暗躍する様々な人々
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耳の尖った女性が、とある建物の扉をノックする。そこは魔法屋から歩いて五分程のところだ。中から返事が聞こえ、慣れた様子で中に入る女性。
「どうした?」座って机に向かい、何か書類を作成している、毛髪の乏しい頭に、ゴブリンのような鷲鼻の、白服の痩せた中年男性が、入ってきた女性に振り返って声を掛けた。
「さっき魔族がうちに来たわよ」聞かれて答える、耳の尖った女性。
「何だと?」魔族。その言葉を聞いて、驚いた様子で座っていた椅子から立ち上がる男性。
「それはホントか? 本物か?」焦った様子で女性に駆け寄り、問いただす。
「ええ。本人も認めてたし」
「まさかこの村に魔族が来るとは。なら、倒さないといけない。儂だけで出来るか? うーむ」魔族は敵だ。魔物と同じだ。それが村の中に入ってきたとなったら殺さないといけない。光属性魔法を持つ自分だけで何とかなるか? 村長を焚きつけこの村に滞在している冒険者を募るか? 警備している兵士達も声をかけるか?
「でも、これが物凄く可愛い女の子だったのよ」ニヤリとする女性。
「ほほう……。それはそれは」その言葉を聞いて、殺そうと思っていたのを改めた様子の男性。女だったのか。しかも相当上物らしい。
「なら、儂が甚振ってやらんとのう」そう呟いてニヤリとし、下卑た嗤いを浮かべながら、何かを思案している白服の男。
「魔族だから遠慮なく色々弄べるわよ。だから、その子をここに連れてきてあげるから、その代わり……」そう言いかけたところで、おもむろに女性の胸を鷲掴みする。「キャッ!」突然敏感なところを掴まれ、声が出る女性。
「いい女なんだな?」ギロリと睨むように、女性の胸を掴みながら、顔を近づける鷲鼻の剥げた中年男性。
「え、ええ。それは間違いないわ。私なんか敵わないくらいよ。だから……」気持ち悪いと感じつつも、抵抗できず怯えた様子で中年男性を見つめ、長袖の裾を捲ってそれ見せる女性。
「ふん。いいだろう。連れてこい」そう言って机の引き出しに入ってあった、木の腕輪を取りだし、ニヤリと嗤った。
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「タケト~。大好き~」
モニョモニョしながらクネクネしながら、リリアムがベッドの上でものっそい甘えている。ちょっと気持ち悪いと思ってしまう健人。
「どうした王女殿下?」なのでいじわるを言ってみる。
「もう! タケトはその呼び方しないで!」プクっと頬を膨らませむくれるリリアム。出来たらお前と呼んで欲しい。
「その言い方はダメなの。分かった?」そして軽く健人の頭をポンと叩いてメッっとするリリアム。
「……タケト~、逢いたかったの~」そして再びクネクネを開始する。
「逢いたかったって。ずっと一緒にいるだろ?」リリアムの様子に呆れ気味の健人。しかも今日は昼からずっとこの調子である。そろそろ夕食の時間をも過ぎようとしている。昼食は二人分を部屋に持ってきて貰ったのだが、夕食も持ってきて貰うのはさすがに宿の人に気を使う。そしてそろそろ腹が減ってきた健人。
「そういう事じゃないの~。もう私ね、あなたがいないと駄目なの~」酔っ払ってんじゃないか? と思うほど、クネクネしているリリアム。
「ほんの少し離れて分かったの。私タケト病なの」離れていたのは、別の宿に行った間の一~二時間くらいだろう。本当にほんの少しだ。
「……うん。病気だな」即答で同意する健人。
「そうなの~。病気なの~」病気と言われたのに、何故か嬉しそうにニヨニヨしながら返事するリリアム。そして何度も健人にキスをする。
「本当、どうしたんだ?」さすがにちょっと怖くなる健人。
「大好きなの。もうこれ以上無いくらい大好きなの。ずっと一緒にいて欲しいの。離れたくないの」
そして今度はジッと真剣な目をする。
「愛してるの」
「……マジですね」前の愛してると言ってみた、とは違い、本気で言っている模様。王女殿下の愛してるというお言葉。ズシンと何かが乗っかってきた気がする健人。重い。重すぎる。
「もう今日結婚していいくらいなの。王女とかもういいの。家族? 誰それ? 私タケトがいればそれでいいの」
「それはさすがにあかん」王女殿下の額にチョップする健人。きゃん、と可愛い声を出すリリアム。
「でも、例えばこのままずっと冒険者を一緒にやっても良いの。健人が望むなら、あなたがいた村に行って、一緒に農業やってもいいの。自分の立場とか、そういう事より、あなたの傍にいたいの」チョップされた額を手でさすりながらも、ずっと真剣な眼差しで、そう語るリリアム。
「あのなリリアム。それは多分、恋に恋してる状態だと思うぞ?」このままだと本当にそうやりかねない雰囲気のリリアムを、健人が諌める。
「そうなのかしら?」そもそもリリアムの初恋である。恋愛経験が未熟なリリアムなら、恋に溺れる事はあり得る。
「気持ちは嬉しいし、俺もリリアム大好きだから、いつかそういう事になるだろうけど、恋に溺れて事を急くより、落ち着いてから、冷静になってからキチンと考えような」そう言ってブロンドの美女の頭を優しく撫でる。
「本当、真面目ね。でも、勢いも大事だと思うわよ」健人の鼻先にちょんと口づけをするリリアム。
そしてこれからもう何度目か分からないイチャコラをおっ始めようとなった時、「にゃんにゃんにゃーーーー!!!」と、白猫が大声で鳴きながら、二人のいる部屋の扉をガリガリ引っ掻いた。
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「お姉ちゃん、ケーラって言うんだ」
「そうだよ」茶髪のおさげの少女、ミリーに微笑みかけるケーラ。
ケーラと健人が宿泊している宿の食堂で、食事をしているケーラとミリー。他に、ミリーの母親と思われる女性も同席している。
「でも、あなた魔族に見えないくらい、色が白くておキレイよね。角があるから分かるけど」その女性がケーラを見てそう話す。
「ありがとうございます。でもボクの肌の色は、魔族でも珍しいらしいんです」丁寧に頭を下げ、お礼を言うケーラ。
「そう。でもパッと見た感じ人族と変わらないわね。あなたみたいな魔族なら、私も気兼ねなく会話できそう」微笑む女性。それに合わせてケーラも笑顔になる。
「ねえケーラお姉ちゃん。魔族の都市ってどんなところ?」ややぎごちなくフォークを使い、食事としながら、ミリーがケーラに質問する。
「そうだなあ。薄暗い。ご飯が美味しくない。魔物が多くて鬱陶しい。あと、パパがうるさい。ちょっとウザい」ミリーのたどたどしい様子を見かねて手伝いながら答えるケーラ。魔王にウザいと言えるのは、ケーラくらいのものだろう。
「ケーラお姉ちゃんのパパってどんな人?」
「うーん。子離れ出来てない。仕事は細かい。でも責任感は強い。て感じかな?」
「へー。立派な人っぽいね」
「まあ。人によっては立派といえるかもね」アハハと若干汗を掻きながら苦笑いするケーラ。まさか魔王だとは言えない。
そうやって楽しく歓談し、食事が終わって、ケーラが食事代を全て支払った。申し訳なさそうにする女性。気にしないで下さい、と笑顔でニッコリ答えるケーラ。
「ケーラお姉ちゃん、ありがとね」そう言って手を出すミリー。
「こちらこそ。楽しかったよ」笑顔でその手を握るケーラ。だが、ミリーの手を握った時、何かがチクっと刺さったような気がした。
「……え? あれ?」すると、いきなり目眩がするケーラ。そして足がふらつき、その場にバタンと倒れてしまった。
「これで良かったの?」ケーラが倒れ、少し不安気な表情で女性に問いかけるミリー。幼い少女は女性に逆らえず、仕方なく指示に従った。そして、自分の気持ちが正しいかどうかさえ、良く分からない。
「あなたは気にしなくていいの。後は大人に任せなさい」
意識が遠のく中、そう話す声が聞こえた気がした。そして、徐々にケーラの意識が遠のいていった。
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