すぐの再会
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大通りを奥へ進むと、高級な宿がちらほらと散見するようになってきた。以前真白と共にベルアートの宿に泊まった事のある健人だが、あのレベルの宿だ。リリアムのような王族でも遜色のない立派な宿だ。王都メディーへの中継地とあって、それなりの宿もこの村にはあるようだ。
「お金はあるけど、こんなところで無駄使いしたくないわねえ」王女なのに結構庶民派のリリアム。
「でも、リリアムの事を考えたら、余り安いとこ泊まるのもどうなんだろうな」
ガジット村の入り口で、王家直属の兵士達に、健人とケーラはリリアム王女殿下の護衛だと嘯いた。それなのに、王女殿下と護衛の冒険者が同じ安宿に泊まるとなると、兵士達に怪しまれるのではないか? それが気になった健人。そして三人一緒に高級宿に泊まるとなると、それはそれでお金が勿体ない。なら、リリアムだけ高級宿に泊まり、健人とケーラは、別の安宿に泊まる方が、無駄なトラブルが起きないと思ったのだ。何よりその方がお財布に優しい。それを二人に話し、その通りにしようという事になった。
「じゃ、そういう事だから、ボクとタケトはグレード落とした宿に一緒に泊まるね。リリアムだけ高級なとこ泊まればいいよ」
「ケーラ。あなたそんな事言って、タケトを独り占めする気でしょ?」
ギロリと睨むリリアムに対し、視線を逸らしてヒューヒュー口笛を吹いてごまかすケーラ。それを呆れた様子で見ている健人と白猫。健人のカバンの中から首だけピョコンと覗かせながら。そしてガジット村に入ってから、この美女二人は腕に絡まってこない。何とか我慢しているのは偉いと思っている健人。それが偉いと思う事自体どうなんだ? とも思ってはいるが。
「一緒の宿なら、俺とケーラは部屋別々にするから心配しなくていいよ」ケーラだけ特別扱いするとリリアムが可哀想なので、同じ部屋には泊まらない。そもそも健人だって一人の方が気が楽だ。とりあえずガジット村には二泊ほど滞在する予定にしている。買い出しだけでなく少し観光もしたいと思っている健人。
「じゃあ、それでいいから、タケトと同じ宿にするよ。ボクだけ新たに別の宿探すのも面倒だし」
「まあ、部屋が別なら、ケーラとタケトが同じ宿でもいいわ」
方針が決まって、健人とケーラは、出来るだけリリアムが泊まる高級宿の近くを選んだ。そして別の宿に泊まる事になったリリアムが、今晩健人のところに行く事になった。
「ま、この村の入り口でも面倒かけたし、宿が違うだけだけどタケトと離れるのは辛いだろうからね」そう言ってケーラが今晩の健人タイムをリリアムに譲ったのだった。
そしてリリアムと別れ、健人とケーラは二人で別の宿に向かった。安いと言っても彼らはお金に余裕があるので、宿の中でも値段の張る、部屋に風呂がついている部屋を選んだ。たまたま二部屋のみ風呂付きで、しかもどちらも空いていたのはラッキーだ。
「あれ?」受付をしていると、ケーラが誰かを見つけた。
「あ、お姉ちゃんだ」おさげの茶髪の少女だ。笑顔でケーラのところにやってきた。先日助けた旅の一団のうち、母親と思われる女性とともに、少女が同じ宿の一階フロアにいたのだ。他の大人達は別の宿か、各々別行動の様子。
「あれから無事に来れたんだ。君達もこの村に向かってたんだね」そう言って笑顔で少女の頭を撫でるケーラ。
「ミリー。部屋に行くからおいで」そこで母親と思しき女性が呼んでいるのが聞こえた。ミリーと呼ばれた少女が振り返って、ちょっと待って、と女性に声を掛ける。
「お姉ちゃんもここに泊まるの?」
「そうだよ」
「そっか。じゃあまた会えるね。またね」そしてケーラに手を振って母親のところに戻っていったミリー。
「子どもって無邪気でいいな」その様子を微笑ましく傍らで見ていた健人。先日の件は、どうやら大丈夫なようだ。
「そうだね……。タケトとの子どももあんな風に可愛い子がいいな」フフっとイタズラっぽく笑う超絶美少女。
「頼むからそういう重い事は言わないでくれ」魔王の娘さんとの間に子どもですか。結婚もせず授かってしまったら、世界が破滅するくらいパパ、もとい魔王が荒れるんじゃないだろうか? というか、いつかケーラとの関係をパパ、もとい魔王に伝えないといけない健人は、今更ながら、ふとその事実に気づいてしまい、汗がダラダラ出てしまうのであった。寒いはずなのに。白いクリスタル大活躍ですね。
※※※
「はあ。タケトが足りない」
一人高級宿の部屋の中で片づけをしながら呟くリリアム。まるで健人をビタミンか何かの栄養剤のように。足りないと言っても、腕を組んでないだけで、ずっと一緒にいるのだが。
「というか、もう本当、大好き過ぎて困る」
初めて恋仲になってから、ケーラと一日違いで健人を共有するようになって、もうすぐ一ヶ月。日々気持ちが膨らんでいってしまう。こうやって別の宿に泊まり、少し離れただけで、もう逢いたくて仕方なくなってしまう。気持ちが繋がっているからこそ、離れた時の寂しさはひとしおのようだ。
「困ったわ。きっとこれも恋の病でしょうね」
はあ、とため息をつく。健人の事を考えない日が一日もない。恋が叶ったら叶ったでまたも悩むとは。
「逢いたい。逢いたい。逢いたい。逢いたい」
他人が聞いたらストーカーの呟きみたいに聞こえるだろう、リリアムの一人呟き。今日は自分が健人とイチャコラする日だが、まだ昼を過ぎたところだ。夜までまだまだ時間がある。それがとてももどかしい。
「アクーにいた頃のように、気軽に二人きりになれないものね」
それも気持ちを拗らせている理由の一つだろう。ここガジット村では、腕を組んで歩いたりしないよう決めている。メディー直属の兵士達にその様子が見つかったら面倒だからだ。二人きりになると、きっと自分は自然にそうしてしまう。だから我慢しているが、結構辛い。
「ケーラも誘って、三人でどこかに行こうかしら」二人きりは無理だとしても、逢えるならケーラが一緒でもいいか、と思ったリリアム。ほんのついさっきまで一緒だったはずなのだが。
そうと決めたら、気持ちを切り替え出かける支度をし、二人を村の散策に誘いに行こうと下の受付があるフロアに降りていく。すると、ちょうど健人が宿にやって来た。健人に気付いてみるみる笑顔に変わっていくリリアム。
「リリアム。顔。顔」健人に諭され気づき、オホン、と咳払いし、居直るリリアム。
「ど、どうしたのかしら?」無理やり高貴な語り口調をしようとしてぎこちなくなるリリアムがちょっとおかしくて、アハハと笑う健人。でも、タケトは何しに来たのだろうか? 会う約束は夜なのに? 今はまだ昼過ぎたところだ。
「ケーラが早めにリリアムのとこに行ってあげてって、俺に言ったんだよ。さっきのお礼って事でって。で、ケーラは今魔法屋に行ってる」
※※※
「そうなの。あの時の女の子がいたのね」
ケーラと受付に行った際、助けた旅の一団の中にいた、ミリーという少女に出会った話をしている健人。今はリリアムの泊まる高級宿を出て、二人で健人が泊まる宿に向かっている。歩いて数分の場所なので距離は短いのだが、それでも腕に絡まりたいのを我慢している様子のリリアム。なんか手がワキワキ動いているのは気付かないようにしている健人。
「ああ。で、ケーラがその子に、今晩ご飯一緒にどう? って誘われたらしいんだ」嬉しそうに話す健人。
「それは良かったわね」リリアムもそれを聞いて嬉しそうに笑顔になる。ワキワキしながら。
「今晩はケーラ一人だし、ちょうど良かったよな」ケーラなら、きっと人族と魔族との確執を和らげてくれるだろう。ケーラは優しくて良い子だ。おさげの少女が、ケーラとの触れ合いで、より一層仲良くなってくれれば嬉しい。さっき宿の受付でのやり取りを見ていて、おさげの少女はケーラに懐いている様子だったし、きっと大丈夫だろう。
「で、魔法屋があるって聞いたから、ケーラが行ってくるって。土魔法の補充のためにね。他に、この村って小さいけど神殿もあるらしい」
「そうなの。神殿は知らなかったわ」リリアムは以前この村に来た事があるのだが、全てを把握しているわけでもない。
全て健人が宿屋の受付で聞いた話だ。ここガジット村にはギルドはないが、魔法屋はある。アクーにもあった魔法屋だが、健人は一度も行った事はない。エルフがいれば、旅の途中で魔法が切れた場合の補充が出来る。ここガジット村の魔法屋は、エルフが営業しているとの事なので、土の家の魔法を補充するのに丁度良かった。まだ土の家の魔法は数回利用できるが、何があるか分からないので、補充しておいた方がいいとケーラは思ったのだ。
また、神殿は、光属性魔法を持つ神官がいる事で、冒険者達の治癒が出来、かなりの人が暮らすここガジット村では生活する上で必須なので常駐していると思われる。なので光属性魔法の補充も可能だ。ただ、健人達の場合、リリアムがいるので、それは必要ないのだが。
「なら、遠慮なくケーラのお言葉に甘えようかしら」さっきまでずっと逢いたい逢いたいと呪文のように呟いていたリリアム。腕に絡みつきたい衝動をグッと堪え、ずっと手をワキワキさせながら、二人で健人の泊まる部屋に向かった。
※※※
魔法屋は宿から歩いて結構距離があるが、散策も兼ねているし急ぎの用もないので、のんびり歩きながら向かっているケーラ。来た事のない村をウインドーショッピングするだけでも楽しい。既に季節は冬に差し掛かろうとしているので、昼間とは言え少し冷える。散策しながら防寒具の店を探したりしているケーラ。軽く鼻歌を歌いながら、あちこち見ながら歩いていく。そして道中、やはりと言うか、男どもにチラチラ見られる黒髪と紫のメッシュが入った超絶美少女。ただ、少なからず、不穏な雰囲気を感じなくもない。ケーラを見てヒソヒソしている人がちらほらいるようだ。
「まあ、仕方ないね」アクーにいた頃の好意的な雰囲気とは若干違う村の様子が気になりながらも、本当はこれが普通の、当たり前の反応なのだろうと、自分に言い聞かせているケーラ。
アクーは五年前の魔族との戦いで、魔族の都市から一番離れていた事もあり、殆ど被害を受けなかった。なので、魔族であるケーラに対して敵意を持った人が少なかった。だが、どうもメディーに近いこの村は違うようである。なら、これから向かう王都メディーはアクーのように、好意的な人ばかりじゃないだろうと想像できる。気を引き締めて向かおう、と思うケーラだった。
そして入り口での兵士とのやり取りもあって、健人はケーラが一人で魔法屋に行くといったのを気にしていたが、ケーラ自身、デーモンを倒してそれなりに強くなっている事もあって、余り過保護にしなくていいよ、と笑顔で気にしないよう伝えていたりする。
そんな事をあれこれ考えながら、あれこれ見ながら歩いていると、ようやく魔法屋に辿り着いた。木で出来た看板に、角錐型のクリスタルをかたどったであろう模様が書いてある。扉を開けると、来客を知らせる鈴がカランカランと鳴った。
「いらっしゃい」と声が聞こえ、奥の方から耳が尖った、緑の服を着た、顔立ちの整った女性が出てきた。
「受付の人が言ってた通りエルフだ」ケーラがその店員を見て呟く。魔法屋は、その特性のためエルフが魔法屋を営業しているのが殆どだ。
「へえ。魔族? 珍しいわねえ」エルフの店員は、ケーラの頭のこぶを見てそう言葉をかけた。魔族と言われ、ビクッと反応するケーラ。
「ああ。私はこの通りエルフだから、別に魔族だからどうこうってのはないわよ」ケーラの様子に、手をヒラヒラさせて気にしないで、と話すエルフの店員。その言葉にケーラはホッとした様子。
魔法屋は、魔法関連の商品を色々販売している。例えばクリスタルと魔法の使い方の教本など。そして欠片を集めてのクリスタルの加工はエルフにしか出来ないので、欠片の加工も行っている。更にエルフは属性に関係なく、魔法を補充する術を持っている。なので魔法屋に行けば光と闇以外の各属性魔法の補充が出来る。ただ、エルフは人族ではないため、属性魔法を一切持てない。
光属性に関しては、神官が独占しているので、そもそも魔法の仕入れが不可能なため、魔法屋は販売出来ない。闇属性は、そもそも魔族が人族の都市に来る事が滅多にないので、全くと言っていいほど在庫がない。勿論、光属性と同じく、闇属性もクリスタルに入れる事は可能だが、そもそも闇属性のニーズ自体ない、というのも理由の一つだが。
更に、エルフは魔物から材料を調達して、麻痺や毒を調合する事が可能だ。麻痺薬や毒薬は、イノシシや鹿を狩る猟師や、魔物を討伐する冒険者に重宝されているので、これもエルフの収益源になっている。また、逆にそれを治療する薬を作る事も出来る。ただ、殆どの人は魔物に麻痺や毒などで被害を受けたとしても、光属性魔法で治してしまう事が多いのだが。
そして、アクーのようなギルドがある場合、魔法の補充、クリスタルの欠片の加工の依頼、更には麻痺薬などを、ギルドが魔法屋の代わりに委託販売する窓口になっている。冒険者としては、素材の販売やギルドへの報告のついでに、それらをギルドで購入した方が手間が省けるので、結構ニーズがある。健人も同じく、魔法関連の購入や補充は全てギルドで賄っていたのだった。
「この土魔法の補充をお願いしたいんです」ケーラが24角形の黄色のクリスタルを取り出した。
「へえ。こんな高級なもの珍しいわねそう言ってケーラから受け取った黄色の24角形クリスタルをしげしげと見つめるエルフの店員。
「ちょっと時間貰うけどいい? これだけのクリスタルだから半日はかかるけど」
「はい。大丈夫です。お願いします」それ以外には特に用事もないので、お金を払い、すぐに店を出たケーラ。そしてそれを見送ったエルフの店員が、そそくさと奥へ引っ込み、足早にどこかに出かけていった。





