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ヘルメットが極めて優れたファッションになっている世界の一幕

作者: act.yuusuke

極めて現代社会に近い世界。しかし、この世界が決定的に違うと分かるのは視線の高さにある髪では決してない樹脂製のカラフルなアイコンがたくさん並んでいるということが一目で見える事だ。


――ヘルメット。その頭部を守る機能性と顔を隠すことによって生じる奥ゆかしさがとても先鋭的(エッジー )だとして数あるジャンルの内の一つ(ハイ・ファッション)の地位を占めるようになった。これはそんな異世界の一幕である。



「…今何って言った?」


 少しくぐもった声質、男はファッションリーダーだ。

カラフルな狐がプリントされているオフ・ロードヘルメットのツバをリーゼントに見立て、「突っ張ることが男の生き様」と胸をはって虹色に反射するゴーグルの奥から本来の意味での不良へ睨みを利かせている。

その背には不安を体現する表情を見せるジェットヘルメットを被った女子高生。

恐らくその鮮やかなキャンディレッドのヘルメットを被っていなかったのであればその身は今よりも遥かに震えていたのであろう。


 事の発端は不良たちによる無遠慮な一言だった。

あれがダサい、これがダサいと否定のみをして己の存在意義(アイディンティティ)主張しか出来ない彼らがいつものごとくナンパをしていた。

 彼らの目線の先には渦中の女子高生。余談であるがこの世界では親が安全性のため高価なヘルメットを買い与えるものなので、側頭部が隠れ、光の弾く絹のように美しい黒髪が下へと流れている彼女は所謂、清楚系というやつなのだ。

 不良である男たちの不幸はヘルメット未着用(バッドボーイスタイル)であったこと。

 そして時代の最先端(エッジー)を行く男の前で禁断の一言を言ってしまったことだ。


――「ヘルメットなんてダセェもん、脱いじまえよ」


「今なんて言ったって聞いてんだよ!?」


 再びオフロードヘルメットを被った男が咆哮する。

 既に、目をつけられた男たちは蛇ににらまれた蛙になっている。

 いや、この場合は狐につままれたというべきだろうか。

 オフロードヘルメットはさらにまくし立てる。


「いいか、ヘルメットってのはな、自身を守るために作られたもので、そもそもこの情報社会では頭部を守るのは何よりも最優先事項!頭部の損傷は何よりも避けるべき事案!蒸れると言う理由だけで装着をしないのは擦れるというだけで服を着ないと同意義だぞ!?

――つまり、お前達は服を着ていないのと同じなのだ!」


 ファッションの一ジャンルの体現者(エッジー)は不良たちが全裸であると言い切った。

 ここまできっぱりと言い切られてしまうとそれが事実のように思えてしまう。

 指を指された不良の一人が色落ちしたはったりを利かせたいといわんばかりの金髪を左右に揺らし、不安な表情をその守られていない顔に浮かび上がらせていた。


「お前らはその無駄に伸ばした髪形をヘルメットで覆い、蒸らしてしまう事が不満なのだろう。だがそもそも、蒸れないことを優先させるならばいろいろ選択肢はあるはずなのだが?俺はフルフェイスが一番好きなのだが…装着性を重視するならばジェット型というのもあるし、俺としてはあまり気が乗らないがよくクラスの女子共が使っている半ヘル(笑)というのも選択肢の一つじゃないか?あと当然知っているWARAIとSHOHEYの上位グレードのメーカーはは当然としても最近のOJGやSHOW‘S-GEARなんかのミドルグレードのフルフェイスとかのベンチレーションシステムもなかなか悪くない。それにフルフェイスにはフリップアップという機能もあるじゃないか!確かに昔はフリップアップといえば重いイメージもあったが最近のネオABS樹脂の技術により従来より六割の重さで以前と同じ強度を誇るES-GUARD18なんかもあるんだぞ?」


 男の背に守られている清楚で可憐な女子高生はその鮮やかキャンディーレッドの淵をつまみ「フルフェイスか…」と呟いている。

 そう、ヘルメット系男子(エッジー)はその男気から顔をすべて覆いつくしてもイケメンであることを隠し切れないのだ。

 一方、不良達は依然唖然とした表情のままだ。

 しかしその胸中では目の前のヘルメットの男がカッコいい(エッジー)のでは?と自身もヘルメットをつけることを考えてしまったのだ。

 しかし、男は先に鋭い牽制を指す。


「だが、いまでも時折見かける工事用ヘルメット、昔、中学校で渡され自転車に乗るときや、工事のオッチャンが原付の運転と兼用していたらしいけど、あれはいただけない。ナンセンスだ。いくらそこまでスピードが出ないといってもあんなプラスチックのおもちゃみたいな安物じゃ、頭部は守りきれないぜ。現に今の風潮ではどんな安物のヘルメットでさえ2層以上の構造になっているし、現在の最先端(エッジー)であるファッションヘルメットも正統派はバイク由来、もしくは耐火性に優れる自動車用ヘルメットからの派生だしな。」


 完全に機を失った不良達。

 もはや彼らに目の前の男と争うという気持ちは無かった。

 ここにはカリスマ的ファッションリーダーとその狂信者たちしか居なくなっていたのだ。


 こうして拳を交えることなくオフロードヘルメットの男は不良から女性を守るということを成し遂げた。

 武とは矛を止めると表すがヘルメットという完全武装をしているこの男が武に優れていることは自明の理であり、むしろ無事でよかったと胸をなでおろしたのは不良達のほうであった。

 カリスマ(エッジー)である男は不良達に質のいいヘルメットが売っている店を教えて、女性を人通りの多い場所へエスコートすると煙のように雑踏に紛れ、消えてしまった。そう、完全武装の男(エッジー)は去り際までイケメンなのだ。



 帰路に着いたオフロードヘルメット。

 彼はもはや体の一部となっているそのヘルメットを脱ぎ、専用の飾り棚へとそっと置く。

 ゴーグルの中から現れたのは長いまつげから光るエメラルドのような瞳。

 美しい金色の髪は稲穂のようにしなり、整った彫刻のような顔の造詣から明らかに彼がただの日本人でないことが分かってしまう。


――彼の名前はヘルムエット・ガブリエル。この世界でもっともヘルメットを愛す狂気的エッジーな男のうちの一人である。



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