道中のあれやこれや
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「はあ!」ケーラのトンファーが健人の腹を狙う。それを健人が刀でいなす。「クッ、このっ」いなされるも踏ん張って振り返り、健人の顔面に蹴りをいれるが、今度は健人の刀の背で止められた。ガシーンと、オリハルコン同士の混じり合う金属音が響く。
「今日はこんなもんでいいか」そう言ってケーラの蹴ったままの足を降ろす健人。
「やっぱこの武器使いやすいよ」ふう、一息ついて、額に汗を滲ませながら笑顔で語るケーラ。
ケーラの武器は、健人の提案でトンファーを使っている。この武器は元々この世界にはなかったが、健人がアクーの鍛冶屋、ドルバーに言って、作って貰ったのだった。形状が簡単なので、刀とは違い時間がかかる事無くすぐ作って貰う事が出来た。クリスタルをいれる穴が左右一つずつ空いていて、今は真白のナックルについていたクリスタルをそのまま入れている。右には光魔法、左には魔力クリスタルだ。
先日のデーモンとの戦いの際、真白より力がないケーラだと、ナックルは厳しいと感じていた健人。ただ、ケーラ曰く、刃物系は扱い辛いというので、なら、前の世界にもあった、防御も出来て破壊力も見込めるトンファーがいい、と健人が思いついたのだった。
もし健人がファンタジーをよく知っていて、ゲームをやっている人間だったら、トンファーは思いつかなかったかも知れないが、彼は前の世界にいた時、旅行でアメリカのロサンゼルスに行った際、アジア発祥の武器であるトンファーを、アメリカの警察が使っているのを見た事があった。相当使い勝手がいいからアメリカの警察が採用するんだなあ、と感心したのを覚えていて、それでケーラに勧めたのだった。
そして、今はケーラがトンファーの使い方を修練していて、健人がそれに付き合っていたのだった。因みにケーラの脛は、攻撃と防御どちらも出来るよう、オリハルコンのレッグガードの形状が、山型に尖っている。
そして健人は、スモールシールドも余ったオリハルコンで作って貰っていた。左腕に装着でき、楕円形にしてある。幅15cm縦40cmと小さいが、これで以前使っていた、大剣の防御を賄うつもりである。
今リリアムを含めた三人は、王都メディーへ向かう道中にいる。今の所魔物が出ていないので、こうやって時間を見ては、鍛錬に励んでいるのである。季節は冬に向かおうというところ。激しく動いた後の、ケーラと健人の吐く息が時折白くなっている。白猫は寒いらしく、健人が傍らに置いているカバンの中で丸まっている。
リリアムはと言うと、近くの木の幹の側に座って、魔力のコントロールの訓練をしていた。手のひらに小さな光の玉を作って、精神統一しながらずっと集中している。デーモンとの戦いの際、無駄に魔力を放出したり、コントロールが甘かったりしたので、こうやって、自分の思い通りに、必要な分だけ、魔力を放出できるよう、鍛錬しているのだ。
額に汗を滲ませながら、目を瞑り、瞑想しているような様子で集中しているリリアム。手のひらを上に向け、ビー玉くらいに小さく、だが渦を巻いている玉を、ずっと回転させている。その回転が徐々に速くなる。そしてギュルルという唸る音が聞こえてくる。
「ぷはあ!」とリリアムが限界を感じてつい目を開けると、小さな光の玉は、ギュルルという音と共に、遥か上空に飛んでいった。そしてふう、と一息つくリリアム。
そして今度は、健人が何かしようとおもむろに目を閉じ佇んでいる。精神を集中させ、一切の音を自分から遮断する。それから腰の刀を握り、右足を前に出して構えて踏ん張ると、フッと横一閃に空を切り裂いた。健人のオリハルコンの刀から衝撃波が発生し、前にある木々が一斉に横薙ぎに切り裂かれた。これはアクーのギルドの修練場で訓練をしていた時、居合斬りを練習していたらたまたま出来た技だ。近距離攻撃専門の健人にとっては、この遠距離攻撃は、正に打って付けの技だった。
無拍子からの居合斬り。今までリズムを使っていた、拍子を使って戦ってきた健人の特徴とは逆の技だが、寧ろリズムを知っていたからこそ、無拍子を理解するのが早かった健人。
勿論、無拍子の居合斬りが出来るのは、それだけが理由ではないのだが。真白に言われた事を未だ思い出せない健人には、今は本当の理由は分からないだろう。
「……」刀を納め前方を見てみる。健人の目の前には衝撃波で切り倒された幾本の木々。その距離20m程だろうか。それを見て我ながら呆れる健人。
「俺って、確か音楽好きのただのフリーターだったはずなんだが?」自問自答してしまう。とても自分が起こした現象とは思えない。こんな漫画みたいな事が出来るようになるなんて。しかも、いとも簡単に出来てしまった。
この世界にはレベルという概念がある。自分のレベルは分からない。鑑定出来ないから。だが、相当強くなっているのは間違いないだろう。
チン、音を立て刀を鞘に納める。そしてケーラが凄いねー、と感心しながら声をかけてきた。
「本当。タケト勇者みたいよ」リリアムもケーラと同じく感心している様子。
「うん。凄いな。俺じゃないみたいだ」感心されても、どうも自分の力じゃないような、変な感じがしている健人。
「フフ、どうして他人事なの?」健人の反応がおかしくて笑うリリアム。
「いや。俺って前の世界じゃ、こんな事到底出来るような人間じゃなかったからさ。自分の力じゃないみたいな気分なんだよ」
「そうなの? 私強いタケトしか知らないから、そう言われても良く分からないわ」
「ボクも。タケトが冒険者じゃないなんて、凄く違和感あるよ」
この二人は健人が冒険者をやっているところしか知らない。前の世界の健人を知らないから当然だし、真白と初めて会った時の、ゴブリンにビビッて腰抜けて逃げ出した健人も知らないので、その認識は仕方ない事である。
「前も言ったかも知れないけど、俺が前いた世界は魔物いないし、魔法使えないし、レベルなんて概念もないから、俺なんかが強くなれるわけないんだよ。平和な世界だったしね」勿論、紛争や抗争は、世界各地であったのだが。それでも個人の能力がこんな超人的になる事はない。
へー、と言いながら聞いている美女二人。確かにこの二人にとっては、健人は冒険者だろうが、本来健人は音楽好きの旅行好きのただのフリーターなのだ。それが、余り音楽に触れる事もなく、魔物を倒す毎日を送るようになって、もうすぐ1年になろうとしている。もうすっかり冒険者である。これだけ中身の濃い日々を過ごしているなら、成長するのは仕方ないのかも、とも思う健人。
そろそろ夕暮れが近づいてきたようで、ほのかに辺りが薄暗くなってきた。季節は既に冬に差し掛かろうとしているので肌寒い。少し森の中に入って、適当な広さの場所を探し、今日も土魔法の家を建てて宿泊する三人。その様子に気づいたのか、ブルルと体を震わせ、カバンから出てきて「にゃーご」と鳴く白猫。それを抱っこする健人。猫のモフモフが温かく心地いいので、つい頬ずりしてしまった健人と、それを嬉しそうに受け入れている白猫。ちょっといちゃついてるように見えなくもない。
「そろそろ野営の支度しようか」スリスリを終えて、二人に声かける健人。
「今日は私と一緒にいてくれるのよね?」
「ああ。順番だからな」若干諦め顔でリリアムに言葉を返す健人。こんな美女にそう言われて、ため息混じりで了承している自分は、かなり贅沢者だよなあと、これも他人事のように思いながら。
※※※
「ねえ。今日は中でいいのよ」
ウフフ、と妖艶な雰囲気を漂わせながら、ベッドの中で裸で微笑むリリアム。ここ最近、美女二人が艶っぽくなってきている。回数が増えた事で、女として磨きがかかってきたからだろうか?
「安全日ってやつか?」
「違うの。これを使うの」そう言って、ゲイルに貰った白いクリスタルを健人に見せる。
「これ、百年くらい前にこの世界に来た勇者が開発したものらしいの。その勇者、かなりの好色だったらしいのね。でも、タケトみたいに真面目な人らしくて、無闇に子どもは作らないよう努力してたらしいの。で、これを作ったらしいわ」
「それは何?」光魔法のクリスタルとも違う? 牛乳のように真っ白な、乳白色の4角形のクリスタルだ。
「避妊クリスタルって言うらしいの。終わった後にこれに魔力注いだら、無かった事になるんですって」
「……お前なあ」つい呆れてリリアムにお前って言ってしまう健人。そこまでヤる事に対してあれこれ考えるのかよ? この土魔法の家もそうだけど。
「あ、で、でも、タケトも、その方が嬉しいでしょ?」お前と言われて嬉しそうなリリアム。でも、恥ずかしさもあって若干あたふたしている。この世界でリリアムをお前呼ばわり出来るのは、王族以外では健人くらいなものだ。
そしてこれを、次の日にはケーラに貸す予定でもあるリリアム。以前伯爵邸でケーラだけに話をしたのは、この件だったのである。
「まあ、そういう事なら遠慮なく」そう言ってブロンドの美女に覆い被さった。そのクリスタルが何故そういう効果を発揮出来るのか、若干疑問に感じながら。
で、次の日の朝、
「はあ……」頬が紅潮してボーっとしているリリアム。
「そんなに良かったの?」興味津々なケーラ。
「うん。凄かった」ケーラに答えつつも未だ呆け顔のリリアム。
「男の人って、あんなに変わるのね」
そして次の日の朝、
「はあ……」頬が紅潮してボーッとしているケーラ。
「ね? 凄かったでしょ?」興味津々なリリアム。
「うん。凄かった」リリアムにに答えるも未だ呆け顔のケーラ。
「タケトが野獣さんだった」
「でも」「うん」
「「もうあれ手放せない」」キレイにハモりました。
そしてその野獣さんは、朝食の用意をしながら、二人の呆け顔を呆れた様子で見ていましたとさ。同じく呆れた様子の白猫と一緒に。





