懐かしい顔ぶれ
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背に弓矢を背負った、目つきの悪い痩せた男性が、馬を引きつつアクーの門を通り、メディー方面へ抜けようとしていた。何かブツブツ言いながら。これからアクーを出てどこかに向かおうとしているのだろう。
「おい。あんた、大丈夫か?」様子を訝しんで声を掛ける、門番の兵士。
「……」返事をせずジロリと門番を一目見る男性。その様子を傍らで見ていたもう一人の兵士が、気になって犯罪者記録をペラペラ捲って見てみるも、この男性は該当しないようだ。
「お前ら、この都市に魔族の介入許したろ?」ボソっと呟くような小さな声を発した男性。
「介入というか、通常の手続きを踏んで貰って、この中に入った魔族はいるけどな。魔族と人族は既に和平締結してるんだから、犯罪者でない限り、ここに入るのを断る理由はない」
「あんたが言ってるのはケーラちゃんの事か?」もうひとりの兵士が、半年ほど前にやってきた、超絶美少女の事かと聞いてみる。そもそも、アクーにはケーラ以外、正式にこの門を通って、魔族は入ってきていない。
「あの魔族の女、ケーラってのか」痩せた男性が無表情に名前を繰り返す。
「あの子は良い子だ。今回の神官の騒動に一役買ってくれたし、魔物が増えた調査だって、物凄く頑張ってくれんたんだよな」
「しかも可愛いしな」
以前健人達が解明した神官の事件は、孤児院爆発とアクー内に現れた元アヴァン、ゴリラの化け物が出現したという大きな騒動になった事もあり、アクー内では既に周知されていた。因みに、大神官が失踪してしまったので、現在の大神官代理は、あの白いオッサン、もとい、グレゴーが務めている。
顔を合わせながら、自分の事のように嬉しそうに話す兵士達。彼らは以前の神官の騒動の際、カインツと共に行動していたので、側でケーラの活躍を見ている。
「……チッ」嬉しそうな兵士の様子を見て、舌打ちする男性。そしてそのまま何も言わず、アクーを後にした。
※※※
カランカラン、と西部劇に登場するような、中が見える両開きの扉を開け、中に入る。すぐさま二人の超絶美女が両脇で腕に絡まる。真ん中にいる黒髪の青年の頭の上には、白猫が「なーご」と鳴きつつ鎮座している。
ギルドの中にいた複数の冒険者達が、そのハーレム状態の黒髪の青年を見てざわつく。あの有名な新鋭の冒険者だ。いつも背負っていた大剣はなく、その代わり楕円形のくすんだ銅色の小さめの盾を背負っている。腰にはくすんだ銅色の刀を下げている。ブロンドの美女の腰の両脇には同じくくすんだ銅色のダガー、黒と紫の混ざった髪色の美女の腰には、これもくすんだ銅色のトンファーを、両側の腰に下げている。もっとも、冒険者達は、ケーラのその武器が何なのか知らない様子だが。
この青年達を見てヒソヒソ話している冒険者達。先日このパーティはデーモンを倒したと聞いた。デーモンと言えば、魔族領にしか現れないはずの、レベル70から80はあると言われるとても強い魔物だ。そんな魔物を倒せるやつらに、誰も喧嘩を吹っかけたりしないが、この黒髪の青年のハーレム状態は物凄く羨ましい。
グギギという音のような声のような何かをいくつか耳にしながらも、それに構わず、ファルが先に声を掛ける。
「……王女まで手篭めにしたんですね」磨いていたグラスを片付けながら失礼な事を言うファル。
健人も出来れば、有名人で王女であるリリアムには、こういう事してほしくないのだが。ケーラが我慢出来ずいつも腕に絡まってくるので、対抗心燃やしてリリアムまで絡まってくるのだ。もう、やめろ、というのは諦めた健人。
「人聞きの悪い事言わないで下さい。ロックさんはいますか?」
「お話は事前に聞いていますので、上でお待ちですよ」そう言ってファルは二階の応接室に、三人と一匹を案内した。そして応接室に入ると、ロックが座って待っていた。
「……王女まで手篭めしたのか」健人の様子を見てロックが呟く。さっき誰かも同じ事を言った気がする。
「奥さんが三人いるロックさんに言われる筋合いはないと思います」負けるもんかと健人が返す。何と戦っているかは知らないが。
「何で知ってるんだ?」こめかみに青筋がスッと入るロック。
そしてその犯人に目配せする健人。サッと視線をそらすファル。そして逃げるように黙って下に降りていった。
「……犯人は分かった。まあ、それよりだ、メディーへの報告の件は、伯爵様からの改めての依頼だ」
そう言って机の上に書類を置くロック。依頼の件はリリアムから事前に聞いていた健人。各都市で大量発生している魔物の理由。それは魔薬によるものと判明した。そして、その魔薬をばら撒いているのは和平に反対している魔族であり、その手伝いをしていたのは神官達だ。それをメディーのギルドと王に報告しに行くのだ。ケーラは今回の件を調べていたので、説明する手間が省け、リリアムがいる事で王に接見するのが容易くなる。今回の件をメディーに行ってもらって報告するのに、これ以上の人選はないだろう。
「各都市の神殿の調査も、依頼するよう伝えないといけないですね」
「ああ。神殿の調査は、ギルドからの要請だと突き返されるだろうが、王からの指示だと、さすがにあいつら神官達も言う事を聞くだろうしな」そう言ってチラっとリリアムを見るロック。
「分かっていますわ。お父様にお話しますので」ロックの視線で、何が言いたいか理解したリリアム。
「お父様、ですか。なあ、タケトはそのお父様に会うんだよな?」チラっと今度は健人を見るロック。
「……ええ。まあ」健人は別の意味で、ロックの言いたい事が分かってしまった。
「どうすんだ? それ」リリアムはロックと話している間もずっと、健人の腕を離さない。
「なるようにしかならない、ですね」ハハ、と苦笑いしつつ頭をポリポリ掻く健人。正直どうすればいいのかさっぱり分からないし、どこまで大ごとなのかもよく分かっていない。ただ、リリアムが悲しまないように努力するのは間違いないのだが。
「なるようになるわ。タケト」フフ、とこんな時でも超絶美女スマイルなリリアム。
「なるようになるって、どういう事?」反対側の腕に絡みついているもう一人の超絶美少女が質問する。
「あー、なんだ。もういいや。出てけ」いきなり不躾に退出しろと言うロック。ロックも三人奥さんがいるが、この二人ほどの超絶美女ではない。余りのリア充っぷりにイライラしたのだった。勿論ロックは奥さん三人とも愛しているが。
ロックの眉間に皺が寄っているのを見て察した健人。一方何が良くないのか分からない様子で、不思議そうな顔をしている超絶美女二人を急かせて、ロックから渡された書類を手に取り、席を立って会釈をしてさっさと部屋を出た。ぴょんと白猫が健人の頭に乗って、呆れた様子で「にゃ~ご」と一鳴き。
そして三人と一匹が下に降りていくと、ファルに声を掛けられた。
「タケトさん。ギルド長から渡された書類の他に、当ギルドからも紹介状が必要ですので、準備するまで少しお待ち下さい」
わかりました、と健人が答え、ギルドの下で待つ三人。メディーのギルドにも行く必要があるので、その紹介状を用意するとの事だ。その間もずっと、美女二人は健人の腕に絡まったままである。ここには複数の冒険者が酒を飲んだり軽食を食べていたりしている。ヒソヒソされているのが分かる。さすがに健人もずっとくっついているのはまずいと思い出す。
「ちょっと二人共、外で待っててくれないか?」
「どうして?」「なんで?」
「刀の練習がしたいんだ。思いついた技があって。修練場に行ってるから。そんなに時間取らないから」
「そう。じゃあ仕方ないわね」「早く戻ってきてね」
二人は残念そうに健人から離れ、ギルドの外に出ていった。ようやく開放された。ふう、と安心したように一息つく健人。頭の上の白猫がまたも呆れたように「にゃあ~あ」と一鳴き。
「どうしてそうなったんです?」手元に用意した書類を健人に渡しつつ、一連のやり取りを見ながら質問するファル。率直な疑問である。
「ハハ。まあ。とりあえず裏の修練場借りますね」中途半端に誤魔化しつつ、そして逃げるように、頭の上に白猫を乗せたまま、裏の修練場に走っていく健人だった。
そんな風にファルと健人がやり取りしている間、表のギルドの扉付近で、建物の壁にもたれて突っ立っている超絶美女二人。道行く男達が、その佇まいに見惚れている。
「「……」」そう言えば健人と恋仲になって二人になるのは初めてである。間に健人がいないと、どうも気まずい。ずっと沈黙している美女二人。特に何か話する事もないし、かと言ってずっと黙っているのも変な空気だし。お互い変な牽制をしあっている。
そして、そんな彼女達を遠くから見ながら、コソコソ話している若い青年二人。
「おい。めちゃくちゃ美人が二人もいるんだが」
「俺どっちもいける。お前は?」
「俺も。でも、紫と黒髪のちょっと背の高い美人のほうがいいかも」
「じゃあ、俺はブロンドの美女な」
二人はどうやらリリアムを知らない様子。元々彼らはギルドに用事があったのだが、とんでもないレベルの美女二人がギルドの入口付近に佇んでいるのを見つけて、つい声を掛けたくなったのだった。
「「あの~」」ヘラヘラしながら近づいてきて声を掛ける青年二人。
「彼氏待ちだよ」彼らが何か言う前に、青年達を見てバッサリ言い切るケーラ。彼らが自分達に声を掛けた理由くらい分かっている。彼女達くらいの美女は、こういう輩から普段から声を掛け慣れているからだ。
「私もよ」ケーラの言葉に便乗するリリアム。
「そんな~。二人共彼氏待ちだなんて事はないっしょ」ニヘラニヘラと軽い調子の青年。斧を背負っている。冒険者のようだ。
「ほんとよ」「嘘じゃないよ」
「そりゃ君達くらいの美人なら、そういう嘘も平気で言うよね」もう一人の青年は、緊張した面持ちだ。こちらも冒険者のようで、盾を背中に、剣を腰に着けている。
「だからほんとだってば」面倒くさそうに言葉を返すケーラ。だが、この青年達のおかげで、リリアムとの微妙な空気が解消されたので、少し感謝していたりする。
「あの、因みに私の事はご存知?」二人がどうも自分の事を知らない様子に、確認してみるリリアム。
「あれ? どっかで会ったっけ? こんな美人なら忘れるはずないんだけどなー」「そうそう。初めて会ったよ」
どうやらリリアムを知らない青年二人。
「何かこの感じ、既視感を覚えるわ」はあ、とため息をつくリリアム。以前健人が自分の事を知らなかった事を思い出す。
「お待たせ」そこで健人が汗を拭いながらギルドの扉を開けて出てきた。頭に白猫を乗せて。ぱあ、と顔が明るくなる美女二人。
「あれ?」「お」「もしかして」だが、先に一緒にいた青年二人と健人が目を見合わす。
「「タケトか!」」「ジルムとバッツじゃないか!」
嬉しそうに再会を喜ぶ三人。お互い肩を叩いたり、肩を抱き合ったりして嬉しそうだ。一方その友達っぽい二人にナンパされていて鬱陶しかった美女二人は、健人のその様子にポカーンとしている。まさか知り合いだったとは。
「タケト、どなたなの?」リリアムが青年二人と共に喜び合う健人に聞く。
「ああ。以前ヌビル村にいた頃の友達で、ジルムとバッツって言うんだ」
健人の紹介の通り、無謀にもリリアムとケーラに声を掛けていたのは、ヌビル村にいたジルムとバッツだった。
「そのお友達お二人さんは、ボク達ナンパしてきたよー」意地悪そうに言うケーラ。
「マジか。お前ら相変わらずだな」ケーラは嫌味のつもりだったが、健人にとってはおかしかったらしく、大声でアハハと笑う。ジルムとバッツはヌビル村にいた頃、真白に無謀にも何度かアタックしていたのを懐かしく思い出す健人。
「何だタケト。この子達と知り合いか?」どうもこの美女二人が健人に対して慣れてる感じで会話しているので、気になったバッツ。
「ああ、まあ、なんだ。二人共俺の彼女だ」頭をポリポリ掻きながら答える健人。
「「な・ん・だ・と?」」健人の会心の一撃? クリティカルヒット? に、ダメージを受けつつくぐもった声でハモる二人。キレイに寸分のズレもなくハモる二人。よほど気持ちがシンクロしたのだろう。そして二人から嫉妬という名の怒気が体のどっかから溢れ出す。グギギという音が彼らから聞こえる。その瞳は涙を溜めているようだ。悔しそうに。羨ましそうに。恨めしそうに。
更に追い打ちをかけるように、リリアムとケーラが彼らの様子を気にせず、健人の腕にしがみついた。
「だから言ったでしょ? 彼氏待ちだって」「そうよ。でも、タケトのお友達だったのなら、許してあげるわ」
二人からグギギグギギと更に音が重なって聞こえる。あ、バッツの目から涙がこぼれ落ちた。頬を伝う涙を拭いもせず、健人を睨んでいる。嫉妬を孕んだ瞳で。
「ていうか、マシロちゃんはどうした?」そんなバッツを放置して、ジルムがいつも健人のそばにいた、これまた美少女の猫獣人について聞く。それを聞いたからか、健人の頭の上に乗っている白猫が、その様子に呆れたように「にゃあーぁ」(はーぁ、みたいなニュアンスです)、と鳴いた。
「うーん。どこから話せばいいかなあ」両腕を超絶美女に絡まれながら、白猫を見上げ呟く健人。
※※※
「「……」」
ジルムとバッツはずっと悔しそうに健人を見ているが、徐々に呆れ顔になってきている。今五人はギルド近くの食堂で昼食をとっている。久々に合うヌビル村の友人二人に、健人はとても嬉しそうだが、その両脇にはずっと腕から離れない、さっきまでナンパしていた美女二人がいる。そして食卓の上で美味しそうに魚を食べている白猫。
「で? お前はマシロちゃんまでも彼女にしたってのか?」ああん? と、まるで刑事が犯人を問い詰めるかのような尋問のような雰囲気で、健人に迫るバッツ。丸い傘の電球が机に無いのが残念なのかどうなのか。
「あ、はい。まあ、そうです」何故か敬語で小さくなっている健人。
「そして、そこで美味そうに魚食ってる猫が、マシロちゃんだと?」もう一人の刑事、もとい、ジルムがずずいと健人に近づき、尋問、もとい、質問する。
「まあ、そうです」ずっと小さくなったまま尋問に答える健人。白猫が食卓の上で魚を食べながら「にゃーん」と、そうだよ、と言わんばかりに一鳴き。
「なあ? 俺達はバカにされてるのか?」「田舎者だと思ってからかってんのかもな」バッツとジルムが顔を見合わせる。
「ほんとなんだけどなあ。まあ、信じる方が難しいかもな」何度も真白=白猫を色んな人に説明してきて、その度疑われたりしてきたので、仕方ないと言った表情の健人。
「タケトの言う事を信じられないなんて、最低な友達だね!」「私のタケトの言う事を疑うの?」訝しがる二人を見て怒る美女二人。
「あー、二人はややこしくなるから黙っといてくれ」諌める健人。その間ずっと腕は組んだまま。その状態で食事するのは結構大変だと思われるのに、ずっと健人から離れず、二人共器用にそのままの状態で昼食をとっている。
「愛されてんだな」見慣れてきたジルムが、呆れたように健人に言う。
「何でタケトばっかり。こんな事ならタケトに戦い方教えたりしなきゃ良かった」一方バッツは、ドンと食卓を叩いて悔しそうにしている。その衝撃で白猫がポンと食卓の上で弾む。そしてその二人の羨ましそうな様子を見て、若干優越感を感じていたりする健人。もしこれで真白までいたら、こいつらどう思っただろうか? とか考えながら。
「そういや、二人は何しにアクーに来たんだ?」彼らはそもそもヌビル村の警護を任されていたはず。
「ああ、そうそう。俺達冒険者やろうと思ってやってきたんだ」
ジルムによると、実は健人と真白がヌビル村を離れてから、またも村がゴブリンに攻められたらしい。その数約50匹。だが、一度ゴブリンの大群を倒した経験と、更にその時得た経験値でレベルアップしていた多くの村民達は、難なく全滅させる事に成功したとの事。それで、以前からアクーに行きたいと言っていたジルムとバッツに、もう村を守る必要がないから行ってこい、自分のやりたいようにしろ、と、ダンビルに言われたのだそうだ。
「ダンビルさんは元気か?」懐かしい、この世界の自分の父とも言える存在。会わなくなって1年近くになろうとしている。
「ああ、元気だよ。なあ、バッツ君?」ニヤニヤしながらバッツを見るジルム。そう言われて顔が赤くなるバッツ。
「ん? どうした?」様子がおかしいバッツを訝しがる健人。
「言ってやれよ」茶化すようにジルムがバッツの肩を肘で突く。
「実は、うちの母さんとダンビルさんが結婚するんだよ」
時系列ですが、この部分は、モルドーがナリヤを救出する、ほんの少し前から始まっています。
ご了承下さいm(__)m





