出会い
サァー
木々の間を風が吹き、湖の表面がキラキラと日の光を浴びて輝く。遠くには山々も見える。とても涼しげで緑豊かな光景だ。
そんな心休まる景観に1つの異物があった。
「…ふぁ〜、…今何時だ?う〜なんでこんな明るいんだよ〜眩しいよ〜眠いよ〜…zzz」
寝惚けている劔だった。
〜30分後〜
「…ふむ、ここは…どこだ?俺は…俺だ。うむ、記憶喪失ではないな」
二度寝からやっと起きた劔は辺りを見回し、見覚えがない場所であることを確認、テンプレでよくありそうな記憶喪失の可能性は皆無。眉間に皺を寄せながら唸る。
「…まさか誘拐か⁉︎」
この場に紅音がいれば真顔でそれはないと突っ込んだだろう。
一般家庭に生まれ、金持ちということもなく、容姿が特別格好良くも可愛いとかでもない。むしろガタイはしっかりしており顔は怖い部類に入る劔を誘拐する輩は相当特殊なせいへ…価値観を持っていることだろう。
「まぁ、ここでうだうだしても何も分からんし行動あるのみだな」
そう言い立ち上がりながらこれからの事を考えていると、劔は大事なことに気付かされた。
「…バイクがない」
起きる前の最後の記憶はバイクで紅音を家に送り届けた後に自宅に帰ろうとした
ところで終わっている。
「それにリュックやプレゼントでもらったお菓子とかもないな」
「マヂか…あのバイク高かったのに」
初めての200万を超える高い買い物で、バイトで貯めたお金じゃ足りないので親に借金をしてまで買った大型バイクだった。
「所持品は何もない。服とスニーカーだけかぁ〜」
起きたら見知らぬ所におり、持ち物も何もない。現状把握も満足にできない状態だ。
「まっ、なんとかなるか」
劔は楽天的だった。
「とりあえず起きたばっかで喉乾いたな」
近くに湖があるのが見えたので近づいていく。
「これって飲める水なのか?いまいち衛生面的によく分からないけどしょうがない。いただきます」
湖は底が見えるくらいに透明度があり、雰囲気的に綺麗かな?という感じでとりあえず死ぬことはないだろうと思いゴクゴク飲む。
「ぶはぁ、生き返った〜。今すぐどうなるということもないだろう。状況は分からないけど、とりあえず人を探しながらこれからどうするか考えないとな」
森なんて普段から歩き回る場所でもなく慣れていない為、できるだけ明るい内に移動し、人と接触することを第1目標とし行動することにする。
「目指す場所はこの森の中でもよく見える山へ向かえば、迷ってぐるぐる回るってことにはならないだろう」
そう思い、歩き始めて1時間。
「…飽きた」
見渡す限りの木々、変わらない景色が続き、とうとう劔の集中力が切れ始め、短所?である飽き性が発揮され始めた。
「現代っ子には1人で森歩きはきついぜ」
体の疲れはないが精神的に疲れる。
あぁ〜と空を仰ぎ見るとソレと目があった。
「キュル?」
「ほわ?」
「キュルル?」
「か、かわいい」
猫程の大きさでその体は緑色の体毛で覆われておりふわふわな尻尾、羽のような大きな耳の今まで見たことのない生き物が木の枝に乗っていた。
「はぁはぁ、お持ち帰りしたい」
警察官志望が危ない発言をしている。
「きゅうぅ」
「んっ?」
よく見ると体がぷるぷると震えていた。
「もしかして降りられなくなったのか?」
「きゅうぅぅぅ…」
「はぁ、なんで降りられないのに登るかなぁ」
文句を言いながらも木に足をかけ登っていく
「よっこいせいっと、ほら助けに来てやったぞ」
腕を伸ばし謎かわいい生き物、略して謎かわ生物に手を伸ばす。
「キュアア!」
………噛まれた。
「…痛い」
手も痛いが謎かわ生物に拒否され、精神的にダメージを受けた為泣きそうになるが我慢してそのまま手を伸ばし続ける。
「ギュルルルルゥ!」
大きな耳を広げ毛を逆だたせて威嚇してくる。
「大丈夫」
「ギュウウ」
「怖くないぞ〜」
「グゥゥ」
「おいで」
「ヴ…キュウ」
次第に落ち着いていき、噛んでいた指から口を離しペロっと舐めてくれた。
「ふふ、ありがとうな。じゃあ降りるからじっとしてろよ」
謎かわ生物を片腕で抱き、下まで降りた。
「よし!じゃあ次からはもうちょっと考えて行動しろよ」
そう言い、降ろそうとするが劔の服に張り付いたまま離れようとしない。
「ん?もう大丈夫だろ?家族とか友達とかいるんじゃないのか?早く帰ってあげた方がいいぞ?」
劔も自分を心配する家族や友人などたくさんいるが能天気な性格であまり考えて行動しないため、自身についてはノーカンだ。
「キャウ!」
離れないぞ!というようにひしっとくっついている。
「ん〜、いいのかな?…まぁいっか!じゃあ一緒に行くか!」
深く考えもせず自己完結した。
「キュア!」
嬉しそうに返事?をし、肩に乗りかかってくる。
「ふっ、意図せずお持ち帰りできてしまった」
ニヤニヤ笑いが止まらない。
「キュア?」
なぁに?という感じで首を傾げ見つめてくる。
「あ〜名前もつけないとな。この子は雄・雌どっちなんだ?…分からん。どっちでもいいように考えるしかないか」
「フューリーってのはどうだ?愛称はフーだ」
「キュ!」
嬉しいのかフーは劔の顔にスリスリする。
「よし、じゃあこれからよろしくなフー!」
「キュア!」
人と出会う前にペット?新しい家族ができた。