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黒幕の行く末

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※※※


「ク、クソ!」


 馬に乗っているのさえ疲れるのだろう、ゼエゼエ息を切らしながら、アクーの門をくぐり、領外へ逃げるように馬を駆る太った白い衣服を着た男性。


「どうしてこうなった? どうしてこうなった?」慌てているのか、二度同じ事を言いつつ、追手が来ていないか気になるのか、何度も振り返りながら、馬を駆る男性。焦っているのがよく分かる表情。馬もかなり息を切らしている。乗せている人間が重いのが理由だろう。


 馬車が3台通れるほどの大通りとなっている、領外の道を、アクーとは反対側に必死に馬を駆る太った男性。そして1km程アクーから離れた辺りで、突如サッと二つの人影が中年男性の行く手を遮った。ヒヒーンという嘶きと共に、目の前の障害物にぶつからないよう、前足を大きく上げ急停止する馬。「うお! 」急に馬がのけ反ったため、背中から落馬しそうになる中年男性。何とか堪える。そしてその二つの人影が誰か分かると、キッとその人影達を睨む。


「お前ら! ……お前らのせいで儂が逃げる羽目になったではないか! どう落とし前つけてくれる!」どうやら顔見知りのようであるその二人に悪態をつく中年男性。悪態をつかれながらも蔑むような視線で中年男性を見ている二つの人影。


「リリアム王女を差し出してくれるというから協力したのだ! それさえも叶わず、更にくそ忌々しいカインツにバレてしまったではないか! これでは放っておいても領主に儂の所業が見つかってしまうだろうが!」


 馬上で怒鳴っているこの人物こそ、アクーの大神官ムルージュその人である。彼は魔族の手助けをしていた首謀者である。


 彼が魔族に協力していた理由、それは、リリアム王女を手に入れたいからであった。絶世の美女であり、王族であり、光属性持ちであるリリアム王女。王都メディーにいた頃、とある神殿の関係者と王族とのパーティーで、彼女に一目惚れした時から、是非我が物にしたいと思っていたムルージュ。


 そして彼がまだ王都メディーにいる間ずっと、同じく当時王都にいたリリアムに、何度も見合いをしたいと本殿を経由して、王に依頼をしていたが、それが中々叶わなかった。それも当然である。あれ程の美貌である。ライバルは腐る程いたのだから仕方ない。特に貴族や名の知れた商人の息子、更に他の都市の領主の息子など、彼女を欲する者は数知れなかった。そんな中、既に年齢が三十代半ばであるムルージュに、しかも神官という立場の者に対して、良い返事が来るはずがないのである。それでも中々諦めきれないムルージュ。悔しい思いをしながら、アクーの大神官の役職に就く事となり、そこで悶々とした日々を過ごしていた。その欲求の捌け口は、悲しいかな孤児院出身の見た目麗しい少女達に向かっていたのだが。


 そんなある日、リリアム王女は、理由は知らないがアクーに来ていると聞いた。これはチャンスだ。メディーから離れているここアクーでなら何とかなるのではないか? リリアム王女をどうにかして手籠めにしたい気持ちが膨れ上がる。だが良い方法が思いつかない。考えてみれば、アクーにいる間は、元勇者メンバーでリリアム王女の姉のアイラ元王女、そしてその夫でアクーの領主、同じく元勇者メンバーのゲイルのガードが厳しいだろう。それでも何とかリリアム王女をモノに出来ないだろうか。最悪、誘拐でも何でもしてしまえばいいのだが、それさえも難しい。


 手を拱いていたそんな時、普段から隷属の腕輪の取引をしていた魔族から提案があった。元々この魔族から、リリアム王女がアクーにいる事を聞いていたムルージュ。魔族の提案とは、リリアム王女を手籠めにする協力をする代わりに、自分達がアクーで行う実験の手伝いをして欲しい、という事だった。


 因みに、魔族は、とある神官の助言のおかげで、ムルージュの欲望、リリアム王女が欲しいという事を、事前に知っていたのだが。


 とりあえず話を聞くと、魔族の実験の手伝いとは、何の事はない、アクーの中で魔薬という、薬を作って実験を行いたいための人出が欲しいとの事である。人族内で魔族が動くには目立つ。なので、隷属の腕輪をいくつか用意するので、ある程度立ち回りが出来る者、それも人族数名を貸してほしいとの事だった。


 そしてリリアム王女は、一旦魔族に捕えられた後、光属性魔法の実験に利用するが、リリアム王女自身に何かするわけではないらしい。更に洗脳をしてもいいと言うではないか。あの絶世の美女を自分の言うなりに出来る。ムルージュにとっては願ったり叶ったりだ。


 魔族は、リリアム王女の膨大な魔力を持った光属性魔法で実験したい。ムルージュはリリアム王女の美しい体と、王族と言う立場が欲しい。お互いの利害が一致している。ムルージュは即答で魔族の協力要請を受け入れた。


 だが、自分自身で手を出すと、どこで足がつくか分からない。そこで、アヴァンという、自分と同じく女好きの部下に、全てをやらせていたのだ。普段から彼に隷属の契約を、孤児達にさせていたムルージュ。自分の手は汚さずに。そうすれば、もし見つかれば、責任の一切はアヴァンがかぶる事になる。強欲なアヴァンに、出世を匂わせ、女を侍らせる事が出来ると甘言を囁き、隷属の腕輪の契約全てをアヴァンにさせていたのだった。そして隷属の腕輪で、アヴァンが言う事をきかせた孤児達の中から、見た目麗しい女を見繕い、己の欲望を満たしていたのである。


 因みに神官見習いには、ムルージュは一切手を出していない。足がつくのを恐れたのだ。だが、孤児達なら、直接的な繋がりがないから見つからないと思っていたのだ。


 そうやって孤児達で己の性欲を満たしつつ、アヴァンに指示して、神官見習いを使い、魔族達に協力していたのだった。魔族達がリリアム王女を捕らえようとした事があったのは聞いていたので、そのうち願いは叶うだろうと思っていたムルージュだった。


 だが、この有様である。


「儂の身分も危うくなったではないか! この役立たず共め!」


 魔族は、アクーのあちこちに魔薬をばら撒き、その検証を行っていた。広範囲に及ぶので、付き合いが長くなって若干気を許していたアヴァンに、魔薬をいくつか渡し、そして隷属の腕輪を付けていた神官見習い達に、ばら撒くのを手伝って貰っていたのだ。その中の一つを、アヴァンがいつの間にか隠し持っていたのだ。


 今回それを使ってしまい、アヴァン自身が魔物となってしまった。そして孤児院が破壊されてしまった。隠れ部屋も孤児達の事も、それで見つかってしまうだろう。更にアヴァン自身が死んだ事で、孤児達の隷属の契約は解放される。ムルージュが性欲の捌け口にしていた孤児達が、、カインツ率いる兵達に、ムルージュの所業を話すだろう。完全に詰みである。神官だけならまだ何とかなっただろうが、孤児達まで調べられるとお手上げだ。


「まあ確かに。我々に落ち度はあっただろう。それについては謝罪しよう」筋肉質のタンクトップとスパッツのようなショートパンツの魔族は素直に謝った。彼が謝っているのは、健人達に嵌められた事に対してだ。そのせいで神官見習い一人が捕まってしまい、今回の件の糸口を見つけられてしまった。


「だが、あんたの強欲さも問題だと思うよ? アヴァンもそうだけど」赤みがかった短髪の、額の両端から黒い角が出ている若い男性が、中年男性を窘める。


「喧しい! 魔族のくせに儂に説教するなどとおこがましいわ! 儂がこの地位に至るまでどれだけ苦労したと思っておるのだ! そしてまだ儂は自分の目的を果たしておらん! リリアム王女を、あの美しい女を、儂の好きなように嬲るのだ! そしてあの女を利用し、王族の地位も得て、今度こそ神官の権利の復興を成し遂げるのだ! それら全てを成し遂げるまで儂の野望は潰えん!」


「「……」」呆れて物が言えない二人。この大神官様の下衆な欲望は知っていたが、改めて本人から聞くと、協力者として関わっていたのが恥ずかしくなる。自分達の目的と比べ、動機が明らかに浅はかで愚かだ。


 メディーの()()神官といい、どうして人族の神殿勤めの輩は、こうもおかしい連中が多いのだろうか? 一方、神官ではないが、人族には、敵だと知りつつ治療をする変わり者もいるが。


「下民共のために、我々高貴なる神官が治癒をやってやる事自体、ふざけた事なのだ! 生まれも育ちも違う奴らのために、我々が力を使うなどと、本来あってはならないのだ!」


 自身で語っていて勝手に興奮してきた様子のムルージュ。一方二人は呆れながら黙ってムルージュを見ている。当然彼の話には興味はない。


「とにかく、我々にとっては、ある意味今回の件はちょうど良かった。膨大な魔力を持つ光属性持ちが手に入るからな」


 いい加減にしろ、と言いたげに、聞きたくない話を遮るように、筋肉質の魔族ことロゴルドが口を挟む。


「リリアム王女より人間性は相当劣るが、俺達の実験には役に立つだろうしね」


 赤髪の短髪の魔族、ビルグが付け加える。


「お、お前達、何を話しているのだ?」嫌な予感がするムルージュ。


「ん? 分からない? リリアム王女を諦めて、あんたを実験に利用するって事だよ。今までは、一応大神官だし、俺達の協力者だったし、我々も手を出せなかったけど、今回の件で失踪した事にするのは簡単でしょ? あんたはリリアム王女より安全に手に入れられる実験体だって事」


 しかもリリアム王女は、あの腕の立つ黒髪の大剣持ちと、ケーラ様と共にパーティを組んでいる。魔薬について一緒に調べているのであれば、さすがに今、リリアム王女を捕らえるのは危険だ。以前なら、実験で利用した後、洗脳すれば、バレないようにする事も出来ただろうが、今はそうはいかない。だから、光属性持ちの実験体については、諦めていたところだったのだが、ムルージュを手に入れる事が出来るのは僥倖だ。人格は最低だが、そこは実験には関係ない。どうせ洗脳するのだから。


 ビルグが説明している間に、いつの間にかロゴルドがムルージュの乗る馬の後ろ側に跨っていた。そして歯向かえないようムルージュの腕を抑え、いきなり魔薬を口の中に詰めた。話せないのでモゴモゴ言いながら、額から汗が流れるムルージュ。


「それが何か知っているよな? 少しでも口に力を入れれば、魔薬は破裂しお前は魔物になる」


 ロゴルドがムルージュの耳元で脅す。ムルージュはアヴァンが孤児院を破壊し、ゴリラの化け物になっていたのを見ていたので、これがどれだけ恐ろしいものか分かっている。これが割れて中身が出てしまったら、自分が化け物になってしまう。


 口を閉じないよう、うまく歯先で加え、額から汗を吹き出ながら恐怖した顔でコクコク頷くムルージュ。そしてロゴルドは馬上で、縄でムルージュを縛り、口には魔薬を履きだせないように布を巻き付け、そして巨体のムルージュを肩に抱えて馬から降りた。


 口に魔薬を加えていると言う事は、魔法詠唱が出来ない。簡単な呟きさえ出来ない。光属性魔法は魔族にとって厄介だ。だからロゴルドは魔薬をムルージュの口に入れたのだった。逆らえないようにするために。


「よし。行くぞ」ムルージュを肩に抱えたロゴルドがビルグに声をかける。ムルージュは体重100kgはある巨漢なのだが、それを軽々と抱えている。


「ちょっと待て。置き土産だ」そう言ってビルグがもう一つ魔薬を取り出し、ナイフで腕の皮を割き、自らの血を魔薬に滴らせた。


「ビルグ! それは……」ロゴルドがビルグの様子に驚いている。


「時間稼ぎだよ。これで俺とロゴルドが今持っている魔薬はなくなるが、俺の血を使うという事は……。フフフ。さて、どこまで抗えるかな?」ニヤリと不敵に嗤うビルグ。そしてシュウシュウ音を立て始める紫の玉を、そっと舗装された道の真中に置く。


 ロゴルドはムルージュを抱えたまま肩を竦める。そして二人はアクーの都市とは反対側に走り去っていった。


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