片桐綾花※救出
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「さて、そのお方のそんな姿を見て、放っておくわけにはいかなくなった。元々別の用事でとあるところに向かっていたのだが、そのお方を探すのも私の任務だったからな」
モルドーはそう言いながら、両手を広げる。何かやろうとしているのが分かる。
「クッ、シャイン!」閃光を放つ魔法を唱える白服の男。
「ぐお!」モルドーは光に弱い。それを知ってか知らずか、効果があった。眩しくてつい大きなマントのような黒い翼で顔を覆う。そしてその上から何か衝撃があったのを感じたモルドー。
「何か攻撃でもしたのか?」男が杖の尖った方で、光属性のエンチャント魔法をかけて突き刺していたのだが、全く効いていない。やがて閃光が収縮する。覆っていた黒い翼から顔を出すモルドー。緊張した面持ちで一旦下がって距離を取る白服の男。
突然、正面にいたモルドーがフッと消えた、と思ったら、白服の男の前に突如現れ、またも鳩尾に拳を入れた。余りのスピードに反応できない。「フガァ!」鳩尾に拳を叩きこまれ、九の字に曲がったまま数m先に吹っ飛ばされる白服の男。ドン、と部屋の壁に激突し、地面に落下した。「ゴハ!」口から血を吐き出す。
「おお。血の匂い」ルージュを引いたような真っ赤な唇で、じゅるりと舌なめずりするモルドー。だが、血を吸いたい衝動を抑え、スタスタとナリヤの方に歩いていく。そして猿轡を外した。「ぷはあ!」ようやく呼吸が楽になるナリヤ。
「はあ。はあ。モルドー。ケーラは元気なのか?」自分の事より妹を慮るナリヤ。
「ええ。とても元気です。ただ、人族のオスに入れ込んでいるのは頂けませんが」
「何? どういう事だ?」まさか自分のように騙されているのか?
「ナリヤ! 勝手に喋るな!」モルドーがナリヤの問いに答えようとしたその時、白服の男が叫んだ。そして隷属の魔法をかけようと、四つん這いの状態のまま、片手をナリヤの方に、手のひらを開いて向ける。が、それを見たモルドーがヒュンと一瞬のうちに白服の男に近寄り、その腕を蹴り上げた。
「うがあ!」痛みで叫ぶ白服の男。ボキっと鈍い音が白服の男に聞こえ、あらぬ方向に曲がる腕。
「今私がナリヤ様と話しているのだ。余計な事はするな。無粋な奴め」睨みながら見下ろすモルドー。
「うぐう。くそ。アヤカを呼ぶべきか。しかし、ナリヤの事が……」腕を抑えモルドーを睨む白服の男。やはり強い。到底勝てない。彼女を呼べば何とか逃げる事は出来るかも知れない。だが、ナリヤの事がバレてしまうのはまずい。しかし、このままでは自分の命が危ない。
「アヤカ? 誰だそれは?」
モルドーがそう言ったところで、いきなりドカーン、と、レンガ造りの部屋の壁が爆発した。その音の方に振り返るモルドー。そこには、黒髪で黒い瞳の美しい少女がいた。
「あんた! 魔物でしょ!」
※※※
「私の仲間に何やってんのよ!」
頭に大きなハート型のデザインがついた、白銀のミスリルの杖をビッとモルドーに向けながら、叫ぶ美少女。
因みにこの杖の先についた大きなハートは、魔法少女ならハートでしょ! って事で、この黒髪の黒い瞳の美少女こと、綾花が鍛冶職人のドワーフに頭を下げて作って貰ったものだったりする。特に何の効果もない。単なる気分である。
「ア、アヤカ」奥の方で力なく呟くナリヤ。全裸で手の指が数本折られ、腕と足に鎖を付けられているナリヤの姿を見て、愕然とする綾花。
「ナリヤ! ああ、なんて事? ギルバート様! 早くナリヤの治療と解放を!」
「あ、ああ」綾花の指示に、チッと小さく聞こえないように舌打ちしながら、折られた腕を反対の腕でかばいながら、ナリヤを繋いでいた鎖を解く。そしてナリヤに「ヒール」をかけ治療をする、ギルバートと呼ばれた白服の男。
「どういう事だ?」その一連のやり取りに疑問が湧くモルドー。この男はさっきまでナリヤ様を嬲っていたはずだが、この少女に言われて、今度は鎖を解いて治療している? 自分の腕を治癒するより先に?
「ナリヤをいたぶるなんて、最低の魔物ね!」ナリヤが自由になり、折られた指が治っていくのを見てホッとした後、今度はモルドーに視線をやりキッと睨む綾花。その黒い瞳が怒りに満ちているのが分かる。
「お前は何を言っているのだ?」モルドーが困惑している。ナリヤ様をこんな風にしたのは自分ではない。
「くらえ! ウォータートルネード!」モルドーの声を遮るかのように、綾花が魔法を詠唱する。ヒュンヒュンとミスリルの杖の先のハートを円を描くように二度回す。杖先から水圧のカッターを含んだ竜巻が発生する。それが一気にモルドーを襲う。
「何? 二属性だと?」水と風、二つの属性魔法を一緒に発動されたのに驚き、黒い翼を広げ、綾花が壊した壁の穴から一気に上空に飛び立ちそれを避けるモルドー。そして避けられたウォータートルネードが部屋の壁を破壊する。普通属性は一人一つだ。だが、極稀に2つ使える二属性がいるのは、噂で聞いた事がある。相当珍しいのだが。それが今、目の前にいる。
本当は綾花は二属性ではなく四属性なのだが、この時点では二つの属性魔法のみ使っているので、モルドーが勘違いしているだけなのだが。そもそもクアッドが存在する事など、モルドーは思いもしていないだろうが。
「逃がさない! ウインドライド!」そう唱えると、綾花の足元に小さな1mほどの竜巻が発生する。そこにポンと飛び乗り、一気に上昇してモルドーの後を追う。筋○雲に乗ってる感じです。
「とりあえずナリヤ様を救うのが先決だな」上空で黒い大きなコウモリの翼をバッサバッサと羽ばたかせ、空中で停止しながら呟くモルドー。
「しかし、どういう事なのだ?」この黒髪の人族の女は、状況の確認もせず、有無を言わせず、突然自分を攻撃してきた。自分が魔物だから疑いもしなかったのか? それとも……。
一方上空で浮かんでいるモルドーを追いかけながら、綾花が「鑑定」をする。
名前:モルドー
性別:男
年齢:387
種族:魔物
種類:吸血鬼(始祖)
レベル:65※闇夜の効果により現在レベル80
HP:99729※299729/100000※300000
MP:7778※19778/8000※20000
経験値:不明
状態:使役されています
特殊技能:闇の能力上昇、吸血、コウモリ使い、吸血魔法使用可能、黒魔法使用可能、闇夜の効果
「……レベル65? いや、今は闇夜の効果ってやつでレベル80?」その鑑定結果に驚愕する綾花。
「HPもMPも私と差がありすぎる……。吸血魔法? 黒魔法? 何それ? 聞いた事ない。……これ、勝てないかも」
綾花は鑑定が出来るので、魔力の事をMPと呼んでいる。
因みに、綾花の現在のステータスはこうである。
名前:アヤカ(正式名:片桐綾花)
性別:女
年齢:18
種族:人族
属性:四属性
レベル:50
HP:30000/30000
MP:4700/5000
経験値(EXP):500182(次回レベルUPまであと99818)
状態:※※※※※※※※
特殊技能:鑑定
状態が見えないのは、本人は余り気にしていない。今までもずっと見えていなかったし、他のも、例えば特殊効果はレベル50になってようやく見えるようになった。なので、そのうちレベルが上がれば見えるようになるだろうと思っている。ナリヤを鑑定したときも、状態が見えなかったので。
とにかく、モルドーが途轍もない強さだと分かった綾花。追いかけようとしたためウインドライドで今は宙に浮いているが、モルドーに攻撃を仕掛けるか躊躇している。ナリヤはああだし、ギルバートも腕が折れていた様子。というか、三人全員が万全だったとしても勝てるかどうか分からない。
綾花が攻めあぐねていると、モルドーが急降下した。驚いて行き先を見る綾花。ナリヤのところだ。
「あ! 待て! これ以上ナリヤを痛めつけたら許さない!」叫ぶ綾花。
「……愚か者が」
モルドーが呆れた様子で呟いて空中で停止して振り返り、黒い翼をバサっと一回綾花に向けてはためかせる。強い風が綾花を襲う。「わあああ!」その風に煽られウインドライドの小さい竜巻から落ちてしまった。高さ15mほどから落下する綾花。が、「ウインドクッション」を急いで唱え、ウインドライドに似た、小さな竜巻のクッション(これも○斗雲みたいな感じです)が綾花と地面の間に現れる。ボヨンとそのクッションに落ちて、地面に激突せずに済んだ。
その隙にモルドーは、ナリヤの前に立つ。上でのやり取りの間、自分の腕を治療したギルバートが、杖をモルドーに向けて睨む。
「このお方は連れて行くぞ」そう言って黒い翼をナリヤを隠すようにバッと広げ、そして閉じる。すると、黒い竜巻が現れ、それがギュルルと回転し、その場から消えた。そしてモルドーとナリヤは忽然と消えていなくなった。
「あいつ! 隷属の契約をしているのに、連れて行ってどうする気だ!」隷属の腕輪をつけているのだから、連れて行ったところで魔物には解除できないはずだ。だが、この腕輪を使い慣れているギルバートは知っている。この腕輪は、一定以上離れると、効果がなくなる事を。その範囲は1km以上。
そして、相手は吸血鬼。闇夜に紛れるのは得意な魔物だ。その距離くらいなら難なく離れてしまうだろう。
因みに、以前アクーの洞窟で、健人達を襲った事がある、隷属の腕輪を付けられていた神官見習い達は、1km以上離れると効果がなくなるという事を知らない。もし知っていたら遠くに逃げていただろうが、隷属の腕輪自体、今のこの世界では珍しい物なので、その事を知る人自体も少ない。だから、知らないのも仕方ないのである。更に、魔族の監視もあったので、彼らの場合はどうしようもなかった。
徐々に怒りがこみ上げるギルバート。その表情はいつものクールなイケメンではなく、憤怒の表情でまるで鬼の形相だ。せっかく自分の欲望を満たすために楽しんでいたのに、それを邪魔されただけでなく、その欲望の解消相手を攫っていくとは。
「大丈夫?」駆けつけた綾花が、気遣って声を掛ける。
「うるさい!」頭をガリガリ掻いて髪をくしゃくしゃにしながら綾花に怒鳴るギルバート。
「ヒッ!」驚いて身を引く綾花。今までギルバートは一度も綾花に怒鳴った事がない。それどころか、こんな怒りの表情さえ見せた事もない。
その様子を見て、ハッとするギルバート。
「ああ。ごめん。取り乱した」言葉は冷静だが、怒りの余韻は全く消えてない。もういい。この女で欲望を解消するか?
「ごめん。ギルバート様。どうしよう? ナリヤが攫われた。追いかけないと」
怒鳴られても気遣う綾花。そこでようやく頭の中も冷静になれたギルバート。駄目だ。この女は壊しちゃ駄目だ。そう頭の中で言い聞かせる。仕方ない。また代わりを見繕うか。
「アヤカ。残念ながらナリヤはもう無理だ。諦めよう」
「分かった。ギルバート様がそう言うならそうする」
普通、パーティメンバーが攫われたとなったら、必死になって助けに行くはずである。しかも綾花は、ナリヤの陵辱された姿を見て激昂するほど気にかけていた。にも関わらず、ギルバートの(諦める)という言葉に、綾花は素直に従ったのだった。





