プレゼントいっぱい
「お先に失礼しまぁ〜す!」
1人の青年が疲れを微塵も感じさせることのない声でバイト先のスポーツジムから出てくる。
後ろからは「お疲れ〜」「また明日」「例の物忘れるなよ」と声がかかってくる。
それに笑いながら軽く手を振って愛車のバイクが置いてある駐輪場まで歩いていく。
外は8月という夏真っ盛りの季節。
青年の姿は上はタンクトップで上着に薄い半袖、下はサルエルパンツというとてもラフな格好でバイト終わりの23時という時間はちょうどいい気温に感じられる。
「ふぅ〜、今日も1日頑張ったな〜。うん」
雪嶋劔は黒髪の坊主頭で目つきが鋭く、瞼の上に縫った傷跡が残る、どう頑張っても愛想がいいとは言えない顔。そして身長は175cm程で様々なスポーツを経験してできた服の上からでも分かるゴリマッチョな体つきで、大学生になってできた友人達からは「初対面の時は正直ビビった」「話しかけたいとは思わないな」「関わらないよう祈っていた」と、とてもいい評価を頂いたのはいい思い出だ。泣笑
ガチャガチャ
「にしても警察官に内定決まったおかげでプレゼントとかいっぱい貰えて嬉しかったわぁ〜♪」
背負っているリュックサックの中身は筆記用具が少しと財布、500mlのスポドリが3本、そしてプレゼントでもらったお菓子や今度一緒に飲もうと言っておじさんから頂いたちょっと良さそうな蒼いグラスなどが入っており、他にも両手のビニール袋の中にもお菓子が入っており、それをバイクのサイドバックに入れていく。
「もしかしたらお祝いしてくれるかもって期待してたけど、まさかこんなに貰えるとは思わなかったな」
ふんふんふ〜んと鼻歌交じりで機嫌良さげにせつせと帰宅準備していると唐突に後ろから声がかかる
「何もらったんですか?」
「お菓子とかいっぱいもらったぞ〜」
後ろを見ることも驚きもせずに平然と返事を返す。
「劔センパイ甘い物大好きですもんね〜」
「あぁ、甘い物なら腹一杯でも異次元腹に繋がって入っていくからな」
「何ですかソレ?まっいっか、じゃあ今度ケーキバイキング行きましょうよ〜」
「マヂか⁉︎いいなそれ!いつ行くよ?」
「私は特に予定はないのでいつでも…って急に声かけた私が言うのもなんですけど、なんで驚きもせずに普通にお喋りしてるんですか⁉︎」
折角驚かそうと思ったのにと呟く。
「いやぁ〜なんとなく気配で誰かいるなぁ〜とは思ってたけど、先にバイト終わって帰ってるはずの紅音がいるとは思わなかったから少し驚いたよ?」
小学1年生の頃から中学3年生まで剣心会という剣道クラブや剣道部に入り、高校生になってからはラグビー部に興味が惹かれた入部した為道場へ通う機会は少なくなったが、時間がある時は道場へ顔をだし、今でも現役でやっている。その為か普通の人よりは気配といものを感じられるていると思う。
やっと荷物の収納が終わったので振り返り苦笑しながら目の前の少女を見る。
「なんで疑問形なんですか?まったく」
花房紅音、身長は160cm程で綺麗な黒髪が肩にかかるくらいに綺麗に揃っており、その髪には花柄のヘアピンが付いた可愛らしい女の子が不満を言うが、その表情はむしろ嬉し気だ
「んで。さっきも言ったけどなんでここにいんのよ?」
紅音は3つ離れた後輩で、小学生の時に剣道と掛け持ちで習っていたサッカークラブで知り合った男友達の妹だ。その友達の家に遊びに行った時に一緒に遊んでからなんか懐かれたようで兄貴がいなくてもよく一緒に遊んだり出かけることもあった。ちなみにバイト先は劔と同じスポーツジムで受付をやっている。
「私もプレゼント渡そうと思ってたんですけ
と渡し忘れちゃってたので健気な奈々ちゃんは劔センパイが来るまでまってあげたんですよ。感謝してください」
はい、と小さい箱を両手で渡しながら偉そうに言うが、劔よりも身長が10cm以上も低いので見上げる感じになり、劔は可愛いなと思い箱を受け取り頭を撫でる。
ナデナデ
「あぁ、待たせちゃって悪かったな。それとありがとう。何をくれたか分かんないけど嬉しいよ。紅音のプレゼントのお返しはなにがいいかな?」
ナデナデ
「………」
プレゼントの要望があれば聞こうと思ったのだが紅音は俯いており、返事が返ってこない。
ナデナデ
「紅音?聞いてるか?」
ナデナデ
「………」
「おぉ〜い」
「…あ…んんっ!さっ用事も終わったことだしさっさと帰りましょう劔センパイ!それと送って下さい!」
撫でるのをやめるとやっと返事が返ってきた
。
「いや、それはいいんだけど話聞いてた?お返しは何がいいって?話なんだけど」
「えっ、お返しですか?…う〜ん、特に思いつかないので何かあったら言います」
「ん、分かった。じゃあメット被って後ろ乗ってくれ。さっさと帰るぞ」
ギュルルルル・ブォン!ボッボッボッボッ…
メットを渡し後ろに紅音が乗ったのを感じたのでエンジンを着ける。
「じゃあ行くぞ〜」
「はぁ〜い」
後ろから女の子特有の感触と匂いを密かに楽しみながらアクセルを回し出発する。
ちなみに劔はバレてないと思っているが紅音は劔が匂いフェチなのを長い付き合いから知っており劔が好きな匂いの洗剤やシャンプー、香水などを使っていたりする。感触については当ててんのよ!という感じだ
2人で楽しく会話しながら帰路につく…
紅音の家の前に着く
「送ってくれてありがとうございました。また明日です」
「おぅ、また明日な」
紅音が手を振りながら家の中に入るのを見届け、自宅に帰ろうとすると地面が光り輝く。
「あっケーキバイキングは次の休みにでもって…もう帰っちゃったか」
家からデートの予定を聞くため出てきたが、そこに劔の姿はなく、メールで言えばいいか、と再び自宅に入っていく。
地面が光った後にはバイクのエンジン音が鳴ることもなく劔の姿は消えていた。
ちなみに劔と紅音は付き合っていません。