片桐綾花※接触
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予定通り、もう一話更新します。
第五章始まりです。
※やや残虐な表現があります。ご了承下さい。
「フ、フグゥ!」猿轡を口に巻かれ、全裸で両手両足を縛られているその女性は、いくら陵辱されていても逆らえない。最近この男のやる事が、どんどん過激になってきている。精神的な我慢より、肉体的な我慢のほうが辛くなってきている。
ここはとある元拷問専用の部屋。いくつもの牢獄がある建物の中の部屋の一つだ。この男が金を出して借りている。現在火の都市アグニにいるのだが、この男が以前拠点としていた王都メディーから既に離れているので、この男が以前使っていた、そこにあった設備はもう使えない。なので、自らの欲望を満たすために、ここアグニで、人が来ないこの部屋を借り、女性を弄んでいるのだった。最も、メディーにあった設備は、既に無くなっているのだが。
鉄柵の向こう側から月明かりが覗いている。この辺りは人気が全く無い。この男はそれを分かっていてこの部屋を借りているのだから当然だ。隷属の腕輪をしていても、この男がやっている所業が他の誰かに見つかれば、自分は助かるかも知れないが、その可能性は無いに等しいだろう。絶望だけが頭をもたげる。
「ふんふふーん」と鼻歌を歌いながら、わざとゆっくり力を入れていく美丈夫な白服の男。徐々に痛みを伴うその行動に逆らえず、ただ恐怖したまま、自分が壊されるのを見ている美しいオレンジ色の髪の女性。
ボキ、という音が部屋中に響き渡る。「フ、フグゥフゥゥ!!」気が狂いそうな苦痛。猿轡をされているその口からは、叫び声さえも許されない。激痛に気を失いそうになる。手の指を折られるのはこれで4本目だ。
「そうそう。その表情がたまらないんだ」端正な顔のその男が、激痛に耐える美女の、折れて支点を失った指を愛おしそうに撫でて、舐め回している。男の下半身はずっと熱り立ったままだ。興奮しているのが分かる。
「まだ後六本ある。ああ、足の指を含めたら十六本だね。今夜はゆっくり、楽しんであげるよ」フフフと嗤う顔の整った男。抗えず絶望する美女。性欲だけならまだ良かったのかも知れない。遠慮なく注がれるのは屈辱ではあったが、今の拷問よりはマシかも知れない。まさかこんな性癖を持っているとは思っていなかった。そしてこの男は、自分がいくら壊されても、治す術を持っている。だから遠慮なく壊し放題なのだ。この男が飽きるまで、ずっと壊され続ける。壊されてはまた治され、また壊される。終わりの分からない陵辱。
ああ、済まない。私はもう、無理かもしれない。未だ会えていない妹を思い、自ら命を断つ事も考えていた女性。その前に、気が狂うかも知れない。そう考えながら、激痛の余り意識が遠のいていく。
「フグゥア!」いきなり折れた指を力一杯握られる。更なる激痛で、朦朧としていた意識が目を覚ましてしまう。
「こらこら。ちゃんと起きてないと僕が楽しめないだろ?」冷めた視線で女性を見下ろす男。
ああ、また始まる。これなら死んだ方がマシだ。死にたい。死なせてくれ。
その時、ヒュンという音と共に、鉄柵の間から、黒い影が入ってくるのが見えた。幻覚だろう。激痛のせいで気がおかしくなっているのだろう。もしくは、動物でも何でもいいから、助けてほしいという願望が、幻覚を見せているのかも知れない。
「ふむ。やはりそうだな」
どこからともなく声が聞こえた。呆れた。幻聴まで聞こえるのか。猿轡をされながらも、力なくうすら笑いがこぼれた女性。
「な! 誰かいるのか!」一方、幻聴のはずなのに、声が聞こえたらしく、狼狽える男。焦った様子で部屋のあちこちを見回し、声の主を探してている。
そしてボン、という音と共に、モクモクと白い煙が地面から沸き上がった。緊張した面持ちで、壁に立てかけてあった自分の武器である杖を持ち、構える男。
「お前は何だ?」額から汗をかきながら、目の前の白い煙の後に現れた黒い影に声を掛ける男。だが、その声は男の問いに答えない。
「やはり、ナリヤ様ですな。こんなところで……。それはどういう事かな?」
ナリヤと呼ばれた女性が全裸で縛られ、猿轡を噛まされ、手の指数本があらぬ方向に曲がり、更に腕に木の腕輪がついている。首をかしげる黒い影。
「この! 魔物か!」と、叫びながら「ホーリーボール」と唱え、杖の頭から白い玉が、黒い影へと飛んでいく。それをヒョイと躱す黒い影。
「ほう。たかが人間ごときが、高貴なる私に攻撃してくるとは。覚悟はできているのだな?」口角が上がり、赤い口の中から鋭い牙が見えた。ハッとするナリヤと呼ばれた女性。
その語り口。もしかして、モルドーか?
※※※
「やはりアクーから魔族の都市は遠い」愚痴を言いながら夜の空を飛んでいく一匹のコウモリ。
「しかし、ケーラ様も人族如きを伴侶にするなどと、冗談がすぎる。一体どういうおつもりだ? お父上が聞いたら卒倒するだろうに」ブツブツ愚痴るコウモリ。勿論お父上とは、魔王である。因みにモルドーは、この時点でケーラと健人が恋仲になった事を知らない。知ったらどうなるのだろう。
「しかしそろそろ、人族の血が欲しい。確かに人族の料理は美味い。だが、私にとって血に勝るものはない」
それが出来ないのも分かっているコウモリ。たまに人型に近い魔物を襲っては、血を飲んだりはしているが、人族の血の味には及ばない、らしい。
「おお。そうだ。山賊や盗賊なら、人族とはいえ、殺してもいいのではないか? 奴等は悪人なのだから。さすが私だ。よくぞ思いついた。よし、ケーラ様に今度相談しよう。そうしょう」
拳があればグッと握って、ナイス私! とか言ってそうなコウモリ。だが、きちんと主人にお伺いを立ててから行動しようとするところは、律儀なコウモリではある。
「ふう。ようやくアグニか」
そうやって独り言を呟きながら、暫く闇夜を飛び続け、ようやくアグニに到着した。近くの木にぶら下がって一息つくコウモリ。闇夜に紛れている上、しかもコウモリなので、攻撃される事はまずあり得ない。攻撃するとすれば、自分の事が分かる同族か魔族か、勘違いしたオオカミくらいだろう。そして魔族は人族の都市には余りいない。なので移動の際邪魔が入る事はないので、順調に進んでいる。だが、人通りの少ない森や裏通りばかり、わざわざ選んで飛んでいるので、多少遠回りではある。
更にコウモリは日中移動出来ない。闇に紛れないと動けないのだ。なので尚更時間がかかっている。それでも、夜中の移動スピードはかなり速い方なのだが。
一息ついた後、バサバサと羽音を立てながら街中の裏通りに入っていくコウモリ。アグニの都市内をショートカットしたほうが早いと判断して、慎重に灯りのないところを選んで飛んでいる。温泉が有名なこの都市は、アクーほど城壁が高くない。あちこちの宿から温泉のものだろうか? 白い湯気が立ち昇っている。
「ん?」コウモリが一旦飛ぶのを止めて、近くの木に逆さにぶら下がる。
「魔族がいるのか?」彼は魔族が微量に放つ魔素によって、魔族の気配が分かる。ただし、半径100mくらいの範囲だが。と言う事は、この近くだ。慎重に居場所を探る。魔族の中には、自分のように魔素を検知して同族の居場所が分かる者もいるからだ。
「弱っている?」訝しがるコウモリ。魔素を感知しているのは、牢獄のような、レンガで造られた部屋の中だ。そして鉄柵から中を覗いてみる。
「! あれは」彼がよく知る人物だ。
※※※
「クッ! ナリヤ! お前が呼んだのか!」知っていた様子だったので、ナリヤが助けを呼んだ魔物かと疑う男。
「それは違うぞ人間。そのお方は魔素を感知出来ないはずだ。私が偶然見つけたのだ」ナリヤの代わりに答えるモルドー。
「そうか。なら、お前を殺せばいい話だな」ニヤリと嗤う男。
「フン。お前のような人間如きに、私を倒せるわけなかろう」
そう言ってマントのような黒い翼を広げる。一気に大きく広がり、部屋中翼に覆われる。そこから一斉に沢山のコウモリが「ギャーギャー」と鳴き声を上げながら、白服の男に一斉に襲いかかる。
「うわあ!」沢山のコウモリが白服の男に纏わりつき、噛み付いたり牙で攻撃する。
「やめろ! 触るな!」飛び掛かってくるコウモリ達を避けるようにブンブン杖を振りまわすが、余り効果はない。
「クッ、ホーリーニードル!」杖の先端の丸い部分を中心に、光の棘が無数に飛び出る。次々に棘が刺さって落ちていくコウモリ達。倒され地面に落ちたコウモリ達は、そこで黒い影になって消えていく。
「神官か」光属性魔法を見て、呟くモルドー。
「しかし、ナリヤ様のその姿。お前がやったのか?」
コウモリを退治し、肩で息を切らしながら睨みつける男。
「だったら、なんだよ!」そう叫びながら、杖の尖ったほうで突き刺そうと攻撃してくる男。それを軽く躱し、鳩尾に膝を入れるモルドー。「ぐはあ!」呻き声をあげ、その場に蹲る男。見下ろすモルドー。
「お前は、あのお方が誰だか分かって、隷属の契約をしているのか?」
「はあ。はあ。ウグ。分かってるよ。ナリヤだろ。魔王の娘の」モルドーを見上げながら睨む男。
「……知ってて隷属の契約をしたのか。なんて愚かな真似を」呆れるモルドー。何を考えている?
「お前は何者だ?」男が睨みなら質問する。
「私は吸血鬼だ」蔑んだ表情で見降ろし、答えるモルドー。
「吸血鬼? ……だと?」愕然とする男。吸血鬼はデーモンと並ぶ高ランクの魔物だ。自分一人では絶対倒せない。まずい。このままだと殺される。だが、おかしい。魔物なのに、魔族の事を良く知っている? ナリヤの事までも?
「……誰かに使役されてるのか」
「ほう。聡いな。よく気がついた。まあ、お前には関係ない。私が何者か分かったなら、お前が私を倒すのは不可能な事くらい、分かるだろう。しかも今は夜だ。それがどういう意味か、分かるか?」
吸血鬼は夜だと圧倒的な力を発揮する。モルドーは口を大きく開け、真っ赤な口の中を見せながら、鋭い牙を見せ、威嚇する。
ここままではまずい。白服の男はモルドーから距離を取り、緊張しながら身構えた。





