デート。リリアム編その2
すみません長いですm(__)m
というのも、このプロット作っている時、アレサ・フランクリンの訃報が報道されたので、
つい付け加えちゃいました^^;昨日アメリカで葬儀が行われたのもあって、
ソウルシンガー女王の死去に、自分の作品の中に加えたくなりました。
ごめんなさいm(__)m
寸法合わせや刀の説明などで、結構時間を使ってしまい、既に今の時間は昼時になっていた。昼食を取るため、リリアムが行きたいと言っていた、高台にある海と街が一望できる、ちょっと洒落たレストランに入る二人。高台に上がると、潮風が海から吹き上がってきて心地よい。季節はそろそろ冬に向かおうとしているが、やや冷たく感じる風も、秋から冬に変わる頃の快い寂しさを伴って、それも気持ちいい。
「きゃっ」急に強い風が吹き抜け、短めのスカートが捲れそうになる。それを手で抑えてバランスを崩す。つい健人の腕にしがみ付いてしまった。
「あ、ごめんなさい」恥ずかしそうに顔を赤らめるリリアム。
「いいよ」気にしなくて、と気を遣わせないよう笑顔で答える健人。
「……」腕を離さないリリアム。
「えーと?」困惑する健人。
「あ、いいよ、ってそのままでいいよ、って事よね?」
嘘である。無理やり誇大解釈したようにして、腕から離れたくないだけなのである。小狡いリリアム。おずおずと健人の腕に捕まりながら、顔を見上げるリリアム。超絶美女の仕草は反則級の可愛さです。ふと照れて顔を背ける健人。
「……そうしたいのか?」そしてそんなつもりで言ったわけじゃないが、一応リリアムに聞いてみる。
コクン、と小さく頷く超絶美女。顔は真っ赤だ。この時初めてリリアムは、健人に自分の想いを示したのだった。
「ま、いいけど」何か気恥ずかしいが、リリアムがそうしたいならそれでいい、と思った健人。
だが、リリアムも恥ずかしいらしく、結局腕から離れ、健人の腕の袖を指で摘んでいるだけになっている。本当はケーラがたまにやるみたいに、腕に絡まりたいのだが、そこまで積極的には出来ないリリアム。そんな自分がもどかしい。でも、これが彼女の今の精一杯だった。
そんな状態でレストランに入る。赤いレンガ造りで、窓ガラスが大きめに張られている。景色も楽しんで貰おうという心意気が感じ取られる店だ。昼食時とあって、若干混んでいたが、席は空いていたのですぐ座れた。幸運な事に窓際だ。
遠くに微かに見える白波と、窓の外のすぐ近くを飛んでいく鳥達と、街中に走っていく馬車や忙しそうに往来する人達のコントラストが、雑多であるはずなのに、何故か芸術的な絵のように見える。人混みの中には見た目が明らかにウサギや馬のような人がいたり、耳が長い人間がいたり、そういうのを発見するたび、異世界なんだなあ、と感じる健人。
感傷的な気分で窓の外を眺めている一方、ずっと顔を赤くしたまま、そんな健人の様子をじーっと見つめるリリアム。周りの客達は、当然リリアムを知っているが、そのリリアムの、目の前の黒髪の青年を見つめる視線が、明らかに普通ではない事に気づいている。「グギギ」という音があちこちから聞こえたのは気のせいではなさそうだ。
料理がやってきた。魚料理を頼んだ健人とリリアム。この店はアクーの中でも魚料理が有名な店だった。
「本当にフライ料理だ」やってきた料理を見て驚いた健人。メニューにかいてあるから頼んでみたら、やっぱりそうだった。テンションがあがる。この世界に来て初めて見た魚フライ。何の魚かは分からないが、料理として出されるのだから、問題ないはずだ。
「百年以上前かしら? その時の勇者が伝えたって聞いてるわ」健人の様子を見て、リリアムが説明してくれた。
やっぱりそうなのか。以前、明らかに前の世界にしかないであろう調味料を見た事があった。なら料理もある程度この世界に伝えているだろう。一方リリアムは魚の煮付けだった。和食じゃないか。ご飯と一緒に食べたらさぞ美味いだろうなあ。味噌汁があれば尚素敵だ。ついリリアムがナイフとフォークで煮付けと格闘しているのを見て、あれこれ妄想してしまう健人だった。箸じゃないのがもどかしい。因みに残念ながらご飯と味噌汁はなかった。
そして二人とも料理に満足してレストランから出た。その瞬間、乾いた冷たい潮風が二人の頬を撫でる。季節の移り変わりを告げる冷たい空気は、どこか寂しい気持ちを感じさせつつも、何故かどこか心地良い。
そんな寂しい気持ちにさせてくれる潮風が、リリアムに勇気を与えてくれる。思い切って健人の腕にしがみつこうと手を伸ばす。が、タイミング悪く健人が歩き出した。空振り三振、リリアムの手が空を切った。せっかく勇気を出したのに失敗し、ヘニャヘニャとなるリリアム。
「ん? どうした?」
「……何でもないわ」
しょぼーんという音がリリアム辺りから聞こえてきそうだが、気を取り直して、歩き出す健人を追いかけるリリアム。
そして身の回りの物を揃えたいと言う事で、二人は健人の案内で市場を周り、旅に必要な品を購入していった。ただの買い物も健人といるととても楽しそうなリリアム。ずっと笑顔であれこれ選んでいる。健人も楽しそうだ。こんな気心知れた感じ、いつぶりだろうか?
そしてそろそろ夕方に差し掛かろうとした時、リリアムがふと健人に話しかける。
「ねえ。一つ提案があるの」フフ、と超絶美女スマイルで健人に可愛く耳打ちする。
「おお、いいね。じゃあさっそく取ってくるよ」健人も笑顔でリリアムの提案に乗った。
そして小一時間後、健人は以前リリアムと共にセッションした小劇場の上で、ドラムをセッティングしている。リリアムの提案とは、一緒にもう一度演奏しようという事だった。もうすぐここアクーを離れる。その前にやっておこうという事だ。当然健人は二つ返事でOK。急いでドラムセットを家に取りに戻り、その間、リリアムは他の人が劇場を使わないか、待ちながら確認していたのだった。幸い劇場は空いていて、早速セッティングしていたのだった。
「お? 何か始まるのか?」「あら見て。久々にリリィ様よ」「おお、あれは以前、凄い演奏をした黒髪の青年ではないか?」
舞台上でドラムセッティングしている健人を見て、徐々に劇場に人々が集まってくる。因みにリリアムは仮面をつけてリリィになっている。別に顔を見せても良かったのだが、何となく気分らしい。
「なあ。リリアム。ちょっとこの曲を聞いてくれ」そう言って健人は、スマホに入っていたとあるバラードを聴かせる。
「素敵な曲ね。この女性凄く太い強い声ね。私とは声質が違うみたい。でも、何を言っているのかよく分からないわ」
「ああそうだな」言語理解はさすがにスマホの音源まで訳してくれないようだ。リリアムに指摘され、健人はすぐさま意味を教えた。
「声質が違っても、リリアムの歌の後で、この曲歌ってくれないか?」
「ええ、私で良ければ喜んで。異世界の歌なんて、素敵だわ」
打ち合わせも終わり、リリアムことリリィが劇場の舞台の真ん中に佇む。その後ろには健人がドラムの椅子に座り、スティックを持っている。既に観客が一杯だ。リリィの歌と健人のドラムは、結構有名になっていたようだ。
いきなり健人がタターン、とタムタムとスネアを叩く。ドン、ドドンと、バスドラのペダルを踏む。そしていきなり8ビートでドラムを叩き出した。ダンダン、ダダダン、ドドド、とリズミカルにビートを刻む。そこにリリィの可憐で透き通る歌声が始まる。健人はリリィの歌を聞きながら、歌声の邪魔にならないよう、タムタムの音量を落とし、ハイハット中心に音を奏でる。リリィは健人の奏でるリズムを無駄にせず、歌声をリズムに乗せる。
以前と同じような高揚感が生まれる。観客席もテンションが上ってくる。立ち上がって思い思いに踊り出す者、泣き出す者、手拍子をする者、皆高揚感そのままに楽しんでいた。
ターン、と健人のスネアが大きな音を立て、ドラム演奏が終わり、それとともにリリィの歌が終了すると、うおおおおお!! という大きな歓声が波のように押し寄せてきた。久々のドラム捌きで汗をかく健人。同様に高揚感も相まって、テンションが上ったまま歌ったリリィも、汗をかいている。
そして次は健人のリクエストだ。タン、と始まりの合図のようにスネアを一回叩く。その音を聞いた観客は、次は何が始まるのか、と期待しながら静まり返る。
ツ、ツ、タン、ツ、ツ、タン。静かなハイハットとスネアの奏でる音。リリィに分かりやすいようにリズムを刻んでいる。いつでもどうぞ、という感じでずっとそのリズムを続けている健人。健人に目配せするリリィ。頷く健人。阿吽の呼吸だ。
すう、と腹式を使い息を吸うリリィ。歌い始める。
Looking out on the morning rain
I used to feel so uninspired
朝降る雨を見つめても
何も感じるものはなかったわ
合いの手は入れられない。さすがにゴスペルシンガーは準備できないが、それでも十分な歌唱力のリリィ。
And when I knew I had to face another day
Lord, it made me feel so tired
また一日を暮らさなくてはならないとわかると
とてもうんざりしたわ
観客は聞いた事のない、この静かに始まるバラードに聞き入っている。
Before the day I met you, life was so unkind
But your the key to my peace of mind
あなたに会うまで人生ってとても冷たいものだった
でもあなたの愛が私の心の安らぎへの鍵だったの
Cause you make me feel
You make me feel
You make me feel like A natural woman
だってあなたといるとありのままの私でいられるから
ほんとは(woman)と合いの手を入れたいところだが、無理なので仕方ない。
サビになって泣き出す何人かの観客。健人はずっと静かにリズムを刻む。
When my soul was in the lost and found
You came along to claim it
私の魂が忘れ物保管所にあったとき
あなたがやってきて引き取ってくれたわ
I didn't know just what was wrong with me
Till your kiss helped me name it
私ったらどうしちゃったのかわからなかったわ
あなたのキスが教えてくれるまで
Now I'm no longer doubtful, of what I'm living for
And if I make you happy I don't need to do more
何のために生きているのか私はもう迷わない
あなたを幸せにすることができるのなら、それがすべてだからなのね
リリィの歌声が夜空に響く。リリィも歌いながら涙を流している。感動しているのが分かる。なんて素敵な歌、なんて素敵な演奏。これが異世界の有名な歌。そして、今の私の気持ちを代弁してくれているような歌詞。
そしてまたもサビに入る。
Cause you make me feel
You make me feel
You make me feel like A natural woman
だってあなたといるとありのままの私でいられるから
(woman)と、誰に教えられもしないのに、一人で繰り返したリリィ。韻が分かったようだ。
Oh, baby, what you've done to me
あなたが私にしてくれること
You make me feel so good inside
心の奥までいい気持になるわ
And I just want to be close to you
ただ私はあなたの近くにいたいの
You make me feel so alive
生きているということをあなたは感じさせてくれる
Cause you make me feel
You make me feel
You make me feel like A natural woman
だってあなたといるとありのままの私でいられるから
そして何度もサビを繰り返す。観客もfeel like A natural womanと歌っているようだ。劇場が一体化する。
リリィが涙を流しながら歌い終える。その涙の理由は、歌に感情移入し過ぎたのかも知れない。そして劇場はスタンディングオベーションの嵐。リリィは頬を伝う涙を拭う事もせず、恭しく頭を下げ、健人もドラムの横に立ち、頭を下げた。
※※※
既に月明かりが煌々と夜道を照らしている。二人は健人の家に向かっている。健人はドラムセットが入った台車を引きながら歩いている。
「ね? やってよかったでしょ?」健人の横を歩いているブロンドの美女がニコっと微笑む。
「ああ。ホントだな」健人も笑顔で返す。掻いた汗を拭うように、冷たい風が吹き抜けていくが、それがとても心地良い。
大盛況だった。観客の盛り上がりが半端なかった。リリアムも気持ちが高ぶっているのがよく分かった。そして自分も久々にドラムを叩けて楽しかった。以前も思ったけど、世界が変わっても音楽はやっぱり最高だ。
「でも、暫く出来ないのは寂しいなあ」
「持っていくわけにはいかないものね。でもまた、戻ってきたら、ご一緒しましょうね」またもニコっと健人を見て微笑む超絶美女。
「そうだな」不覚にもその笑顔にドキっとしてしまう健人。さっきのセッションでも息ぴったりだった。リリアムとは相性いいのかもな。
そしてふと二人目が合う。その様子がおかしくて笑い合う。その様子はまるでカップルのようだった。
そして楽しい時間はそろそろ終わろうとしている。それに気づいてしまったリリアム。徐々に歩みが遅くなる。だが、とうとう健人の家が見えてくる。
「今日はとても楽しかったわ。私の人生で一番かも」
「大げさだな。まあ、俺も久々に充実した日だったよ」
刀を見つけ、ドラムを叩く事が出来た。リリアムの付き合いだけのはずだったが、健人自身もリフレッシュ出来た。
そこで沈黙する二人。このままでいいの? これでいいの? そう思っているうちに、とうとう健人の家の前に着いてしまった。
「じゃあ、また明後日な。今日はほんとに楽しかったよ」
そう言って台車に乗せたドラムセットを家に片付けるため、裏手に回ろうとする健人。
「あ……」このまま帰ったら、また次からはいつもの日常だ。それも良い。でもそれ以上はない。
突然、健人は後ろに温かい何かを感じる。何かが健人の背中にそっと体を預けてきたのだ。
「どうした?」勿論、リリアムだった。
「あ、あの、私、そのどらむというのをもう少し見たくて」ようやく出てきた、背中に体を預けた理由。理由にはなっていないが、今のリリアムにはこれが精一杯だ。
「それならそう言ってくれればいいのに」苦笑いしながら、リリアムから離れ、「んじゃ、家の中どうぞ」と、中にリリアムを誘い入れた。
そして二階の荷物置き場にしている部屋に、ドラムセットを運び入れ、そこでセッティングする健人。
「こんな時間だし近所迷惑になるから、強くは叩けないけどね。座ってみていいよ」そう言ってセッティングしたドラムセットの椅子を、リリアムに勧めた。言われて黙って座ってみる。
「こんな景色なのね。不思議」音楽自体好きなリリアム。健人への決意よりも、今はドラムセットを見て目を輝かせている。
「軽くなら叩いても大丈夫だよ」その様子を見て嬉しそうな健人。ドラムを見て喜んでいる人を見るのはやはり嬉しい。リリアムは健人からスティックを受け取り、それを手に持って軽くタンタン、とタムタムやスネアを叩いてみる。恐る恐るペダルを踏んで、ドン、と低い音が出るバスドラに驚く。その様子を楽しそうに見ている健人。
「タケトさんって凄いのね。こんな沢山の音が鳴る物を、あれだけの速さで捌くなんて」
「機会があったら教えてあげるよ」
「ええ。是非教えてほしいわ。面白そう」目をキラキラさせながら、周りの迷惑にならないよう、小さな音でハイハットやスネアを叩いたりペダル踏んだりするリリアム。
「あ、そうだ。俺ちょっと真白見てくる。ご飯あげないと」大事な事を思い出した健人。そう言って急いで下の食卓に降りていった。
「……マシロさん、か」健人がいなくなった部屋で、ぽつりと呟くリリアム。
そして健人が下にいる真白にご飯を与え、二階の部屋に上がって行くと、リリアムがドラムセットがある部屋を出て、ドアの前で立っていた。
「今日はありがとう。本当に、本当に楽しかったわ」凄く嬉しそうな顔で話すリリアム。
「そうか。良かった」健人も笑顔で答える。
「で、マシロさんは下かしら?」唐突に真白の事を聞くリリアム。
「え? ああ、下だよ」真白の所在を何故聞くのだろう? 不思議に思う健人。
そして黙って下に降りていくリリアム。降りてみると食卓の上で健人が買ってきた魚の白身を平らげ、白猫は足を舐めていた。が、リリアムを見た瞬間、「フー!」と毛を逆立てて怒り出す白猫。だが、その様子に構わず、白猫を抱っこするリリアム。驚いた様子の白猫。
「マシロさん。私は今から、タケトさんに自分の想いを伝えます。今は猫のあなたの代わりに、私がタケトさんのそばにいたいのです。断られるかも知れませんが、もう伝える事は決めました。せめて、気持ちを伝えるのだけは、許してほしいのです」
真剣な目で白猫を見つめ、語るリリアム。白猫もじっと見返す。そして、白猫は何かを悟ったのか、逆立てていた毛はいつも通りとなり、リリアムからぴょんと飛んで離れて、二階の客間の方に上っていった。
「ありがとう」そう言ってリリアムは二階に上がっていった。
「突然どうしたんだ?」
「そうね。ねえ、マシロさんと過ごした部屋、私も見たいわ。ケーラはこの家に仮住まいしていた間、ずっとそこで寝てたのよね? あの子だけずるい」
「いやまあ、別にいいけど」ずるいって何だ? 良く分からない対抗心だなあ、と思う健人。そしてキングサイズベッドの部屋に二人で入る。
「ここが、そうなのね」へえー、と言いながらキョロキョロ見回すリリアム。
「無理やり大きなベッドを入れたみたいね」クスっと笑うリリアム。確かに部屋の大きさにしては不釣り合いなベッドだ。部屋の三分の二くらいベッドが占めている。
「真白が寝相悪いんだよ。だから大きめにしたんだよ」
「お二人仲良かったですものね」そしておもむろにベッドに座るリリアム。
「やっぱり、今も真白さんの事を?」分かりきっている質問をするリリアム。落ち着いているように見えて、実は彼女の心臓はこれ以上ないほどバクバクいっているのだが。
「そりゃそうさ」当たり前だと言わんばかりに答える健人。
そして沈黙する二人。リリアムの心臓はずっと激しい鼓動のままだが。健人はもう夜遅いからそろそろリリアムを帰さないといけないと、若干焦っている。最悪自分が送って帰ろうとは思っているが。
「なあそろそろ……」と健人が言いかけたところで、リリアムが立ち上がって、健人の胸に飛び込んできた。いい香りがするブロンドの美女。そしてぎゅっと健人を抱きしめる。心臓が激しく鼓動しているのが、リリアムから伝わってくる。
「どうした?」そう聞きながら、彼女の心境を理解した健人。余り聞きたくない言葉が出てくるだろう。
「……います」消え入りそうな、泣きそうな声で、呟くように声を出すリリアム。
「……お慕いしています」再度そう言って、涙目で健人を見上げるリリアム。
やっぱりか、と健人は思った。大体分かっていた。ケーラといつも言い合う理由も察しはついていた。気づかないふりをしていただけだった。そこに気づくのが嫌だったのだ。
「あの……」「分かっています。マシロさんがいるのは分かっています。でも、でも、どうしようもないの、です」健人の言葉を遮り、自分の気持を伝えるリリアム。そしてうっうっとその場で泣き崩れる。健人の足元に、そのままぺたんとへたり込む。
「でも、でも、あなたの事が、ずっとずっと、好きなの」泣きながら、再び告白するリリアム。
「ずっと、ずっと、伝えたかった。ずっと、ずっと、ケーラみたいに言いたかった。ずっと、ずっと、苦しかった」
リリアムはずっと我慢していた。それは叶わぬ恋だと分かっていたから。そして別にもう一つ、大きな理由がある。
「ヒック。ごめんなさい。ごめんなさい」
少し落ち着いてきて、健人に謝るリリアム。告白されて迷惑だろう事は、リリアムも理解している。
「なあ。俺なんかの何処がいいの?」
健人が心底思う疑問である。リリアムは王女だ。良い縁談が沢山舞い込んでくるはずだ。しかもリリアムは超絶美女。選び放題のはずなのだ。なのに一介の冒険者の自分を好きだという理由が、本当に分からない。
「俺なんかよりもっといい男、沢山いると思うし、リリアムなら選び放題だろ?」
「そうかも知れないけれど、ずっと一緒にいて、タケトさんの優しさや、逞しさ、責任感の強さを知っています。身を挺して人を守ろうとするその心の強さ、正義感、全てが好きです」じっと眼差しを向けるリリアム。
具体的に理由を説明され、恥ずかしくなる健人。しかしリリアムって、こんなに俺の事見てくれてたのか。
「ありがたいけど……」リリアムは美女だ。こんな子に泣くほど好意を持たれて悪い気はしない。が、やはり自分にとって一番は真白なのである。それは揺るがない。
そこで、決意を込めた眼差しを健人に向け、リリアムが言葉を発する。
「二番目でも、いいの」
それは、王女という立場の人間が、言ってはいけない言葉だった。
いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m
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