ガジット村
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健人が黒髪に紫のメッシュが入った超絶美少女の頭を撫でる。されるがままに甘える裸の紅い瞳の美少女。土魔法で出来た家の部屋で、健人と二人ベッドに入っている。今日は彼女の番である。
「ボク、ちょっと認識甘かった。反省してる」健人の胸に頭を預けながら、ケーラが呟く。
「難しい問題だよな」健人も初めてケーラを見た時、あの旅の一団の大人達のように敵視してしまった。彼らに対して偉そうに言えないと思ってしまった。種族とは別、という理想は分かる。だが、どうしても同じ括りで見てしまうのが人間だ。
「言われて初めて気づくんだよな。種族は関係ないって。でも、それでも納得しない人もいるだろうし。それは、怒りの持って行く場所がないから、種族自体を怒りの矛先にしているのかも知れないな」
「そうかもね」
「俺の前いた世界でも、考え方の違いや、信じてるものの違いで、よく争ってたよ。同じ種族なのにな」
「同じ種族でもあるんだね。勢力争いや利権争いって、種族関係ないもんね」
そうだな、と言いながら、ケーラの紅く美しい瞳を見つめながら、魔族の象徴である額の小さなこぶを撫でる健人。
「でも、悩んだり困ったりしたら、一人で考え込まず相談してくれよな。一杯俺に甘えてくれ」
ケーラを守ると決めた健人。出来る限り彼女の助けになりたいと心底思っている。
「うん。甘える。大好き」そう言って健人に優しいキスをするケーラ。
※※※
「にゃん!」朝になり、健人とケーラが同じ部屋から出てきたのを見つけて、嬉しそうに一目散に健人に駆け寄る白猫。そして健人の足にスリスリしている。白猫はこの土の家では、リビングに毛布を入れたカゴを置いて、その中で丸まって寝ている。
「おはよう。真白」白猫を抱っこして優しく撫でる健人。
「ごろにゃ~ん」ゴロゴロ喉を鳴らして嬉しそうな白猫。
「マシロさん。おはよう」ケーラも挨拶する。が、「にゃーんにゃ」と鳴いてプイ、と向こうを向いた。どうやら拗ねている?
「……これ、きっと言ってる事理解してる。だからそっけない態度するんだよ」ケーラがその様子を見て呟く。
「俺もそう思う。しかし、一体何がきっかけでこうなったんだろうな」首を撚る健人。昨日のケーラとのやり取りから、どうも変わっている様子。
「おはよう」もう一つの部屋からリリアムが出てきた。
「マシロさんもおはよう」そう言って頭を撫でようと手を出すが、それもプイとして拒否し、健人の後ろに回った。
「あら? 嫌われたのかしら?」不可解に思うリリアム。以前は手を舐めてくれたのに?
「多分嫉妬してるんだと思う」ケーラが一連の白猫の様子を見てそう予想する。
「なるほど。だから私やケーラには懐かないのね」納得するリリアム。
「じゃあ、やっぱり徐々に戻ってきてるのかもな」嫉妬するという事は、この美女二人と健人との関係を理解していると言う事だろう。またもや健人の足に、喉をゴロゴロ鳴らしてスリスリしている白猫を見て、理由は分からないが、獣人の真白に戻りつつあるかも知れない、と若干期待している健人だった。
※※※
「見えたわ」リリアムが馬を駆りながら二人に声を掛ける。
「おお。結構大きいな」「村というより、街みたいだね」
高さ5m程の木の柵で囲まれた、大きな村が見えてきた。ガジット村である。健人と真白が以前いたヌビル村の、およそ五倍の広さと人が暮らしている。ここはアクーとメディーの中継地点として栄えている村で、宿泊施設が充実しており、他にも、討伐した魔物の素材の売買、食料の買い出し、旅に必要な生活魔法のクリスタルや様々な品々まで購入する事が可能である。
そして入口付近で一旦三人は馬を降り、引きながらそこに向けて歩いていった。
「そこの三人。止まれ」入り口に辿り着いて、そこで警備しているであろう二名の兵士に引き止められ、言う通りにする三人。そして犯罪者記録をチェックし始めた。
「え? リリアム王女殿下、であらせられますか?」その途中、もう一人の兵士がリリアムに気づいた。驚いた顔をして一応確認する兵士。
「ええ。王都に戻る予定なのです」ニコっと会釈するリリアム。するといきなり二人の兵士が、ビシッと直立して佇まいを居直し、敬礼をした。
「先程は無礼なるお呼びかけ、大変失礼致しました。王女殿下」止まれ、と命令口調だった事を謝罪しているのだろう。
「お気になさらず。通って良いかしら?」気品のある佇まいと口調で、兵士に話すリリアム。
「「はっ! どうぞお通り下さい」」そして直立して敬礼したまま、二人の兵士は道を開け、緊張した面持ちで、リリアムを中に通した。
その一連の様子を見ていた健人は、ここで初めてリリアムが王女だと本当の意味で理解した。リリアムに対する兵士達の態度が違う。(殿下)と敬称を付けて呼んだ。そしてリリアムの受け答えが正に王女様のそれだ。
因みに、カインツを含むアクーの兵士達は、領主直属の兵士達であり、リリアムは王女とは言え、彼らにとっては伯爵の妹という認識のほうが強い。だから若干フランクだったのだが、メディーからこのガジット村に派遣されたこの兵士二人は、下の階級だが王都直属の兵士達だ。なので、リリアム王女を王の娘と認識しているので、アクーの兵士達に比べ、より丁重に対応するのである。
……そしてこの王女殿下、俺の彼女なんですよね? 二日おきにイチャコラしてるんですが。しかもたまに(お前)呼ばわりしてます。改めてとんでもない事をしでかしている事に気づく健人。寒いはずなのに汗がドッと湧き出てしまった。
そしてリリアム先頭に、オドオドしている健人と、それを不思議そうに見ているケーラが中に入ろうとすると、ケーラだけが兵士達に止められた。
「待て。お前は魔族か?」
「え? あ、は、はい」その言葉にビクっと反応するケーラ。旅の一団を助けた時、魔族だと言う事で敵視された事を思い出してしまう。
「その魔族の女性は、私の仲間です。お通しなさって」その様子を見て、先に村に入ったリリアムが兵士二人に声を掛ける。
「王女殿下のお仲間ですと?」驚いた顔をしている二人の兵士。
「ええ。何か問題でも?」ジッと二人の兵士を見つめるリリアム。気品ある口調はそのままだが、やや高圧的に。
「あ、いえ、しかし、魔族は……」口ごもる兵士。
「もう人族と和平結んでいるから、大丈夫ですよね? ああ、俺もリリアム王女とこの魔族のケーラとは仲間です」そこで健人が口を挟む。殿下と言うのは何か恥ずかしいので言えなかったが。
「お前達が王女殿下を護衛しているという事なのか?」健人とケーラをリリアムの護衛だと勘違いしている兵士二人。だが、その勘違いは都合が良いと思った健人。
「ええ。この魔族の女性は相当やり手ですし。ほら、伯爵からの依頼状もありますよ」そう言って、ロックから預かった依頼状を見せる健人。依頼状の詳細が書かれた書類以外の、三人の名前が記載されている書類のみ見せた。受け取ってしげしげとそれを見る兵士二人。
「なるほど。ゲイル伯爵のご用命でメディーへ向かうのか、分かった。なら、問題ないだろう。通って良い」
リリアムと共に名前が連名で記載されていたので、信用できるだろうと判断した兵士二人。そして入り口を開いた。健人は、まだ緊張した様子のケーラの肩を抱いて、一緒に入っていった。ケーラの肩を抱く健人を見て、眉がピクっと少しあがるリリアムだったが、ここは仕方ないと気持ちを抑えた。さすが王女殿下。
「辛かったら言えよ。無理すんなよ」ケーラに優しく声を掛ける健人。
「うん。大丈夫。ありがとうタケト」そんな健人を、嬉しそうな瞳で見つめるケーラ。そんな二人を、眉をピクピク引く付かせながら羨ましそうに見ているリリアム。気品ある佇まいはそのままで。そして三人は馬を引きながら、中に入っていった。その遠ざかる背中を見つめながら、兵士二人が言葉を交わす。
「どうする? 一応通達しておくか?」
「そうだな。王女殿下もご一緒されておられる。万が一の事があるかも知れんからな」
兵士達がそんなやり取りをしているのも露知らず、三人はガジット村に入っていった。入り口からずっと奥まで、一直線に大きな通りが一本道となって村の真ん中に奥まで続いていた。馬車がすれ違える程の幅の道だ。その両隣に、様々な店が建ち並んでいる。人もそこそこ歩いており、獣人やエルフ、ドワーフまでちらほら見受けられるが、殆どは人族のようだ。
「凄く広いね」ケーラが目を輝かせてあちこち見ている。
「そうだな。後で散策したいな」健人もワクワクしている。そもそも旅好きなのだ。
「そうね。でも、まずは宿を探しましょう。そこに荷物を置いてからにしましょう」そんな二人にリリアムが声を掛ける。
「あのさ、さっきのリリアムと兵士さんとのやり取りで思ったんだけど、もしかしてリリアムってここでも結構顔知られてんの?」
「多分余り知られてないと思うわ。あの兵士達は、メディーから派遣された兵士だったから、たまたま知っていたんだと思うの」
このガジット村には、以前アクーに行った際来た事があるリリアムだが、その当時、ここの村民達は自分の事をよく知らなったのを覚えている。そしてリリアムが彼らをメディーから派遣された兵士だと分かったのは、彼らが胸に着けていた紋章が理由だ。王都メディー直属の兵士達は、全てその紋章を着けている。盾の形の赤い紋章で、クロスになった剣が描かれている。
「さっきリリアムの護衛って嘘ついちゃったんだけど、面倒になりそうならそれで通そうかと思うんだけど」
「そうね」そう言ってケーラをチラっと見る。「じゃあ、この村にいる間はそうしましょうか」
「何か悪いね。ボクのために気遣ってもらって」リリアムに謝るケーラ。
「気にしないで。ケーラもメディーでは大事な役目があるもの。余計な問題が起こらないほうがいいわ」
ありがとう、とケーラはリリアムに伝え、それから三人はまず宿を探すため、大通りを進んだ。