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魔薬の実証実験

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

ブックマークしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(__)m

 アクーの門を馬のまま通り抜け、三人はギルドにやってきた。


 馬を降りて、ギルドに設置してある馬小屋に馬をつなぎ、それからカランカランと、西部劇のような中が見える両開きの扉を開き、中に入る三人。ファルがギョッとした顔で三人を見る。三人とも血だらけだからだ。


「ファルさん。ロックさんいますか? あ、これ、お願いします」ファルにロックの所在を確認しつつ、デーモンの角と皮を手渡す。


「!! これ、これって、もしかして」いつもクールなファルが目を見開いて驚いている。


「ご想像の通り、デーモンの角と皮です」疲れていた健人は、とりあえずギルドについて安心したのか、ふう、と一息つく。


「ちょ、ちょっと待って下さい」そう言って素材を持ったまま、奥へ走っていくファル。少し待ってから入れ替わりでロックがやってきた。


「おい。聞いたぞ。デーモン倒したのか? って、なんて格好だ」三人の血だらけの服や防具を見て驚くロック。


「それだけ大変な戦いだったんですよ。ところで、カインツさんはここに来ました?」


「いや、来てねぇぞ? 何か用事か?」


「追いかけてた今回の件の関係者と思われる人を逃してしまいまして、その報告をしたいと思ったんですが」


 そうロックに話したところで、タイミングよくカインツがカランカランと扉を開け入ってきた。


「お? タケト達もいたのか。大神官はどうした?」


「すみません。逃げられてしまいました」頭を下げ謝る健人。


「なんだと?」ただの太った中年のオッサンを取り逃がした? 後で追いかけたとしても、この三人の方が身が軽いし冒険者なのだから、追いつくのは容易だったはずなのに。


「理由を聞こうか」訝しがるカインツに、健人は頷く。


「込み入った話みたいだから、上の応接室使え」そこでロックが口を挟んだ。それから健人達とカインツとロックが、上の応接室に向かう。そして皆座ったところで、健人がデーモンに遭遇した事を話した。


「……で、倒したのか」信じられないと言った表情のカインツ。だが、ロックから素材を持って帰ってきた事を聞いている。だから健人の言っている事が嘘じゃない事は分かっている。そして健人はこんなくだらない嘘はつかない事も分かっている。だが、それでも中々信じられないくらい、デーモンは強敵なのだ。更に、魔族の都市と離れたここアクーに出没する事自体、あり得ない事なのも、カインツは知っている。


「俺達もギリギリだったんで、デーモンを倒した後追いかけるのは無理だと判断して、戻ってきたんです」


「多分、あのデーモンは、大神官を逃がすための時間稼ぎたったと思いますわ」


「あのデーモンは、魔薬で産み出されたもので間違いないよ」


 リリアムとケーラそれぞれが、健人の説明に付け加える。


「そうか。なら、やはり大神官は、今回の魔薬ばら撒きの件に関わっていたと見て間違いないな」


 カインツの言葉に三人は頷く。


「まさか大神官が関わってるとはなあ」傍らで一緒に聞いていたロックが神妙な顔をしている。今回、魔薬がばら撒かれ、それが原因で魔物が増えていた事が分かり、その犯人の協力者が神官である事までは聞いていた。だが、まさか責任者である大神官自身まで関わっていたとは思っていなかったロック。逃げたという事なら、間違いないだろう。健人達やカインツが持っているその認識は、ロックも同じだった。


「なあ、嬢ちゃん。結局その魔薬でどうやって魔物を産み出すか分かったかい?」ロックがケーラに質問する。


「まだ分からないんだ。今ボクの協力者が魔族の都市でサンプルを調べてくれているはず。その回答待ちだよ」


「じゃあ、デーモンがその魔薬から勝手に産まれたのか、それとも何かきっかけがあって産まれたのか、今はわかんねえのか」


「いや、勝手に産まれる事はないと思う。ロックさんに以前渡した魔薬、あれから何も変化ないでしょ? それに、ばら撒いていた神官見習いや魔族達も、そのまま持って行動していたみたいだから、魔物を産み出すには、きっかけが必要なのは間違いないよ」


「じゃあやっぱり、嬢ちゃんの協力者の報告待ちか」顎に手を添え思案するロック。


「ただ、ある程度推測はしてるんだけどね。試してみていいならやってみるけど」


「というと?」ロックがケーラの推測が気になって聞いてみる。


「多分、(血)を使うと思うんだ」 


 ※※※


 健人達三人と、ロック、カインツの計五人は、ギルドの裏の修練場に来ている。ここは地面が土で出来た、テニスコート二面分くらいの広さがある。周りは10mほどの木の塀に囲まれている。普段はここで、冒険者達が試合をしたり、魔法の訓練をしたり、先輩冒険者が後輩を指導したりしている。


 そこへファルが、他の冒険者が倒したばかりの、ゴブリンの討伐の証のため獲ってきた耳を持ってきた。


「隷属の腕輪も、この魔薬も、どちらも禁忌の術なんだ。で、隷属の腕輪を利用するには、まず使う人の(血)がいるんだ。なら、魔薬も同じく血が必要なんじゃないかなあ、と思ったんだ」ケーラがゴブリンの耳をファルから受け取りながら説明している。


 今ケーラが手に持っている魔薬は、以前ロックに渡した物だ。前にビルグから奪った魔薬が、まだケーラの泊まっている宿に二つあるので、ギルドに置いてあったこの魔薬を使って試してみようという事になったのだ。


「で、魔薬が産み出す魔物を決めるのは、魔物の血だと思う。だからファルさんに、弱いゴブリンの素材を用意して貰ったんだ。もしボクの推測が正しかったら、ゴブリンが産まれるか、ゴブリン系の魔物が産まれると思う」


 そう言ってファルからゴブリンの耳を受け取り、傷をつけ魔薬にその血を垂らすケーラ。そしてそれを修練場の真ん中にそっと置いた。


 すると、シュウシュウと魔薬から紫色の瘴気が立ち昇った。それを見て急いで健人達の元に駆けていくケーラ。


「やっぱり。間違いなかったね。今から魔物が出てくると思うよ」


 その様子を見ながら、ロックが大斧を構え、カインツが盾と剣を構える。健人も大剣を背中から出し、リリアムもダガーを構え、ケーラもナックルを取り出し、皆臨戦態勢をとった。ファルはその五人の後ろから様子を見ている。


 紫色の玉の一部分が大きく膨れ上がる。どんどん大きくなり2mほど巨大化する。息を呑む5人。そして、ボンという音と共に、中から「グロロロオオオ!」という地響きのような咆哮を上げながら、紫色のゴブリンジェネラルが現れた。更に、紫色の玉の他の部分がプクっプクっと膨れ、それも徐々に大きくなると、ポン、ポンと言う音共に、ゴブリンが産まれ出てきた。それが何度も続き、最終的にゴブリンが20匹ほど産まれ出てきた。


「ゴ、ゴブリンジェネラルだと!」「チィ、よりによってこんな大物かよ」カインツとロックが驚愕した様子でゴブリンジェネラルを見る。そして緊張した顔で二人共武器を構えた。


「ゴブリンジェネラルか」一方健人は気の抜けた表情で、片手で大剣を持ち、ポンポンとそれで肩を叩いている。


「タケト! ゴブリン達はお前達に任せた! ロック! 行くぞ!」


「おう! 仕方ねえな」気合の入ったカインツの叫びにロックが同じく気合を入れて答える。そして意を決して二人がゴブリンジェネラルに突進しようとすると、ヒュンという風の音と共に、自分達の後ろから黒い影が飛んでいった。


 そしてその影、健人が、ゴブリンジェネラルに「はあ!」と袈裟斬りに斬りかかる。その大剣を受け止ようと手を出すゴブリンジェネラルだが、袈裟斬りはフェイントだった。斬りかからずわざと空を斬り、そのまま健人が縦一回転して着地する。そして大剣を横薙ぎに一閃。ゴブリンジェネラルの上半身と下半身が真っ二つに分かれ、そのまま絶命した。


 そして何事もなかったかのように、大剣についた血糊をブンと振って振り払い、背中の鞘に収める健人。


「こっちも終わったわよ」既にホーリーニードルを使い、一斉にゴブリンを殲滅していたリリアム。余った残りはケーラが全て一発で屠っていた。リリアムの声に健人が黙って手を振って答える。二人の美女の周りには、ゴブリンの屍が累々と散らばっている。


「「……」」そして呆気にとられ固まっているカインツとロック。後ろで様子を見ていたファルも、ポカーンと口を開けている。


 ゴブリンジェネラルはゴブリンの最上位種だ。以前戦ったオークジェネラルには至らないが、知性があり長寿で、、武器を扱い戦う事が出来る。力も強い。レベル55の高ランクの魔物である。


 魔薬で産まれたこのゴブリンジェネラルは、産まれたばかりという事もあって、武器は持っていなかったが、それでもすんなり倒せてしまうほど弱いわけではないはずだ。


 が、それを、健人はいとも簡単に倒してしまった。


「やっぱりケーラの言う通り、血が発動条件みたい……どうしたんですか?」


 未だ口を大きく開けてポカーンとしているカインツとロックを見て、訝しがる健人。


「タケト、兵士にならないか?」いきなりカインツに勧誘されました。


「お前が強いのは聞いていたが、まさかここまでとは思ってなかったぞ」ロックは未だ驚いている。


「そうなんですかね?」余り実感のない健人。先程デーモンを倒した事で、一気にレベルが上がった事も関係しているが、それでもゴブリンジェネラル程度なら、大した敵ではないと思っている。それはリリアムとケーラも同様だ。


「初めて見た時から普通じゃねぇと思ってたが、お前、やっぱ勇者なんじゃねーか?」


「そんなわけないですよ」ロックの言葉を即答で否定する健人。そう。勇者は既にこの世界にいる。そして自分はそんな大それた者じゃないとも思っている。


「とにかく、血が魔薬の発動条件という事が分かったな」さっき言いかけた事を改めて口にする健人。二人の感想はともかく、魔薬の実証実験の結果を知る事が出来たのは大きい。


「そうだね。あと、人にぶつけて割れて、中身がかかると、その人自体も魔物になるって事もね」ケーラが付け加え、それに頷く健人。それも忘れてはいけない、もう一つの魔薬の特徴。それで真白は魔物になりかけ、死にかけたのだから。だが、ケーラ達和平派と反目している魔族達は、何故禁忌だと言われている魔薬を造ったのだろうか? これで何をしようとしているのだろうか?  


「じゃあ、あとは何で出来ているか、て事か」呟く健人に頷くケーラとリリアム。


 健人の目的は、真白を元に戻す事だ。魔薬で白猫になってしまった原因を突き止めるのに、この魔薬の材料の解明も必要だろうと考えていた。


「それはボクではさすがに分からないから、調査結果を待つしか無いね」モルドーの報告が待ち遠しいケーラ。ケーラも早くこの問題を解決したい。この件の魔族側の首謀者を見つけないといけない。


「そうだな。何か分かったら教えてくれ」健人の言葉に、勿論、と答えるケーラ。


 ※※※


「いい加減着替えたいなあ」「そうね。私も」


 ケーラとリリアムは未だ汚れたままの姿が気になるらしい。女性だから仕方ない。健人でもそうなのだから。


 修練場で魔薬の実験を終え、今は皆、ギルドの一階に戻っている。ファルはデーモンの素材の換金のため、一旦奥に入っていったが。


「一度家に戻って着替えてから来てくれてもいいぞ」カインツがその言葉を聞いて、気遣ってくれる。ありがたいと思う健人だが、それだと間に合わないかも知れない。


 まだやる事がある。神殿での受付のガームズの行方を捜さないといけない。正直三人はかなり疲れているが、大神官ムルージュを取り逃がした責任感も感じているので、カインツ達兵士に任せっきりじゃなく、自分達も捜索に協力しようと思っていた。


 ガームズも急がないと取り逃がしてしまう。ただ、彼は魔法を持たず、冒険者のように戦う事も出来ない、言わば一般人なので、捜索に時間はかからないとは思われるが。


 どこを探そうか、などど相談している最中、兵士が息を切らせてギルドに走ってきた。そしてカインツに報告する。


「ガームズを捕らえました」


「何!」カインツが兵士の言葉を聞いて大声を出す。健人達も目を見張った。


 報告によると、ガームズもムルージュと同じように、アクーを出て逃げ出そうとしていたらしい。だが、領内から逃げ出そうとして見つかったところを捕らえられたとの事。


 暫くすると、縄で縛られたガームズを、兵達がギルドに引っ張ってきた。そしてそのままギルドの中で正座させられた。キッとカインツを睨むガームズ。


「クソッ。お前達が調べなければ、全ては上手くいったのに」


「悪事を働いておいて、何を言うか」嗜めるカインツ。


「悪事だと? 我々神官は下民のために尽くしてやっているだろう? 多少良い目を見ても問題ないだろうが」


 清々しいまでの開き直ったガームズの態度に、健人はつい吹き出してしまった。本当に分かりやすい悪党だと。一方呆れるリリアムとケーラ。そこで何を思ったのか、ケーラがガームズの前に出て、あの木の腕輪をチラつかせた。


「そ、それは!」狼狽えるガームズ。


「知ってるよね? で、これをどうすると思う?」見下したような視線でガームズに問いかけるケーラ。


「ど、どういう事だ?」額に汗びっしょりかいているガームズ。


「質問に正直に答えないと……」フフ、と悪そうな笑顔を向けるケーラ。普段そんな笑い方しないのに。


「や、やめてくれ。それだけは」懇願するような顔のガームズ。孤児達や神官見習い達だって、隷属の腕輪を着けられそうになった時は、同じように懇願したはずなのに、彼らはいいのかよ、と傍らで蔑みながら、ガームズの様子を見ている健人。同じように、気分悪そうに見下ろしているリリアム。


「大神官はグルだったの?」気にせずケーラが質問する。


「む、寧ろ、ムルージュ様が主犯だ」あっさり認めた。忠誠心はないようだ。自己保身しか考えてないらしい。


「そこの、リリアム王女にご執心だったから、魔族がリリアム王女を捕える代わりに、アヴァン様が隷属させた神官を使って、アクー内で必要な素材や、魔薬のばら撒きを手伝だわせていた。ムルージュ様自身がそれをやると、足がつくかも知れないからな」


 名前を言われて両腕で自分の体を抱きながら、身震いするリリアム。魔族とグルになってリリアムを捕まえようとしていたとは、さすがに思っていなかった模様。


「で、その素材って何だったの?」ケーラが質問を続ける。


「ゴブリンやコボルドなどの魔物だ。アクー内では縄や武器、食料などを調達していた」


「だ、そうです」と、そこでおもむろにカインツに振り返って声を掛けるケーラ。それを見て頷くカインツ。


「ケーラ殿。ご協力痛み入る」そして頭を下げた。


 いえいえ~、とケーラが手をひらひらさせ、そして、手にしていた木の腕輪をポキンと割った。実は、元々割れていた隷属の腕輪を、ガームズの尋問で利用しただけだったのだ。


「な! く、くそ。騙したな」それを見て、縄で縛られ正座しながら、上目遣いでケーラを睨むガームズ。


「ボク何も言ってないよー」フフンと、悪そうな顔で笑うケーラ。


「そうか。前に洞窟で、魔族がリリアムを捕まえようとしてたのは、大神官の望みだったんだな」ようやく真白と共に洞窟の入口前で、突然襲われたあの時、リリアムを捕えようとしていた理由が分かった健人。それにまだ悪寒を感じているらしいリリアムが、未だ気分悪そうながら頷く。


「……本当、気持ち悪いわ。あの時捕まらなくて本当に良かった」


「素材っていうのは、弱い魔物だったみたいだね。魔薬は魔物で造られている、という事か。勿論それだけで造れるものじゃないはず。他に必要なのは何か。モルドーの報告を待つしか無いね」うーむ、と顎に手を置き考えるケーラ。


 そしてガームズはカインツ達兵士が連れて行った。それから三人はファルから素材を売った分のお金を受け取る。24角形クリスタルは売らず、魔法を入れるか魔力を入れるか、三人で相談する予定だ。


 こうして、長かった一日が終わった。本当に忙しい一日だった。早朝、リシリーと共に洞窟からアクーのギルドに向かい、それからアヴァンという神官を捕まえようとして向かったら、孤児院が爆発し、中にはいったらグレゴー神官が倒れていて、アヴァンが魔薬でゴリラの化け物となって、それと戦い、大神官を追いかけたらデーモンが現れ、健人とケーラが瀕死になり、そして戻ってきたら、ガームズという、神官からの供述で、大神官ムルージュの画策が発覚したという、とても内容の濃い一日だった。


 そして三人揃ってギルドを出る。もう既に夜遅い時間だ。健人がうーんと伸びをしているところで、ちょんちょん、とリリアムが健人を突っつく。


「どうした?」


「明日、たのしみにいているわ」フフ、と超絶美女スマイルを投げかけるリリアム。ケーラはその様子に素知らぬ顔をしている。


「明日? ああ、買い物か」今日色々あり過ぎて忘れていたが、そんな約束していたなあ、と、健人はリリアムに言われて思い出した。




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