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お待たせしました!
妖怪少女の本編は全然進みませんがこちらはそれ以上に進みます。
では長くなるのは活動報告だけにしてどうぞ!
街道のど真ん中、いや街道の中心である噴水広場。
そこで囲まれた6人はそれぞれの態勢でそれぞれの武器を手にしている。
エクリクシィ・ホープは魔法陣の書かれた手袋を
フォティア・マグナムは魔法陣が刻印された二丁拳銃を
ルーナ・ブリトネスは太陽と月があしらわれた杖を
アリスィア・ソルドとスキロス・フィラカスは護衛用に携帯を許されている
白く輝く長剣を手に主にエクを護っている。
狙いはエクと見て間違いないだろう。
相手も魔法の詠唱や実弾を撃ってくるので
それにフォティアとルーナは魔法師団の応援が来るまでの間対処し、
自分とスキロスはエクを護る。有利なのは相手側だがしょうがない。
応援が来たときに悪夢を見てもらうことにしよう。
「魔法弾装填、《エンチャント:拘束》」
フォティアは二丁拳銃を両手を顔の傍に持っていくと小さく呟く。
黄色の目はしっかりと相手を捉え猫のように瞳孔を小さく、
小柄な身体で屈みながら素早く走り上に飛ぶ―!
そして左に旋回するように腰を捻らせ短く細い腕と
手に託された拳銃をその先にめがけ撃つ。
小さな身体が一回転するごとに二発確実に命中させると
片足の膝を地につけて着地すると休むことなく両手を後ろと前に出して
片手をそれぞれ半回転させるような形で360度六発撃ち終わると
撃たれた6人はそれぞれ両手両足と首を魔法弾の効果によって拘束される。
拘束はピンク色に光っている。
撃たれた6人はそのまま身動きも取れず石のように固まり地に同時に伏せた。
「やるぅ~♪」
「マスターも仕事して。」
俺は護られる側だからと言い自分とスキロスが剣先で護り
2人を相手すると残りの2人はエクに向けて躊躇なく刃を向けた。
そしてその一本を受け止めたのはルーナだった。
ルーナは振り上げた剣の身を左手で受け止めると血が出ていながらも
凄い心配そうにエクの方を見やる。
「エク様!
―――……てめぇ…誰に刃を向けてんだァ?!!!」
とルーナは鬼面の形相で受け止めた左手とは違う右手で
その者の顔面を殴るとその拳が輝きだす。
それに悪寒を感じたのでは時すでに遅し。
ルーナは回復特化の魔術師である。
それはエクリクシィが初めて会った時も同じだった。
魔法師団ではよく知られている回復魔法術師なのだが
彼女の魔法技術はそこだけが鍵じゃない。
問題はそこではなかった。
彼女はどうやって回復すればよいのかすべてを知り尽くしている。
頭が半分取れていても腕がもげていても、
彼女はそれを治すことができる。理由は――経験があるから。
輝きだした拳に殴られた者はその一発で気絶した。
嫌な臭いが立ち込めるほどの気絶状態に。
だがそれでルーナの気が落ち着くこともなかった。
「おい、何気絶してんだ…あん?」
その者の髪を掴みあげると無言で輝く紋章の右手でその者の腹を殴る。
いつもの優しさの顔とは裏腹に目はすべてを悟ったような目で
冷たく鋭く猫よりも勝る眼をしている。
―――ルーナ・ブリトネスの目は今その者を殺そうとしていた。
目が物語っていた。気絶から治った者が見た光景は言うまでもない地獄だった。
昼時の太陽がありながらも目に光がなく潤いもない。
光の無い鈍い目でルーナはその者を見ていた。
またしても何も言わず左手で掴む髪をさらに強く握り右手を大きく挙げ。
「ひっ……!!」
「やめろ、ルーナ」
エクは自分に襲い掛かってきたはずの者を引きずりながらルーナの
肩を叩いて我に返らせる。
ルーナはまだ鈍い目をしていたがそっと目を閉じ
掴んだままの左手だけでその者を回復させると
右手を下げながらその者の耳元で優しく呟いた。
「血が見れなくて残念です」
そして立ち上がると自分とスキロスも
また襲ってきた者たちをねじ伏せ片づけると合流する。
アリスィアが倒れまた襲ってきた者たちを縛り拘束し終わるころには
魔法師団の応援とその統括にクロヌ・Hは到着する。
クロヌは自分とスキロスに目配せするとクロヌの前に
膝をついて次の言葉を待った。
「何があった」
「護衛中に襲撃がありましたー」
そうスキロスが報告するや否、膝をつくスキロスの首に剣が構えられていた。
構えたのはクロヌ自身だった。
「なぜ護衛されるものが外に出ている…?
護衛の意味が無くなるであろう、宮中で護衛しろと
私は二人に命じたのだが?
命令を破り護衛されるものが狙われ襲撃されるとなれば
お前らに意味はあるのか?言いつけも守れないのか―」
「クロヌ、やめて。元はと言えば僕が命令したんだ。
二人にはついてきて欲しいってね。」
するとクロヌは無表情のままちらりとへらっと笑い
両手を挙げるエクリクシィに対し目を向けると
剣を自分の右の鞘に収めると後ろに未だ隊列を崩さない魔法師団兵に
命令する。襲ってきた賊たちの確保なのだが
クロヌはそれらすべてを部下に任しエクの前に行くと
そのまま無言のまま平手打ちをエクの右頬にかます。
パチンと軽快な音がその広間に木霊する。
スキロスやフォティア、ルーナに部下たちはその行為と
その行為の意味を思い出しながら息をのみ驚く。
立ち上がった自分はあまり驚かず手が止まってしまった
魔法師団兵に耳打ちする。
『早く動かないと』
と行動を急かすと我に返りまたそそくさと自分たちの仕事に戻っていった。
クロヌは未だ動かずぶたれたエクを見つめている。
エクは反省した顔に戻るが謝る言葉は出なかった。
「叩いたことをお許しください。ではこれより宮中に戻ります。
許可が出るまでは宮中からは出ないでください。」
逆に謝ったのはクロヌだったがエクは苦虫を噛んだような顔で
ああ、と呟きフォティアとルーナを集合させ
またスキロスと自分はエクを護るように前を歩く。
歩いているときもエクの渋い顔は崩れなかった。
・
宮中と揶揄した魔法師団本部に着きエクは不満ありげな表情で
その部屋の前に立つとスキロスだけを外で見張らせ自分を中に入れる。
ルーナやフォティアはクロヌと一緒に報告に行くようである意味
代わりというのがエクの気に触れていた。
だがそれはしょうがないと割り切る自分にエクは手首をパキポキと鳴らすと
頭をかきながらまた上着を脱いだ。
そして自分も上着を脱ぎ着替える。
白から黒へ、通常制服から戦闘服へと身を包み
1メートルほど離れたエクの前に立つと礼をする。
ここは鍛錬場だ―それも魔法師団最高クラス専用の。
最高で最強の力を振舞える魔法でも一弾なら耐えるほどの頑丈さを誇る壁に
囲まれた白く金属質ではないもっと軽い素材で作られていそうな印象の場所。
そこで自分とエクは戦う態勢をとっていた。
そして走り出し拳と拳とをぶつからせる。
二発、三発と衝撃が走るが一向に構わずエクの想いを
自分は全力を以て受け止めていた。
すると拳から血が出るほど殴り続け疲労したエクは態勢と息を整え
出た血ですばやく陣を書いてその空間に縦に伸びる雷を自分に直撃させようと
何本もの柱を投げつけてくる―だがそれは予想通りなのですぐさま避け
エクの眼前に立ち未だ血の出ない拳を顔面に食らわせる。
綺麗に食らったエクはそのまま後ろに吹き飛ぶがそれでも諦めず後ろにぶつかった
壁に素早く大量の紋章のような陣を書くとそこから大量の槍が降り注ぐ。
壁から大量の槍が自分を狙うがその一本を目で掴み、そして握ると来る全ての槍を
回しながら跳ね返す。
「改変式極限魔法、《グングニル》…最高クラスに匹敵する陣式魔法を
一人の兵に撃ち出すとは…恐れ入りますよエク。」
「そんな一人の兵が無傷なのが僕は許せないけど―っね!」
そうエクは自分に神のごとき速さで眼前に立つと詠唱もせず陣も書かず
さっきのグングニルを出すと、そのまま攻撃すると考えたが
取り出した槍で自分を突こうとするエク。
目は通常とは変わらないものの殺気が少なからずあるのが見える。
自分はそれに攻撃はせずただ避けることだけを徹底した。
そして避けた先にあったのは―
「しまっ―」
しまったと思った。先にはさっき撃ち出した
グングニルの陣式魔法があったからだった。
そこからまた小さく白く黄色く光るグングニルの槍は無情にも自分に降り注ぐ。
だがその手前で槍の時間は止まった。
「チェックメイトだ、アリスィア・ソルド」
「……やはり魔法行使を許されない僕ら一般兵にとっては
その力は大きすぎますよ、エク」
槍の行使、魔法の行使を終わるとエクは疲弊したのか
そのまま床に倒れこんだ。
エクは現魔法師団も持ってはいないある特殊な魔力を持っている。
確か名前は…《魔力:継続》
彼自身もその力の使い方に慣れたのは最近だというが。
名はつけていないがどういうものなのかを説明すると、
一度詠唱したり陣で書いた魔法陣や魔法そのものを一時的に
無制限に使えるというものだった。
大量に陣を書いてグングニルを召喚できたのも、
陣を書かず手からグングニルを生み出したのも
結果的にこれによる力のおかげだった。
だがこの力は強すぎるとして色々な勢力から狙われる立場となった。
それによりエクは魔法師団本部から身動きが取れずにいた。
「……クロヌは立場上僕の恋人であり部下だ。
恋人扱いして他人から憎まれそして自分が人質になりそうなのが
気がかりで自分から部下と言う立場を貫いているけれどね。
僕はそれを最も良いって言う父さんが許せない。
でもそれは僕が上に就いたら終わることだ。
それまでは我慢できそうだけど…やっぱりこうアリスィアの協力もあって
ストレスを発散できるっていうもんだよね」
「それはどうも。
今の話を簡単にまとめると色々大変で
イライラしてたからそれを発散したかった
ということですね。」
「なぜ簡単にまとめてそういうことになる……まあ否定はしないけどさぁ」
とエクは起き上がるとふぅと一息つき上着を着始めると自分を背に呟く。
その背には哀愁というよりはか後悔の方が目立っている気がした。
「まあ、否定はしない。
だけれど今までの出来事が正しいというならば僕は肯定しない。
僕は信じるモノを見て聞いて意見を貫く。
自分の理想を実現するためにね。
―付き合わせて悪かった、今日の護衛はもう十分だよ。
父さんにもいろいろ話しておかなきゃいけないし…ね?
じゃあ明日よろしく。」
そうエクは立ち去る。
自分はそんなエクに何も思わず言わずのまま見送った。