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強敵現る

いつもお読み頂き有難う御座いますm(_ _)m

ブックマークまでしてお待ち頂いている方々、感謝ですm(_ _)m

今日は予告通り、もう一話更新します。

 明らかに恐怖を感じているその表情。視線をそらす事が出来ないのだろう。デーモンというらしい魔物から震えながらも目を離せない様子のケーラ。


 デーモンは本来、魔族の都市のそばに出没する高レベルの魔物である。知性があり、人や動物を食す。デーモン特有の魔法が使え、その身体能力は多種族を圧倒する。魔族でも危険な魔物として恐れられている。時には強い種族だと言われる魔族を襲って食う事もあるくらい獰猛だ。以前戦ったオークジェネラルの比ではない圧倒的強者なのである。


「逃げないと。今なら逃げられるかも」震える声でケーラはそう言って健人に逃げるよう伝えるが、健人にはその気がない。


「逃げたらこの魔物がアクーの都市で暴れて、もっと被害が出るぞ。俺達だけで何とかならないのか?」


 もしこのまま逃げられたとしても、アクーの領内の村や、下手をすればアクーの都市内にも被害が及ぶかも知れない。


「む、無理だよ。きっと無理」ケーラの震えが止まらない。


「人を食べている今なら引き返せると思う。早く逃げよう?」


 が、ケーラがそう言ったところで、ペイ、と途中まで喰っていた人間をゴミのように捨て、健人達を山羊のような細長い瞳で一睨みすると、突然、「グオアアアア!」と叫んだ。


 突然の咆哮にビクっとする三人。ビリビリと肌が震える。地面もその咆哮で震えているようだ。恐る恐るデーモンを見てみる。3mくらいだった体がどんどん膨らんで大きくなっていく。怖い。動けない。恐ろしくて動けない。怖い。殺される。だが、動けない。だが、仕方ない。この魔物は強い。自分はこの魔物の餌であり贄だ……。


 急にパーン、と健人は頬を張られた。ハッとする健人。


「しっかりして! 幻惑魔法だよ! 人の恐怖を増大させる魔法だよ!」ケーラが焦って健人を叩いのだ。


 事前に知っていたケーラはデーモンが口を開き、咆哮する前に耳と目を閉じていた。それが幻惑魔法から身を守る術だったようだ。なのでケーラは防ぐ事が出来、無事だった。


 気が付いた健人がリリアムを見てみる。歯をガタガタ言わせ、足をガクガクさせて全身を震わせている。目には涙が溜まっていて明らかに恐怖を感じている。やがてポトリと持っていたダガーが手から落ち、自分の腕で自らの体を抱きしめ、恐怖に慄き始めた。間違いなくリリアムも幻惑魔法にかかっている。


 今度は健人が急いでリリアムの方へ行き、頬を軽く叩いた。ハッとして健人を見るリリアム。


「リリアム。あの魔物の魔法だそうだ。恐怖を増大させるらしい」


「はあ。はあ。そうなのね。恐ろしかった」健人に気付かされて落ち着くリリアム。そして落としたダガーを取り上げ、改めて構える。


 もしケーラがいなければ、そのまま幻惑魔法にかかっていて、行商人達のように食われていたかも知れなかった。危なかった。


「まずいな。もう逃げられそうにない。仕方ない。リリアム! あんたの光魔法が頼りだよ!」ケーラが叫びながらデーモンを睨む。


「我の幻惑をよくぞ見抜いたな」山羊面のデーモンが呟く。やはりというか、言葉が話せるみたいだ。


 確かにこいつは、今までの魔物とは次元が違う雰囲気を感じる。


 そして、突如山羊面の口が開き、黒い玉がボンボンと音を立て、健人達に向かって飛んできた。かなりのスピードだ。咄嗟に大剣の腹で受ける健人だが、「うわ!」勢いを殺せず吹っ飛ばされる。地面に転がりながら受け身を取り、すぐに体勢を立て直す健人。


「リフレクション」リリアムは反射魔法で黒い玉を弾く。薄いガラスのような1m四方のバリアが一枚、リリアムの前に展開する。リリアムに飛んできた黒い玉は、そのバリアに当たって跳ね返り、そのまま同じスピードでデーモンのところに返っていくが、それを何事も無かったかのようにパクパク食っていく。ケーラは素早くサッと避ける。健人とリリアムが殆ど受けていたので、ケーラには被害がないようだ。


 そして幌馬車の上にしゃがんでいたデーモンは、ジャンプして地面にスタっと降り、そして静かにスタスタと健人達に歩いてくる。余裕があるのが良く分かる。自分達人間は敵ではなく、ただの食料だとでも思っているのだろう。額から汗が滴る健人。いつもの能力三つを呟く。


「はあ!」先手必勝とばかりに、健人が歩いてくるデーモンに走っていく。疾風の如く速い接近。大剣を上から振り上げ、デーモンに振り下ろす。が、ガシっと片手で受け止められてしまった。「な、何!」驚く健人。こっちは両手でしかもブーストとプレッシャーを使っているというのに。


 そして隙だらけになった健人の腹に、受け止めた手と反対の左手で、アッパーを健人の鳩尾に入れるデーモン。ズン、という音を立て、健人が空中へ10mほどの高さに飛ばされる。ドスンという音を立てて、地面に落下する健人。


「グッウウ、ゴホッゴホッ」


 健人の口から鉄の味が溢れる。血だ。内臓と骨がやられたらしい。健人の腹の部分はミスリル製の鎖帷子だが、オリハルコンには敵わないとしても、それでも十分防御力は高いはずなのだが。更に落下の際受け身が取れなかったせいで左腕も折れたようだ。激痛が走る。久々の重傷に悶える健人。防具をつけていてもこの衝撃。今まで味わった事のない力。しかも能力を乗せた大剣の攻撃を片手で受け止めた。こいつは今まで戦ってきたどの魔物よりも強い。


「タケトさん!」「タケト!」健人を心配する二人。駆け寄りたいが、そうはさせてくれないデーモン。今度は二人の元へゆっくり歩いてくる。二人はデーモンから目を逸らせる事が出来ない。チラっと健人に目配せするくらいしか出来ない二人。


「アナザーヒール! 」リリアムが、パーティメンバー全員がヒールを使えるアナザーヒールを唱える。「タケトさん! ご自身でヒールを!」リリアムがデーモンの動きに気を配りながら健人に叫ぶ。呻きながら小さく頷く健人。まだ蹲ったままだ。


「お前魔族のメスか」突然ケーラに話しかけるデーモン。「食うより犯る方がいいな。我の子を身籠るがいい」そう言ってケーラに歩み寄り、目の前に立った。そして彼女の頭の上に片手を掲げ、ケーラの頭を掴もうとする。


「お断りに決まってるだろ! 先約があるんだよ!」そう言って「ホーリーニードル」と唱え、頭を掴もうとする手に、ナックルの先に突き出した光の針を突き刺す。ホーリー系ならダメージを与えられるはず。だが、デーモンはそれを避けない。そのまま手のひらにホーリーニードルが突き刺さる。ブシュウと言う音と共に、デーモンの手のひらから青い血が滴り落ちる。


 血が滴り落ちるも、ニヤリと嗤うデーモン。なんと開いた傷口が塞がってしまった。「なんで?」驚愕するケーラ。確かにホーリー系の光魔法は、デーモンには効果はあるのだが、ホーリーニードル程度の小さい光魔法であれば、すぐに治癒出来るのだ。


 逃げようと後ろに下がろうとするケーラだが一瞬遅かった。頭をガシっとデーモンに掴まれてしまう。それからグンと自分の顔の高さまでケーラの頭を持ち上げるデーモン。「うわああ!」叫ぶケーラ。恐怖で顔が引き攣っている。「離せ離せー!」掴んでいる頭の手をナックルでガンガン殴るが、効いていない。


「ほう。中々の美人だな。我との子の顔が楽しみだ」ケーラがナックルで手や腕をガンガン殴るのを何とも思っていないようで、頭を掴んだままニヤリと嗤う山羊面。そしてケーラの胸の防具に手をかける。裸にする気だ。恐怖に顔が歪むケーラ。


「ホーリージャベリン!」そこでリリアムが聖なる光の槍を自分の右肩上に発生させる。そして音もなく音速のスピードで、デーモンの腹に目掛けて飛ばす。


「それは喰らうわけにはいかんな」そう言ってケーラの頭を片手で掴んだまま、数m上にジャンプしてジャベリンを躱す。が、更にリリアムが「ホーリーボム」と唱える。四個の光の玉がリリアムの周りにふよふよと浮かぶ。そしてブンブンという音と共にデーモンに向かって飛んでいく。だがそれもひらりひらりと躱すデーモン。ジャベリンよりスピードが遅いので全て躱されるが、ホーリーボムは躱されても追跡が出来る。躱されてつつもデーモンの周りを旋回し、何度もデーモンを狙う4つの光る玉。攻撃される度ケーラの頭を片手で掴んだまま、躱し続けるデーモン。巨体なのに身のこなしは軽い。


「面倒な魔法だ」舌打ちするデーモン。そう言って光の玉を待ち構える。そして光の玉に頭を掴んでいるケーラをわざとぶつけた。光の玉がケーラの背中に、ボンという音を立てて当たる。ケーラの背中で爆発する光の玉。


 「ああ、しまった!」リリアムが叫ぶ。「ぐああああ!」苦痛で叫ぶケーラ。魔族なのでホーリー系の攻撃魔法は通常魔法の二倍の効果がある。ブスブスという音と共に、ケーラの顕になった美しい背中は、火傷を負ったように黒くくすんでしまった。


「あああ。ごめんなさい」ケーラに攻撃が当たってしまい、つい狼狽えてしまうリリアム。そのせいか、残り三つのホーリーボムがコントロールを失い、地面や木に衝突してしまい消滅してしまった。


「人族のメスよ。お前も後でたっぷり犯してやるから待っていろ」そう言ってケーラの防具を、片手で胸から剥いだ。さすがに硬い鎖帷子は破けないので、胸当てのオリハルコンの防具の繋ぎ目紐を引きちぎるデーモン。下に着ていたシャツが少し破れ、美しい双丘が少し覗かせている。背中の痛みと共にずっと頭を掴まれていて、意識が朦朧としているケーラ。抗う気力もなさそうだ。このままだと本当に凌辱されてしまう。


「ケーラ! アナザーヒールをかけているから、あなたもヒールが使えるわ!」ケーラに叫ぶリリアム。リリアムの言葉を聞いて、意識が朦朧としつつも「ヒール」と小さく呟くケーラ。確かに効果があった。徐々に背中の怪我が治っていく。そして意識も少しずつ回復してきた。


 だが、不意にケーラの腹に激痛が走る。「うぐっ」と呻き、頭をデーモンに掴まれたまま腹を抑えるケーラ。デーモンがケーラの鳩尾に拳をを入れたのだ。


「これで大人しくなるだろう。服が邪魔だ」そう言って腹を抑えるケーラを地面に転がすデーモン。


「うぐぐ」くの字になって腹を抑え悶えるケーラ。次にデーモンは下半身に手をかけようとする。


 その時、「シャイン」とリリアムが唱える。眩い太陽のような光がリリアムから辺り一面に広がる。


「ウガ! なんだ?」突然の眩しい閃光に、さすがのデーモンも驚き、目を腕で遮った。


 リリアムは急いでケーラを抱え、デーモンから引き離す事に成功した。デーモンがケーラを離したその瞬間を狙い、シャインを唱えたのだ。


「ホーリーボムが当たってごめんなさい」


「はあ。はあ。そんな事より、早く逃げるよ」


 まだ苦しいらしく、体を九の字に曲げながら腹を抑えているケーラ。ケーラの言う通りだった。この魔物は途轍もなく強い。倒せるどころか全滅しかねない。


「で、でも」タケトさんが、そう言おうとした時、ガシーンという何かと何かがぶつかる音が、デーモンの方から聞こえた。


「ケーラ! 大丈夫か!」健人だ。リリアムのアナザーヒールのおかげで、ヒールを使ってずっと自分の怪我の治療をしていたが、思った以上に重傷だったため回復に時間がかかっていたのだ。全快とまではいかないが、何とか動けるまでには回復出来た健人。


 デーモンに振り下ろした大剣は、またも片手で受け止められたが、先程のようにはいかないと、掴まれた状態のまま「ファイアエッジ」を唱える健人。ボッという炎が点火する音と共に、大剣が炎に包まれる。


「グッ。面倒な」舌打ちしてその熱に耐えきれず、デーモンが大剣を離す。手を離した瞬間、「はあ!」袈裟斬りにデーモンに斬りつける健人。が、咄嗟にそれを躱し、健人に右フックで攻撃するデーモン。それをブーストとアクセルの乗った体捌きで何とか後ろへ躱す。


「あれ?」大剣の炎が消えていく。ファイアエッジの効果が切れてしまった。「しまった! 魔法切れだ」ずっと補充せずに使っていた炎魔法が、ここで切れてしまった。


 ファイアエッジの効果が消え、チャンスとばかりに攻撃を仕掛けてくるデーモン。殴りかかるも大剣の腹で防ぐ健人。一撃一撃が重いが、全体重をうまく乗せ、何とか堪える健人。エンチャントがついていなくてもオリハルコンの武器は中々壊れない。だが、また掴まれても厄介だ。


「ウォーターエッジ」まだ水魔法のエンチャントが使える。次は電動ノコギリの歯のように、大剣の周りに水魔法を這わせる。ファイアエッジのように熱くはならないが、触れるだけで斬れてしまう、これも厄介な魔法だ。そして今度は右斜め下から上へ大剣を振り上げるが、それもひらりと躱すデーモン。


「埒が明かんな」そう言って口を開き、またも黒い塊を健人に飛ばす。それを大剣で切り裂き、または躱す健人。次に片手で手のひらを健人に向け、紫色の光をビームのように放つデーモン。健人は大剣の腹でそれを反射した。反射された紫の光線を躱すデーモン。


「ほお、人族にしてはやるな」感心するデーモン。だが、まだ余裕があるのが分かる。


 最初の攻撃は完全に健人の油断だった。ずっと負け知らずだった事もあり、勝てると思って高を括っていたのだ。だが、そうは簡単にいかなかった。そのせいで自分は死にかけ、ケーラが危ない目に遭った。リリアムの治癒魔法がなければどうなっていたか。


 一方中々攻撃が当たらないデーモンは、一旦健人から距離を取る。健人も二人の元にバックステップで下がる。膠着状態となった。


「ケーラ。怪我は大丈夫か?」健人がデーモンと戦っている間、リリアムがケーラに治癒魔法をかけていたので、ほぼ全快したようだ。


「うん。何とか」立ち上がるケーラ。だが、上半身は防具が剥がされ、シャツがはだけている。


「どうしましょう。逃げるのも難しいと思う」リリアムの言う通りだ。今逃げようとしても、間違いなく追ってくるだろう。


「……倒すしかないみたいだな。相談がある」そして二人に耳打ちする健人。


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