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新たなトラブル?

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

 凄く満足そうに健人の傍らでスヤスヤ寝ているリリアムのブロンドの髪を撫でながら、ふとリリアムが手にしていた真っ白な四角形クリスタルを手に取って見てみる。そして上から下から、色々見回してみる健人。


「そもそも何の属性魔法なんだろ? 魔法って無くなるはずだから、補充しなきゃいけないはずだし」


「う、うん? あら? タケト起きてたの?」リリアムが目を擦りながら、寝ぼけ眼で目を覚ました。ボケっとした顔なのにそれでも美しいリリアム。寧ろ艶っぽく見えてしまうから不思議だ。さすが超絶美女。


「なあ。これって魔法補充しなくていいの?」真っ白なクリスタルをリリアムに見せながら、気になって聞いてみる健人。


「大丈夫みたいよ。そもそも、それ何の属性か誰も知らないらしいのよ」ふわぁと欠伸をしながらうーん、と伸びをして、寝ぼけ眼で答えるリリアム。


「……そんな未知な物使って大丈夫なのか?」心配になってしまう健人。このクリスタルの事を聞いてから、二人に遠慮なく相当注いでしまっている。そりゃあ、気持ちいいですからね。いつも以上にハッスルしてしまうのは仕方ない。だから、もし魔法の効果が切れていたら大変だ。


「これ、ゲイルお義兄様から貰ったの。既に実証済だから安心して使っていいって言われたわ」ちょんと、健人の鼻を人差し指で突いて、大丈夫よ、と可愛く微笑みながら呟くリリアム。


 ああ。実証済ですか。なら大丈夫だろう。そう言えばあの二人、子どもがまだいないなあ。と、ふと思う健人。作りたくないのだろうか?


「これってどこでどうやって手に入れたんだろう? それは聞いた?」


「あ。聞いてないわ。貰った時つい恥ずかしくなってしまって聞きそびれたわ。でも、多分珍しい物なんじゃないかしら」そう言って健人の胸に頭を預け、甘えるリリアム。そんなリリアムの頭を優しく撫でる健人。


 しかし属性が分からないとは。そして魔法の補充をしなくていいって?

 

 ……て事は、まだ知られていない未知の属性が、この世界にはあるって事なのだろうか?  


 ※※※


 三人はメディーへの道を馬で駆っていた。そろそろ冬が近づいてきている季節という事もあって、頬に当たる空気はややひりついた痛みを感じる。時折、三人の行く手を阻むかのように吹く乾いた風は、氷のように冷たい。馬を駆っているのもあって三人は体温は高めなので、何とか耐えていられるが。これからは防寒具も必要になってくるだろう。


「もう少し行けば、確かガジット村があるはずよ」リリアムはメディーからアクーに来る際、そのガジット村に立ち寄った事があるらしい。


「ガジット村、か。そこで少しゆっくりできるかな?」


「可能だと思うわ。宿泊施設もあるわよ」


「土の家も慣れてきたけど、たまには普通の宿に泊まりたいよねー」


 ケーラの言う通り、土魔法の家はやはりきちんとした宿に比べ快適ではない。土で出来ているため土埃は立つし、換気も十分でないため湿気が多いのだ。だからこそ、宿で久々にゆっくりしたいと思っているケーラ。勿論、防寒、防音はしっかりしているし、夜中警備しなくていいので、テントに比べたら雲泥の差なのだが。他に、防寒着や食料なども買いたいと思っている健人とリリアム。


 ガジット村は、健人達のような冒険者や、行商人などの中継地点として出来た村である。アクーとメディーとの交易は盛んなので、この村もその恩恵に預かり、そこそこ繁栄している。辺境の村だったヌビル村よりは規模は大きい。


「!」健人のカバンの中で寒さから身を守るようにくるまっていた白猫が、いきなり顔をぴょこんと出した。そして一点をじっと見つめている。どうやら森の奥を見つめているようだ。そんな白猫の様子に健人が気づいた。


「どうした真白?」不思議に思った健人がそう声を掛けるのと同時に、


「た、助けてくれええ!!」と、白猫が見つめていた先の、遠くの森の中から微かに叫び声が聞こえてきた。三人は馬を駆りながら目配せし、声の聞こえた方へ馬を方向転換し、そこへ急いだ。少し走ると、若い男が息を切らしてこっちへ向かってきた。急停止する三人。ブヒヒーンと馬がのけぞって嘶く。


「はあ、はあ。あんたら、冒険者か? 魔物に襲われたんだ」


「どこですか?」健人が馬上から質問する。


 膝に手を置いて息を整えようとしている若い男性。息が切れて言葉が出ないらしく、黙ったまま指で男性が走ってきた方向を指さした。


「俺達はそこへ向かいます。落ち着いたら後で来てください」そう言ってリリアムとケーラに目配せする健人。二人は頷き、三人で指さされた方向へ馬を駆けた。


※※※


「う、うわああ!」襲われ、四つん這いで這うように逃げる男性。それをオークが攻撃しようと斧を振り上げた。


 だが、ブン、という風切り音と共に、「プゴ?」と、一言、何が起こった? みたいなニュアンスの言葉を呟いたオーク。そして上下両断にされ、そのまま上半身だけスライドし、地面にボト、と落ちた。


「え? へ?」頭を抱え尻もちをついたまま、何が起こったか分からない男性。


「二十匹くらいか」その様子をチラっと見てから、オークの数をざっと数える黒髪の青年。その青年が衝撃波で一刀両断したのだ。


「ケーラ。襲われている人優先だ。リリアム。怪我人の治療頼む」


「了解だよ」「分かったわ」


 既に馬を近くの木に繋いで降りている三人は、一斉にそれぞれ行動を開始した。ケーラがトンファーを腕に持ち、若い女性を剥ごうとしていたオークに飛び掛かる。


「おりゃあ!」クルンと手を中心にトンファーを回し、前に一回転して遠心力を利用し、長い方でオークの頭を殴打する。


「プゴゴオ!」オークの額がボコンとへっこみ、一撃でそのまま後ろに倒れた。


 その様子を見た他のオーク数匹が、斧や剣と言った武器を手に一斉にケーラに飛び掛かる。今度は短い方を前にし、長い方でオークの攻撃を防ぐ。そしてそのまま「たあ!」と、正面に他オークの顔面に突きを食らわすと、「グボオ!」と叫びながら顔面が陥没し、またも一撃でオークが崩れ落ちた。


 そうやってトンファーを色々持ち替えながら、防御と攻撃一体の体捌きで、ケーラは次々オークを屠っていった。やはりナックルより使い易いようだ。鍛錬の成果もあって、難なく使いこなせている。


 健人はケーラのその縦横無尽の戦闘に感心しながら、襲ってくるオーク達を次々刀で捌いていく。一振りで両断されるオーク達。健人の周りにはオークの屍が累々と散らばっていった。


 そしてリリアムは戦いに参加せず、怪我人の治療に当たった。この一行は旅をしていた集団のようで、女性を含め六-七人いた。冒険者を護衛につけていたらしく、怪我人は男性一人と物資を守ろうとした冒険者二人のみだった。その怪我人二人にヒールを唱え、治療していくリリアム。


 結果、オークの集団に襲われた旅の集団一行は、健人達が来た途端、ものの数分で助かったのだった。


「あ、ああ。助かった」助けを求めるために走ってきた若い男性が戻ってきて、その様子を見て安堵したのか、地面にガクっと膝から落ちた。


「ありがとう。助かった」怪我を治療して貰っていた冒険者の男が、立ち上がって健人達にお礼を言ながら頭を下げた。


「いえいえ。間に合ってよかったです。でもなんでまたこんな森の中に?」


 ここはメディーへ向かう道から500mほど離れた森の中だ。


「実は道の近くで野営をしようと思ったんだが、そこでもオークに襲われたんだよ。その時は一匹だったから俺達でも倒せたんだけどな。で、道の傍は危険かも知れないと判断して、ここで野営していたんだ」


 どうやら野営跡をオークの集団に襲われたらしい。


「なるほど。でも、オークが出たからと言って、出来るだけ道からは離れないほうがいいですよ。俺達たまたま気づく事が出来ましたけど」


 通常、野営する場合、この舗装された道の近くにするのが、旅をする際の常識となっている。万が一襲われたら、他の冒険者や旅人に遭遇しやすいので、助けを求めやすいからだ。


「そうだな。失敗した」頭をポリポリ掻きながら申し訳なさそうにする男性。


「あれ?」ケーラが奥の茂みがガサっと動いたのを見つけた。そしてそこから、隠れていたのか、8歳くらいの茶色のおさげの女の子が現れた。どうやらオークに襲われた際、茂みに隠れていたらしい。


「もう大丈夫だよ」ケーラがニコっと微笑みながら、その少女の方に駆けより手を差し出す。だが、その少女は怯えて震えながら、ケーラの顔を見上げる。


「もう魔物はいないよ。心配しなくていいよ」安心させようとしゃがみながら目線を下げ、出来るだけ気遣って優しく声をかけるケーラ。魔物に襲われたのがよほど怖かったのだろう。そう思って努めて笑顔で。


「で、でも」少女がようやく声を出す。


「あなた、魔族でしょ?」そう、怯えた声で呟いた。


 ※※※


「何? 魔族だと?」


「なんだと? どこにいやがる」


 一気にこの場の雰囲気が変わった。まるで犯人探しをするように、健人達に助けられた冒険者と旅人達がキョロキョロしだす。ケーラは、その少女の言葉に固まってしまった。どう答えればいいのか。少女は明らかにケーラを恐れている表情だ。


「大丈夫よ」リリアムがケーラと少女の様子を見て二人のところに歩み寄り、声をかけてきた。


「彼女は私の仲間なの。何の心配もないわ」そしておさげの少女ニコっと微笑む。


「そ、そうなの?」まだ怯えながら、ケーラを見上げる少女。


 ケーラはどうすればいいのか未だ分からず、困惑している。が、そこで健人が肩にポンと優しく手を置いた。


「気にすんな」


「あ、え? う、うん」健人の顔を見てホッとするケーラ。


「あう!」だが、いきなり冒険者の一人に逆の肩を掴まれ、引っ張られたケーラ。が、健人がすぐさまその手を振り払う。


「何するんですか?」ケーラの肩を掴んだ冒険者を睨む健人。


「お前が魔族だな! おい、ここにいたぞ!」だが、それに構わず、冒険者の一人が叫ぶと、そこに集まってくる大人達。異様な雰囲気を感じて、健人が守るようにケーラの前に出る。リリアムも健人の隣に並ぶ。


「その魔族が、皆さんを助けたんですよ」やや怒気のこもった声で、健人が話す。ケーラに手をかけた事が許せない。が、冷静にならないといけない事も分かっている。魔族だからという理由だけで、ケーラが敵意を向けられる事は今までもあったからだ。かつて健人自身もそうだったように。


「今は魔族と和平を結んでいます。過去の禍根は、彼女とは関係ありません」リリアムも説得するように彼らに話す。オークに襲われた後だからだろうか、それともただ知らないのだろうか、リリアムが王女だという事は誰も気づいていない様子だ。


「! し、しかし」「俺は、俺は昔魔族に……」


「分かっています。ですが、彼女自身が、あなた達の大事なご家族を苦しめたわけではありません。寧ろ彼女は、これからの人族との和平を前向きに捉え、積極的に私達に関わってくれているのです」


「この子は最近問題になってた、魔物の大量発生の原因解明に凄く頑張ってくれたんです。敵がそんな事するはずないと思います。恨むのは種族じゃない。人族だって悪い奴は一杯いますよ」


 リリアムと健人の話に、苦虫を噛み潰したような表情で黙って聞いている旅人と冒険者達。ケーラは二人の言葉に、目に涙を溜めている。


「二人とも、ありがとう」ケーラが涙を拭って呟いた。


「ケーラを守るのは俺の役目だからな」「今更水臭いわよ」


 二人してケーラに振り向き、笑顔で答える。それを見てケーラも笑顔になる。そして真顔になって二人の前に出て、冒険者達の前に立った。


「ボクの種族が、昔迷惑かけたのは悪いと思ってます。でも、ボク含め、これから種族を越えてお互い助け合って、幸せになれたらいい、そう思っているのも事実です。でも、昔同族がご迷惑をかけた事はごめんなさい」そう言って頭を下げるケーラ。


「お姉ちゃん。いい魔族なの?」後ろでやり取りをずっと見ていた茶髪のおさげの少女が、前に出てきてケーラに話しかける。


「どうかな? でも、ボクはむやみに人族を攻撃したりしないよ。仲良くしたいと思ってるよ」出来るだけ少女に笑顔で返すケーラ。


 そしておずおずとケーラの手を握る少女。それを握り返してありがとう、と微笑みながら伝えるケーラ。


 ケーラの存在にいきり立った大人達は、少女とのやり取りを見て、黙ってケーラから離れていった。その様子を見て、ふう、と一息つく健人とリリアム。


「とりあえず、オークの処理や後片付けはお任せしていいですか?」そして旅の一団の護衛についていたであろう、冒険者に声を掛ける健人。


「ああ。俺達でやっとく、てか、クリスタルとか素材はいいのか?」


「ええ。結構です。荷物になりますので」


 そして、旅人の一人が、よければ一緒に、と言おうとしたのを、冒険者が止めた。それを見て健人はこの場を離れようと決断した。彼らは一応引き下がったが、それでもあまりいい感情は持っていない様子だからだ。


「じゃあ。俺達はこれで失礼します」そう言って、リリアムとケーラに目配せし、去ろうとした。


「お姉ちゃん、待って」そこで、先程の茶髪のおさげの少女がケーラを呼び止める。


「どうしたの?」


「私、大事な事言うの忘れてた。助けてくれて、ありがとう」そしてペコリと頭を下げた。


「こちらこそ、ボクの手を取ってくれてありがとうね」ニコっと優しい微笑みを返すケーラ。そして屈んで少女の頭を撫でた。


「じゃあね。気を付けて旅続けてね」そう言ってケーラは少女に手を振った。


 それから三人は改めて馬に跨り、道へ出てメディーに向かう。


「……」が、ケーラの表情はずっと硬いままだ。


「もっかい言うけど、気にすんな」馬に乗りながら、健人がケーラの背中をポンと叩く。


「うん」ニコっと笑みを返すが、表情は強張っている。無理して笑顔を作っているのが分かる。


「全く。あなたがそんな様子だと、こっちも調子狂うわ」リリアムも発破をかける。


「そうだね」そう返すも、やはり元気がない。


 健人とアクーでデートした時にも、魔族だからという理由で敵意を向けられた。ある程度分かっていた事だが、いざ今回のように如実に敵意を向けられると、改めて種族間の溝は深いと感じるケーラ。それと同時に、自分は浅はかだったと、反省もしている。


 アクーで触れ合った多くの人々は、自分に好意的な人達ばかりだった。だから油断していたのかも知れない。自分は人族の都市の中にいる。それは、先程のような敵意を持った人達も多くいると言う事。それに気づく事が出来なかった。


 ずっと硬い表情で、何かを考えている様子のケーラに、健人とリリアムは声をかけられずにいた。魔族と人族との関係の溝は根深い。それを改めて教えられた今回の件。一番応えているのはケーラだろう。


「にゃん!」そう一声鳴いて、健人のカバンにいた白猫が突然ぴょん、と飛び出した。「な、なんだ?」いきなりの事でびっくりする健人。そして走っている最中のケーラの馬にうまく飛び乗り、更にケーラの頭の上でぴょんと宙返りした。


「な、何? どういう事?」ケーラもびっくりしている。一旦馬を止める三人。


「にゃにゃにゃんにゃ!」と言って? 鳴いて? 後ろ足だけで立って、そしてケーラの顔に右の前足をビシィと音が聞こえそうな感じで突き出した。まるでサムズアップのような感じで。


「「「……」」」呆然とする三人。


「……こんな事出来る猫だっけ?」呆気にとられたケーラが健人に聞いてみる。


「……初めて見た」ここまで感情を表すのは初めてだし、後ろ足だけで立っているのを見るのも初めてだ。


「そして、きっと何か言ったわよね?」リリアムの言う通り、猫語? でケーラに話しかけたように見えた。


「なあ、真白」健人が話しかけてみる。


「にゃんにゃ?」なんか返事した? なんにゃ? って言っているように聞こえなくもない? 


「どうしてそうなった?」続けて会話? してみる。


「にゃにゃにゃにゃ、にゃにゃっにゃんにゃ!」どうも嬉しそう? だが何言ってるかさっぱり理解出来ない三人。


「何が起こったのかしら?」首を傾げるリリアム。


「でもほんと、不思議な白猫さんだね」でも、その白猫の様子がおかしくて、つい笑ってしまうケーラ。白猫のおかげで、硬かった雰囲気はほぐれたようである。


勿論、この白猫の変わりようには、理由があるのだが。






「にゃにゃにゃんにゃ! 」→「気にすんにゃ! 」 です。

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