ダンビルさん
今日は話の流れ的に2話投稿しますm(__)m
「しかし良く寝てたな! 余程疲れてたんだな」ダンビルがガハハと半ば呆れたように笑いながら、二階の部屋から降りてきた健人に声を掛けた。
「ほんとすみません。自分でもあり得ないくらい寝てしまって」ペコペコ頭を下げ、申し訳なさそうに降りてくる健人。
「だーから気にするなって! あんまり気を使われると、せっかくの飯が不味くなる」健人の背中をバンバン叩くダンビル。ゴホっとむせてしまう健人。力強く叩かれ若干痛かったようで背中をさすっている。
確か健人達がダンビルの家に着いたのは多分昼の二時頃。起こされたのは夕方過ぎの六時頃と言ったところだろうか。時計がないので時間は分からないが、多分そんな時間帯だと思われる。外はそろそろ日が沈みそうになっているので、そのくらいの時間だろう、と健人は思っていた。周りを見渡してもどうやら時計のようなものは見当たらない。なので四時間は寝ていたようだ。初めての他人の家で。しかも超絶美少女が隣にいたのに。
そして今は、二人とも起こされてダンビルが用意してくれた晩御飯を一緒に食べている。ポトフみたいな野菜たっぷりの煮込み料理と、卵をボイルしたもの、結構厚めの肉をステーキにしたものなど、かなり豪勢だ。うん。美味い。薄味だが問題ない。物凄く空腹だった二人は、遠慮なく食べた。この世界の料理も、前の世界と近いみたいで良かった。
ダンビルは酒も勧めてきた。もう既に二十歳を超えている健人は、前の世界でもたまに付き合いでは飲んでいた。あまり得意ではないのだが。でもここで断るのは礼儀に反すると思ったので酒も頂く健人。一方真白はチロっと舐めてうげぇってなったので飲まないようだ。設定年齢十八歳なので、日本の法律にあてがうと、飲んではいけない年齢なのだが。
そして勧められた酒を一口飲んで、何だかワインを薄くしたような飲みごたえだなあと感じた健人。バーテンダーのバイトをやっていた事もある健人だが、この酒は知らない。似てるといえばカリフォルニアワインを水で割ったような感じだろうか正直美味しいとは思えなかったが、それでもせっかく勧めてくれたので、文句も言わず飲んだ。
真白はお腹一杯になったので、満足して部屋でもうひと眠りするにゃ、といって二階に上がっていった。
そのうち酒が回ってきたダンビルは、徐々に自分の事を話す。健人は聞き相手になっていた。
「お前が着ているその服は、俺の息子のなんだ」
「息子さんですか。俺と同い年くらいですか?服ぴったりでした。背丈俺と同じくらいだったんですね」
「そうだな。もうこの世にはいないんだがな」
「そうですか……」
「魔物に殺された」
「魔物……この世界では魔物というのはやっぱりいるんですね」
ここの世界に来た時に襲われた化け物、あれもきっと魔物だろう。ああいうのがいる世界なのか。やはり覚悟しておかないと。魔物が人を襲うなんて、平和な日本にいた俺がどこまで対応出来るか不安だが。ふとダンビルの話に考え込む健人。
それから健人は、ぽつぽつと話すダンビルの話を黙って聞いていた。ダンビルには奥さんとその間に出来た二人の息子と娘がいた。息子は健人より少し若い二十歳、娘は十六歳だったとの事。息子は将来村長になるべく、村民とも仲良くし、そして色々なトラブルにも積極的に解決するよう、努力していた。村の周りに現れる魔物退治にも精力的に行い、自ら率先して村の若い連中を連れて、討伐も行ったそうだ。そんな責任感が強い息子を、ダンビルはとても誇りに思っていた。
「三か月くらい前だったか、ゴブリンがこの村の近くまでやってきたんだ」
「ゴブリン……ですか? 」
「お前ゴブリンも知らないのか? 鷲鼻の、目と耳がでかい、背が低い、たまに武器を持ってる魔物の事だ」呆れた様子で、健人の無知を訝しがるダンビル。
あ! 俺がこの世界に来た時、俺を襲ったのは多分そのゴブリンだ。あの気持ち悪い化け物の事か。あれゴブリンという名前なのか。ファンタジーの世界を全く知らない健人。見てすぐに分かるわけがないのは仕方ない。
「それなら、俺も襲われた事があります。気持ち悪かったのを覚えています」
「あいつらは一匹一匹は俺ら人間と大差ない強さなんだが、厄介なのはずる賢い事だ。一対一なら弱い女子どもを襲うし、そうじゃない場合は集団で襲ってきやがるんだ。更にあいつらは繁殖するために、人間の女を攫う。……俺の嫁と娘が、俺の誕生日に為に、花の冠を作るために、村の外でキレイな花を捜していたんだが、その嫁と娘がゴブリンに攫われた」
その時を思い出しているのか、ダンビルは強く拳を握り、顔は怒りの表情で語る。健人は黙って聞いている。
「俺と息子は嫁と娘が帰って来ないから、村の外まで捜しに行った。手分けして二手に分かれて捜しに行った。一応それぞれ四人ずつのパーティで行った。でもそれがいけなかったんだろう。息子のパーティにいた若いやつらが、命からがら逃げてきた。息子のパーティの方に、大量のゴブリンがいたそうだ。その時に、息子は身を挺して他の三人を逃がすため、囮になったんだって聞いた」
ダンビルはそこで一息入れ、酒をあおる。
「俺は俺で、息子と分かれて嫁と娘を捜しに行ってて、そして二人を見つけた。見つけてしまった。無残な姿になってるのをな。それを見て嫁と娘がゴブリンに攫われ、捨てられたのが分かった」
そう話しながら、ダンビルの目から涙が伝う。しかしそれを拭う事をしなかった。それでも瞳には怒りが灯っているように見えた。健人は何も言えなかった。ダンビルの無念はどれほどのものだったのか、想像すら出来なかったから。
ふと、ダンビルがこちらを見てふっと笑う。健人はダンビルの話を聞いて、つい泣いてしまっていたからだ。なんて辛い話だ。
「おいおい! なんでお前が泣くんだよ! もっと辛気臭くなるだろう?」
「すびばせん……。でもダンビルさんが良い人で、それなのに……」
「ハハ、おかしなやつだ。……お前とマシロを見た時、何故か息子と娘を思い出したんだ。お前は赤の他人で、今日会ったばかりだというのにな。お前が今日立ち寄った倉庫はな、息子と娘が小さい頃よく遊び場で使ってた。遊ぶようなものなんもないのにな。あの二人のお気に入りだった。そこに立ち寄ったお前達を見て、なんか他人じゃない気がしたんだよ」
遠い目をしながら、ダンビルは言葉を続ける。頬を伝っていた涙を拭いながら。
「まあ俺もなんでお前にこんな事語ったのか分からん……。多分知らない間に弱ってたんだろうな。まあ明日宜しくな」
「はい! 勿論頑張ります!」
「おう! こき使うから宜しくな!」
「ところでダンビルさん」
「おう、なんだ?」
「パーティって何ですか?」
「へ?」
もう1話投稿します。