捜索開始
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※残虐な表現があります。ご了承ください。
※※※
健人は一旦家に戻り、白猫をキングサイズベッドの部屋に置いて、それから家に繋いでいた馬の手綱を取り、跨った。ケーラとリリアムもそれぞれ伯爵邸と宿に戻って、馬を持ってくる予定だ。
彼らが神殿の前でこれからの事を相談していると、兵の一人が慌ててこちらに走ってきた。そしてカインツに、大神官ムルージュが、アクーの門から馬で逃げた事を報告しに来たのだ。それを聞いた健人達は、急いで馬を取りに帰り、追いかける事にしたのだ。向こうが馬で移動しているなら、こちらも馬じゃないと追いつかない。
三人はアクーの門前で待ち合わせをし、急いで馬で後を追った。兵の話によると、この舗装された道を、アクーとは逆方向に走っていったとの事だ。
「逃げるって事は、やっぱり関係者なんだろうな」馬を駆りながら健人が二人に話す。
「そうね。間違いないと思うわ」
「アヴァンとかいう、あの神官とグルだったのかも」
受付のガームズとやらも後で探さないといけない。彼は属性を持たない(無)と言う事だ。リリアムが説明してくれた、いわゆるベテランの神官の手伝いだろう。そしてガームズがアヴァンの手足となって、今回の件の協力者になっていた、と、神官見習いから聞いていた。因みにガームズは、元々アヴァンの部下で、彼自身もアヴァンが相手にしなくなった女性のおこぼれを貰うために協力していたらしい。
全くもってそいつもクズだ、だから真白を見た時に奴隷がどうとか言ったんだな、と、以前神殿に真白と二人で行った時のやり取りを思い出してしまう。腹が立ってくる健人。無意識に顔色が変わる。
「何か怒ってらっしゃるの?」リリアムが健人の様子が変わったので、並走しながら気になって聞いてくる。
「ああ、ごめん。以前神官に嫌な思いさせられたの思い出してしまっただけだよ」気にしないで、と手をヒラヒラさせる健人。
「あ、そうそう。地下室でリリアムが、アヴァンに啖呵切ったの、カッコよかったよ。ああいうとこ見ると、やっぱり王女様なんだなあって思った」
あの時の毅然とした態度はさすが王族だと感心した健人。見直したというか、それとはちょっと違うような? ただ、彼女に対する評価は変わったのは間違いない。
「やだ。恥ずかしいわ」
健人に褒められ、俯きながら顔を赤らめるリリアム。喜んでるっぽい。でも馬に乗っているので前を見ないとちょっと危ないです。
そしてそんな二人の仲良さげなやり取りが気に入らないケーラが、ブスっとした顔で、強引に二人の馬の間に自分の馬で入ってきた。
「きゃあ! 何なの?」「こら! 危ないだろ!」
ヒヒーンという嘶きと共に、バランスを崩す健人とリリアムの馬。何とか馬を立て直す。さすがに二人とも高レベル冒険者なので、落馬する事はないのだが。
「ふーんだ」ツーンとするケーラ。
「……全く」そう言ってそれ以上は何も言わない健人。ケーラが何故そんな強引な事をしてきたか分かっているからだ。リリアムも呆れた顔をしているが何も言わない。
「ちょ、ちょっと! 少しは何か言ってよ!」自分から無茶しといて、無視されたらされたで文句を言う子どもっぽいケーラ。それでも二人は何も言わない。呆れているのだ。
「……ん?」そんなやり取りをしているうち、健人が何かを見つけた。
「ケーラ。あれってもしかして」
「あ。多分魔薬だ」
そう言って見た先には、紫色の煙のようなものが立ち昇っていた。
※※※
「何もないな」
まるで花火の後のような、紫色の煙のようなものが地面から立ち昇っている場所に来てみたが、いつもの玉がない。
「あ……タケトさん、あれ」
何かを発見したリリアム。怯えたような表情で、その方向を指差す。見てみると、道の端で馬が死んでいた。首半分と胴体の一部を残して。明らかに自然死ではないし、事故に遭ったわけではなさそうだ。
「何かに食い破られたような跡があるな」
腹から臓物が地面に散乱していて、腹を開いた傷口は、鋭い牙のようなもので食い割かれたのが分かった。実はこの馬は、ムルージュが乗ってきた馬だったのだが、何かに食われてしまったのだ。
異様だ。そう思った健人は背中の鞘から大剣を取り出し前に構える。慎重に少しずつ、馬の死体に近づいていく。リリアムとケーラも健人の後に続く。だが、どうやら何もいないようだ。
とりあえず馬の死体の周辺を調べようとしていると、「うわあああー!」「た、助けてくれえ!」と、ここから少し離れた、更に道の向こう側から、複数の人の叫び声が聞こえた。
顔を見合わせる三人。一旦馬の死体は置いといて、急いで自分達の馬に乗り、声のする方に駆けていく。
するとそこには、行商人だろう人と、それを護衛するための冒険者と思われる数人の死体が散らばっていた。人の四肢があちこちに散乱している。むせるような血の匂い。先程の馬のように、今度は人の腹や腕や足が、鋭い牙のようなもので食い破られている。馬も同じように食い散らかされている。そして行商人のものだろうか、幌馬車が道の真ん中に放置されている。声を聞いて間もないはずなのに、どうやら全滅してしまったようだ。
だが、その元凶が何か、すぐ分かった三人。ゴクリと息を飲み込み、ツー、と額から汗が流れる健人。
放置されていた幌馬車の上に、顔が山羊で頭には大きく手前にカールした2本の角が生え、首から下は胸板の厚い筋肉質の人間のような上半身、下半身は毛むくじゃらの、体長3mほどの全身紫色の魔物がしゃがんで座っていた。
そして山羊の目特有の、長い瞳で健人達を見つめながら、手に持った人間をガブっと頭から食いつき、引きちぎってグッチャグッチャと骨ごと喰んでいた。血だらけの口には鋭い牙が時折覗いている。
見ているだけで悍ましい光景だ。人が食い散らかされ、そして今も人をただの食料のように食っている魔物。リリアムはその凄惨な光景と吐き気を催すような血の匂いに悪寒を感じ震えている。一方ケーラは、その光景よりも、その魔物の姿を見て、驚いた表情で固まっている。
見た事はないが、危険な魔物だと言うのは、この凄惨な光景を見てすぐ理解した。ここまで酷い被害を見るのも初めてだし、ここまで酷い状況を作り出した魔物に対峙するのも初めてだ。背筋に冷たいものが走る健人。
身動きせずずっと健人達から視線を外さず、黙って咀嚼する魔物。凄惨な光景にたじろぎそうになるも、気合を入れ直し臨戦態勢を取る。リリアムも額に汗をかきながら、何とか気を取り直しダガーを逆手に構える。だが、ケーラだけは、わなわなと震えながら、構えられないでいる。
「ケーラ、どうした?」様子がおかしいので声を掛ける。
「……まさか」ずっと驚愕した表情のケーラ。
「あれは、デーモン。デーモンだ。間違いない。どうしてこんなとこに」
泣きそうな震えた声で、魔物の名前を発するケーラ。デーモン? 悪魔という事か?
「タケト。あれは無理だ。無理だよ」
長くなったのでぶった切りました^^;
なので夕方また続きを投稿します。





