ヌビル村の件が繋がった。そして主人公ハーレム化フラグ?
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ケーラが膨れている。明らかにご機嫌斜めだ。
朝早くに、皆で浜辺近くの宿を後にし、馬でアクーのギルドに戻っているのだが、リシリーは健人の馬に乗っている。手綱を持たないといけない健人は後ろ、リシリーは健人の前に跨っている。そんな二人の、かなり密着するその様子が気に入らないケーラだった。勿論肩から下げているカバンには、いつもの通り白猫が顔だけ覗かせている。
リシリーを誰が乗せるか、一悶着あったのだが、リリアムは王女で気を使うし、ケーラは魔族なので怖いと言う。なら、消去法で健人が乗せる、となったのだが、未だプクーと膨れているケーラ。
リリアムも同じくあまり気分が宜しくないが、ケーラよりは大人、というか我慢強いので、あまり表情には出ていないが。
「ケーラ。もういい加減機嫌を直したらどうなの?」馬を駆けながらリリアムがケーラを諭す。
「分かってるよ。分かってるけどしょうがないんだもん」我慢ならないのが見て取れる。素直なのはいい事だが、何分子どもっぽいのが玉にキズだ。
「またタケトさんに怒られるわよ?」ケーラを気遣うリリアム。実のところは、ケーラが癇癪を起すと、自分もまきこまれるのが嫌なだけなのだが。
「分かってるよ!」ますますむくれるケーラ。それを見て、はあ、とため息をつくリリアム。そして健人とリシリーの様子を改めて見てみる。
「風が心地良いですね」首だけ振り返ってニコっと健人に微笑む。セミロングのピンク色の髪が風でなびく。リシリーも結構な美人である。大きめの目と通った鼻筋。歳は20歳との事だ。身長は160cmくらいだろうか。白い巫女装束のような服は、体のラインが分からないふっくらしたデザインだが、きっとスタイルもいいだろう事は予想できる佇まいである。
「そうだね。馬に乗ると、座高が高くなって景色も良く見えて気持ちいいよね」リシリーの笑顔に答える健人。健人としてはリシリーに気を使って優しく声をかけているのだが。時折バランスを崩して身体を健人に預けるリシリー。その際頬が赤くなるのを、リリアムは見逃さなかった。
「……ケーラの気持ちが分かってしまうのが辛いわ」リリアムも何かイチャイチャしてるっぽい二人の様子が気に入らない。でも彼女はケーラとは違い、口に出さず我慢してしまうのであった。態度に出ていたかどうかは分からないが。
そしてそんな三人の女性の気持ちなど全く興味なさそうに、カバンから顔を覗かせ、くわあと欠伸する白猫であった。
※※※
「これが魔薬というやつか」ロックが神妙な面持ちで紫の玉を手に取って眺めている。今はアクーのギルドの中。秘密裏の案件なので、ギルドの二階の応接室で、ロックと向かい合って、リシリーも含め4人が座っている。
「その状態だと魔薬として効果はないみたいだけど、まだ魔薬が効果を現す方法が分からないから、慎重に扱ってね」ケーラがくぎを刺す。とりあえずロックには三つのうちの一つを証拠の品として渡している。
「分かってる。この件伯爵には俺から連絡しとく。それと神官の件だな」より厳しい顔つきになり、分かっていても確認するロック。
「ええ。アヴァンという神官です」健人も神妙な顔で答えた。
「分かった。それと、お前達だけで行かせるわけにはかねぇから、ここの兵にも伝達しておく。準備が出来次第行動開始だ」
わかりました、そう答えて、応接室を後にしようとした4人だが、ふいにロックが健人を呼び止める。
「よお、そういやヴァロックはどうした?」
「ああ、先日ここを発ちました」
「そうか」一言寂しそうに呟くロック。ヴァロックは基本根無し草なので、どこに行ったか聞いても無駄だろう事は分かっているようだ。一方健人は、ヴァロックの行き先を知っている。そしてきっと二度と会えない事も。だが、地球に転移したなどと本当の事を言えないので、申し訳なさそうにしていた。
そして四人はギルドを出て、昼食をとるため近くの食堂に入った。食卓についた四人だが、健人の隣には自然とリシリーが座る。そして健人を見つめてポーっとしている。そんな様子に全く気付かない健人。だが他の美女二人は、リシリーの様子と、その気持ちに既に気づいている。
だが、昨日まで隷属の腕輪で不自由な身で不憫な状況だった事もあり、二人ともリシリーには強く言えない。明らかにイライラしているのは見て取れるので、健人が不思議に思っている。
「二人ともどうした?」理由を聞いてみる健人。
「べっつに~? 相変わらずモテるね」ツーンとして答えるケーラ。
「なんやそれ」怪訝な顔の健人。
「……私もケーラに同意ですわ」リリアムもブスっとしている。
「だから何なんだよそれ?」
「「べっつに~?」」ハモる二人。
「仲いいな」二人の様子がちょっとおかしく思う健人。
「「違うから!」」またもハモる二人。やっぱり仲がいいのかも知れない。
その様子をクスクス笑いながら見ているリシリー。
「いや、皆さん傍から見ていても仲いいと思いますよ」そしておもむろに健人から距離を取って座り直すリシリー。そして改めて二人を見て微笑む。これで大丈夫ですよね? とでも言いたげに。
そんな大人な対応のリシリーに、不満をぶつけられないケーラはストレスが溜まっている様子。一方リリアムは困惑したような表情だ。そして何のやり取りかさっぱり分からない健人は、ずっとその様子を不思議そうに見ていた。
「まあ、とりあえず昼食済ませたら、そのままギルドで待機でいいな?」三人の不思議なやり取りはともかく、真面目な顔で確認する健人。そしてさっきまでのおふざけは置いといて、同じく真面目な顔で頷く3人。
昨日、リシリーから、隷属の腕輪を付けられた経緯を聞いている。彼女は神官見習いで、元は孤児院出身で身寄りがない。神官を擁する神殿は、慈善事業の一環として、様々な理由で身寄りがなくなった子ども達のために、孤児院を運営している。殆どが神殿の近隣に施設が建てられている事もあり、その仕事内容を見聞きしている孤児が多い。神官の本質は置いといて、人のため治癒魔法を施しているというのは、ある意味憧れでもある。なので独り立ちできるようにになったら、神官に仕えたいと希望する者がかった。リシリーもその一人だ。
ただ、当然ながら孤児達は王族の血脈ではないので、光属性持ちは一人もいない。なので、孤児達が神官として行う業務は、専ら光属性持ちの神官のサポートである。会計や雑務、清掃や秘書のような仕事など、貴族の執事やメイドのような仕事である。リシリーも光属性は当然持っていない。それどころか(無)であるので、彼女も同じくメイドのような仕事を、神殿内で行っていた。
駆け出しながら、業務に追われつつ毎日を忙しく過ごしていたある日、とある神官から呼び出される。アヴァンという中年の痩身の男性だ。彼はアクーの神官として長い期間勤めていた、光属性持ちである。彼はいい噂を聞かないが、逆らうわけにもいかず、恐る恐る彼の部屋に向かう。そして部屋に入った途端、気絶させられた。そして目を覚ましたら、両手両足を縛られており、知らないうちに腕に木の腕輪を付けられていたのだ。
それが隷属の腕輪で、その特徴を聞いて愕然としたリシリー。他にも数名、自分と同じような、孤児院出身の男女が5~6人ほど捕まっていた。それからアヴァンの指示で、ずっと魔族の行動をサポートしていたのだった。サポートと言っても、大抵は素材の調達だったり、食料の調達だったりなので、殆ど雑務だったようだ。昨日も、そのアヴァンの指示で、武器を持参し洞窟の上に待機していたのだった。
因みに、リシリーほどの美女であれば、好色な神官であれば放っておかないだろうが、隷属の腕輪をしていた事で他の神官の所有物と認定されていたようで、それが幸いして他の神官に襲われる事はなかったそうである。そして、隷属の腕輪は、奴隷制度が残っていた遥か昔に使われていたもので、今の時代は殆ど知られていないはずなのだが、一部の神官達は何故か知っていた。
そして例にもれず、リシリーはアヴァンにも何度も迫られた事はあったが、とある人物が何度も助けてくれたので、大事に至らなかったという。
「アクーの神官の中には、今の悪しき状態を改善しようとしている方々が少なからずいるのです。その中心人物の方に何度も守って頂きました。その方はアヴァン様の上役に当たる方です」食卓に用意された昼食をとりながら、皆に話すリシリー。
「それって、ちょっと頬がこけてて鷲鼻の男の人では?」床にいる白猫にミルクを与えながら、とある人物を思い出す健人。
「え? グレゴー様をご存じなのですか?」リシリーが驚いた顔で質問する。やっぱり白いオッサン、基いグレゴーさんだった。
「以前グレゴーさんがヌビル村から帰ってくる時に、護衛についたんだ」
「あら。あの時の。ヌビル村から帰ってきた時のグレゴー様は、本当に人が変わったようになったんですよ」
まあ、と、ぱあ、と顔が明るくなるリシリー。グレゴーさんにとってヌビル村での出来事は、かなりいい影響になったようだな。あれだけ真白真白って言ってたのが豹変したんだよな。今真白は猫だけど。健人は以前真白と共に、神殿で会ったグレゴーを懐かしんで思い出していた。
そしてリシリーと健人にしか分からない話を楽しそうにしているのを傍らで見ている美女二人は、その様子が面白くない様子。ショートカット美少女は明らかに不満気、ブロンドの髪の美女は悲しそうに悔しそうに見つめている。
「ねえ。魔族の情報は何かない?」憮然とした表情でケーラが会話に割って入る。
「あ、はい。えーと、ビルグとロゴルドという名前は、アヴァン様からよく聞いていました。その二人にはボスがいて、その人の指示で実験をしていたそうです。アクーであれば、魔族の都市から一番遠く、同族には見つかりにくいのが理由だそうです」
「ビルグとロゴルドのボスって言ってたんだ」その言葉を聞いて、憮然としていたのが一転、真剣な表情になるケーラ。
そしてリシリーが、話しながらとある事を思い出す。
「ヌビル村と言えば、その魔族二人はその辺りでよく実験をしていたと聞いた事があります。半年以上前でしょうか? ゴブリンに魔薬を使ってみたり、オーガを連れて来て魔薬を試してみたり。あ! その時オーガロードを倒した人族がいて、強いから注意するように、と話していたわ。もしかして……」
「ああ、多分俺だ」頭をポリポリ掻いて照れ隠しをする健人。それはともかく、ヌビル村でオーガロードのような高レベルランクの魔物が出た理由がここで繋がった。その二人の魔族の仕業だったのだ。多分ゴブリンチャンピオンも魔薬の実験で出てきたのかも知れない。
だが、実験とは一体何の実験だったのだろうか? 未だその二人の魔族の目的が見えてこない。
「そうだわ。黒髪の黒い瞳って魔族が言ってたわ。確かにタケト様ですね。ああ、まるで勇者様のよう」そして美女リシリーが瞳をキラキラさせて健人を見つめる。健人はここで初めて、リシリーの気持ちに気づいたようで、まずいと思って視線をサッと逸らす。
その様子をジト目で見る美女二人。ハッとその視線に気づいてゴホン、と咳払いするリシリー。
「と、とにかく。アクーに来ていた魔族はその二人だけだったと思います。当初はアクーだけでしたが、現在は他の都市にも魔族は散らばっているはずですが、どこに何人いるのか、名前などはさすがに分かりません」若干焦りながら話し続けるリシリー。
そこでケーラが健人の隣に座り、耳打ちする。
「ね? モテるって意味、分かったでしょ?」
「……はい」さっきの意味不明なやり取りの意味が分かった健人。でも、健人は別に何もしていないつもりなので全く自覚はない。リリアムはケーラの耳打ちが分かったようで、健人を見てはあ、とため息をついている。
「ま、まあ。仕方ないですよ。タケト様は素敵ですから。私で良ければ色々お世話致します」頬を赤らめつつもニコニコしながら大胆発言をするリシリー。
「ごめん。そういうのは本当勘弁」許してくれと言わんばかりに、両手を開いて何かを制止するポーズをする健人。
「そうですね。こんな素敵な美しい女性二人もいますもんね。私の入る余地はなさそう」フフフと、特にリリアムを見て微笑むリシリー。その視線にビクっとなるリリアム。リリアムの想いはバレている模様。当人は必死に隠しているつもりなのだが、傍から見れば分かりやすいのだから仕方ない。
そして下手すればまた一人、ライバルが増えるかもしれない、とやるせない気持ちになるリリアムだった。
次回で100話・・・・・・。早すぎる気がする^^;
PV2万件突破も嬉しい限りです^^