脇役だけど結構重要だった男
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いやだ、いやだ、ボクにはタケトしか触れちゃダメなのに。
ボクが間違っていたの? 人族と仲良くなれないの? でも、この世で一番大好きなタケトは人族なのに。
これから始まるであろう、暴力的な扱いに抗えず、絶望しながら、自分の思いを顧みるケーラ。目を瞑る事くらいしか、抗える事は出来ない。名も顔も知らないこの男が、自分の胸に手を伸ばすところまでは見ていたが、その後はずっと目を瞑っている。恐怖に怯え全裸にされた身体を震わせながら。閉じた瞼からは涙が頬を伝って流れる。
「……?」
何も起こらない? 声が聞こえなくなった。鷲鼻の下卑た嗤いをしていた男が、自分に触れようとしていたはずなのに? 触られてさえいない?
ドサっ、と何かが地面に倒れる音が聞こえた。何があったんだろう? 恐る恐る瞑っていた目を、片方だけ開けて見てみる。すると、その白服の男が自分の足元にうつ伏せで倒れていた。
「え?」何が起こったか分からないケーラ。
「やっぱりそうか」部屋の扉がいつの間にか空いていて、そこから声が聞こえた。
※※※
「この村……確か魔族に全滅させられていたはずだが」
入り口を入ったところで、男が村の様子を見て一人呟いた。
今の時間は既に夜中だが、大きな通りが奥まで伸び、その左右には家々と様々な店が軒を連ねている。それらの窓には明りが灯り、時折笑い声が聞こえてくる。煙突から煙が空へ上がっていく家も見受けられる。人々が争いとは無縁の生活している証拠だ。
「……そうか。ここまで復興したのか。人の力は凄いな」フフ、と辺りを見回しつつ、感心する男。
ここガジット村は、五年前の魔族との戦いで、ほぼ全滅してしまった村である。それが、そんな過去がなかったかのように、まだ五年の月日しか経っていないのに、ここまで復興しているとは。それほど、人々の努力があった証拠だろう。
そう言えば入り口の警備兵は冒険者だった。メディーから近いので、王都直属の兵士が警備をやっているものだと思っていたのだが。確か兵士はこの村に10名ほど駐在しているはず。なのにわざわざ冒険者に入り口の警備を変わって貰っているのか? どうやら男はこの村の事を詳しく知っているようである。
そんな事を考えていたら、丁度、その王都直属の兵士が二人、向こうから歩いてきた。夜中で暗いのもあって、二人ともランプを片手に持っている。その灯りが、胸にある赤い紋章を照らしていたので分かったのだ。
「村長の依頼で、村中を警戒するため入り口の警備を交代して貰ったが、今のところ問題なさそうだな」
「そうだな。まあ、魔族だからと言って、余り意識しすぎるのも良くないのかも知れないが」
「……魔族?」二人の兵士の会話から聞こえてきた、その単語に反応する男。
「ん?」兵士の一人が何かに気づいた。とある店の傍で馬車を片づけているようだ。こんな夜遅い時間に馬車を使ってどこかに行っていたのか?
「失礼」夜なので近所に気を使いつつ、馬車を片づけている女性に声をかける二人。
「な、何よ?」女性が驚いて兵士達に返事する。
「ああ。なんだ。魔法屋のサリーアか」暗くて気づかなかったが、よく見ると魔法屋の傍だったようだ。
「あら。王都直属の兵士さんが、どうしてこんな村中に? 入り口の警備はいいの? それとも、あなた達は今日は非番?」兵士だと分かり、少し焦りの色を見せるサリーアと呼ばれた、耳の尖った女性。
「いや。そちらこそこんな夜中に馬車の片づけって、どうしたんだ?」
明らかに馬車を使った後だというのが分かるが、こんな時間に商品を納品しに行って帰ってくるなんて事はないはずだ。商売の取引なら普通は日の高い時間帯にするはずだからだ。そもそも魔法屋に夜中急ぎの注文が入るとも思えない。
「ア、アハハ。ちょっとね」チラっと、とある方向を目配せするサリーア。
「……あっちの方角は、神殿か?」その視線を見逃さなかった兵士。
その言葉にビクっと反応するサリーア。明らかに動揺している。
「何しに行ったんだ?」尋問する兵士。どうやら神殿に何か用があったようだ。魔法屋がこんな時間に? それとも個人的な理由? なら、馬車は何に使ったんだ? ますます怪しい。そもそもここから神殿は歩いて行ける距離だ。なのに馬車を使ったのか?
「あ、あんた達には関係ないでしょ! もう遅いから家に入るよ!」やましい事があるのだろうか。急に兵士二人に怒鳴るサリーア。
「ダメだ。俺達がこうやって入り口の警備をせず、村中を歩いているのには理由があるんだよ。とりあえず事情を聞かせて貰おうか」余計に怪しいと思う兵士二人。そう言って家に入らせまいと、サリーアの前に立ち塞がる。
「もう! 分かったわよ! 言うわよ! 魔族よ。魔族を神官に引き渡したのよ」半ばヤケクソに答えるサリーア。どうせ魔族の事だから言っても問題ないだろう。人族が恨んでいるのは分かっているし、理由を明かしても大丈夫。そう、中途半端に開き直って短絡的に考え、正直に答えてしまったサリーア。
「「「何!」」」 傍らで事の一部始終を聞いていた、先程村に入ったばかりの男までも、同じく声を出した。
「え?」「なんだ?」「あんた誰?」兵士二人とサリーアがそれぞれ、その男の反応に驚いた。兵士二人とサリーアは、この時点で初めて、男が近くにいるのに気づいた。暗かったのもあって分からなかったようである。
「なあ。もしかしてその魔族って、相当別嬪の、髪が黒髪と紫の女じゃないか?」ずっと黙って事の成り行きを見ていたその男が、自分の知っている魔族の特徴をサリーアに言ってみる。
「ど、どうして知ってるの?」そして言い当てられ驚くサリーア。
「ちょっと待て。それより、なんで神官に引き渡したんだ?」続けて兵士の一人がサリーアに聞く。その特徴は、今日村に入ってきた魔族と一致している。
「だって、魔族だから?」語尾を疑問形に上げて理由を語るサリーア。本当の理由は明かさずに。
「まずい」「ああ。万が一の事があったら」頭を抱える兵士二人。
すると、傍らで話を聞いていたその男が、突然神殿の方に走り出した。
「あ! ちょっと! 勝手な事しないでよ!」その男の唐突な行動に、つい声を上げて引き留めようとするサリーア。
「サリーア。あんたとんでもない事してしまったな。あんたに話がある。一緒に来てくれ」だが、それは叶わない。明らかに怪しいサリーアの様子を見て、兵士達がいる駐在所へ来るよう、サリーアの腕をとる兵士。しまった、と自分の浅はかな発言を悔いるも、時既に遅し。がっくり項垂れ兵士の言葉に従うサリーア。
「おい。お前はあの男を追ってくれ」サリーアが逃げないよう、腕を縄で縛りながら、手の空いたもう一人の兵士に声を掛ける。
分かった、と言って、もう一人の兵士が走って後を追いかけ神殿に向かった。
※※※
神殿の扉には鍵がかかっていたが、扉に耳を当て何か聞こえないか聞いてみると、微かに女の叫ぶ声と男の声が聞こえた。何か良くない事が起こっている予感がした男は、そのままノックもせず扉を思い切り蹴破った。そして中に入ったが、一階には誰もいない様子。だが、再度奥の階段から声が聞こえて行ってみると、地下に繋がる階段があった。何とか間に合った。
「しかし、これは……」
入り口から男がケーラを眺めて呟いてしまった。美しい。つい見惚れてしまった男。赤い瞳に黒と紫の髪に、整ったプロポーションと存在を強調しているような美しい双丘。更にスラっと伸びた美しい白い脚に、露になった白い大腿。これが魔族? あられもない姿で鎖に繋がれ、頬には涙が伝った後が残り、そして怯えた様子は、荒々しく獰猛でまるで魔物のような、自分が知っている魔族とは程遠い。寧ろ天使のようにも見える。
「あ、あの……」男にジッと黙って自分の裸体を見られて恥ずかしくなるケーラ。だが、それより状況が飲み込めない。
ケーラの呟きにハッと我に返った男。そして黙って部屋の中に入った。ビクっと反応するケーラ。もしかして、この白服の男の代わりに何かするのだろうか?
そして、倒れている白服の男のうなじに刺さった矢を抜き取り、ポケットを弄る。チャリと金属が重なる音と共に、鍵を取り出した。そして、ケーラの腕と足の枷を外した。
枷が外れてそのままペタンとその場に蹲るケーラ。真っ裸なので隠したかったのだ。そのケーラの様子を見て、男が白服の男の服を剥ぎ、ケーラにかけた。
「これで我慢しろ」不躾に話す男。
「あ、あの、ありがとう、ございます」どうやら助けてくれたようなので、お礼を言うケーラ。でも何故?
「……あんた、本当に普通の女の子なんだな」余りにも美し過ぎるその姿が、普通と言っていいのかどうか迷うところだが。
「そうなの、かな?」良く分からなくなっているケーラ。自分は普通のつもりだが、人族はそうは思っていない。
そんなやり取りをしていると、部屋の外から慌ただしい駆け足の音が複数聞こえてきた。
「ケーラ!!」
ケーラのヒーローの足音だった。その叫びに振り返る男と、ぱあ、と喜びと安堵の笑顔を浮かべるケーラ。そして後からリリアムと、彼女に抱えられた白猫が同じく駆けてやってきた。
「!」
健人は蹲っているケーラを見てハッとする。白い服で隠されているが、明らかにケーラは裸だ。しかも部屋には手枷足枷が落ちている。そして部屋はまるで牢獄のようなレンガ造り。間違いない。ケーラはここで捕まっていて裸にされていた。
「あ! あんたは!」
そして傍に立っているこの男。見覚えがある。以前ケーラを市場で弓矢で傷つけた男だ。
「よくも、よくもケーラをおおおおお!!!」怒髪冠を衝く健人の怒り。小動物なら即死しそうな殺気が一気に溢れ、男を睨んだままスラっと腰につけた刀を抜く。
「タケト! 違うの! 待って!」健人の怒りの様子にケーラが慌てて叫ぶ。
「何が違うんや! 俺のケーラを、俺のケーラを! 一度だけやなく二度も……!」目が血走り、鬼の形相で激昂する健人。
だが、怒りに我を忘れている健人に、ケーラが急いで胸に飛び込むように抱きついた。抑えないとこの男の人を殺してしまう。
「落ち着いて! 怒ってくれるのは嬉しいけど、ボクの話を聞いて!」ね? とタケトを何とか諫めるケーラ。
「……一体、どういう事なんだ?」
全く怒りが収まらない健人だが、ケーラに諌められ何とか言葉を発する。
「この人は、ボクを助けてくれたんだよ!」
「え?」