表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

127/241

リア充の策略

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

「これから出発するのかい?」


「ええ。なので、その前にご挨拶を、と思いまして。アクーにいる間は色々お世話になりました」そう言って頭を下げる健人。白猫はカバンの中から、首だけ出して「にゃおーん」と健人の挨拶と同時に一鳴き。まるでゲイルに挨拶をしているかのように。


 今日アクーを発つ三人。その前に、お世話になったゲイルとアイラに、お別れの挨拶をしようと、伯爵邸に立寄ったのだ。事前にリリアムに相談し、二人には時間を取って貰っていた。今は皆応接室にいる。


「とにかく、魔物増加の原因が分かった事、神官の悪事を暴いた事、これは本当に感謝してるよ。よくやったね」


 ニコっと微笑むゲイル。自身のチョビヒゲを指で撫でながら。ゲイルが健人を褒めたのは、これが初めてだ。


「デーモン倒したんだってね。凄いと思うよ……。うーむ、やはりカオルとかぶるなあ」


「そうね。あの子も短期間で強くなったものね」ゲイルの傍らにいるアイラも、過去一緒に旅をした勇者カオルを思い出しつつ頷く。 


「いや。デーモンを倒せたのは、この二人がいたからですよ。俺一人じゃ無理でした」


 そう言ってリリアムとケーラ二人を称える健人。さすがに伯爵夫妻と話をしている最中は、二人共健人と腕を組んだりしていない。三人共横に並んで、机を挟んでゲイルとアイラに向かい合って椅子に座っている。


「そうね。私達の誰かが欠けても、デーモンは倒せなかったと思うわ」


「それに、ボクとタケトは死にかけたし。正直褒められるような戦いじゃなかった」


 二人共謙遜しているが、健人も同じ気持ちだ。だから、デーモン程の大物を倒したとしても、余り実感がないのが本音だ。


「それでも、君達が倒していなかったら、被害は広がっていたと思うよ。行商人と護衛は残念だったけどね」


 あの時デーモンに殺されてしまった行商人や護衛は、消し炭にされてしまい、彼らの遺品さえも残っていない。だから残念ながら、彼らが何者かも未だ分かっていない。その点はゲイルの言う通り残念だし、申し訳なく思う健人。だが、あの時それどころじゃなかったのも本音ではある。


「もしデーモンがここに来たら、私かゲイルが相手してたでしょうけど。まあ、あれ程の魔物は、普段この辺りでは出ないはずだし、魔薬がばら撒かれる事がないのなら、今後は気にしなくても大丈夫かも知れないけれど」


 アイラかゲイルであれば、デーモン一匹難なく倒せるだろう。そして、魔薬はもうばら撒かれる事はないので、今後は魔物自体も減りそうではある。なので、健人達の活躍のおかげで、脅威は去ったと思っているアイラとゲイル。ただ、逃げ遂せた魔物がまだ少なからず残っていると、ギルドから報告が来ている。その討伐は、先日この都市にやってきたジルムやバッツのようなアクーにいる冒険者達が、対応する事になるだろう。


「勿論、今後はもっと兵士達を鍛え、冒険者達を集い、防衛を強化するよ。門以外から魔族が侵入してここを荒らしていた事も問題だからね。神官の件はようやく尻尾を掴む事が出来た。カインツ君達兵士が介入出来たのは大きいよ。今後は好きにさせないよ」


 普段とは違う真面目な語り口調のゲイル。こう見るとやはり領主なんだなあと感心する健人。そして神殿内での悪事に関しては、グレゴーが協力してくれるだろう。そうなれば、思いの外早く膿を出し切る事は出来るかも知れない。


「そうですね。微力ながらお力になれて良かったです」


「いやいや。微力だなんて。君こそ、いや、君達こそ、今回の最大の功労者だよ」


「そうよ。胸を張っていいわよ」


 ゲイルとアイラに褒めてもらって三人共照れている。そして揃って頭を下げるのであった。


 そして別れの挨拶を済ませ、応接室から出ようとした時、アイラがリリアムだけ呼び止めた。ゲイルとアイラは義兄と姉だから、家族で話したい事があるのだろう、そう思って気遣って、健人とケーラは先に応接室から出て外の廊下で待っている。


「お姉様。本当に色々ありがとう。光魔法の修行があったからこそ、こうやって冒険者としてやっていけるようになったわ」改めてお礼を言うリリアム。そして恭しく頭を下げる。心の底から感謝しているのが伺い知れる。


「あなたの努力の賜物よ。分かっていると思うけど、道中も修行を怠らないようにね。あなたの持つ光魔法は、あの二人を今後何度も救う事になるはずよ」微笑みながら、リリアムを労いつつ、精進するよう話すアイラ。勿論、とリリアムも笑顔で返事する。


「で、聞いたよリリアム」そしておもむろにニヤっとしながら言葉をかけるゲイル。


「な、何をですの?」言われた意味が分かってしまい、狼狽えるリリアム。耳が赤くなった。


 それに答えず、ニヤニヤしながらとある物を手渡す。真っ白いクリスタルだ。


「これは?」不思議そうにそれを受け取るリリアム。4角形の真っ白いクリスタル? 光属性? 魔力保存にも役に立たなそうだけど? 攻撃魔法を入れるには物足りないし。


「それはね……」微笑みながらアイラがリリアムに耳打ちする。答えを聞いて、ボッと火がついたように顔が真っ赤になってしまった。そして顔を真っ赤にしたままのリリアムが応接室から出てきた。応接室の外で待っていた二人は、その様子を不思議そうに見ている。


「お別れは済んだか?」でも、彼女が家族だけで話すのは、きっとお別れの挨拶だろうと思って、そう声をかける健人。


「え、ええ。まあ」ぎこちない返事のリリアム。


「どうしたんだ?」不思議そうにリリアムを見る健人。


「い、いえ。なんでもないの。ケーラ。後でちょっと」


「ボク?」リリアムが自分に話があるって珍しい。


 ※※※


 既に冬が近づいているのもあって、肌を撫でていく風が、肌に突き刺さるように、ひりついた小さい痛みを感じさせる。海に近いここアクーだからこそ、潮風は身に染みる。そろそろ手綱を持つ手も悴みそうな、そんな季節の中、三人は馬を駆る。


 カバンにはいつもの白猫。ただ、以前に比べ、理由は分からないが感情表現が豊かになってきているのもあって、あちこちキョロキョロしたり、途中飛んでいく虫を目を追ったりしている。


 ケーラと共に体験した、あの白い空間の出来事は、一切知らない様子の白猫。この白猫は本当に真白なのか? と、健人が少し疑ってしまうほど、その事に関して無関心な様子。


「ギルドでいい物買ったんだ」馬で駆けながらケーラが超絶美少女スマイルで健人に声を掛ける。メディーに向かう前、ギルドでファルに勧められて購入した、とある物。なんだろうか?


「私もその存在を知っていたら、以前から使っていたのに」リリアムが残念そうに口を挟む。どうやら旅で活用する物らしい。


 そう会話しながら三人は馬を駆り、既にアクーを出て、馬車三台は横に並べそうな広い舗装された道を走っている。向かう先は王都メディー。リリアムの故郷だ。


 三人は、アクーで起こった魔薬の事、そして神官の事を報告するためにメディーに向かっている。報告だけなら、カインツ率いるアクーの兵士にでもさせればいいのだが、魔薬の件について詳しい魔族のケーラがいる事で、より詳細に話ができる事、王族であり王女のリリアムなら、王メルギドに直接話を伝える事ができ、神殿内に巣食った悪行を、トップダウンで早めに諌める事が出来る。そのメリットを考慮し、この三人がメディーへ向かっているのだ。


 更に、ケーラは姉ナリヤを探している。メディーに似ている魔族がいると、今はいないヴァロックから聞いている。本人かどうか確認する必要がある。


 メディーへは二週間程度かかる予定だ。その間に村に立寄ったり、野営しながら向かう事になる。


 そして特に魔物に遭遇する事もなく、三人は順調に馬を駆る。そろそろ日が沈みかけ、夕闇が差し迫って辺りが暗くなってきた。吐く息が白く曇るほど、夜に近づけば近づくほど、寒くなってくる。そろそろ野営の支度の時間帯だ。道より少し森の中に入った辺りに、三人は馬を降りて木に繋ぎ、準備する事にした。


 そこでケーラがニヤリとして、デーモンを倒した時に獲得した24角形のクリスタルを取り出した。だが色は黄色に変わっている。そして「家屋構築」と魔法を唱える。すると、地面に魔法陣が現れ、そこからゴゴゴと言う大きな音と共に、地面が盛り上がっていき、それが壁になり、屋根を作り、煙突が出来た。なんと土壁で出来た、高さ4mほどの、そこそこ立派な家が完成した。


「へっへー。凄いでしょ? 土魔法だよ」ケーラが健人を見てむふ~とニヤける。なんでニヤけてんだ? ケーラの表情が不思議に感じるも、その土の家を見上げながら感心している健人。


「噂では知っていたけど、思った以上ね」リリアムもその土の家をグルリと一周見歩きながら、物珍しそうにしている。


 確かに凄い。言わば持ち歩ける家だ。さすが魔法の世界。攻撃魔法や生活魔法は見ていたが、ここまで大きな物を作り出す魔法を見たのは初めての健人。季節的にもテントだと寒いだろうが、これなら防寒は大丈夫だろう。


「これなら、テントと違って遠慮なく、ね?」ケーラが恥ずかしそうに健人の腕に絡まる。


「そ、そう。移動中も、気にせず、ね?」反対側の腕に絡まり、顔を真赤にして腕に絡まるリリアム。


 彼女達の目論見が分かってしまった。ケーラのニヤケの理由も。健人は大きくはあ~、と、寒いので白い息となったため息をついた。


「そんなにヤリたいのかよ」そして呆れながら正解を呟いた。


「下品な言い方するの良くない」ぷーと膨れるケーラ。


「そ、そうよ。もっと、ほら、あの、上品な、ね?」そして図星なので狼狽えているリリアム。


 この二人は超絶美女だ。それは素晴らしい事だし、その二人が彼女だというのは、健人にとっても申し分ない贅沢な状況だ。だが、彼女達はイチャコラする(味)を覚えてしまった。アクーにいる間ずっと健人は、どちらかと毎日致していた。いやまあ、嫌いじゃないけど、さすがにたまには休みたい。


 リリアムとケーラが、今まで冒険者として稼いだお金の大半をはたいて買ったこの土魔法の家は、道中、彼女達が安心してイチャコラするための家なのである。野営だとテントで寝泊まりする事になる。それだと安心してイチャコラ出来ない。悩んだ美女二人は、ファルから紹介されたこの土魔法を、二人で出資して購入したのである。


 ファルとしては、リリアム王女を気遣っての提案だった。普段王女が都市から都市へ移動するには、護衛がついていくのが当たり前。だが、今回は護衛がいないし、当人も冒険者なのだから要らないと言う。なら、せめて寝泊まりする時くらいは、安心して休めるように、と、リリアムを慮っての事だった。ちょうど24角形のクリスタルがあったし。まさか王女にそんなえっちぃ目論見があるとは露知らず。因みに150白金貨しました。1500万円相当です。


 それでもお金に関しては、健人が以前、500円玉をベルアートに売ったお金はまだ残っていたし、健人自身が稼いだお金も残っているので、まだ余裕はあるのだが。


「なあ。俺もたまには一人になりたいんだけど」


「「却下」」ハモって断られてしまう健人。


 二人のシンクロにため息をつきながら、とにかく出来上がった家に入ってみた。中は温かい。テントと違って土で出来ているのもあって、やはり防寒はしっかり出来ているようだ。土で出来た扉は思ったより頑丈で、部屋は三部屋あり、二階がない平屋建てだ。一つが六畳程だろうか? 入ってすぐ真ん中がダイニングだろう、土で出来た机と、椅子が周りに四脚ついている。それを取り囲むように、他に部屋が二つ、ご丁寧にそれぞれベッド付き。土で出来ているので敷布団はあったほうが良さそうだが。そして奥には風呂付きの洗面所だ。


「……凄いな」さすがに驚く健人。思った以上によく出来ている。これなら誰かが夜、見張りをする必要がないだろう。前の世界のキャンピングカーに近いかも知れない。ふと、以前ヌビル村からアクーへ移動した際、真白と交代で番をしたのを思い出す。あれはあれで楽しかったのだが。


 因みに、土の家の外側には、これまたご丁寧に簡易的な馬小屋も構築されている。馬三頭なら何とか入れるほどの結構大きなものだ。これなら、馬達も寒さに震える事無く、夜中魔物に襲われる心配もなく、安心して休めるだろう。


 白猫が健人のカバンからぴょんと飛び出し、勝手に家の中をうろうろしている。フンフンと鼻を動かして匂いを嗅いだり、壁に自分の体を擦りつけたりしている。


 白猫の様子を微笑ましく見ていたら、美女二人が腕に絡まってきた。二人して健人に頬をスリスリしている。


「これで一杯甘えられるわ」「タケトー。むふふー」


 本当可愛くて仕方ない二人。それに若干腹が立つ健人。可愛いからこそ、断れなくなってしまう。


「ねえ、今日はどっち……」と、リリアムが言いかけたところで、健人がニヤリ。


「どっちもだ」


 ※※※


 ベッドの真ん中で大の字で寝ている健人。満足した顔で寝息を立ている。その両脇には真っ裸の美女二人。お互い健人の腕枕に頭を預けている。だが、二人とも気まずそうに、反対側に向いて丸まっている。


((あんな感じなんだ)なのね)


 人のイチャコラをお互い初めて見て、そして自分のイチャコラも見られて、物凄く恥ずかしい二人。風呂じゃないところで裸を見られるのも、同性とは言え恥ずかしいし、その上乱れた姿をお互い見られ、更に健人が普段とは違う、アレやコレやを要求してきて、とにかく二人は顔が真っ赤だ。考えてみたら、彼女達はまだ経験自体浅い。初めてから半月くらいだ。恥ずかしいのは仕方がないのである。


 リリアムが上体だけ起こしてふとケーラの方を見る。たまたまケーラもこちら側を見ていたようで、つい目が合ってしまった。お互いサッと視線を外す。とりあえず、ケーラが起きているのを確認出来たので、再度反対側を向いて話しかけるリリアム。


「ねえ。もしかして、これからもこうなるのかしら?」


「……かもね。タケトが凄く嬉しそうだったから」


「「……」」沈黙する二人。


 二人としては、出来たら健人と二人きりがいい。二人きりでイチャイチャしたいのだ。イチャコラ自体嫌いではないが、健人だからしたいわけであって、性行為そのものを積極的にしたいわけではない。だから三人で、と言うのは、出来たら勘弁して欲しいのだ。


「たまには、タケトが一人の時間を作るって話するから、その代わり三人は許して、って提案しましょう」


「そうだね。そうしよう」


 こうして、健人の策略は見事成功したのだった。勿論、やってみたかった、と言うのもあったのだが。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ