が申し訳なく思ってしまう。
「ケーラ。そろそろ夜遅いから、俺達はお暇しようか」部屋の様子を覗きながら、ケーラに声をかける健人。そろそろ日付が変わる時間だ。子どもが起きていて良い時間ではない。
「そうね。後はご家族水入らずでゆっくりされた方がいいわ」リリアムも健人に同意する。
「にゃあ~おうふ」そして白猫の大あくび。
二人の言葉と一匹の大あくびを聞いたケーラも、涙を拭いながら、未だ嗚咽しているミリーから離れて立ち上がった。
「本当に、すみませんでした」部屋から出ていこうとする様子の三人と一匹を見て、ミランダが改めてケーラに頭を下げる。
「皆さん、本当にありがとう」そしてハロウズが改めて礼を言う。
「いえいえ。今度はご家族で末永く幸せに暮らして下さいね」今度は我慢の要らない、心からの笑顔で答えるケーラ。
「ヒック、ヒック。お姉ちゃん、また一緒にご飯食べていい?」少し落ち着いた様子のミリーが、涙を拭いながらケーラに声を掛ける。
「勿論だよ」満面の笑みで、ミリーに答える。それを見たミリーがようやく嬉しそうに笑顔になった。
「じゃあね」そして笑顔のまま、ケーラが挨拶をして、健人達はミリー達の部屋から出ていった。





