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リリアムの決意

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

「二番目、か」


  意味は分かる。この世界は重婚は了承されている。寧ろ男の甲斐性とか言われて、一部の人からは称賛されているくらいだ。真白が一番ならリリアムは二番でいい、彼女は自らそう言っているのだ。そして、別に結婚するわけではなくとも、その前提として、複数人と恋人同士となるのも、この世界では同じく受け入れられている。


 しかし、そんな都合の良い話があるだろうか? 前の世界では重婚はNG、また、二人目三人目と恋人を作ろうものなら、それは浮気だ。恋人は一人だけ。それが健人が育ってきた世界での常識だ。簡単にはいそうですか、と受け入れる事など出来ない。


「タケトさんは、私の事はお嫌いですか?」泣きはらした目で見つめる超絶美女。


「いや、嫌いじゃないよ」


「今日はつまらなかったですか?」


「楽しかった、な」それは本当だ。真白とは違う、落ち着いた感じで、そして適度に気を使う距離感は、確かに心地よかった。そしてセッション。これは真白とは絶対に出来ないだろう。


「私も、とても楽しかったです。もっと、二人で一緒にいたいです」


 静かに立ち上がり、再び健人に静かに抱きつくリリアム。その抱擁を抗わず受け入れてしまう健人。そして瞳に涙を浮かべ、じっと健人を見つめる。顔がかなり近い。このままだと口同士がくっついてしまう。


「ちょっと待て」リリアムから何とか離れる健人。


「気持ちは嬉しいよ。そして二番目でも良いって言ってくれた事もありがたいよ。でも、俺のいた前の世界では、二番目ってのは許されない世界だったんだ。だから、急にそう言われても、急には受け入れられない」


「そうなのですか」健人が何故戸惑っているか、わかったリリアム。


「じゃあ、()()二番目でいいって言った意味は、ご存じないのね?」


「ん? どういう事?」


 健人がそう答えると、はあ、と大きなため息をつくリリアム。


「まあ、タケトさんはこの世界の人じゃないから、仕方ないかも知れないわね。私はご存知の通り人族の王メルギドの娘、王女リリアム。その王女が二番目になると言う事は、正妻ではなく、妾になるという事。それは結婚しなくても同じ。要する私は王族をやめる、という事になる可能性が高いの」


「王族をやめる?」


「そう。正妻ではないのだから。神官が妾の子孫という事はご存知かしら? 私も同じ扱いになると思うの」


 元々神官は、王の第二、第三の妻などの妾、正妻以外の子孫によって作られた職業である。そしてリリアムは、正統な王の血を受け継いだ娘。そんな王族直系の娘が嫁ぐ場合、正妻として嫁ぐのがこの世界の常識である。王の娘が第二婦人となるなど、今までのこの世界の歴史を紐解いても、一度もない。王族としての尊厳を守るためにも、そんな事はあってはならないのである。


 前例がないが、もし第二婦人となれば、これまで続いてきた常識を覆し、王族の尊厳を穢したとして、王族との縁は切られる事は容易に想像出来る。そうなった場合、光魔法が使える事で、神官になるという可能性が高くなるという事である。勿論すぐ結婚するわけではないのだが、王族の娘が恋人と選ぶ男性を、結婚を考えずにそう言う仲になる事も殆どない。恋人と言っても、二番目と言うのは、妾になるという事と変わらないのである。


 そもそも王族と縁を切るという事は、リリアムの家族とも縁を切るという事になる。なのでリリアムの決意は、相当の覚悟である。


「マジか……」呟く健人。王族と縁を切られ、神官になるかも知れないって事? それがとんでもない事だというのは、この世界に疎い健人でも理解できる。あんな伏魔殿みたいなところで働く事になるって? というか、王の名前ってメルギドって言うのか。知らなかった健人。


「勿論、神官になる事だけが選択肢じゃないわ。でも、王族をやめる事は確定になるの。だって、王女たる者が正妻じゃないって、あり得ないから。因みにアイラお姉様は、お義兄様の結婚相手が一人だけだし、正妻だから問題はないわ。ゲイルお義兄様は伯爵ですしね」


「それだけの覚悟をしてる、そういう事なのか」


「そういう事よ」分かった? と、リリアムは健人をじっと見つめる。真剣な眼差しだ。


「重いな」つい本音が出てしまった。


「重いのは分かってるの。これは私の我儘であるけど、私にとってとても大きな決意。もう私自身が耐えられないの。辛いの」そう言ってごめんなさい、と頭を下げるリリアム。


「気持ちは分かったよ」


「じゃあ、タケトさんの気持ちは?」透き通るような蒼い瞳で、顔を上げて見つけるリリアム。


「困った。これが本音」ハハハ、と力なく笑う健人。リリアムの事は嫌いじゃない。寧ろ今日一日一緒にいて好感度が上がった。リリアムは性格的にも好きなタイプだ。真白にもケーラにもない落ち着いた雰囲気と、それでいて本音は語れる、丁度いい気遣いが出来る距離感は、正直好みだ。そしてかなりの美女だ。もし真白がいなかったら……。


「もしマシロさんがいなかったら、恋人にしてくれた?」思ってた事をそのまま言われ、ドキっとする健人。


「そうだな」そしてつい呟いてしまった健人。しまった、と自分の手で口を塞ぐ。つい本音が出てしまった。


「嬉しい。でも、出会った順番なのね。ほんと、出会いって縁と運とタイミングね」はあ、とため息をつくリリアム。


「でも、もう無理。タケトさんの本音聞いたから、抑えられない」


 そしていそいそと健人に近づき、抱きつくリリアム。


「好き」


 そう小さく呟いて、潤んだ瞳で健人を見上げ、彼にそっと口づける。そして自分の決意と想いを伝えるように、更に強く、ぎゅっと抱きついた。彼女の飛び跳ねるような強い心音が聞こえる。緊張しているのがよく分かる。


 その間ずっと抵抗できずにいる健人。こんなに一生懸命、相当な覚悟で、自分への好意を伝えてくれている。それを蔑ろにするのは、さすがに出来なかった。普段こんな大胆な事をしないリリアムが、今こうやって覚悟をして言い寄ってくれているのだから。ただ、キスは抵抗しても良かったかも知れない、と思ったのだが。


 だが、次のリリアムの行動で、その程度の事はどうでも良くなってしまう。


「今日は、離れたくないの」


 そう言って涙目のまま、一旦健人から離れ、立ち上がっていそいそと若草色のドレスの胸元のボタンを外し、脱ぎだした。突然のリリアムの行動にびっくりする健人。


「ちょ、ちょっと待て。それはダメだって」焦って制止する健人。それはさすがにまずい。


「嫌。この機会を逃したら、二度と迫れなくなるのは分かってるもの。私は弱いから」


 健人が止めるのを聞かずに、服を脱ぎ、靴を脱ぎ、下着姿になるリリアム。さすがに恥ずかしいのか、健人から目を背ける。両腕をクロスにして、自分の体を抱いて震えている。その顔は真っ赤だ。つい目を手で隠し、見ないようにする健人。


 健人も真白が猫になってから、ずっとそっちの欲は解消していない。数ヶ月も。そんな暇がなかったのもあったが、そんな状態なのに、目の前に超絶美女が、好意を自分に向けて、下着姿で、受け入れろと言っているのだ。理性が耐えられる自信がない。


「頼むから服を来てくれ」手で目を覆いながらお願いする健人。


 それに答えずに、そっと健人に寄り添うリリアム。え? これって……。


「くしゅん」可愛いくしゃみでつい隠していた手を外し、見てしまう健人。白く美しい素肌が目に入ってしまう。やっぱり全裸だった。


「!!!」びっくりして後ずさりしてリリアムから離れる健人。


「ダメだって! 風邪引くし服着ろって!」そう言って慌てて見ないように後ろを向く。


「今から服着ても、裸になった事は消せないから、これ以上進んでもそうでなくても、もう一緒」


 蚊が鳴くような小さな声。発した言葉は震えていた。


「じゃあ、せめてベッドのシーツくらいかぶってくれ。風邪引かれるのは困るから」


 そう言われておずおずとキングサイズベッドに入るリリアム。そして健人は気づいた。自分の指示が間違っていた事を。裸の超絶美女をベッドに入れてしまった。


 リリアムの顔が、まるで熟したトマトのように真っ赤だ。シーツで顔を隠しているが、動悸が周りに聞こえるんじゃないかと思えるほど激しい。正に心臓が飛び出しそうなくらいバクバク言っている。今更ながら大胆な事をしている事に気づいてしまい、顔から火が出そうなほど恥ずかしい。でも、もう決めた事だから、と、このまま動こうとしないリリアム。


 ゴソゴソと音が聞こえて、シーツに包まっただろうと、後ろを向いていたのを改めてベッドの方に向き直ってリリアムの様子を見る健人。あっち向いて横に寝て丸まっている。どうしよう。その様子がとてもいじらしく、可愛いと思ってしまった。困った。愛しく思ってしまった。


 このまま黙って別の部屋に行く事も出来るが、リリアムの決意と覚悟を聞いてしまい、そして自分自身も相当悩んでしまっている。悩んでいるのは性欲が理由だけではないみたいだ。自分はこの子もどうやら……。


「あ、あの」ずっと沈黙している健人が気になり、そーっと顔を隠していたシーツから首だけ振り返り、健人の様子を覗くリリアム。


「アハハハ」顔が真っ赤なリリアムが可愛くて、おかしくてつい笑ってしまう健人。


「ど、どうして笑うの?」覚悟を決めて裸になっているのに。笑われても顔を真っ赤にしたまま怒るリリアム。そのいじらしい様子を見て健人も決めた。頭をポリポリ掻いて、サッとリリアムの寝ているベッドに飛び乗る。


 ビクっとするリリアム。つい顔をシーツで隠してしまう。ベッドに想い人の圧がかかる。どうしよう。彼が来てしまった。自分からそういう空気作っといてなんだが、いざそうなると思うと、心臓が破裂しそうなほどバクバクいっている。


「リリアム。こっち向いて」横を向いて丸くなって、白く美しい背中を向けているリリアムに声を掛ける。おずおずと健人に真っ赤な顔を向けるリリアム。そして今度は健人からリリアムにキスをした。


「もう引き返せないぞ? いいんだな?」


 涙目でコクンと頷くリリアム。


 ※※※


 チュンチュンと、朝を告げる小鳥のさえずりが、窓の外から聞こえる。肌寒い朝だが、それでも乾いた空気を運ぶ風は心地良い。うつらうつらと目が覚める。キングサイズベッドの隣には、全裸のブロンドの超絶美女が、とても幸せそうな顔でスースー寝息を立てている。


「はあ……」


 やっちまった。後悔はしてない。いや嘘です。やっぱり若干の後悔はしています。


「真白の時とは違い、迫られて雰囲気に飲まれた感じもするからなあ」呟く健人。


 そう言えば獣人の真白と違う、自分と同じ人族と、この世界で初めて交わった。そして当然リリアムは初めてだった。でも、やっぱりというか、辛抱たまらんなって、5回くらいは致してしまいました。ごめんなさい。誰に謝ってるのかは不明だが、とりあえずごめんなさい。


「でも、まあ今は、真白と同じく、可愛いと思う気持ちは嘘じゃない。だからまあ良いか、と思うようにしよう」


 誰かに言い訳しているような口ぶりで、幸せそうに寝返りを打つブロンドの美女を見ながら、微笑む健人。優しく頭を撫でる。見事な双丘がプルンとなったのを見逃さずに。


「ん、う~ん?」目が覚めたようだ。


「おはよう。よく寝てたな」


「あ、ええ。おはよう。()()()」昨晩、途中から呼び捨てに変わったリリアム。健人も別に気にしていない。


「そうだ。俺大事な事言うの忘れてた」


「なぁに?」


「リリアム。好きだよ」


「ウフフ。私も。大好き」


 嬉しそうな顔でベッドの上で健人の胸に飛び込み、抱きつくリリアム。満面の笑みで、とても幸せそうな瞳で健人を見上げる。豊かな双丘を健人の胸に押し付ける。


「「あ」」つい可愛くて元気になってしまいました。ニコッと笑い、健人に優しくキスをする。それからまた始まったのは言うまでもないのかどうなのか。


 ※※※


 昨晩風呂も入らず、そのままイチャコラしてしまったので、朝二人で風呂に入り(そこでまたイチャコラして)、そして今日はケーラと約束しているので、出かける支度する健人。同じくリリアムも着替えて出かける用意をし、食卓で健人が作った朝食を二人で取っている。


「ウフフ。夫婦みたい」嬉しそうなリリアム。


「そうだな」笑顔を返す健人もまんざらではない。


 そこへ昨日、気を利かせて? 別の部屋で寝ていた白猫が降りてきた。


「「!」」白猫を見て凍りつく二人。他の人が見たら、こんな可愛らしい白猫にビビるっておかしな奴らだ、と思われるだろうが、彼らにとってはただの白猫ではない。そんな二人を気にせず、黙ってスタスタ階段を降りてきて、ひょいと食卓の上に乗る。そこで「なーご」と一鳴き。


「と、とりあえず真白の食事用意するな」慌てて白猫の朝食の、魚を干したのを用意するため、台所に向かう健人。健人が食卓から席を離したのを見て、リリアムが白猫に話しかける。


「マシロさん。ごめんなさい。タケトと繋がってしまいました。でも、マシロさんを蔑ろにするタケトじゃないし、私もあなたには敵わないって思っているわ。マシロさんが猫の間、タケトの事は任せてほしいの」


 猫に話しかける内容ではないと思うが、それでもリリアムの目は真剣だ。白猫も視線を外さず、じっとリリアムを見つめている。そして理解したのか分からないが、「にゃーん」と一鳴きして、リリアムの手をペロペロ舐めた。


「分かってくれたのかしら? もしそうなら、ありがとう」されるがまま、自分の手を舐めている猫を微笑みながら見ているリリアム。


「へえ。真白が俺以外の人を舐めるなんて初めて見た」そこで白猫の朝食を持ってきた健人がやってきた。食卓に置くと、リリアムを舐めるのをやめ、一目散に魚にありつく白猫。


「多分マシロさんは大丈夫よ」そう言ってニコッと健人に微笑む。


「そうなのかなあ?」最近白猫の様子が変わってきたのは分かっているが、言葉を理解したり、状況を把握したり、人間の頃のような判断が出来るのかまでは分からない。でも、真白が元に戻ったら、必ずリリアムの事は話す。それは絶対だ、と決めている健人だった。


 そして二人は身支度をして、馬に乗ってケーラとの約束の場所に一緒に向かった。馬に乗る理由は、リリアムが一旦伯爵邸に戻らないといけないからだ。そのままリリアムに馬を貸すのである。


 ※※※


「なあ。リリアム」


「なぁに?」


「あのさあ。リリアムが二番とかじゃなくて、どっちも一番じゃダメなのか?」


「嬉しい事言ってくれるのね」


「どうもリリアムの事も結構好きみたいだ、俺」


「他人事みたいに言うのね。そんな事言われたらもっと好きになってしまうじゃない」


 そう言って健人の胸に、甘えるようにコテンと頭を預けるリリアム。二人は今馬に乗って、ケーラとの待ち合わせ場所に向かっている。健人が後ろで手綱を持ち、その前にリリアムが跨っている。幸せそうな表情のリリアム。健人はリリアムの頭を優しく撫でる。その行為もまた、心地良い。


「でも、順番って、正妻か妾か、そういう時に決める必要があるくらいかしら? 順番決める必要がないなら、関係ないのかも知れないわね」そういう時とは、結婚する時、という時だろう。出来れば、リリアムが王族の縁を切る、と言う悲しい結果は避けたい健人。


「てゆーか、もう一回聞くけど、本当に俺で良かったのか? リリアムほど可愛くて、王女なら、もっと偉い人とか、それなりの身分の人とか、そっちの方がいいんじゃないのか?」


 まだ気になっている健人。そう言った後、ムっとした顔で振り返って頬をペチンと軽く叩くリリアム。


「もう! タケトがいいって言ってるでしょ!」プクーと頬を膨らますリリアム。ケーラみたいな反応だ。


「今は幸せ一杯なんだから、冷水浴びせるような事言わないの!」怒られました。ごめん、と謝る健人。


 そしてケーラとの待ち合わせの、彼女が泊っている宿の前にやってきた。


「じゃあね。また馬を返しにタケトの家に夜に行くわ」そう言って手を振り、伯爵邸に向かってリリアムは馬を駆けていった。とても充実した幸せそうな顔で。





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