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ケーラの決意

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m


「そろそろ……」


 健人がそう言いかけたところで、言わないで、と言いたげに、健人の唇に人差し指をつけるケーラ。


「もうちょっと一緒にいたい」上目遣いでお願いするケーラ。


「でも、特に行くところないだろ?」その超絶美少女の視線についドキっとしてしまうが、平静を取り繕う健人。


「タケトの家に行きたい」


「何しにだよ? ここからだと離れてるし無理だって」


「じゃあ、ボクが泊まってる宿。タケトって宿来た事ないよね?」


 ケーラの泊まっている宿なら近い。ここから徒歩で10分程度だ。食事で何度か利用した事はあるが、確かに宿泊する部屋は入った事がない。以前洞窟の側の宿屋に泊まった事はあるから、宿自体には特に関心はないのだが。


 健人の返事を待たず、腕を引っ張っていくケーラ。まあいいか、まだ時間もあるし。リリアムが家に来るのは夜だろうし。そう思って行ってみる事にした。今晩、リリアムは馬を返しに健人の家に来るのだが、そのままアクーを出るまで一緒に過ごす予定だ。リリアムが家に来るまでに帰らないといけない。


「お! ケーラちゃんお帰り。あら、可愛いカッコしてるねえ」


 宿の入口に入ると、ケーラの藍色のドレスを褒める声が聞こえた。声の主は恰幅のいい太めの中年女性。この宿で働いているようだ。宿の入口は食堂の裏手にあった。宿泊する人達はこの裏手の入口から入るらしい。入口近くには、馬小屋がある。ケーラが普段使う馬も、ここに繋いでいるようだ。


「そっちの男はケーラのコレかい?」ニヤっとしながら親指をたてる中年の女性。もといオバちゃん。


「アハハ。違うよ」笑いながら答えるケーラ。ちょっと寂しそう?


「そうかい。ま、頑張んな! 晩御飯いるなら後で言っておくれよ」大声で話しながら奥に入っていったオバちゃん。何を頑張るのだろうか?


「元気なオバちゃんだな」健人がそう言うと、アハハと笑うケーラ。


「ここにお世話になって結構長いから、仲良くして貰ってるんだ。ボク魔族なのに凄く優しくしてくれて感謝してるよ」そう言いながら、慣れた様子で先に二階に上がるケーラ。短いスカートの中が見えそうになり、伏せ目で階段を後から上がる健人。


「どうぞー」そして端の部屋の扉を開けるケーラ。二人で中に入る。広さは六畳一間といった感じか? 一人で過ごすにはちょうどいい広さだ。右端の壁にベッドが置いてあり、反対側に机と椅子、その隣にクローゼットだろう、両開きの木製の家具が置いてある。そして中に置いてあるベッドにボフンとバウンドしながら腰掛けるケーラ。健人は向かいにある椅子に座った。


「うーんとね。今日は大事な話がしたいんだ」


※※※


「大事な話?」


 うん、と返事してベッドに座りながら足をブランブランさせる。いつもの服装と違い、短いスカートなので、綺麗な脚がチラチラ覗いているのが若干気になる健人。


「あのね、さっきは嬉しかった。ボクのためにあんなに真剣に怒ってくれて、ボクを良い子だって、優しい子だって言ってくれた」


 そうだ。さっき男に矢でケーラが攻撃された時、心底腹が立った。正直、あそこまで心の底から腹が立つとは思わなかった。そして蹲ったケーラを心底心配した。この気持ちって、いつかの彼女に似ている。


「あんなふうに言われて、守られて、惚れない女はいないんじゃないかな?」


 そう言って上目遣いで健人を見つめる紫と黒髪の超絶美少女。つい照れて顔を背ける健人。


「あー照れた」面白そうに笑うケーラ。


「ほんとからかうの好きだよな」


「だってタケト、可愛いんだもん」


 なんだよそれ、と返しながらも、健人も真面目に話す。


「でも、ケーラが良い子だと思ってるのは本当だし、大事な……」


 市場でケーラが襲われ、湧き上がった感情を思い出す。大事な? 俺は何を言おうとした? どうして(仲間)って言葉を拒否した? 


「大事な……なに?」ジッと健人を見据え、続きを聞き出そうとするケーラ。


「分からん」誤魔化す健人。


「どういう事だよ?」ムッとするケーラ。


「その続きって、結構重要だと思うんだけどー?」プンスカしてます。


「とにかく、ケーラが話そうとした、大事な話とやらを教えてくれよ」


 あ、逃げた、と言いつつも、ケーラから言い出した事なので、決心した模様。コホンと咳払い一つして、ケーラが口を開く。


「あのね。ボク実は魔王の娘なんだ」


 ※※※


「……意味がわかりません」敬語になりました。


「そのままの意味です」ケーラも健人に合わせて敬語です。


「魔王って、あの、五年前に人族を襲ったとかいう?」一応確認している健人。聞き間違いかも知れない。


「そうだね」あっけらかんと話すケーラ。


「えええええええええええ!!!!」ようやくびっくりする健人。聞き間違いじゃなかった。一方ケーラは、健人の様子を見て面白かったらしく、お腹抱えてアハハと笑う。ベッドにばたんと倒れた際、スカートの中が見えてしまったのは言わないほうが良いだろう。


「魔王の、王女様、ですか?」敬語が続く健人。


「そうだよ。だから以前洞窟の前でやりあった、ロゴルドやビルグがボクに丁寧だったんだよ」


 そういう事だったのか。しかし、まさか魔王の娘とは。なんか汗がダラダラ出てきた。て事は、今俺のパーティは、人族の王女と、魔王の娘って事? 結構大変な事実に健人は気付いてしまった。


「……とんでもないな」つい本音を呟く健人。


 改めて冷静になると、凄いパーティーメンバーである。しかも王女は今、自分の彼女だったりする。


「ま、今更タケトはボクに敬語とか使わなくていいけどね」


 そう言って今度はスッと真剣な眼差しになり、健人をじっと見つけるケーラ。


「で、魔王の娘であるボクが、他の種族と交流する事に対して、余り宜しくない感情を魔族が一定数いるんだ。特に人族に対しては、さっきボクを攻撃した男の人のように、魔族の中にも人族を恨んでいる人は未だ結構いる。五年前にお互い戦争してたからね。または見下している魔族も。ロゴルドやビルグなんかそうだったよね? 」


 一息ついて、話を続けるケーラ。


「最初、ボクが人族の都市に行って、調査したいと言ったら、パパに相当止められた。それくらい、人族と関わるのに慎重になってるんだ。でも、これから和平結んでお互い仲良くやろうとしてるのに、ずっと閉じこもっていても良くないって話したんだ。それならボクじゃなくて他の魔族に行かせればいいってパパが言うんだけど、ボクはずっと薄暗い魔族の都市にいるのが嫌だったんだ。だからママに相談して、何とかパパをやり込めたんだ」


 魔王をパパ、その妃をママですか。そりゃ娘だからそう呼ぶのは当然だが、違和感ハンパない。


「ボクより先に、姉さんが人族の都市に入ってたのも、パパが引き止めた理由だったみたいだけどね。娘二人が自分のところから居なくなるのが寂しかった、というのが、パパの本音みたい。ママから聞いた」


 どこの父親も娘離れは難しいもんなんだろうな。魔王でもそれは同じらしい。ん? 姉さんが人族の都市に入ってる?


「その姉さんは、人族の都市に行くのを止められなかったのか?」


「止められた。でも、姉さんは、その調査している隊の責任者の一人。責任者として、行かないといけないと言われて、パパも渋々納得したんだ」


 なるほど。ケーラとは違う理由で止められなかった、と。


「そして、実は探し人は姉さんなんだ。半年くらい連絡が取れてない。ボクのやる事は、姉さんがやっていた調査と、姉さんを捜す事なんだ。でも、人族の中にボク達魔族が紛れ込むのは目立つから、中々情報得られてないのが現状。だからメディーに行きたいんだよね。以前ヴァロックさんから聞いた、魔族の特徴、オレンジ色の髪色って、ナリヤ姉さんの特徴と同じだから」


 ケーラのお姉さんの名前は、ナリヤって言うのか。その人が、ケーラが調査している、魔薬の件の責任者の一人というわけか。


「じゃあ、お姉さんの捜索の件、ちょうど良かったな。今回の魔薬の件含めて、王都に行くつもりだったから」


「うん。何とか見つけたいんだ。あ、ボクが魔王の娘だって事、リリアムにはまだ言わないでね。いつかボクから話すから。今言うとややこしくなりそうだし」


 人族の王の娘リリアムに話すのは、確かに慎重になったほうがいいだろう。しかしなるほど。確かに大事な話だ。でも、何でこのタイミングなんだろうか?


「で、これからが大事な話」


 今までも結構重要な内容だったと思うが、これからが大事らしい。そして今度は何かを決意したような強い眼差しで、健人を見つめる。


「さっきも言ったけど、魔族が他の種族と関わるのは魔族内でも毛嫌いされてる。もし、恋人とかになったら、魔族から追放されるかも」


 彼女の言いたい事が少し分かった健人。言葉を遮りたいが、彼女の決意に満ちた瞳を遮るのに躊躇してしまう。それくらい強い瞳で健人を見つめている。


「そして、ボクは魔王の娘。そんな立場の人間が、昔戦争した人族と恋人になったら、殺されるかも知れない」


 そう言ってから、椅子に座っている健人の胸に飛び込んだ。


「でもね、ボク、タケトが好きなの」


 そのまま健人の胸に顔を埋めているケーラ。静かに声を殺して涙を流しているのが分かる。それ程の決意。自分が魔族から追い出されてもいい、殺されるかも知れない、と言うほどの覚悟。それが泣いている理由だろう。そして健人は、そんなケーラに戸惑っている。多分抱きしめてあげるのがいいのだろうが、それをしてしまうと、後戻り出来ない。だから、手は宙ぶらりんのままだ。


 そして顔を上げ、涙目のまま真紅の瞳で健人をじっと見つめる超絶美少女。唇が震えている。


 話を聞いて、彼女が相当な覚悟をしているのが分かった。初めて好きだと言われた時は、単なる勘違いだと思った。その時は会って一日しか経っていなかったのだから。でも今は、数ヶ月ずっと一緒に過ごしてきて、一緒に魔物を倒してきて、それで自分に恋心を抱いてくれているのだ。その決意はもう、勘違いではない、真剣なものだというのは間違いない。


 ケーラも、初めて会って健人に好きだと言ったが、正直その気持ちに自信が持てなかった。何しろ初恋である。キスまでしてしまったが、勘違いかも知れない、その可能性を捨てきれなかった。勘違いなら「やっぱり違いました」で済まされる。そして好き好きアピールは彼女にとって、なんちゃって恋心みたいなものだった。恋してる自分を演じているのが楽しかっただけだった。


 だが、ずっと一緒に過ごしてきて、なんちゃってが本命に変わってしまった。だから、今日決意したのである。本気なのである。


 そして健人も、この美しく可憐な女性が、とても優しく、素直で、時にはやらかすが良い子だというは分かっている。そして、昨日のリリアムと同じように、相当の覚悟なのは分かる。魔族から追放されるという事は、魔王や妃と言った、ケーラの家族と訣別するという事になる。更に同族に殺される危険もあるという。


「……何か言ってよ」


 震える唇で呟く超絶美少女。懇願するように見つめるその紅い美しい瞳は、健人の心を揺さぶるには十分すぎる力を持っている。


「正直に言うと、重い」本音である。昨日誰かさんにも同じ事を言った気がするが。


「アハハ。ほんと無駄に正直者」その言葉を聞いて、おかしくて笑いながら涙を拭うケーラ。


(ほんと、相変わらず変なところで真面目)。以前誰かさんが、酒を呷って告白してきた時に言った言葉。ケーラに似たような事を言われて、ふと思い出した健人。あの時とシチュエーションが似ている気がしないでもない。


「でもさ、ケーラ程の立場の人間なら、魔族の中でも、もっといい人いるんじゃないの?」


 魔王の娘なら、魔族でもそれなりの役職? 貴族? のような人達がいるだろう。そういう格式高い男を選ぶほうがいいんじゃないか? しかも超絶美少女なんだから。普通にそう思う健人。その認識は間違いないはずだ。


「いないよ。タケトみたいに優しくて、勇気があって、正義感強くて、一緒にて楽しい男なんか、魔族には一人もいない」涙目のまま健人を見つめ、言い切るケーラ。


「追放され、殺されるかも知れないのに、俺を選ぶの? 俺にそんな価値ないよ」


 別に自己評価が低いわけではない。本当にそう思うだけなのだ。特にケーラが魔王の娘だと聞くと、尚更、不釣り合いだと思ってしまう。


「あるよ。ボクはこう見えても魔王の娘。人を見る目には自信ある」そう言って強い瞳でじっと見つめる。


「ねえ。タケトは、ボクの事嫌いなの?」


「そうじゃないよ」


 そして、昨日までケーラをただの仲間だと思っていたのだが、さっきの市場でのやり取りで気付いてしまった。それは何時ぞやの、今は会えない自分の想い人に対して感じるものと同じ感覚。


「真白がいるからな」だから、真白の事を思い出す。


 その名前を聞いてビクっとするケーラ。まだ現実できちんと会った事がないタケトの想い人。すまほとかいう不思議なもので、その姿を見た事はある。ひまわりのような笑顔を振りまいていたその姿。以前健人と夢の中のようなところでその姿を見た時も、さすがに同性の自分から見ても、相当な美人だと思ったのをぼんやり覚えている。あれは一体何だったのか、未だに分からないが。


「……二番で、いい」


 マシロという人に変われないなら、その次でいい。ずっと真剣な瞳で健人を見つめながら、呟くケーラ。一番じゃなくてもいい。想いが叶うなら。ケーラの決意と覚悟はそれくらい強い。


「ケーラもそれか」頭をポリポリ掻く健人。そしてつい言ってしまった真実。


「ケーラ(も)?」訝しがるケーラ。しまった、と思った時にはもう遅い。


「リリアムとはどうなったの?」やっぱり気づきました。


「……そうなりました」どうしてこう、自分は嘘をつけないのか。


「ええー! リリアム、頑張っちゃったのかああ」


 あちゃー、と天を仰ぐケーラ。まさかリリアムが一歩踏み出すとは思っていなかった。どうせ昨日も一緒にいてもウジウジしてただけだろうと高を括っていたのに、進展してしまうとは。


「じゃあ、三番になる? いや、それは嫌だ。リリアム三番でボクが二番!」


「ちょっと待て。なんで恋人になる事前提なんだ?」


「じゃあ、タケトはボクの事どう思ってるの?」


「……」即答できなかった。


「ねえ。教えてよ」乞うような瞳でジッと見つめるケーラ。


「その前に、俺の話も聞いてくれ」とりあえず迫るケーラを一旦落ち着かせる健人。


「俺の世界では、二人以上恋人を作るって犯罪みたいに悪い事ってなってたんだ。それが常識だった世界で育ったから、すぐに何人も恋人を増やせない」


「でも、リリアムはそうなったんだ」納得いかない表情のケーラ。リリアムと恋仲になったのなら、それは言い訳にすらならない。


「リリアムとは、ケーラより付き合いが長いし、ケーラは知らないけど、一緒に演奏もしたりしてたんだ。だからケーラが思っているよりも深い付き合いなんだ。それが昨日結果になったんだと思う」


 演奏を一緒にしていた? 良く分からないが、それがリリアムと健人を繋いだ理由らしい。そして自分には、健人とを繋ぐ何かがあるだろうか? 


「言い訳はわかった。でも、大事な事はまだ聞いてない」


「正直、今はまだケーラを恋人とか、そんな風には思えない」そこは大事だと思ったので、きっぱり伝える健人。


「……どうして?」健人の言葉を聞いて、声が震えるケーラ。


「どうして、と言われてもなあ」一緒にいてつまらない事はない。ただ、真白やリリアムに比べ、まだ何か足りない。


「今、すぐにケーラとそういう仲になるのは簡単なんだ。だってケーラ、可愛いもんな。でも、それって、軽い付き合いになってしまう。それでもいいのか?」


 ほんの少し目に涙を溜めながら、ケーラは首を横に振る。泣くのを我慢しているのがよく分かる儚げな表情。


「俺も前向きに考えるから、時間をくれ。ケーラの決意は良く分かったから」頭を下げた健人。ケーラに対しては、今はそれが精一杯だった。


「真面目だね」はあ、とため息をつくケーラ。健人としては前向きな保留なのだが、ケーラにとってはフラれたも同然だ。


「ケーラが真面目に言ってるのに、俺が軽くちゃ失礼だろ?」このやり取りにも既視感を覚える健人。


「そうだね。そうだけど、そうだけど……」徐々に声が小さくなるケーラ。ポト、ポト、とケーラの両目から、床に雫が落ちる。


「あ~あ。凄く決意したのに、覚悟したのになあ」努めて明るく振る舞おうと、涙声で無理に笑うケーラだった。



ラブコメ展開、後二話ほどで終わります。

そして新しい章になります。もう少しお付き合い頂ければ幸いですm(__)m

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