再会?
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一瞬何が起こったか理解出来なった。
「ぐはっ」またも血が口から溢れ出す。そして一気に意識を持っていかれ、その場に静かに倒れる。そこでようやく、自分がダメージを受けた事に気づいた健人。
「グハア。ハア、ハア」陥没した地面の中から、荒い息遣いが聞こえる。デーモンが健人に、その山羊のような縦長の瞳から、黒い槍を発生させ飛ばしたのだ。それが健人を貫いたのだ。丁度防具の継ぎ目から刺さってしまった。
「わ、我を、ここまで、おい、つめると、は」はあ、はあ、と苦しそうにしながら呟くデーモン。
「タケト?」
リリアムのところに向かう途中で、何か様子がおかしい事に気づいたケーラが立ち止まる。健人が素材を確認しようと向かっていた、デーモンが倒れている辺りを振り返って見てみる。
「! タケト!」
健人が倒れていたのを見つけて叫ぶケーラ。ひゅーひゅーという、肺に穴が開いた状態で苦しそうに息をしている健人。口からは致死量はあろう鮮血が溢れ、胸の横辺りには黒い槍が刺さり、服も真っ赤に染まっている。致命傷なのはすぐ分かった。リリアムの元には向かわず、慌ててて健人の元に走っていく。
「タケト! タケト! ああ、いやだ! 死なないで!」
健人の様子を見て狼狽えるケーラ。ゴボォという音と共に、健人が血を吐く。
「ああ、そうだ、ヒール!」
慌てふためきながらヒールを唱えるが、既に魔力を使い果たしているため魔法は使えない。そして健人は今喋れない。アナザーヒールで健人もヒールが使えるはずだが、詠唱出来ない。
「ああ。ヒールが、ヒールが使えないよ」
目に涙を溜めながらどうする事も出来ず、ますます狼狽えるケーラ。健人の瞳が徐々に生気を失っていく。
「あああ、いや、いやああああ!!」
健人の頭を抱き上げながらケーラが泣き叫ぶ。
「ケー、ラ。と、どめ、を……」ようやく言葉を口にした健人。苦しそうに息をしながら、泣き叫ぶケーラに呟く。自分の事より、早くデーモンを倒さないと。ケーラやリリアムまで危ない。
「はや、く……」精一杯の呟き。
「ああ。でも、でも……」健人の様子を見て動けない。涙が溢れ出し頬を伝うが、拭う事なく健人の頭を抱き上げ焦りの表情で見つめている。何とかしたい。助けたい。だが、どうすればいい?
健人はケーラが動かないのがもどかしいがどうにも出来ない。ああ。ダメだ。もう意識が。意識が遠のいていく。苦しい。痛い。それより、まだデーモンが生きている。このままだとケーラとリリアムも危ない。俺の事はいいから、早く止めを刺して欲しい。でも、言葉が出ない。喋れない。
「ぐあ!」その時、もう一本、黒い槍が飛んできた。今度は健人の頭を抱え泣いていたケーラの胸に刺さる。
「あ……」そのまま健人の上にスローモーションのように重なって倒れるケーラ。「ゴフッ」ケーラの口から鮮血が溢れ、槍が刺さったあたりから、徐々に赤く染まっていく。ケーラの防具は剥がされてしまっていたので、容易に刺さってしまったのだ。
「ハ、ハハ。ボクも、やられちゃ、った……」そしてそのまま、喋れなくなるケーラ。
一方ケーラに黒い槍を放ったデーモンは、ケーラから食らったホーリーナックルのダメージが相当大きいらしく、未だ回復出来ていない。ずっとシュウシュウと紫色の瘴気が、半壊した頭頂部から音を立てて立ち昇っている。
「時間、さ、え、あれ、ば、ふっ、活、でき、る」息も絶え絶えながら呟くデーモン。だが、デーモンもぎりぎりのようだ。
健人とケーラは、徐々に死期が近づいているのを感じている。健人は朦朧としつつ、虚ろな目で空を眺めている。当たり前だが、彼らはデーモンと違い、再生出来ない。
タケトと恋人同士になりたかったなあ。あの世でなれるかなあ? 意識を失いつつも、能天気にそんな事を考えているケーラ。だが、もう一言も喋れない。
パパ、ママ、ごめんなさい。姉さん、見つけられなくてごめんなさい。でも、ボク今ちょっと幸せかも。大好きな人が一緒だから。
ツー、と一筋の涙がケーラの頬を伝う。言葉は出ないのに、涙は出るんだ、なんて、またも能天気に考えているケーラ。彼女も、徐々に意識が薄れていく。
そして二人は、そのまま意識を失った。
※※※
「ん?」「あれ?」
限りなく真っ白な場所。キョロキョロ見渡す。だが、永遠に地平線が続いているような広大な場所。上を見てみるが、太陽、または月、どちらもない。雲一つないが、青空ではない。真っ白な空。
「もしかして、死後の世界?」
「……タケト?」
健人が呟いたのが聞こえて、驚いた様子で声をかける。
「え? ケーラ?」
お互い見つめ合う。何と言うか、実感がないというか、ふわふわした、不思議な感じだ。
「ボク達、死んじゃったからここに来たのかな?」
「多分そうかな。ああ。じゃあ、ケーラがここにいるって事は、ケーラもあのまま……」それ以上言葉を続けられない健人。死なせてしまった。それが辛い。
「……ごめん」
「どうして謝るの?」こてんと頭を傾げるケーラ。
「俺が油断したから、ケーラを死なせてしまった」申し訳なくて目から涙が溢れる健人。
「ごめん……ごめん……」頬を伝う涙を拭わず、何度も謝罪する健人。
「違うよ。タケトのせいじゃない。謝らないで。それにボク、そんなに後悔してないよ。だって、タケトが一緒だもん」
健人の優しさが嬉しい。ケーラの目にも涙が溜まっている。そしてそっと健人の胸に頭を埋める。健人はその頭を優しく撫でる。
「……そろそろいいかにゃ?」
「「にゃ?」」
にゃ? とハモる二人。健人は久々に聞くその語尾。ケーラは初めて聞くが、他に誰かいるとは思わずびっくりする。そして健人からつい離れてその声の主を見る。
そこには、白い髪の頭の上に可愛い白い猫耳、更には腰に可愛い丸い尻尾がついた、あの猫獣人がいた。
「……ああ」懐かしいその姿を見て、固まる健人。
「真白……」
呟きながら涙が溢れてくる。頬を涙が伝う。ずっと会いたかった大事な恋人。余りの感動で唇がわなわなと震える健人。
一方ついさっきまで、そのかなり可愛い魔族の女の子とイチャイチャしてたのはいいのかにゃ? と思いながらも、久々に会えた想い人に対し、当然超絶猫耳美少女も物凄く嬉しいと思う気持ちが沸きあがってくる。ずっと会いたかった。ずっとそばにいた事は知らない元白猫。健人の顔を見て同じく涙が溢れている。
「真白!!」ダッと真白に駆け寄る健人。それを、健人と同じく涙が頬を伝いながらニコっと受け止める猫耳美少女。そして強く抱きしめ合う二人。
「ああ、真白、真白、会いたかった」人目を憚らずワンワン泣きながら名前を連呼する健人。人目と言ってもここには他にケーラしかいないのだが。
「私もにゃ。健人様、会いたかったにゃ」真白の目からも涙が止まらない。最後に憶えているのは洞窟で魔薬をぶつけられ、化け物になってしまった時。あれから半年以上は経っているはず。時間の間隔はよく分からないが、かなりの間、会えていなかったのは分かる。
「あれが、マシロさんなんだ」号泣しながら抱きしめ合う二人を見ているも、思いのほか冷静なケーラ。不思議な事に余り嫉妬心が沸いてこない。すまほ、とかいう珍しいもので姿を見た事はある。だが、ケーラは実物を見るのは初めてだ。実物は思っていた以上に可愛らしい人だ。
というか、ここは一体どこなんだろうか?そのマシロさんは実物? でいいのかどうか。
「あのー……」遠慮がちに抱き合って喜び合う二人に声をかけるケーラ。そして嬉しそうに健人とくるくる回っていた猫耳美少女がハッと気づく。
「そうにゃ。時間がないんだったにゃ。健人様、大事な話があるにゃ」
「大事な話?」
※※※
「タケトさん! タケトさん!」
必死の形相で声をかけるリリアム。
「う、うん」太陽の日差しがいきなり目に入り、眩しい。だが、次第に目が慣れてきて、ムクっと上半身を起こす。
「ああ! 良かったわ! 間に合った」
わっと泣きながらでリリアムが健人に抱きついてきた。死んでいない?
「リリアムが治療してくれたのか。ありがとうな」
回復したばかりでまだ気だるいが、どうやら自分は助かったらしい。リリアムが治療してくれたようだ。自分の胸に顔を埋め泣いているリリアムの頭を撫でながら、お礼を言う健人。血まみれの健人の胸に顔を埋めたリリアムは、その美しい顔が血で汚れ、涙でぐしゃぐしゃになってしまっている。だが、そんな事をお構いなしに、ヒックヒックと嗚咽しているリリアム。
「良かった。本当に良かった……」
血で顔が汚れ、目に涙を溜めながら健人を見上げる。血と涙でぐしゃぐしゃになっているのに美しく見えるリリアム。見惚れそうになる。だが、健人がハッと気づく。
「そうだ。ケーラは?」
「ケーラも無事よ。あちらで横になってるわ。でも、二人とも相当重症なの。タケトさんもまだ動かないほうがいいわ」
リリアムが顔を向けた方向を健人も見てみる。そこにケーラは横になっていた。胸が上下している。呼吸しているのが分かる。確かにケーラも助かったようだ。良かった。本当に良かった。死なせずに済んだ。ホッとした健人。
「リリアム。あれからどうなったんだ?」
自分とケーラが意識を失ってからの事をリリアムに聞く。デーモンはどうなった?
「お二人が黒い槍で攻撃された後、私がトドメを刺したの」
リリアムはケーラの泣き叫ぶ声で気が付いた。そして起き上がって声のする方を見ると、二人が折り重なって、黒い槍が刺さったまま、血だらけで倒れているではないか。焦ったリリアムは急いで二人の元に駆け寄る。
その時、「ウグ、グウ」と陥没した地面から唸り声が聞こえた。デーモンが瀕死の状態だ。この二人をこんな風にしたのはデーモンだ。リリアムは怒り、「ホーリージャベリン」と唱え、スッとデーモンの真上に光の槍を移動させる。そして一気にデーモンに真上から真っ直ぐ地面に突き刺した。
「グアアアアアア!!!」光の槍で串刺しになり、苦悶の叫び声をあげるデーモン。だが、まだリリアムの攻撃は終わらない。「ホーリートーンズ」聖なる茨。刺さったジャベリンから一斉に光の茨の棘が、爆発するように発生する。
「グオア?」体内のあちこちから一斉に激痛を感じ驚くデーモン。そしてデーモンの体内から外側へ、光の棘が多数飛び出した。「フゴアアアアア!!!」デーモンの絶叫。そして、山羊のような縦長の瞳からフッと生気が消えた。光の棘で体のあちこちに空いた沢山のの小さな穴から、紫色の瘴気が上空に向かって昇っていく。そしてデーモンの肉体が、だんだんしぼんでいく。今度こそ完全に事切れた。
リリアムが気を失ったのは、単にリフレクションを使い慣れていない事が原因である。突然三人を守るために、一気に強力なリフレクションを発生させてしまったのだ。まだリリアムは姉のアイラのようにうまく扱えない。無駄に一気に魔力を使ったため、気を失っただけなのであった。なので、リリアムの魔力自身が切れていたわけではなかったので、攻撃魔法を放つ事が出来たのだった。
そしてデーモンを倒したのを確認した後、急いで二人にヒールをかけ、ついさっき、健人が気づいたのだった。
「そうか。良かった。リリアムがいて」
デーモンはリリアムがトドメを刺した。話を聞いてようやく心の底から安心出来た健人。リリアムとケーラ、どちらが欠けてもデーモンを倒す事は出来なかっただろう。
「そう言ってくれて嬉しいけど、今は安静にしていてね。傷は既に治っているけど、血を失い過ぎたわ」
まだ涙を目に溜めながら、それでも健人が会話できるほど回復しているのに安心して、ニッコリ微笑む超絶美女。お言葉に甘えようと思った健人。まだ頭がぼーっとしている。地面にドサっと大の字になって寝転んだ。
……そういや、気を失っている間に、何か夢を見たような? 真白が出てきた夢だった気がする。嬉しかった気持ちは憶えているから。そういやケーラもいたような? だが、ぼんやりとしていて何があったのか思い出せない。
「タケト。気づいたんだ」
健人とリリアムが話しているのが聞こえたのだろう。上体だけ起き上がって健人に顔を向け、微かに笑みを浮かべるケーラ。ケーラの笑顔を見て、無事を確認出来て健人も笑みを浮かべる。
「ねえタケト。ボク、何か夢を見た気がする。タケトとマシロさん? が出て来て。でも、何か大事な事を言ってた気がしたけど、覚えてないんだ」
「奇遇だな。俺もなんだ」





