デート。リリアム編
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初投稿から2か月経ちましたーヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
キリがいいのが悪いのか、今日からラブコメ編が続きます。
今後重要となるワードもボチボチ盛り込んでますので、お読み頂ければ幸いですm(__)m
「ふ~んふふ~ん」
鼻歌を歌っているブロンドの美女。誰が見ても明らかに上機嫌だ。風呂上がりのその上気した顔は、艶やかでより一層美女である事を引き立たせている。ようやく汚れを落とせてスッキリしたのもあったのだろうが。
「あら。えらくご機嫌ね」伯爵邸の大きなリビング。そこで風呂上がりに寛ぎながら鼻歌を歌うリリアム。最近余り機嫌がよくなかったリリアムを気にかけていたので、アイラもその様子を見て嬉しそうだ。
「ええ。明日タケトさんとお買い物なの」少し照れた様子で理由を話すリリアム。
今日の昼過ぎ、神殿でリシリーにキスをされた健人に、買い物に行きたいと言ってみたらOKを貰った。その後、健人に聞こえないよう、ケーラがリリアムに囁いてきたのだ。
「明日はあんたがタケトと二人でお出かけしてきて。ボクは次の日でいいから」
「どうして?」訝しがるリリアム。
「だって、三人で買い物になっちゃうじゃん。ボクは二人きりがいい。あんたもそうでしょ? で、先にタケトに提案したリリアムに、一日目を譲ってあげるって事だよ」
なるほど。健人に聞こえないように耳打ちする理由がわかった。
「でも、いいの?」
「いいよ。どうせ進展なんて無理だろうし。ボクは明日は理由を付けてドタキャンするから、楽しんでおいでよ」
進展なんて無理、その言葉にカチンときたものの、一応彼女なりに気遣いしてくれたのだろう、とケーラの提案を前向きに捉える事にしたリリアム。
「ありがとう」とりあえずお礼を言うリリアム。
気にしないで、と小さく呟き、ケーラは先に歩いていく健人の傍に向かっていった。
そんなケーラの後姿を見ながら、明日は二人きりでいれるとしても、明後日は健人とケーラ二人きりになってしまう。でも、ケーラ同様、リリアムも、ケーラが関係を進展させるなんて無理だと思っている。ケーラは強引過ぎる。それを健人がいつも面倒そうにあしらっているのを見ている。健人にとってケーラの気持ちは面倒なだけだというのは、普段の二人の様子から分かっていた。
そんな変な安心感もあって、そこは余り気にしていないリリアム。それよりも、明日健人と二人でデート。それが嬉しくてたまらない。
二人きりと言えば、ヴァロックがいた頃の修行の時、何度か二人きりになった事はあったが、魔物討伐で慌ただしく、更にお互い己の能力を磨く事ばかり考えていて、その時は二人きりとは言えゆっくり話す暇も余裕もなかった。でも、明日は違う。明日はゆっくり二人の時間を楽しむ事が出来るのだ。
因みに、買い物が必要なのは本当なのである。リリアムはそろそろ伯爵邸から出ないといけない。独り立ちして、ケーラと同じく宿に泊まり、身の回りの事全て自分でやる必要があるのだ。冒険者として、アクーを出る予定なので、それまでに自活するための準備が必要だった。そのための買い出しだ。
「そう。それは良かったわね」妹のご機嫌な様子が嬉しいアイラ。ニコニコしながら上機嫌なリリアムを優しく見つめる。彼女の恋路はとても厳しい。最近全く進展がなく、ケーラと言う魔族の可愛い女の子のライバルがグイグイいくのを傍から見ていて、いつも訝しく思っている事を、ほぼ毎日聞いていた。だからリリアムは最近ずっと機嫌が優れなかった。彼女は本来優しい子。なのにこんなにも彼女から愚痴を聞くのは初めてだったアイラ。だが、それは健人への気持ちが強い事の表れでもあるのは分かっていた。
「お姉さまに借りていた武器や防具も、お返ししないといけないわ」
「あら。ずっと使っていてもいいのよ?」
「そういうわけにはいかないわ。これは勇者アイラの物だから。それに、私も自前の武器や防具が欲しいの」リリアムにとって尊敬している姉も勇者なのである。
その言葉を聞いて、ますますリリアムが自立してきたと感じるアイラ。その決意が嬉しく思う。本当は、自分が使っていた最強の武器や防具で、ずっとその身を守って欲しいけれども。
「そう。分かったわ。明日はそのお買い物も含まれるのね?」
「ええ。そうなるわ」
ウフフ、と超絶美女のスマイルで、アイラに笑顔で答えるリリアム。武器や防具を買いに行く笑顔ではないわよねえ、と思ったアイラだが、嬉しそうな妹の気持ちを阻害する必要はないので、そこは黙っておいた。
※※※
アクーの小劇場の裏にある広場。そこは以前、中年のオッサンが紫の化け物となって、健人と真白、そしてリリアムとで倒した場所だ。そこで想い人を今か今かと待っているリリアム。今はまだ朝早い時間だが、買い物が多いので、この時間から約束していた。出来るだけ長くいたいという気持ちがあったのも理由の一つではあるが。
今日のリリアムは精一杯おめかししている。いつもの冒険者スタイルとは打って変わり、ブロンドの髪にはプラチナ色のカチューシャ、若草色を基調としたドレス、だがスカートの丈は膝下くらいの動きやすいもの、そして白のパンプスを履いている。本当はロングドレスが良かったのだが、今日は防具を見に行くので、試着に時間がかかる服装は避けたのだった。
そんな見た目麗しい、美しいブロンドの美女が、あちこちキョロキョロしながら落ち着きなく誰かを待っている。リリアムはもう仮面をつけていないので、通りを行き交う人々は彼女が誰か分かっている。行き交いながらもその美しさに見惚れる男達。
「お待たせ」
ちょっと照れた様子で、ようやく想い人が気軽に挨拶しながらやってきた。ぱあ、とまるでひまわりが開いたような笑顔で、声の主を迎える。
「お待ちしていましたわ」そう言ってニッコリ微笑む。嬉しさを隠そうともせず、満面の笑みで。
一方健人はいつもとは違うテンションのリリアムに驚いた。そして、いつもの冒険者の恰好とは違い、おめかししたその姿は、さすが王女と言うべきか、高貴な雰囲気を纏い、元々の素材の良さも相まって、途轍もなく美しい、そう思って見惚れてしまう健人。
……女性の所作を見て見惚れるって久々だな。そんな変な感心をする健人。ふと、あの猫獣人を思い出す。
「そんなに見つめられたら恥ずかしいわ」照れながら手で顔を隠すリリアム。
「ああ。ごめん。今日めっちゃ綺麗にしてるな」見惚れていたのに気付いて、ハッとして頭を掻く健人。
「そうかしら?」短めのスカートの端を摘まんで、くるんと回ってみるリリアム。とても愛らしいその佇まい。中がちょっと見えそうになってしまった。そしてとても美しいおみ足です。健人がフッと視線を逸らす。
「と、とにかく行こうか。ああ、そういやケーラは今朝急に家に来て、今日来れないって言われたよ。何でも魔薬の件でギルドで話する事があるんだって」
「あら。そうなの」打ち合わせ通りだ。
「だから、って言うのもおかしいんだけど、明日はケーラに付き合わないといけないんだよなあ」肩を竦める健人。
「じゃあ、今日は私とデートね」フフ、とまたも満面の笑みで、嬉しそうにするリリアム。正に美女と形容するしかないその美しい表情。
「デートっていうほどのもんじゃないだろ。武器と防具買いに行くんだから」
「他にも、必要なものがあるわ。冒険者として経験あるタケトさんの意見も聞きたいから、今日はお願いしているのよ?」
「まあ。ずっと魔物討伐続きだったし、昨日はめちゃくちゃハードだったし、たまにはこういうのもいいよな。付き合うよ」リリアムが相当美人だと言う事に今更ながら改めて気づき、ドキドキしてしまう健人。因みに今日は荷物があるかも知れないと思い、白猫は家でお留守番。大剣は背負ってきているが。
そして二人横に並んで、まずは健人が以前お世話になったドワーフの鍛冶屋に向かうのだった。
※※※
「おお。久しぶりだな」
鍛冶屋の中に入って顔を見るなり、ヨッと手を上げて挨拶するドワーフのドルバー。
「そうですね。中々来る機会もないので」笑顔で返す健人。
「そちらは、もしかしてリリアム王女ですかい?」ドルバーが美しいブロンドの女性を見て声を掛ける。
「ええ。初めまして。今日は私の武器や防具の依頼で来たのよ」そう言って笑顔で会釈するリリアム。
「ほほう。王女様の武器や防具を作れるたあ、鍛冶屋冥利に付きますな」ガッハッハと大声で笑うドルバー。そんなに面白い事なんだろうか? 不思議そうな健人。
「で、何をご所望で?」
「身軽で防御が高い防具と、ダガーが欲しいのだけれど」
「そうですかい。うーん。今はミスリルくらいしかないんですがな」顎に手を置き、唸るドルバー。
「ミスリルですか……」残念そうなリリアム。出来ればもっと良い素材の物が欲しい。ミスリルもそんなに悪い素材ではないのだが、今まで使っていた武器や防具が良すぎたので、それでは物足りないリリアム。
ここアクーは比較的魔物が少ない都市。鉱石以外の素材、魔物から取れる武器や防具の素材が、他の都市に比べ少ないのだ。最近は魔物が増えて、それなりに魔物の素材も手に入るが、それでもミスリル以上のものは中々手に入っていない。昨日倒したデーモンの角は、魔法攻撃用の杖に使われる素材なのでそれも使えない。ドルバーはドワーフなので、定期的にドワーフの街から鉱石は仕入れてはいるのだが、魔物の素材は、どうしても先に各都市にいる鍛冶屋で使われてしまい、中々アクーまでは回ってこない。
二人が話ししている間、目新しいものがないか、店内を見回している健人。「ん?」懐かしい武器があった。前の世界の日本で有名な武器だ。
「ドルバーさん。(刀)造ったんですか」
「ああ。お前を見て前の勇者を思い出してな。上手く出来てるかどうか俺もよく分からんが。見よう見まねで造ったおもちゃみたいなもんだ」
手にとって鞘から抜いてみる。スラっとした刀身が白く輝いている。どうやらミスリルで造ったものらしい。
黒髪で黒い瞳の勇者カオルが使っていた武器は、(黒月)と銘打った黒い刀だったと、ゲイルから聞いていた。ここにあるドルバーが造っていたのは黒い刀ではなく、白い刀身。元々この世界にない武器なので、ドルバーもどんなものかよく知らないのは仕方ないのだが、思ったより良い出来じゃないだろうか?
「ドルバーさん。これ、試し斬りしていいですか?」ドルバーの鍛冶屋の裏手には、武器が完成した後の試し斬りが出来る、ちょっとした庭があった。そこに藁を組んだカカシ、または木製のカカシが数体置いてある。
「ああ、藁ならいいぞ」
ありがとうございます、とお礼を言って、裏手の庭に行き、白い刀を一旦鞘に収める。リリアムも気になって一緒について行った。「はっ!」という気合とともに、鞘から一気に刀を切り出し、藁カカシを斬る健人。居合斬りだ。スパンと上下真っ二つに斬れた。変な言い方だが、斬れ味が心地良い。
「何というか、美しい武器ね。攻撃の仕方も、所作が素敵ね」
リリアムの感心した言葉には答えず、じっとミスリルの刀を見つめる健人。何か思いついた様子。
「ドルバーさん。リリアムの武器や防具の素材なんですけど」
「うん? なんだ?」
「俺のオリハルコンの大剣なんですが……」そして何か言いかけた時に、リリアムが口を挟んだ。
「え? その大剣、オリハルコンなの? 色がオリハルコンのそれじゃないけれど」オリハルコンは本来黄金に輝く鉱石だ。当然武器や防具も同じ輝きを放つ。だが、健人の大剣やレッグガードやアームレストは、くすんだ銅色だ。さすがに気づけなかったリリアムは驚いている。
「ああ。オリハルコンは高価だから盗まれるといけないってんで、わざと色をくすませて貰ったんだ。因みにケーラが着けているのも全部オリハルコンだよ」
当時はまだレベルが低く、そんなに強い冒険者では無かった健人と真白への、ベルアートからのアドバイスで、そうしたのだった。そういやベルアートさんは元気にしているのだろうか? もう半年以上会っていない。ふと思い出し懐かしむ健人。
「まあ、そうだったのね」
普通オリハルコンの武器や防具は、人に見せびらかせたい高級品だ。普通はわざわざ隠すような事をしないのだが、理由が分かって納得したリリアム。自分が今まで、健人とケーラの武器や防具が、オリハルコンだと気づけなかった理由も納得しているようだ。
「オリハルコンの大剣から、リリアムの武器と防具、そして刀を造って欲しいんです」そう言って、背中に背負っていた大剣を鞘ごとドルバーに手渡した。
「え? そんなのダメよ」リリアムが慌てて言葉を挟む。
「タケトさん、その大剣は、ずっと使ってた大事な武器じゃない。私の防具や武器はまた考えるから、気にしないで」
「いや、そうじゃないんだ。思ったより、刀が使いやすいんだよ。凄くしっくりくるんだ」そう言って今持っているミスリルの刀の切っ先を見つめる。
何故かは分からない。だが、明らかに大剣より使いやすい。大剣で何度も自分の身を守った事はあるのに、それでも、刀を使いたい。それほど刀に魅せられている健人。おもちゃだとドルバーが言ったこのミスリルの刀でさえ、欲しくてたまらない。日本人だからだろうか?
実は、これにはとある理由があるのだが、健人は知らない。
「だが、儂はその武器をよく知らんぞ?」ドルバーが手渡された大剣を受け取りつつ、戸惑った表情で健人に断りを入れる。
「確かにこのミスリルの刀も、出来上がりが甘いところはありますが、俺も素人なりに知ってる事をお伝えしますので、それでいいので、オリハルコンで造って貰っていいですか?」
「何を知ってるんだ?」訝しがるドルバー。
「ア、アハハ。まあ、ちょっと」誤魔化しきれていない。汗がダラダラ出てくる健人。違う世界にいたから知っているなどと、言えるわけがないし、言わない方がいい。
「……まあ、別に構わんが。しかしオリハルコン余るぞ? その大剣に使われているのは結構な量だからな」ドルバーは余り細かい事を気にしない性格だ。それ以上追求されず、ホッとする健人。
「じゃあ、余りはケーラの分にしよう。ケーラも借り物だからな」ずっと真白が使っていたナックルと防具をつけているケーラ。いつかはケーラ自身の物を用意する必要があると前から思っていた。今回いいきっかけだと思った健人。
「本当にいいの?」リリアムが健人を横から覗き込む。申し訳なさそうにしている。まだ気にしているようだ。
「うん。決めた。むしろ早く刀が欲しい」リリアムのため、というより、自分が欲しいから、その気持ちを伝える健人。
「あ、ドルバーさん。このミスリルの刀も下さい。造ってる間これで練習したいんで」
「相当気に入ったんだな。分かった。それはやる。オリハルコンを刀にするなんて、鍛冶屋魂がうずくってもんだからな」ミスリルの刀はくれるという。素直にお礼を言う健人。
そして健人は、前の世界で素人なりに覚えていた知識を、ドルバーに伝えた。特に気になったのはミスリルの刀に刃紋がない事だ。鍛えれば刃紋が出来るはず。それがないという事は、焼入れや鍛える工程が無かったという事だろう。それでもこれだけ斬れるミスリルの刀。なら、オリハルコンの刀であれば、刃紋を入れて貰えればもっと斬れ味は増すはずだ。その健人の説明をふんふんと頷きながら聞いているドルバー。
「しかし、全くお前はこないだのどらむ? とかいうのといい、変なのばっかり欲しがるんだな」
「どらむって、以前演奏した時に使った?」健人とドルバーの話を聞いて、割って入るリリアム。健人と初めて知り合ったきっかけになったあの演奏をした、大きな音を出す物。そして初めて味わった感動を思い出すリリアム。
「そうそう。ここで造ってもらったんだ」
「で、こいつで武器から防具から全部造るって事で宜しいですかい?」二人の会話を遮るように、今度はドルバーがリリアムに確認する。リリアムは健人をチラっと見る。まだ気にしている。笑顔で頷く健人。それをみて決意したようにドルバーに頷くリリアム。そしてリリアムは寸法を測って貰った。更に、健人は昨日のデーモンとの戦いで壊れてしまった鎖帷子の修繕も忘れず依頼しておいた。
そしてリリアムは武器と防具のお金を払い、健人も自分の分の代金を支払い、ドルバーの鍛冶屋を後にした。出来上がりまで数日かかるとの事なので、リリアムは後日取りに来る事になる。健人は明日も、ケーラを連れてここに来ないといけない。今度はケーラの防具の寸法を測る必要がある。
「場所がよく分からないから、取りに来る時もご一緒して下さる?」
「ああ、ここ分かりにくいし、別にいいよ。安心して。腕は確かだと思うから」
オリハルコンの大剣は、ずっと使っていた相棒。殆ど刃毀れせず、あの大きな腹で何度も攻撃を受けていたにも関わらず、全く傷がなかった。それは素材の良さもあるだろうが、職人の腕もいいという事だと思っている健人。実際、何度も攻撃を食らった防具は、一切傷が入っていない。
そして健人は、ドルバーから貰ったミスリルの刀を腰に下げ、リリアムは健人の横に並んで、次の目的地に向かった。





