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大神官は諦めました

いつもお読み頂き有難う御座いますm(__)m

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 三十分ほど、健人とケーラはそこにじっとして自身の回復を待った。その間リリアムが馬に戻り、非常食として積んでいた干し肉を持ってきてくれたので、それをかじりながら座っている。そして水の生活魔法で、血や土埃で汚れた手足や顔などを洗い流す。リリアムも血で汚れた顔などを洗い流した。ただ、服はさすがに洗えない。乾かすのに時間がかかってしまう。とりあえずケーラは、防具の結び目を直し、それをやぶれた服の上から着る事で、肌の露出を隠す事が出来た。


 そしてようやく、健人とケーラは立ち上がる事が出来るようになった。


「強敵だったな」「うん」「そうね」


 三人揃って陥没した地面を見つめる。未だシュウシュウ音を立てて紫色の瘴気が空に向かって煙のように伸びている。そしてそこには、干からびて皮と骨だけになったような、デーモンの死体があった。


「二人とも悪かった」二人に向き合って、おもむろに健人が頭を下げる。


「タケトさんは何も悪くないわ。相手が強かった。それだけよ」リリアムが気遣う。


「いや。油断したのは間違いないんだ。ケーラの話をもっときちんと聞けばよかったんだ」


「でも、ボクは恐怖で固まってたからそれも無理だったと思うよ。多分ボクの言う通り逃げようとしても逃げ切れなかったと思うし。それに、()()()()()()()()()()() タケトは悪くないって」


「……さっき?」健人が首を傾げケーラに聞く。


「そう。さっき……、って、いつの事だろ?」ケーラも自分で言っておいて不思議そうな顔をしている。


 首を捻る二人。リリアムも二人が会話していた様子なんて見ていない。


「夢みたいな、あれかなあ?」


「そうかもな。でも、よく覚えていないんだが」


「ボクも。でも、覚えてないけど、何かあったのは分かるんだ」


 二人はますます頭を捻る。健人とケーラ二人は何かを共有している。それは間違いない、という自信はある。だが、それが何かさっぱり分からない。


「ねえ。どういう事なの?」二人の様子を見てリリアムが怪訝な表情をする。二人はデーモンにやられほぼ同時に瀕死の重傷になったのは知っているが、当然その間、会話など出来るはずがない。


「正直よく分からん」「うん。分かんない」


 二人して同じ答え。ますます不思議そうな顔をするリリアム。そして同じように不思議そうな顔をする健人とケーラ。だが、ケーラが「あ」という顔をする。

(マシロさんに会った感じがある。どうしてなのか分からないけど)


「どうなさったの?」ケーラの顔を見て気になって質問するリリアム。


「なんでもない」ケーラは焦った様子でリリアムに答えた。


 はっきりと、あの不思議な空間で、猫獣人の真白を見た感覚があったのを思い出したケーラ。今までリリアムが知っていて自分は知らなかった事、それは真白の存在だ。何となくこの事が、今まではリリアムに一歩リードされているような気がしていたが、自分も真白を知った事で、そのインターバルは無くなったと思ったのだ。そしてそれは言わない事にしたケーラ。何故なら、確かに見た覚えはあるのに、何だか曖昧だからだ。


 ケーラの反応で、健人も思い出した。そうだ。真白に会った。見たんじゃない。会ったという感覚。今まで一度として夢にさえも出なかった真白に、あの夢のような、死後の世界のような不思議な空間で会った。それははっきり覚えている。何故なら嬉しかったから。


 だが、あの空間に、ケーラもいた。そしてケーラもそれを覚えていると言う。じゃあ、夢というのはおかしい。夢は共有出来ないから。じゃあ、あの空間は、あの出来事は一体何だったのだろうか?


 そして、確か大事な話を聞いた気がする。だが、それがはっきり思い出せない。


「ケーラ。大事な話って覚えてる?」ケーラに確認してみる健人。


「あ! そういや言ってたね。でも、内容が思い出せない」


 やはりケーラも聞いていた。やっぱり、あれは夢じゃない。あの空間で、真白が自分達に何かを伝えようとしたのだろうか? 真白が戻るヒント? もしくは……。


「……何か面白くないわね」ムスっとして呟くリリアム。何かを共有し二人で思い出そうとしている様子が気に入らない。自分の入り込む余地がない。仲良さそうにしている感じもして余り気分が宜しくない。


 リリアムのの呟きを聞いてニマアとして健人の腕に絡みつくケーラ。


「二人きりの秘密だもんねー」そしてリリアムにあっかんべーする。だが、健人がすぐ腕を離す。


「別に秘密にするつもりないんだけど、変な話なんだけど、思い出せないんだよ」残念そうにしているケーラをよそに、リリアムにケーラと経験した事を分かる範囲で説明する健人。


「なるほど。意識を失った二人だけが、そんな体験をしたのね。なら、ケーラはたまたまだったと言う事だわ」説明を聞いてウンウンと頷き無理やり納得しているリリアム。


 実際その通りだったりする。


 ※※※


「伝わっておればよいがな」呟く白い塊。


「突然過ぎるにゃ。そしてあの魔族の女の子は要らなかったにゃ」


 ぶつくさ文句を言う猫獣人。大好きな健人にせっかく会えたというのに、目一杯ハグしてチュッチュしようと思ってたのに。久しぶりの再会に、ドキドキワクワクしながら健人の前に現れてみたら、物凄く可愛い魔族の女の子の頭を健人は優しく撫でていた。しかもかなり密着して。そんな健人も若干気に入らない、ご機嫌斜めの猫獣人。あの女の子は誰なのにゃ?


「ちょうど良かったのだ。死ぬ寸前まで意識を失うというのは滅多にないからな。そして、あの娘がこちらへ来たのは偶然だ。同時に意識を失ったのが原因だ」


 光の塊の言う通り、ケーラが一緒だったのは本当にただの偶然だった。だが、そのおかげで、ケーラは初めて猫獣人を見る事が出来たのだが。最も、ケーラは今、記憶がはっきりしていないが。


 そして、健人が光の塊がいる場所に来れる条件が、死ぬほどの意識を失うという事だった。以前猫獣人が、魔薬で死にかけた時も、彼女は瀕死の状態だった。だから、光の塊に会えたのだろう。ただ、今回健人は光の塊には会っていないのは、猫獣人から伝える、という事に拘った光の塊が、敢えて健人とケーラの前に姿を表さなかっただけなのだった。


()()()()()()()()()()()にゃ。今のタイミングだと、多分分かってない気がするにゃ」


「仕方ない。いつ死に至るまでの意識喪失になるか分からんからな。次にその機会を待つよりは、せっかく訪れた今回の機会を使う方が確実であろう。そもそも今回の事も特別なのだ。全く、お前達は何かとイレギュラーが多い。もうこれで勘弁してほしいものだ」


 と、ため息交じりに言ってから、消えていこうとする光の塊。


「あ! 待つにゃ! この『にゃ』っての消してほしいにゃ……こらああ!! 勝手に行くにゃーー!!」


 猫獣人の叫び声も虚しく、白い塊は小さくなって消えていった。それと同時に、猫獣人の意識もフッと消えた。


 以前、光の塊と会話した時には無かった「にゃ」の語尾が復活しているのには、理由があったりするが、それが分かるのはいつの日か。そして、大事な話を二人が思い出すのはいつの日になる事か。


 ※※※


「とにかく、デーモンの素材確認に行くぞ」二人に声を掛ける健人。それを聞いて、一気に緊張した面持ちになるリリアムとケーラ。


 さっきの事がある。不意打ちされないよう、慎重に陥没している地面の真ん中で、骨と皮だけになっているデーモンの亡骸に近づく三人。傍まで来て健人が大剣で突いてみるが反応はない。思い切って切っ先でゴロンとひっくり返してみるが、やはり動かない。頬がこけ、大きいカールした角が歪に目立つ、山羊面の面長のミイラ化した顔が、完全に生気を失っているのが分かった。


 それでも慎重に、健人が思い切ってデーモンの首を落とす。少しだけ青い血が首から溢れるも、何の反応もなくゴロリと落ちるデーモンの首。


 さすがにもう大丈夫だろう、そう思って健人は思い切ってデーモンの体に跨がり、胸を開いてクリスタルを探す。青い血が溢れ出すが、気にせず弄ると、24角形のクリスタルが出てきた。そしてケーラに聞いて、デーモン角と下半身の皮が素材として売れるというので、それを持って帰る事にした。


 とりあえず死にかけたが、何とかデーモンを倒した。


「……そういや、大神官追いかけないと行けないんだったな」元々の目的を思い出した健人。


「正直無理だと思う。ボク達力使い果たしちゃったから」


 更にケーラは、防具を直さないといけないし、健人も、鳩尾を守っていた鎖帷子に穴が空いている。そのままでも追いかけるだけなら何とかなるかも知れないが、既にかなり時間が経ってしまっているため、追いつくのは難しいだろう。


「……ねえ、これって、もしかして、時間稼ぎだったのかしら」リリアムが気づく。


「あ! そうだと思う!」ケーラがポンと拳で手のひらを叩く。


「でも、大神官がデーモンを呼ぶなんて無理だし、さっき魔薬の反応を見かけたから、魔薬を使って(造った)んだろうと思う。本来デーモンってそもそも人のいるところにやってこないし、魔族の都市でも森の中や洞窟にいかないといないのが普通なんだ」


 なら、大神官が、自分が逃げる時間稼ぎのために、魔薬からデーモンを造ったのだろうか? どうやって? そもそも、魔薬から魔物が産まれるのは分かっているが、その仕組自体は未だ分かっていない。今回のように、強い魔物だけ出てくる事もあれば、ゴブリンみたいに、沢山産まれ出てくる事もあるみたいだが。大神官はデーモンを産み出す方法を知っていたのだろうか?


「でも、あれだけの強い魔物を造れるって事自体が、結構深刻だよ」厳しい顔をするケーラ。魔族の都市で、協力者に調査して貰っている結果が気になる。


「仕方ないな。一旦戻ろう。ギルドで報告して、それから対応を考えるか」








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